「魔法なんて使えるの(笑)」と言われた戦士、極めてみることにした -戦士クリスの魔導道程ー
戦士が、魔法使いを目指す!
そういうヤツを目指したいと思って書きました
「えっ、あんた戦士でしょ? 魔法なんて使えるの(笑)」
冒険者の酒場で気持ちよく飲んでいたら、突然、女魔法使いにそう絡まれた。
なんかドヤ顔交じりで、「お前には出来ないだろう(笑)」みたいな感じで。
「……ぁん?」
一方で、絡まれた俺----クリス・プライスはと言うと、赤らんだ顔のまま、睨みつける。
ビールが注がれたジョッキを持つ手が、怒りでぷるぷると震えてくる。
「クリス、どぅどぅ……。落ち着けって、酒を持つ手が震えてるぜ?」
と、隣で飲んでいたパーティーメンバー、【剣士】のユール・ボルチャコフは、ヘラヘラ笑いながらそう茶化す。
女性を思わせるような長い白髪の、カッコいい男前の彼は、「落ち着け」とばかりに俺の頭をポンポンと撫でてくる。
「やめろ、って! お前の無駄にカッコいい顔を近づけるなって! はずいっ!」
「おっ、なんで照れるんだ? こんなの冒険者だと、珍しくないだろう?」
「今は、そういうのじゃなくて! この女が!」
ビシッ、と、俺はいきなり絡んできた女魔法使いを指差す。
「いきなり絡んできて、"魔法なんて使えるの~(笑)"なんて言われたら、どう考えてもバカにしてるとしか思えないじゃないか! 悪いのは、この魔法使いの方だ!」
「----えぇ、そうね」
と、今まで静かに黙り込んできた、魔法使いが口を開く。
濃い赤色のフードを深々と被った、女魔法使いは、杖でトントンと床を軽く叩きながら、俺を見る。
いや、目線で見られている俺には分かる。あれは、"見下されてる"。
「戦士なんて、剣や槍を振るうしかない脳筋じゃないのでして? そんな戦士が、上機嫌に"俺って、魔法が使えるんだぜっ!"とか言ってたら、魔法使いとしてはなんっつーか、あれよ? (笑)って感じなんで」
ぷーくすくす、と女魔法使いは、見ているこっちがイラッとする笑みを浮かべていた。
完全にバカにしてるよな、これは?!
「戦士が魔法なんて使える訳ないじゃない(笑) こんな酒場で、笑わせないでして(笑)」
「またっ!? また笑われたんだけど?! ユール、どう思う?!」
「おうおう、本当に落ち着けって」
えぇい! ユールはヘラヘラしてるだけで、頼りにならんっ!
こうなったら、ちゃんと証明しなければならないなっ!
ちゃんと使えば、俺が嘘を言ってないという事にもなるしなっ!
「よーしっ! ちゃんと見とけよ、女魔法使いめ!」
景気づけに、酒をいっぱい!
ぐびぐびっ、ぐびーっ!
「景気づけに酒を飲んでるのが、なんかさらに嘘っぽいような気がするんでして」
「あぁ、そこはまったくもって同意だなぁ~」
おっしゃぁ! 見とけよ、おらぁ!
なんか周りの観客も騒がしくなってきたし、ここはさっさと俺の力を見せつけてやろうじゃないか!
まずは、魔法の属性を決定っ!
「----【光属性】」
すると、俺の手の上が真っ白に色づく。
真っ白に色づくって言うか、白く光り輝いているっつーか!
「----【構築】、そして【固定】!」
単なる光に、俺は球の形に構築。そして、それを手の上で固定する。
「どうだ、見たかっ! これこそ俺の魔法、【聖光】ってやつだ!」
「「「おぉ~っ!」」」
どうだ、女魔法使い!
光の球で、洞窟を照らす魔法----俺の魔法だぁ!
これこそが、村の冒険者仲間から教わった魔法っ、洞窟を照らす【聖光】ってやsつだ!
うんうんっ! 聖なる光が、酒場を照らすぅ!
酒場の皆の、良い感じのどよめきが、響いてくるぜぇ!
「----はい、【聖光】でして」
「「「おぉ~っ!」」」
と、俺が酒場の空気を良い感じに温めていたのだが、それも女魔法使いが出した【聖光】によって、奪われたっ?!
「俺よりも、強い光をっ!」
「まっ、確かに魔法が使えるみたいですね。けれども、たかが【聖光】ごときで、三節----呪文を3つも使うほどですか(笑) 本物の、魔法使いが使う魔法っていうのは、【聖光】のような下級魔法なら呪文名を言うだけで済むし……」
「本物の魔法って言うのは----」と、女魔法使いはそう言うと、トンッと、杖で床を叩く。
酒場特有の木造の床を叩くと共に、彼女の足元に大きな魔方陣が生み出される。
「----【火焔を飲み込む】【龍は谷より出で】【大鳥のように空を飛び】【獣の仲間と共に敵を穿つ】っ!
喰らえ、赤の大魔法----【紅蓮の如く」
「止めんか、アホ冒険者が」
女魔法使いがなにやらスッゴイ魔法を発動しようとして、その頭をぽんっと、おっさんが頭を叩く。
恰幅の良いそのおっさんは、手に持った調理器具で音を鳴らしながら、俺達冒険者を威圧してくる。
「----てめぇら、俺の酒場で何を騒いでやがる? あんまり騒ぎすぎると、出禁にすんぞ、おらぁ?」
「「「ひっ、ひぃぃぃぃ!」」」
ひゅーっ!
さっきまで騒いでいた冒険者たちがそそくさと帰り支度を始めており、女魔法使いまでそそくさと帰ってしまっていたようである。
いつの間に、消えたんだ、あの魔法使い……。
----あの魔法使い、実は魔法使いなんかじゃなくて、忍者なんじゃないのか?
「おい、クリス! 早く逃げるぞ! マスターに捕まると、最悪、マジもんの出禁になるぞ!」
「あっ、あぁ……!」
ユールの言葉に促されて、俺も他の冒険者と同じように逃げ出していた。
入り口の扉を開けて、外を出ると、まだ外は薄暗く、夜の空に二つの月が淡く輝いていた。
けれども、俺の目には----あの時の、女魔法使いの出した【聖光】の光が目から離れない。
輝かしくて、どことなく神々しさも感じて、俺が必死に覚えた【聖光】なんかよりも、あいつが片手間で唱えた方のが凄くて----
「なぁ、ユール」
「んっ!? どうした、クリス! まだ後ろから、おっさんの怒号が聞こえるのか?」
夜道を2人で駆け出しつつ、俺はユールに告げた。
「俺、魔導の道を究めたいと思うんだ」




