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蒼のヒーロー・キングダム!!

 ‐‐‐‐英雄(ヒーロー)になりたかった。


 あらゆる障害をぶっ潰して、味方を助ける、最強無敵のヒーロー。

 誰もが英雄にすがり、英雄を心待ちにする。


 そんな、テレビの中でしかいないような、そんなヒーローに、誰だって最初は憧れるだろう。

 自分もそんな風になりたい、そんな風な男になりたい。

 少年だったら、誰もが抱く夢。



 俺、九鬼小次郎(くき・こじろう)もまた、そういった夢を抱く少年の1人だった。

 悪い事をして、無残にやられていく悪役なんかよりも、傷だらけになろうとも、最後まで戦い抜くヒーローに憧れを抱く、どこにでもいるごく普通の少年だった。


 他の少年達と違ったことがあったとするならば、それは2つ。


 1つは、俺は他の少年達とは違って、"本物"の、敵と戦うための力を与えられていた事。


 そしてもう1つは‐‐‐‐ヒーローには、誰だって持ち合わせているモノ。

 勇気でも、知恵でも、武器でも、信頼でも、仲間でもない。




「おい! 早く助けろよ、似非ヒーロー野郎が!」

「あなたを何の目的で、私達の部隊に入れてあげたと思うのよ! 早く役に立ちなさい!」

「早く……しろ……!」


 俺の後ろで、3人の人間が好き勝手なことを言っている。

 本当に、俺だけしか戦えない状況なのにも関わらず、好き勝手に文句だけを並び立てる。


 乱暴そうな粗雑男は足を怪我して動けないはずなのに声を荒げ。

 高飛車そうな貴族風の女は小便をもらした格好でこちらを睨み。

 前髪で顔を隠した様子のカッコつけ女は口調短く、ただ命令する。


「ブヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲ!」


 俺の前には、醜悪な表情で気味の悪い声を上げる豚の顔。

 首がない3m近い肉の塊のような敵は、先程声を上げた豚の顔を、まるで盾のように持ちながら、右手の大太刀をこちらに向けていた。


 オークの頭を持つ、生きる首なし死体(デュラハン)

 さしずめ、オーク・デュラハン。といった所だろうか?


 前には、異界の怪物。

 後ろには、罵倒するだけしか出来ないクソ野郎共。


「(最悪な状況だな、これは)」


 助けてもらいながら、そんな事を言うだなんて。

 第一、ダンジョンに入って、それで一攫千金を夢見たんだろう? 腰が抜けた、だなんて、そんな言い訳が通じる相手かどうかくらい分かるだろう。


「‐‐‐‐まぁ、良いさ」


 俺はそう言いながら、剣を構える。

 右手に持った剣の刀身は淡く蒼い色に光り輝き、その光は俺の背中からまるで炎のように噴き出していた。


 ヒーローにとって重要な条件、それは溢れんばかり勇気ではない。

 どんな状況だろうとも冷静に対処できる知恵でも、一発逆転で状況を覆す武器でも、どんなことがあろうとも揺るがない信頼でも、自分の事を最大限理解してくれる仲間でもない。


「英雄たるこの俺、九鬼小次郎様が、お前ら全員、漏れなく救ってやるよ」


 ‐‐‐‐どんなに憎まれようとも、人を助ける傲慢さだけだ。



 誰にだって、春は来る。

 待ち望んでいた者にも、この日が永遠に来なければ良いなんて思っていた者にも、等しく平等に、春は来る。


「では、諸君! 今日この時を持って、君達は我が英雄坂高校えいゆうざか・こうこうの生徒となる訳だ! 君達の活躍によって、この世界に平和がもたらされることを祈って、吾輩の話は終了とす!」


 東京、大都会たる新宿や渋谷にほど近い、都内有数の田園地帯に、その高校はあった。

 東京ドームとほぼ同じだけの敷地を持つ、国内でも最大規模の学園----冒険者育成特化を学習方針として挙げている、私立英雄坂高校。


 今日は、そんな英雄坂高校の入学式。

 総勢、1000人もの人間が悠々と入るとされる体育館の中に、びっしりと埋め尽くされるようにして並んでいる新入生達。

 誰もが夢と希望に満ち溢れているといった様子だが、俺はただ退屈でしかなかった。


 ありがたい、胸揺さぶる校長の名演説も、退屈で仕方がない俺にとってはただ頭がうっすらハゲたおっさんの戯言程度にしか思えない。

 ただでさえ興味がないのだから、その次に出てきた学部長とやらのコメントなんかも当然のごとく、興味がなかった。


「(これならば、パンフレットでも読んでいた方がマシだな)」


 と、俺は新入生用にと、ご丁寧に用意された【誰でもわかる! 英雄坂高校ガイド!】とやらをパラパラとめくっていく。



【英雄坂高校は、国内初となる冒険者育成のみに特化した、私立高校です。

 19世紀後半、恐怖の大王アンドロメダは現れませんでしたが、世界には新たな変化が訪れました。

 そう、"モンスターが蔓延るダンジョンの発見"。"異能者と呼ばれる異能の力の持ち主の出現"です。


 当初は世界各国に突如として現れたダンジョンに対して、日本は否定的・消極的な対応を続けていましたが、他国政府が積極的にダンジョンに潜って有用なモノを持ち帰っている状況を受け、我々日本もダンジョンに対して積極的に接するようになりました。

