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姫の魔剣士!

姫に教えられたのは、強くなる方法だった


いつか書きたいので、書いてみました


 桜が降り注ぐ、賑やかな街の一角。

 街を見渡せる高い丘の上にて、桜よりも鮮やかな桃色の髪の彼女が、くるりとこちらに振り返る。


「わたしのために、あなたにはパーティーに入って欲しいの」


 ニコリ、うっすらと腹黒さを感じるような笑みを浮かべながら、彼女は微笑む。

 見ようによっては、恋に落ちてしまいそうな風景ではあったが、僕は騙されない。


 彼女が自分の後ろに隠している短刀だとか。

 それから、彼女の背負っているオーラが狡猾な蛇のように見える事も。


 ‐‐‐‐だからこそ、僕は騙されない。


「この国を乗っ取るために、あなたの力が必要なの。

 だから、"お・ね・が・い"。あなたは、わたしの刃となって欲しいの」


 頬をうっすら赤く染めながら、彼女は蛇のように僕を(たぶら)かす。

 

「さぁ、始めましょう。

 わたしの、わたしのためだけの騎士様」


 彼女は、蛇だ。

 神話で最初の人間達を誑かして天界から追放させた、あのずるがしこい蛇のように。

 その女は、"あの時"と同じように嬉しそうに微笑んでいた。



 緩やかな傾斜のかかった緑のじゅうたんのように広がるその坂で、僕、キョータ・スクリーマーはゆったりと寝転がっていた。

 卸したての藍色を基調とした学園の制服には、地面から伸びる草でうっすらと緑色に染まり、土埃の影響なのかちょっぴり汚れていた。


 そんな事も気にせず、僕は胸元に付けてあるバッジを眺めていた。


「剣のマーク……騎士、ねぇ」


 僕が今年の春から通う、王立アームズロング学園。

 この学園では、人々を襲う魔獣なる怪物を倒すための人間に育てるための学園である。

 よって、クラスも魔獣をどう倒すか、それに合わせていくつか分けられている。


 1~5組が、僕を始めとした剣などの武器といった武術を使う者が通う組。

 6~10組が、魔力を用いて放つ魔法を扱う者が通う組。

 11組は、剣と魔法。2つを同時に合わせて扱う者が通う組。

 12組は、自分以外のモノを使役して戦う者が通う組。

 そして13組は‐‐‐‐っと、ここまでくらいで良いだろう。


 ともかく、僕が通う事となったこの学園は、クラスが非常に多い。

 そしてクラスの判別を容易にするため、僕達はこういうバッジを、クラス班別のバッジを付けているのである。

 ちなみに僕のこの剣のマークは、1~5組の武術を基本とした者に与えられるマークである。


「【この剣のマークは、あなたが王立アームズロング学園の生徒であることを証明するバッジです。この剣は王国に捧げる聖なる剣である事を表し、あなたが騎士である事を示します】、ねぇ」


 自分が騎士だなんて、想像もつかない。


 僕にとって【騎士】と言うのは、清純な者だ。

 どんな状況であろうとも諦めず、お金だとかそういう不純な者では動かず、ただただ正義に準ずるもの。

 英雄だとか、聖人だとか、そういう類だと思っている。


 確かにそういう類の人間は傍から見ていたら凄いとか思えるのは思えるんだけれども、それでも自分が「はい、騎士です」と言い張れるかと言われれば……


「……うん、無理だな」


 あぁ言うのは、空想上の人間だ。

 実際の騎士は汚れ仕事はするわ、汚職はするわ、裏切るわ、お金にだらしないわ……いうなれば、他と一緒だ。

 僕がさっきまで語っていたような【騎士】だなんてのは、本当に物語上の事なのだ。

 そう、そういう事なのだ。


「考えすぎだなぁ、おい。

 さて、ぼちぼちとクラスに戻りますかねぇ」


 ボヤキつつ、上半身を起こす。

 制服についてしまった汚れを払い落としながら、僕はゆっくりと立ち上がる。


「ふふっ、ようやくこちらを向いてくれましたね」


 そして、そこで僕はようやく、1人の少女に見られていたことに気付いた。


 ふわっと膨らんでいる桃色の髪の彼女は、恋する乙女のような笑みを浮かべていた。

 僕とは違う紅色の制服を着て、腰に水晶のついた杖。胸元に12組の生徒であることを意味する、鞭のマークが描かれたバッジを付けていた。


「結構、前から見ていたんだけどなぁ。気付かなかっただけなのかなぁ、それとも気付いてて無視しちゃってたのかなぁ?

