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もしもあなたが異世界で生きていくならどんな能力が欲しいですか?

死んでから始まるお話です。

 ここは薄い青色の殆ど白い空間。

 足元には煙? いや雲かな? 真っ白でフワフワしたものがゆっくりと川のように流れていく。


「……間違いですか?」


「ええ、そうなのよ」


 豪華な金髪の美人さんが私を悲しそうに見つめている。


 先程まで目の前がチカチカしていて意識があいまいだったけれど、思い出してきたわ。


 私は蛇目(ジャノメ)エリカ20歳の美大生。

 先程、作品搬入の際に倒れてきた組木の下敷きになった。


 私はどうやら神様から与えられた寿命を全うする前に、目の前にいる美しい死神さんの勘違いによって命を刈られてしまったらしい。


「本当に本当にエリカさんには悪い事をしたと思っているの」


 それはそうでしょう。

 私が作品を運んでいた場所は市立の大きな病院で、そこに入院している患者さんと私を間違えて殺してしまったわけですから。

 しかも同じなのはエリカという名前だけで年齢と苗字は違うらしい。

 完全に死神さんの確認不足だわ。


「私は生き返りは出来ないんですか?」


「……出来なくはないのだけれど……かな~り面倒な手続きがあるのよね。

 それに貴女を生き返らせると、わたしが上司から査定を下げられた後にとってもつらい死神再教育プログラムを受けないといけなくなってしまうのよぉ。

 わたし前も一度受講してるしもう2度は再教育を受けたくないのよ。

 だから、貴女の命を間違えて取ってしまったことは内緒にして欲しいの、うふ」


 死神は美麗な眉頭を寄せて、豊かな谷間の見える胸の前で両手を合わせてくねっと体をねじり、おねだりポーズで可憐に微笑んだ。


 男性ならその天使の微笑みで「それじゃあ、仕方ないなぁ。次は間違えちゃ駄目だぞ」と、誤魔化せるのかも知れないが……いや、この状況でそれはないわ。


「貴女の上司に報告させてください。

 そして、私は奇跡の生還を果たしますので」


「いや~、待って!! エリカちゃん!! そんな冷たい事を言わないでえー」


「冷たくは無いです。正当な要求ですよ」


「私が全力でエリカちゃんに償うから。

 まずは落ち着いて聞いてちょうだい。

 エリカちゃんの残りの人生はこの世界では無理だけれど、違う世界で送れるように手配するわ。

 しかも、それとプラスしてあと3つ、エリカちゃんが新しい世界で自分に必要だと思う能力を貴女に授けようと思うの」


「能力?」


「そう、例えば空を飛んだり魔法を使えたり、物を作る能力でも良いと思うわ」


 え? それはいわゆるライトノベルに出てくる異世界転生とかのチート能力!?


「欲しいかも……うん、欲しいわ!」


 え~、次の人生イージーモードかあ。いきなり勝ち組じゃん。

 来年の地獄の就職活動とかしなくてもいいのかと思うと嬉しい。


「それでは1つ目の能力はどんなものが欲しい?」


「え~と、どんな能力なら楽をして生きて行けるかしら?

 今まで考えた事が無いから、すぐには思いつかないけれど、え~と……」


 最近読んだラノベの中で異世界チートしている作品が多いからどれを参考にしようかな?

 3つ選べるわけだしここはじっくりと厳選して考えていかなくては。


「はい。時間切れ。じゃあ、1つ目は治癒能力にしておくわね」


 ち、治癒いや確かに良さ気な能力だけれども……


「は? 時間切れって?」


「今いるこの場所は長い時間貸してもらえないのよ。

 ほら、早く2つ目の能力は何にするの?」


「いやいや、そんな早く決められないですよ!

 だって、異世界で暮らすなんて何が必要か分からないのに……」


 そうよ、どんな異世界に行くのか分からないのに自分に必要な能力なんてすぐには思いつかないよ。


「あ~また時間切れよ。

 2つ目の能力は指パッチンで地球の食べ物を出せるようにしておくわね。

 それでは、最後3つ目の能力は……」


「ボインにして下さい!!」


 とっさに自分が一番欲しいものを叫んでしまった。


「え? ボインって?」


「実は私ガリガリで胸まで細くてずっとコンプレックスだったんです。

 2度目の人生では大きな胸で生きてみたいんです」


 努力はしてきたつもりだけど、牛乳を飲んでもマッサージしても胸は小さいまま。

 母も妹もDカップあるのに私だけAカップ。

 次の人生では膨らんだおっぱいを手に入れてみたいとずっと思っていたの。


「う~ん、胸なんて大きいと肩がこるし、走ると揺れて痛いしで結構邪魔なんだけれどね」


「それはおっぱいがある人が言える嫌味ですよ」


「ヤダァ、エリカちゃんそんなに睨まないで。

 分かったわ。

 3つ目は果実のような胸を貴女に付けてあげるわよ!」


 長いまつ毛をバチンと音立ててウィンクしながら死神さんはボインを叶えてくれると約束してくれた。


 やったー、本当に嬉しい!

 もしも、そんな豊かな胸を手に入れたら、私を間違えて殺した死神さんを許してあげられるよお。


「但し新世界で一つだけエリカちゃんに約束して欲しいことがあるのよ」


「約束?」


「次の世界の住人には出来うる限り、貴女の能力を使わない事。

 新世界の住人は魔法を使うことが出来るけれど、私がエリカちゃんに渡す能力は特別だから貴女が能力を使う事によって、エリカちゃんを狙ってくるかもしれない。悪くすると命を奪われる危険があるわ。

 もしも、エリカちゃんが死んだ時にわたし以外の死神がお迎えに行かれるのは非常にまずいわけよ。

 だから、エリカちゃんが残りの寿命を全うできるように異世界の住人との接触は避けてね」


「住人との接触を避けるって、それは1人きりで生きないといけないの?」


 そ、それは寂しい。いくら人見知りの美大生とはいえ、知り合いもいない世界で1人きりなんて。


「大丈夫よ。

 貴女の新生活を応援するナビ的な人物と出会えるように手配しておくわ。

 あ、やばい。そろそろ同僚が帰って来るわ。

 エリカちゃん、本当に間違えてごめんね。

 新しい世界で頑張って生きてね。

 ()()()()()()()絶対に生き抜いてね。

 あと、必ずわたしがエリカちゃんに会いに行くから、それまで死なずにいるのよぉ」


 死神さんは一方的に言って私を青白い空間から放り出した。


 こうして私、蛇目エリカは異世界で死神さんの不祥事隠しのために残りの人生を過ごすことになったのです。




ここまで読んでいただきありがとうございました。


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