前略、カードバトラーでダンジョン攻略はじめます。 #3
【ダンジョン妖精】のカードと一緒に出てきた、20枚組の『(株)バッカス・エージェンシー特製スターターセット』というカードデッキ。
このカードデッキには、3種類のカードが入っている。
1種類目は、"魔物カード"。
俺が召喚した【ピクシー】【ケット・シー】【マンドレイク】の3枚のように、魔物が封印されているカードで、召喚の掛け声と共に魔物を実体化できる。
【ダンジョン妖精】と違うのは、ダンジョン妖精は一切戦うための能力がないのに対して、この魔物カードの種類から呼び出した魔物達はこちらの指示に従って攻撃してくれる。
ただ無条件に、いくらでも呼び出せる訳ではない。
例えば、いま俺が居るダンジョンは、【(3)闇神を祀る暗黒遺跡】という名前なのだが。
この【(3)】とは、このダンジョン内で同時に召喚できる魔物カードの数であり、つまり今の俺だと3体まで同時に召喚できるという訳なのだ。
----あっ、ちなみに、魔物カードによっては"2コスト"だとか、"3コスト"とか書いてあったので、単純にコストの範囲内で召喚できるという事なんだろうけど。
2種類目は、"装備カード"。
魔物カードから召喚した魔物や、俺自身に装備できるカードの種類である。
装備すると攻撃回数が増える【はやぶさの剣】や、水中の中でも息継ぎなしで活動できる【潜水の魔法】など、まぁ、とりあえずなにかに装備できるならば、全て装備カードとして扱われるみたいである。
こちらも、魔物カードと同じく、それぞれコストの範囲内であれば使えるらしい。
魔物カードとコストは別ならしいので、今のダンジョンの場合だと魔物カード3コスト分と、装備カード3コスト分が使えるといった所だろうか。
一応、カードデッキには何枚か装備カードは入っていたが、『使っている最中は【ダンジョン妖精】が吸える魔力の量が減ってしまう』などという装備カードのデメリットがあったため、いま現在は使っていないが、強敵が出たら使うつもりである。
最後に3種類目は、"サポートカード"。
これは【ダンジョン妖精】と同じで、これはどちらかと言えば、先に上げた"魔物カード"と"装備カード"、そのどちらにも該当しないカードの総称という感じだ。
このサポートカードに関して言えば、コストは関係なく幾らでも使えるが、ただそれだけだ。
一瞬で自宅へと帰れる【帰還の渦】とか、定期的に飲むことでダンジョン内で空腹を感じなくなる【万能フーズ】などがそれに当たるが、結局のところ、ダンジョンでのバトルには役立たないカードたち。
こんなカードがあるなら、ダンジョン内でもスマホの電波が繋がるようなカードがあって欲しいモノなのだが。
----まぁ、そんな感じのカードたちが、スタートデッキには魔物カードが10枚、装備カードが5枚、サポートカードが5枚入っていた。
スタートデッキと名を打つだけあって、どれにも偏りがなく、良く言えば扱いやすく、悪く言えば癖もなくて凡庸なカード達。
俺はそんな10枚のカード達の中から、比較的扱いやすい3枚の魔物カードを使って、ダンジョン攻略に挑んでいた。
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【ピクシー】 Level.1 (無・コスト[1])
昆虫のような翅の生えた緑服を着た小人妖精。体力がない非力な種族ではあるが、その分、魔法攻撃に長けている
効果
;【痺れる刺激】=電撃攻撃を当てた際、麻痺になる可能性が通常の10%から、20%へとアップする
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【ケット・シー】 Level.1 (無・コスト[1])
レイピアを構える2足歩行の黒猫。忠義に熱く、武器の扱いにも長けている
効果
;【装備アップ】=装備カードを装備している間、戦闘能力が上昇する
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【マンドレイク】 Level.1 (無・コスト[1])
分岐した根が人の足のようになっている、叫ぶ植物。その大きな声は、相手に気絶をもたらす
効果
;(現在、なし)
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スタートデッキの中で、俺が一推しとして、今回のダンジョン探索に出した3枚の魔物カード。
----まぁ、他のカードが2コストだったり、効果なしのバニラカードだったりなので、消去法的に選ばれた3枚というだけの話だ。
マンドレイクも数合わせで居れたカードで、効果がないバニラカードは他にもあって、別の【コボルト】や【ゴブリン】なんかにする事も考えたくらいだし。
マンドレイクを選んだのは、コボルトやゴブリンなんかと比べれば容姿がマシというだけだ。
まぁ、ともあれこの3枚の魔物カードによるダンジョン探索は、順調に進んだ。
出て来て襲い掛かって来る魔物も、3体でフルボッコにすれば問題なく太刀打ちできたし、仮に2体以上出て来た時は逃げたり、あるいはマンドレイクで一瞬気絶させた後に1体ずつ倒して行けば問題なかった。
そして、俺は30分で、15体ばかりの魔物を倒して、倒した魔物達からダンジョン妖精に魔力を回収させる。
その魔力分は、1時間分の魔力、つまりは3万円くらいの価値があるのだそうだ。
30分魔物を倒して行って、1時間分の給料がもらえるのなら、初めからダンジョン探索に打って出れば、もっと稼げたかもな。
まぁ、捕らぬ狸の皮算用----後であぁだこうだと何を言っても、仕方がない話なのだが。
「んでもって、ここが最奥か」
ご丁寧に、ダンジョンの奥には俺の何倍はあろうかと言った大きな扉があり、近くに紫色の幻想的な炎が灯った松明が並んでいる。
ゲーム風に言えば、ダンジョンボスの前という所だろうか。
まぁ、実際、この扉の先には、このダンジョンの管理者、つまりはダンジョンボスが居るんだろう。
「3体を連携させて戦わせて、十分に戦えてる。余裕があったくらいだ」
俺にはまだ装備カードという方法も残っているのに、これまでの戦いでは1枚も使わずに済んだ。
ちゃんと戦略を立てれば、十分に渡り合える相手という訳だ。
「いざとなれば【帰還の渦】で帰れば良いんだし、ここで帰るのも味気ないしな。
よし、それじゃあ入って行こうじゃないか」
俺はそう言って、扉を開けて、ダンジョンボスへと向き合った。
(※)バニラカード
魔物カードの中で、基本能力(攻撃力・守備力など)だけを持ち、特殊な効果を何も持っていないカードの別称
バニラ味のアイスが「何も特徴がない、つまりは基本状態のまま」という事から、「能力がない、つまりは基本状態のまま」という意味から使われ出した。これは数々のカードゲームなどでも使われている別称である




