その神官、蛮族の女と呼ばれてます
----きぃぃぃぃぃぃぃんっっっっっっ!!
「ウグワーッ!!」
王城の謁見の間。
貴い貴族様と、国を治める王様達の見守る中、騎士団長の呻き声だけが、響いていた。
『王を守る最後の盾』とも称される、全身鎧に身を包んだ騎士団長は、内股になりながら、その場に座り込んでいた。
「ふんっ! 軟弱な男だな、っと。蹴り上げただけなのに」
倒れる騎士団長を見下ろしながらそう言うのは、赤黒い髪と褐色の肌を持つ少年である。
所々が破れたズボンをはいた、上半身裸の、12歳の少年。
そんな少年が、騎士団長を倒したのだ。
そう、金玉を蹴って。
もう一度言います。
あの少年は、騎士団長の大切な急所を、思い切り蹴りやがったのだ。
「(うわー、痛そう)」
ぷるぷると、今もなお震えている騎士団長を見て、私は痛そうと他人事のように呟きます。
えぇ、他人事ですもの。
蹴られたの私ではありませんし、蹴ったのも私ではありませんから。
「おりゃあ! おりゃあ! もう一つおまけで、おりゃああ!」
「ウグワーッ!! ウグワーッ!! ウッ、ウグワーッ!!」
----なので、さも私に責任を取らせようと、こちらに目線を向けないでもらえません?
王様も、貴族の皆様も、赤黒い少年ではなく、私を見ていた。
なんで私に止めさせようとするんですか?
私、別に関係ないんですけど……。
あと、ヴォーガン君。
3回もやるとか、やりすぎなんですよ。
「はぁ……はいはい、やりすぎなんですよ。ヴォーガン君」
と、私は手にしている杖で、こつんと彼の頭を小突く。
「そうは言うが、サビナ。相手は全身鎧なんだぞ、っと? 鎧を殴ったら痛いに決まってるから、一番効果がある所を攻撃するのは当然なんだぞ、っと」
「急所狙いを攻めているのではなく、騎士団長のメンツを考えなさいな」
「----? "めんつ"?」
『メンツ』という言葉の意味が本当に分からないみたいで、首を傾げる赤黒い少年、もといヴォーガン君。
「……上を立てるって意味ですよ。ほら、族長の長い話とかをちゃんと聞かないと怒られるでしょ? そう言うのと一緒ですよ」
「----? 族長は長い話なんて、一回もしたことがないぞ、っと? いつも『特攻ぅ~!』とか、『やれぇ~!』とか、そういうのだぞ、っと」
「マジかぁ、流石は蛮族。族長さんも戦闘一色なんですね」
やれやれ、と思いつつ、私は----見習い聖女サビナは王様に頭を下げる。
「国王様、騎士団長の大事なアソコを蹴り上げてしまい、メンツを潰したことをヴォーガン君に変わって、心からお詫びいたします。
つきましては、謁見の間から退去することを、認めてくださるとありがたく存じ上げます」
端的に言えば、もう帰りたい。
ぶっちゃけ、本当になんで一介の見習い聖女たる私が、このような謁見の間に行くことになったかと言われれば、彼のせいだ。
赤黒い肌を持つ、巷では『蛮族』と噂される民族の少年。
その名も、ヴォーガン。
彼と出会ったことが、私の人生の転機と言えるでしょうね、うん。
(※)ウグワーッ!!
やられる時の掛け声みたいなもの。キャラクターがやられたり、ダメージを受けたりする時の声