 そうだったらわたし、とーっても悲しくなっちゃうんだけどなぁ」


「それはすまない、1つ言えば本当に知らなかった」


 謝罪すると、彼女は「別に気にしてないわ」と笑っていた。


「自己紹介させていただきますわね、わたしの名前はクジャーラ・サマークリスタル。この胸のバッジからも分かってもらえると思いますが、わたしはこの学園の12組の生徒です」


「12組‐‐‐‐使役する者達が集うクラス、か」


 バッジに描かれる鞭は、力あるモノの手綱を操る鞭の印。

 12組の生徒達は自分以外のなにかを使役して戦う者で、獣を使役するテイマー。精霊など異界から召喚して戦う召喚士。屍を操って意のままとする死霊術師(ネクロマンサー)などなど。

 とまぁ、彼女のクラスは、別の者を使役させて、連携して戦うクラス。故に連携クラスと言われているらしい。


 そういうクラスらしいのだが、正直なところを言えば、僕は12組の、使役して戦う彼ら彼女らの事が苦手である。


 要するに、自分では戦わずに、後ろから見守っているだけだ。

 勿論、本当はそうではないと思っているのだけれども、ここら辺に来るとちょっとした苦手意識の差という奴だ。


「僕はそろそろ教室に戻りますので、この坂で寝転がりたいのならどうぞ」


 風が気持ちいいし、寝転がると坂の緑の草木もちょっぴりくすぐったいけれども気持ちよかった。

 ここで寝ると気持ちいい事は、先に寝ていた僕が証明しよう。


「うふふ、そんな事を思っていたら、鞭で叩いて、早々に場所を譲って貰ってましたよ」


 言われてみれば……確かに、その方が速い。


「わたしはね、あなたに用があるのですよ。

 1年2組の武術クラス、キョータ・スクリーマー。武術クラスで、唯一全ての武器特性がない変わった、あなたに」


 その言葉に、珍しいモノみたさ全開の彼女に、僕の心はすーっと冷えていく。



 この世界には、魔獣と呼ばれる怪物が居る。実際、この学園はそれの対抗手段として作られた学園だ。

 そして、その魔獣と戦うための武具も、たくさん存在している。


 華麗なる技で相手を斬る、剣。

 間合いを取らせずに叩き込む、槍。

 魔法の強さを底上げして支える、杖。

 遠距離から相手の弱点を射る、弓。

 重い一撃を相手の身体に叩き込む、ナックル。

 中距離と遠距離で相手を撃ち続けられる、銃。

 硬いモノでも容易く壊せる、斧。

 科学技術との融合により魔法を効率よく用いる、ロッド。

 相手の懐に入り込んで一撃で葬る、短刀。

 最高速にて相手に切り込む、刀。

 攻撃範囲の広さと攻撃力の高さが自慢の、大剣。


 この世の武具はもっとあるが、とりあえず、だ。


 この学園にあるとされる以上の種類の武具、それに対して、僕はEランク‐‐‐‐つまりは、どれも【適正なし】と判断されたのだ。

 正確に言えば、ナックルは多少なりとも適正はあったが、普通に殴っているのと変わらない。つまりはあってもなくても一緒と言うくらいの適性しかなかった。


「ほら、見てみろよ。これを」


 僕はそう言って、彼女に僕のステータス画面を見せる。


=====

キョータ・スクリーマー

職業;武術師

適正;剣(E) 斧(E) 槍(E) ロッド(E) 杖(E) 短剣(E) 弓(E) 刀(E) 拳(E+) 大剣(E)

=====


「僕はね、このバッジを貰えるような騎士なんかじゃない。

 ただ普通の人よりかは身体を鍛えているというだけの、それだけのつまらない人間なんですよ」


 なにせ、剣どころか、他の武器だってまともに扱えないのだから。


 僕がそう言うと、彼女はこう言った。


「えぇ、そんなあなた"だからこそ(・・・・・)"、わたしはここに来たの」


 あの時、クジャーラは満面の笑みを浮かべていた。

 全ての武器に適正なしなどと言われて落ち込んでいる僕からしてみれば、その笑みはまるで女神のように見えたのだ。


「ねぇ、キョータ・スクリーマー。あなた、わたしと手を組まない?

 具体的には、ダンジョンのパーティーで、一緒に天下を目指しませんか?」

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