スキル『旗』を手に入れた高校生。強敵もみな配下に任せれば怖くないよね? 3話
「いやぁ~、わざわざご馳走を感謝しますよ!
この御恩は、第一の中心たる【霧島崎津】が、冒険にて全力で返させていただきますよ! はい!」
むしゃむしゃ、と、隠し通路奥で見つけた彼女、霧島崎津はそう力強く宣言する。
「……食べながら、宣言しなくて良いから」
俺はその口いっぱいに、食べ物を詰め込んだ彼女に、そう言うのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
隠し通路の、さらに奥にあった隠し通路。
石化状態で眠っていた彼女、霧島崎津は石化が解けるなり、倒れ込んでしまった。
原因は、絶対にこのぐぅぅぅ~、と品もなく鳴り響く、彼女のお腹の音。
流石にここまで盛大に、お腹を鳴らしている彼女を放っておくことは出来なかった。
人間的な判断ていうか、道徳的な何かというか、なんていうか。
そこで俺は小腹が空いた時に食べるように持っていたサンドイッチを彼女に与えて、そのままダンジョンから脱出した。
脱出した後は、軽い騒ぎになった。
----まぁ、背中に翼を生やした女の子がいたら、そりゃあびっくりするよな。
そして、俺は、とある女性に連れられて、ファミレスにいる。
「さて----ひとまずは、お疲れ様です。新野紫音さん」
黒髪眼鏡に、一部の隙も無いスーツ姿。
先天スキルを持つ俺に「国家のため、頑張れ」などと一切の手心なく言ってのけた彼女こそ、【伊中雅】さん。
通称、上の人。
俺に、ダンジョンと国家の関係性と、冒険者としての心構え(という名の脅し)をかけた、政府の人。
そしてダンジョンから脱出してもお腹を鳴らしまくる霧島崎津と、連れてきた俺を、2人まとめてこのファミレスへと運んだ女性である。
「(苦手なんだよな、この人)」
雅さんは、上の人の命令で、ダンジョンに潜る冒険者を斡旋している、そういう仕事をしているらしい。
勝手に健康診断で俺のスキルを発見させたのも、彼女。
冒険者になるための試験を受けさせたのも、彼女。
ついでに言えば、ほぼ毎日のようにダンジョンに潜らされているのも、彼女の存在が大きい。
簡単に言えば、彼女はダンジョン信者なのだ。
ダンジョンに行けばどんな技術的な問題だったり、今は治せない病気だったりも治せると、本気でそう信じている人。
だからこそダンジョンでならなんでも問題解決できると信じているダンジョン信者である彼女は、先天的にスキルを持つ俺のような存在に、期待してる。
先天スキルを持ってる人たちは、これまで様々な優秀な成績を、つまりは冒険者として目覚ましい活躍をしてるみたい。
だからこそ俺も、なにか凄いことを起こすんじゃないかって。
「(まぁ、流石に翼を生やした女の子は予想外だったかもだけど)」
雅さんは勝手に(いつもの事で気にしないけど)俺の鞄を覗いて、俺が持ち帰ったパワーブレスレットをがっちりと掴む。
そして、その代わりとばかりに、代金である10万円分が入った封筒を俺に差し出してくる。
「どうぞ、お納めください。こちらのブレスレットは、政府の方で買い取らさせていただきます」
「……毎度、どうも」
「いえ、このようなステータス向上のアイテムは、いくらあっても構いませんので」
そう言って、雅さんはブレスレットを、自分のポケットの中に入れた。
あのポケットは異次元空間になってるらしく、ポケットの口よりも明らかに大きい物も余裕で入るし、ポケットのサイズを大きく超える物も普通に入る。
そして入れた物は、国家の名においてビジネスに再利用しているんだそうだ。
まぁ、あれですよ。
オークション、みたいな。
「そして、次に説明を願いたいのは、その翼を生やした女の子、の事なんですが」
雅さんはジトーっと、さっきから食事をし続ける霧島崎津を見ていた。
崎津は「----?」と、首を傾げていた。
「私? 私はね、霧島崎津という名前なんですけど。よろしくね、お姉さん?」
ニコッと、崎津は笑顔を向けていた。
ちなみに、彼女の手にはまだまだ食べ物が握られており、今の食事金額は軽く見積もっても5万円を越えている……。
「凄い食べますね、崎津……さん?」
「うん! 『良く食べ、良く寝て、良く戦う』! それこそが、この私のモットーというか、座右の銘なんで!」
パクパクと、崎津はその後も食べ続ける。
言いたい事は言ったとばかりに、崎津は食事を続ける。
「----で、この大食いさんは、隠し通路で見つけた、と?」
「えぇ、まぁ」
俺は、雅さんにある程度の事の顛末は話してある。
偶然、隠し通路を発見し、偶然、腹ペコで倒れていた彼女を発見した。
そういう筋書きで、話をしている。
隠し通路のさらに奥にて、隠し通路を発見した、とか。
そこで石化した状態の彼女を発見した、とか。
スキル『旗』によって、その石化状態の彼女が復活した、とか。
そういった、『言うべきではないような状態』ってのは、伝えていない。
伝えていないというか、自分でもまだ分かってないから伝えられないというか。
「(いや、だって分からないでしょう? 隠し通路の奥で石化状態の彼女を発見だとか、配下だとか……。
ほんとう、俺自身も良く分かってないんだから)」
嘘は言っていない、本当のことも全部言ってないんだけで。
「----う~む?」
雅さんは俺の言葉の真意を測りかねているようで、俺の顔を見て、今もなお食事を続ける雅さんを見ていた。
そして、1つの結論に達したようだ。
「敵も罠もないはずの隠し通路で倒れるだなんて、信じられないけど……彼女の食欲を見ると、信じられますね?」
雅さんはそう言って納得し、そのまま帰って行った。
「なんとか、誤魔化せたのかな?」
俺は「ふぅ~」と、一息吐いた。
雅さんはダンジョン信者で、先天スキルを持つ人達に夢を見過ぎている。
先天スキルを持ってる人たちは全て偉業を為してきたから、俺もまた偉業を為すと勘違いしている。
「俺のスキルは、ただの『旗』で、劣化版の槍でしかないのになぁ」
「そんなことないですよ、ボス!」
と、俺が卑屈にそう言うと、今まで食事をしていた彼女が力強くそう言う。
「ボスに助け出された際、そのスキルがどういうスキルなのか! 恐らくボス以上に理解しましたよ!
この力、全てボスのために使わせていただきますから!」
「だから、俺はボスじゃないんだが」
ちなみに、彼女のその日の食事代は、結局、7万円近い高額になった。
(※)ダンジョン信者
ダンジョン社会の結果、生まれた狂気的な思想を持つ者達のこと。ダンジョンには様々な、現代科学では説明できないような機能の代物が多く存在するが、ダンジョン信者たちはそれらでこの世の全ての問題を解決できると信じている
とりわけ、先天スキルを持つ者達は眩い活躍を遂げる者が多いため、ダンジョン信者にとって先天スキル持ちに対し、英雄視して、「必ずなにか大きなことを起こす」と信じる者が多い




