蛮族 #2
----『世界って、ぶっちゃけヒドくね?』。
こう世界をざっくり表現したのは、この世界を作った神様だって言われてる。
いや、自分の作った世界を、"ヒドくね"って、評価が酷すぎない?
あと、"ぶっちゃけ"とか名言に使うんじゃないよ、うん。
まぁ、そう表現しちゃうほど、この世界はすっごくヒドいのだ。
世界には十を越える魔の王、世界を自分勝手の姿へと変えちゃうほどの力を持つ魔王さんが居て。
そのせいで、人々が住むことが出来る範囲は、とっても狭い。
街を一歩でも出れば、そこは魔王の配下たる魔物達が普通に出現しちゃう戦闘地帯だ。
そんな世界で、人々は日々の生活を暮らすために、いくつかの知恵を付けた。
その1つが、戦闘地帯に行って、魔物を倒したり、有益な資源を回収する職業を作る事。
まぁ、いわゆる冒険者って奴ですね。
その冒険者に、私は登録しに向かった訳である。
私の名前は、サビナ。
ここ、駆け出し冒険者の街マーズで暮らす、見習い聖女です。
教会の孤児院で、14歳となる今日まで、割かしのびのびと過ごしてもらった私なのですが、つい先日、院長から通告を受けました。
簡単に言うと、「孤児院を豊かにしたいし、冒険者になれ」と。
冒険者って、皆が行かない戦闘地帯に行って、そこで魔物を倒したり、便利な素材を収集するのがお仕事。
危険地帯に行くのだから、当然ながら命の危機が多く、だからこそお給金も多い。
ぶっちゃけ、私の目的は、金です。
孤児院でお肉が出る日は少ないですからね、お金さえあればお肉もいっぱい買えますからね。
今日のお肉と、明日を生きる金さえあれば、人間、なんとか生きれるモノです。
そう言う訳で、私は冒険者になるために、冒険者ギルドに
「ウグワーッ!!」
「ウグワーッ!!」
「ウグワーッ!!」
「ウグワーッ!!」
「ウグワーッ!!」
「……なんだろ、これ? "ウグワーッ!!"の大合唱?」
冒険者登録をするために、冒険者ギルドに来た私を待っていたのは、"ウグワーッ!!"の大合唱。
というより、大の大男達が股間を押さえて、震えながらうずくまる姿でした。
つまり、蹴られた訳ですよ。
全員、男の大事なアソコを蹴られて。
「うわぁ、めちゃくちゃ痛がってますね」
その中心に、1人の少年が立っていた。
12歳くらいの、赤黒い髪と褐色肌の、上半身裸の少年。
「(蛮族……)」
私の頭の中に浮かんだのは、そんな言葉でした。
この世界を作った神様、雑な仕事しかしてないその神様は、いくつかの法を設けました。
その1つが白い肌、人間である事の証と言わんばかりに人の肌は白いのです。
しかし、雑な仕事しかしてない神様なので、人間であるにも関わらず、白い肌を持たない人達がいるのです。
それが、蛮族。
敢えて危険地帯に住み、赤黒い髪と褐色の肌を持つ、人ながら人でない者。
そんな蛮族の少年が、うずくまる大男達を見下ろしてました。
「おうおうおう! 愉快だな、っと! 冒険者になろうという者が、そんな情けない姿をさらしてどうなる!
さぁ、共に冒険者として汗を流そうではないか、っと!!」
高らかに笑う蛮族少年と、もう息絶えて動かない大男達。
…………。
「(関わり合いにならないようにしましょう)」
私は冒険者ギルドで登録の手続きをして、無事、冒険者になることが出来ました。
「では、行こうか、友よ! 共に、冒険者として名を上げようじゃないか、っと!」
「なんで、こんな事に……」
そして何故か、この蛮族少年とパーティーを組んでる、私。
……いや、なんでこうなるんでしょう?
私、なにか変なことしましたかね?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「俺の名前は、ヴォーガン! 戦士だぜ、よろしくな、っと!」
「……サビナです。女神官、やってます」
「よろしくな、相棒!」
……今、嫌な当て字された気がするのは気のせいでしょうか?
冒険者となった私は、依頼を受けて街の外に出ています。
依頼内容は、『薬草の採取』。
決められた数の薬草を持って帰る依頼で、持って帰れば帰るほど、追加で報酬が貰えちゃうという依頼です。
「なので、突っ立ってないで、薬草を採取して欲しいんですが」
私は7個目の薬草を根っこから引き抜きつつ、棒のように突っ立ってるだけのヴォーガン君に声をかけます。
「おぅ! そうだな!」
そう言って、彼は私の横に座り込んで、ぶちりぶちりと、薬草をちぎっては、腰につけた鞄の中に乱暴に突っ込んで行く。
……もっと丁寧に、やって欲しいんですけど。
こういうの、丁寧な仕事だとプラス査定とかになって、貰えるお金増える、つまりは私がとっても嬉しくなるんですが。
「……というか、なんで私、あなたと依頼を受けてるんですか?」
「同じパーティーだからな! 依頼も一緒なのは当然だ、っと!」
「いや、そうじゃなくてですね。そもそも、なんで私をパーティーに誘ったんですか? 冒険者なら、他にもいっぱい居たのでは?」
冒険者ギルドとは、冒険者が集まりやすい場であるという事だ。
冒険者の登録、依頼の受付、それだけでなく冒険者を気持ちよく酔わせるエールを提供する酒場でもある。
あそこは冒険者にとって居心地のいい空間、故に冒険者が多くいて、パーティーを組む冒険者仲間も多くいる場所でもある。
まぁ、危険地帯に行くんですから、1人よりも2人とか、複数人で行く方がいいに決まってますし。
冒険者ギルドには、パーティーを組みたい人が溢れてる。
冒険者登録仕立てで、実績がない私なんかより、もっと有能な人材とやらはたくさんいるはずでは?
「うむ、しかしながら全員、頼りないんだな、っと。一発、蹴り上げたら動かなくなってしまった」
「ああされれば、男の人なら全員悶絶して動けなくなりますよ」
「うちの村では、あれで動けなくなる人間なぞ、魔物に食われて死んでるが?」
流石は、蛮族。
男にとって大事なアソコを蹴られても、無事とか、マジ勘弁です。
「もしかして、女でなかったら私、蹴られてました?」
「蹴ってたな」
即答する、ヴォーガン君。
女に生まれて、ほんのちょっぴり嬉しいと思った瞬間である。
「でも、きっとサビナが男だったとしても----っ!」
「どうかしましたか?」
いきなり、目をギラギラ輝かせて、ナイフを取り出して構えるヴォーガン君。
どうしたものかと思っていたら、
『グルルルッ!!』
草むらから、私達の倍はあろうかという、大型の狼が現れたのでした。
つまりはです、魔物の登場って訳ですよ。はい。
(※)蛮族
「白い肌」を持つ者が「人間」と、神によって定められた世界で、「赤黒い髪」「褐色肌」を持つ人間の総称。基本的には皆が住まう街ではなく、森の中に独自の集落を作って暮らしている
別に他の人間に対して敵対心は抱いていないが、乱暴、かつ、大雑把な戦闘主義者として伝わっている




