日本闇子の憂鬱
こういう、大財閥系お嬢様を書きたかった
東京に数多く立ち並ぶ銀色のビル群、その中で立ち並ぶビルの1つ‐‐‐‐大日本春風建設ビル。
35階建ての、都会の中ではさほど珍しくもなんともない高層ビル。
この大日本春風建設ビルには、大小合わせ、22の企業が入っているが、その半分以上が‐‐‐‐ダミー企業。
偽物、偽り、存在しない----ネットと言う、空虚なデータ文字列として入っているだけ。
多くのダミー企業は犯罪に利用されたりするのだが、このビルに入っているダミー企業の理由は違う。
‐‐‐‐ビルの持ち主、オーナーが人嫌いだからだ。
人が嫌い、だから空きがあると思われて、新鋭企業だか経済発展とかなんとか理由を付けて、自分の中に入られるのが嫌。
そう、それがこのビルのオーナー、日本闇子ひもとやみこという、金持ちのひきこもりである。
☆
日本闇子の朝は、早い。
具体的には、いつも朝5時には目を覚ます。
何故、このような朝早い時間に起きるのかと言われれば、多くの社会人が経験している悩みのせい。
「……朝は、眠いわ。けど、仕事はしなくちゃ」
そう、仕事のせいだ。
とは言っても、通勤のために朝早い時間に起きたのではない。
彼女の仕事場はこのビルの最上階、そしてそこから一日中、外出しない。
【カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ…………】
パジャマ姿のまま、美容に気に掛ける女とは真逆の無頓着なボサボサヘアーのまま、彼女は目の前に置かれたキーボードを叩き続ける。
キーボードの方を見ることもなく、キーボードで出力される文字列だけを、ただ眠そうな瞳で見つめている。
「はい、おしまい……」
その仕事、おおよそ2分半。
朝早い時間に起きて、キーボードを叩く。これが彼女の仕事である。
実に単純そうに見える仕事ではあるが、キーボードが叩かれた先のコンピューターの画面には、複雑な数式とも思わんばかりの綺麗なソースコードがはじき出され、彼女の口座にお金が振り込まれていく。
企業などに侵入して金を奪う、ハッカー?
いいや、違う。そんな単純な仕事ではない。
彼女は今、"全ての社員に指示を出したのだ"。
彼女を社長として、日本……いや、全世界規模で広がる"日本"と名の付く企業----日本グループ。
その数、およそ300万。
普通の人の常識としては、それらの企業などはただ日本にほんという島国から生まれた、関与した。
だから付けているだけだと思っているが、本当はこのビルの最上階を貸し切って、私物化しているひきこもりの女子高生に支配されているだなんて、思っても居ないだろう。
日本グループに所属する全ての社員1人1人に適切な指示を、たった2分半のコードで描き出す"天才"。
それでいて、人と会う事を許可せず、花の17歳の女子高生にして既に諦めに達している"ひきこもり"。
それがこの物語の主人公、日本闇子である。