スキル『旗』を手に入れた高校生。強敵もみな配下に任せれば怖くないよね? 第2話
なにはともあれ、俺は無事に試験に合格して、冒険者となった。
俺は正直に、ダンジョン内でスキルを使った感想を書いて、無理やり俺を冒険者にした人達に提出した。
スキル『旗』は長めの棒を召喚する程度のスキルで、スライムの粘々とした体液を気にせず戦える程度の能力だ、って。
この結果に、俺は満足していた。
スキルがそれほど使えないということも証明できたし、それに俺はやはり冒険には向かないというのも改めて再認識できた。
そう、やはり俺に、冒険は似合わないのだ。
----にも関わらず、俺はダンジョンへとやって来ていた。
それも、マジモンの、本物のダンジョンに。
ダンジョン名、【ゴブリン達の盗掘】。
俺のような、成り立ての冒険者が挑むのに最適なダンジョンである。
「我ながら、本当になんでこんな所に居るんだろうね。マジで」
何故、俺がダンジョンに居るのか?
それは簡単な話で、そうしろという圧力がかかったから。
ダンジョンの中の物の有用性を認識する、政府連中----つまりは、上の人達。
なおかつそこに潜る冒険者のバックアップもしっかりしている上の人達からしてみれば、先天的にスキルを持つ俺のような存在はダンジョンに潜るのが当然、とのこと。
スポーツ特待生が遊び惚けてたら怒られるでしょう、あれと一緒。
----てな訳で、非常に不本意ではあるが、俺はダンジョンに潜っている、ということである。
スキルが使い物にならないって、ちゃんと報告したはずなんだけど。
『ギャアアアオ!』
「はいはい、あんたの対処も大事よね」
俺はスキル『旗』を発動して、旗でゴブリンを倒していた。
戦いは前回のスライムと同じく、旗で遠くから殴るという、そういう戦い方である。
ゴブリンはスライムとは違い、足も腕もある。
なんなら武器を使うっていう、知恵もある。
まぁ、それでもただ棍棒を振り回しながら、突っ込んでくるだけなんで、対処は楽っちゃ楽だけど。
「ほい、っと」
剣と違い、俺の得物は旗----ってか、棒だ。
ある程度の長さはあるし、俺は感じないけど確かな重みもある。
長い棒をグルグルと振り回しているだけで、俺の旗はゴブリン達を吹っ飛ばせる。
それを2回か、3回ばかり繰り返せば、ゴブリン達は倒されて、消滅する。
既に5日間くらいは来てるし、ゴブリンの攻撃はワンパターンなので、慣れたモノである。
「流石は、冒険者成りたてに勧められるダンジョン。適当に戦うだけでも、ある程度やれるな」
俺はゴブリン達が消滅した場所から、小さな石を手に入れる。
ほんの少し紫がかったこれは、魔石と呼ばれる代物で、ゴブリンやスライムのような魔物を倒すと出て来る、換金用アイテム。
ちなみに、このゴブリンの魔石は、1個10円との事。
しょっぱい金だが、ほんの少し運動した程度にして見れば、まぁ、割かし良い稼ぎかな?