 とは言え、モンスターに殺されてしまう危険を避けるため、ダンジョンに入る者を冒険者と命名。さらに資格制度を設けました。

 ダンジョンから出るモノは、私達の生活を格段に、豊かな生活に変えています。一説には、ダンジョンが発見される前と後では、およそ200年近い技術革新があったそうです。


 今日(こんにち)、我々が暮らすうえで欠かせない存在となりつつあるダンジョン。

 この学校では日本の高校では初となる、冒険者育成のみに特化。さらに進学中に冒険者の資格を得るようにサポートするために設立された、まさに冒険者のための学校です。

 この学校は、冒険者のために作られた、国内最高峰の学園です!


 様々なカリキュラムを得て、皆様も是非冒険者として、英雄として、夢を掴んでください。

 私達は、そんなあなた方の活躍を待っています!


 ----英雄坂高校/校長 英雄坂近衛(えいゆうざか・このえ)



 なんか無駄に仰々しい様子で書いているが、要するに、ダンジョンで活躍する人材を育てようという、ただそれだけの内容である。

 重苦しい言葉で、体裁だけを整えてはいて、正義感だけに惑わされた子供達とかは騙せたのかも知れないが、俺は騙されない。


「(まず、何度も"国内"を強調しているところ。日本と言う狭い国の中では一番を目指す気はあるが、世界規模で言えばそうではないと言っているようなものだ)」


 日本では、冒険者育成特化はこの英雄坂高校だけであるが、アメリカやヨーロッパなど世界的に見れば、そうではない。

 それに、特化していないだけで大阪や京都、北海道などには冒険者輩出のエリート校は数多くあるし、それにこの学園だけに聞こえるかもしれないが、冒険者資格は誰にだって取れる。

 "学園側からの経済補助"があるのは、この学園だけかもしれないが。


「(それに、新たな変化が起きたのだろう? "異能者と呼ばれる"、お前らが大嫌いな神に反した道理を扱う者達の事がさ)」


 ほんとう、くだらない。

 実にくだらない。


 この学園は、嘘だらけだ。

 これで最先端だの、最高峰だのと謳っているのが、笑えて来る。


「(まぁ、これくらいの方が都合が良い)」


 俺はそう思いつつ、この学園紹介がいつ終わるのかを待ちわびていたのである。



 結局、その話は15分ばかり、無駄にとろとろと長続きして、新入生である俺達が教室に通された頃には、ほとんどの生徒はぐったりしていた。

 長い話を無駄に聞かされたからだ。ここの生徒達は、そういう話を聞くためにこの学園に来た訳ではない。


 冒険者として、大金を稼ぐために来たのだから。

 大人の、偉そうな説教なんて、求めてないのだから。


 そして俺達は教師から、初対面である新入生達でグループを作り、ダンジョンに入らされた。

 明らかに俺の事を軽んじていて、甘やかされているんだろうなと思った3人だったが、予想以上だ。


「(まさか初の戦闘で、これとは、な)」


 完全にビビった様子で、戦闘をこちらに丸投げ。

 挙句の果てには、助けを懇願するのではなく、助けろと命令するだなんて。


「(最低最悪……いや、所詮はこれが全て、か)」


 冒険者と言うのは、強くなれば稼げる、その典型的なモノだ。

 自分にはなにかしらの才能があると思い込んでいる連中達にとっては、冒険者ならば出来ると思っているのだろう。


 実際には、そんな事はないのに。

 どんなものも、頑張れない者にはそれなりの栄誉と報酬しか待っていないというのに。


「まぁ、良いさ。"助けてやるよ"。

 英雄たるこの俺、九鬼小次郎様が、お前ら全員、漏れなく救ってやるよ」


 俺はそう言い、あの蒼の光を放つ剣を構えながら、蒼の光を放つオーク・デュラハンに向かって突きつける。

 そんな英雄的な俺の姿を、後ろにいたカッコつけ女が震えながら口にする。


「……異能者……化け物……」


「(誰が化け物、なんだよ)」


 俺は、異能者だ。

 普通の人間は地を駆け、腕を振るうのと同じように、異能者である俺は自由自在に蒼い煙を操れる。

 そして、ダンジョンの魔物も、蒼い光を操る。


 それなので、俺が化け物扱いされる訳だ。心外でしかないが。


 この煙は、俺の自由に操作でき、蒼の煙が纏っているモノは"壊れない"。

 剣に纏わせれば刃こぼれ一つ許さず、身体に纏わせれば怪我一つなく移動できる。

 それが、この俺の異能者としての、能力だ。


「良いぞ、オーク・デュラハン。

 お前を、俺の英雄としての、1ページに刻んでやる」

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