スキル『旗』を手に入れた高校生。強敵もみな配下に任せれば怖くないよね?
ちょっと考えてたヤツ
こういうのもアリかな~と
『あなたはスキル『旗』を得ました。
冒険者として、更なる活躍を願っております』
返ってきた健康診断表に記載されている特記事項を見て、俺はちょっと固まっていた。
「……いや、そもそも冒険者じゃないんだけど」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ダンジョン探索者----いわゆる、『冒険者』。
100年ほど前に世界各国の至る所に突如として現れた、謎の空間。
その中には現代科学では説明できないオーバーテクノロジーな遺物が、ごろごろ溢れる場所。
それがダンジョンであり、冒険者とはそこを活動する者達のことである。
そのダンジョン内には魔物などが居て、危険な場所ではある。
しかしながら、利益が非常に大きい。
その利益たる遺物----分かりやすく言えば、なんか凄い能力を持つ資源やら、宝石やらがザックザックと出るため、世界各国はこのダンジョン探索に全力で力を注いでいる。
健康診断と称して、冒険者になってないこの俺、【新野紫音】の冒険者適性を勝手に診断するとか、ね。
冒険者は多くの戦いを経て、スキルという物を獲得する。
まぁ、取得のための条件とかがあったりするらしいんだけど。
しかしながら、そういう戦いがなくても、俺のように初めからスキルを持っている人間も居るらしい。
先天的にスキルを持っている者というのは貴重らしい。
その日のうちに俺は冒険者として、勝手に、登録させられていた。
「そして、そのままダンジョンに送り込まれるとか、マジ勘弁……」
俺は、ダンジョンの中に居た。
正確には、勝手にどこぞに現れたマジもんのダンジョンではなく。
現代科学によって再現された人工のダンジョンに、だ。
いわゆる、試験用のダンジョン。
この試験用のダンジョンでどれだけ戦えるかを見て、冒険者としての適性とやらを判断するらしい。
説明者の人はこう言っていた。
----「男ならこういう場でワクワクするものだ、頑張って来いよ」と。
同じ参加者の人はこうも言っていた。
----「冒険者……冒険って響きだけでワクワクするよな!」と。
こういう時、男ならワクワクするもんじゃないかって?
冒険だとか、そういうのにワクワクするのではと?
「----冗談じゃないよ、まったく」
こちとら、生まれも育ちも日本だぜ?
それも、戦争とかを知らない、ごくごく平和な日本で生きてきた一般人ですよ?
そんな危険に身を置くだなんて、嫌に決まってるじゃないですか。
なんで自ら、危険な所に行きたがるのか、俺にはさっぱり分からん。
「でもまぁ、成果なしでは大人しく帰してもらえないよな。まぁ、このスキルとやらを使ってみるか」
確か、講習(という名の一方的な説明)によると、スキルの使い方は既に俺の身体が知っているんだそうだ。
理屈というか、そういうのと全く関係ない言い分なのだが、事実、俺はそのスキルの扱い方を本能で理解していた。
「……来い、『旗』」
俺の呼びかけに応えるようにして、俺の手には『旗』が出ていた。
----というか、棒であった。
長さはおよそ1m半か、2mないくらい。
分かりやすく言えば槍のような感じで、先端に刃ではなく、白い旗がくくりつけられていた。
「白旗……つまりは、振って負けを認めろ、と?」
こんなスキルが発現したせいで、俺は冒険者になったのに……出てきたのは、白旗だなんて……。
「まったく、冗談じゃないね」
俺はそのいら立ちを、突如として湧いて出たスライムたちに向ける。
ぶよぶよと揺れながら、侵入者を排除するという本能のみに従うスライムたちは、侵入者である俺に向かって飛び掛かる。
「キショいんだよ----っと!!」
俺は旗----というか、棒で薙ぎ払う。
触るのも、粘々として中々落ちない体液に触れるのも嫌なので、近付かれないように距離を取って棒で突く、そういう感覚。
幸いなことに旗は重さを感じず、明らかに素人である俺でも楽々と振ることが出来た。
そして、スライムは旗にぶつかるとそのまま振ると同時に、壁に激突して、消滅していく。
「よっ、と」
5匹ほど倒したあたりで、旗……というか棒にべっとりとスライムの体液がこびりついていたので、『旗』のスキルを解除する。
すると旗は消えて、こびりついていたスライムの体液はそのまま下へと落下する。
そしてもう一度『旗』を発動すると、ぴっかぴかの新品のような旗が出て来る。
「多少、なんか身体の中から減ったなー的な感覚はあるけど、そこまで気になる物ではない。
……汚れても良い棒が手に入った、みたいな?」
いや、それなら普通に槍を欲しいんだけれども。
この時の俺は、思いも知らなかった。
まさかこの『旗』が、後々に俺の運命を左右するスキルになるなんて……。
いやまぁ、この時点で勝手に冒険者にさせられたので、運命を狂わされてるんだけど。