それに、こういうのは塵も積もればなんとやら、魔石1個は10円でも沢山集まれば、ちょっとしたお小遣い程度にはなるだろう。
「さて、もうちょっと集めようか」
俺はそう言って、旗を壁に立てかけて、魔石を集め始める。
いつもだったら、旗を片付けてから、魔石を集め始めるのだけど、慣れというのは怖いもので俺は片付けるのを忘れてしまった。
だって、片付けてから出すとほんの少し、身体から出て行くような倦怠感があるから。
----カタッ。
だから、"それ"は偶然であった。
「あれ……?」
俺が壁に立てかけておいた旗は、地面に落ちて軽い音を立てる。
何故なら、立てかけていた壁が消えていたから。
「隠し通路……」
そう、俺が旗を立てかけていたはずの壁は消え、代わりに奥へと進む通り穴が開いていた。
ダンジョンの中には隠し通路があるとは噂程度に聞いてはいたが、まさか、たまたま立てかけておいた壁が隠し通路の入り口だったとは。
ダンジョンとは、基本的には人を誘い込むような構造になっている。
勿論、一直線に、素直にダンジョンマスターの所に行けるような、簡単な構造には出来ていない。
行き止まりがあったり。
迷路になっていたり。
あるいは、何らかの条件を達成しなければならなかったり。
そういうのは、勿論ある。
だけど、基本的には、普通に進んで行けば、最奥のダンジョンマスターが居る場所に辿り着く。
しかしながら、最奥へと着くのに全く関係ない、通路。
壁を壊したり、特殊なスキルを使わなければ辿り着けない通路----それが、隠し通路。
まぁ、隠し通路自体、見つけられる可能性は、低いんだそうだけど。
隠し通路は、ダンジョンがくれたボーナスエリアみたいな場所であり、中には罠も、魔物も、一切ないんだそうだ。
それと、隠し通路の奥には、高額で売れるアイテムなどがあるらしい。
それこそ、今まで魔物をたくさん倒して手に入れた魔石を、全て放り出すほどの極上のアイテムが。
「偶然ってのも、あるもんだね~」
隠し通路を見つけられるだなんて、思いもしなかった。
でもまぁ、一応行ってみようかな、と俺は中に入ることにした。
俺は魔石をあらかた回収し終えると、旗を持って、奥へと進むその通り穴へと入っていくのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
隠し通路は、人1人が通るのがやっとって大きさの道。
俺は、そこを旗片手に、えっちらほっちらと進んでいた。
敵は出ないし、別に道のりが厳しいって事もない。
割かし快適な道のりである。
そして、俺は3分ばかり歩き続けて、一番最奥へと辿り着く。
そこにあったのは、大きな宝箱が1つ。
鍵はかかっておらず、俺が開けると、中には小さなブレスレットが1つ。
===== ===== =====
【パワーブレスレット】
換金目安金額:10万円~
つける事で、攻撃力を【5】上昇させるブレスレット。3個までなら同時に着けても効果を発揮する
攻撃力上昇タイプのアイテムとしては、初級相当のもの
===== ===== =====
「10万円か……」
攻撃力を【5】上昇させると言われても、それがどれだけの代物なのかは俺には分からん。
しかしながら、10万円以上で売れるとなると、今までちまちまとゴブリンを買ってたのが馬鹿らしくなる。
一気に、1万匹分の価値だぞ、これ。
「ダンジョンドリーム……冒険者が一夜にして大金を手にする話ってのは、事実みたいだね」
もっとも、隠し通路はめったに見つからないらしいし、夢は一時限り。
コツコツと、「自分には冒険者は向いてませんよー」アピールして、ほとぼりというか、冒険に行かなくても済むのを待つばかり、だね。
「よーし、これを換金しに、帰るか~」
と、俺がそう言って、くるりと振り返ったその時。
手にしていた旗が、壁にぶつかって----
----ガコッ。
「え?」
----壁が開いて、隠し通路が現れたのである。
「隠し通路の最奥に、さらに隠し通路?」
そして、さらに現れたその隠し通路の中には、翼を生やした少女の石像が置かれていた。
===== ===== =====
【石化状態ー霧島崎津ー】を 発見しました
発見ボーナスとして 125万円を 獲得します
新野紫音から スキル『旗』を 検出しました
霧島崎津を 配下として 登録します
===== ===== =====
「ひゃ、ひゃくにじゅう?!」
いきなり出た高額ボーナスに驚いた俺だが、それよりも気になることがあった。
そう、"配下"(?)なる項目である。
何のことかさっぱり、と思っていると、いきなり石像が光り輝きだして----
「なっ?! 石が、動いた?!」
俺の目の前で、その石像は、ピクピクと動き始める。
そして、石のような黒くザラついた色合いは、どんどん柔らかく瑞々しい人の肌の色合いへと変わっていく。
というか、普通に石化が解けていく。
そして、石像から見事、生きてる女の子へと戻った----翼を生やしたその女の子は、そのまま俺の顔を見るなり、
「おなか、すいた……」
倒れ込むのであった----。
ぐぅぅぅ~、と大きな腹の音を鳴らして。
(※)隠し通路
ダンジョンに、極稀に発見される秘密の通路。壁を壊したり、特定の条件がなければ入れず、その奥にはアイテムが置かれている上に、敵や罠もない、極めて安全な場所
隠し通路を狙って見つけるのは難しいため、発見できれば幸運だと言われている




