世界初の二重召喚者~泉の女神から貰えた2つの召喚石から始める異世界無双~
なんか世代的なのを、作りたかったんです
「召喚、スライム!」
「はぁ……召喚、ドラゴンクイーン」
屋敷の庭で向かい合う相手は、妹だった。
彼女の持つ虹色の召喚石から光と共に、桃色の巨大なドラゴン。ドラゴン族の女王たるドラゴンクイーンが。
そして俺が持つくすんだ石からは光と共に、小さな水色のスライムが召喚される。
強靭な鱗と確かな戦闘力を誇るドラゴン、その中でも女王という地位を手に入れているドラゴンクイーン。
一方、物理無効だとか猛毒だとかスキルも一切ない、ただの粘体スライム。
力の差は歴然、いや召喚石の色だけ見ても、その差は歴然である。
「覚悟は良いですか、お兄様?」
普段は"お前"だとか、"あいつ"だとかしか呼ばない妹が、嘲笑と共にそう呼ぶ。
侮辱である。
あいつは、あの化け物は敬意だとか、そういうモノを一切、俺に対して持っていなかった。
だが、周囲の誰もそれを咎めない。
むしろ、妹と同じく、俺の方を蔑みの表情で見ていた。
「あなたが無様に負ければ、この家を出ていく」
無様に、の部分をやけに強調し、妹はドラゴンにブレスの指示を出す。
ドラゴンクイーンは大きく息を吸うと、そのまま待機。
こんな小物いつでも殺せる、主である妹にそう余裕の表情で、ドラゴンクイーンは次の指示を待っていた。
「そもそも我がアーバン家の、仮にも長男が、下民以下のくすんだ色の召喚石を持って生まれただなんて、恥知らずも良い事です。
----あなたは神に、女神様に愛されていない」
妹が手を振り下ろすと、ドラゴンクイーンが息を吐く。
たったそれだけで金色の神々しい光が世界を覆い、俺の召喚したスライムは、チリとなる。
「ふふっ、ありがとうね。ドラゴンクイーン」
妹が褒めると、喉を鳴らして嬉しさを表現するドラゴンクイーン。
周囲の人間も、彼女を褒めたたえる。
「素晴らしい、流石は選ばれた虹色の召喚石の持ち主様!」
「あのドラゴンクイーンさえいれば、我が屋敷は安泰だ!」
「凄い! 流石! 素晴らしい!」
一方、俺は見向きもされず、ただ先程より薄汚れた召喚石を睨みつける。
「さぁ、決着はつきました。もう、あなたはこの家の者ではない、下民以下のクソ人間。
とっとと、家から出ていきなっ!」
「そうだ、そうだ!」
「スライムしか出せない癖に!」
「身の程を弁えろ、このクソ野郎!」
妹の言葉を皮切りに、使用人達が俺を糾弾する。
次々と、言葉の暴力を加え、俺の居場所を奪っていく。
そして俺は、13年間いた家を追い出された。
☆ ★ ☆
----人種、またの名を【女神アレシア】の愛し子。
この世界----オリュリアにおいて人は、両親の愛と、そして女神アレシアの愛の証を受けて生まれてくる。
女神アレシアの愛の証、それこそが"召喚石"である。
赤子の手の平に、必ず1個、召喚石が握られている。
叩きつける事で神界から自分に付き従う召喚獣を召喚する、それこそが召喚石。
呼ばれるのは強靭な鱗を持つドラゴン、魔法の天才たる申し子の魔女、英雄の証を持つ騎士、神に従う天使、それに強力な力を持つ悪魔など、その力は凄まじい。
そう言ったものを、一気に戦力が変わる者達を呼びだせるのだ。
これが召喚を司る、女神アレシア様の恩恵と言わずに、なんだというのだろう。
ただし、必ずしも女神アレシアの恩恵は、絶対ではない。
ドラゴンとか英雄とか一発で軍隊を変えるレベルの召喚獣を呼べるのは金色の召喚石、なのだがそれを貰えるのは全人類の1パーセント以下。
妹が持っていた虹色の召喚石など、伝承レベルの超レアなものだ。
ほとんどの人間は銅色の召喚石、いわゆる普通レベルの召喚獣が呼び出される。
そうしてその召喚石から出した召喚獣でレベルを上げて、さらに上位の存在が召喚できるように目指す。
それがこの世界の人間の生き方だ。
そして、この召喚石は人間1人につき、必ず1つ。
召喚石は他の人から奪えず、ただ生まれ持った召喚石がその人の人生を左右する。
俺は、そんな女神様から、スライムしか呼びだせない屑石の召喚石しか貰えなかった哀れな元貴族って訳だ。
「(くそっ、腹が立ってきた)」
手にした召喚石を強く握りしめつつ、俺は野山を適当に進んでいた。
俺だって、努力した。
学習には人一倍取り組み、剣術や魔術なども相手を見返すレベルで、真面目に取り組んだ。
貴族の中には俺と同じように、生まれた時の石は銅レベルなどの低ランクでも、その後の激しい訓練や努力の結果、金色などの上位の召喚石まで成長させた者もいる。
俺はそういった英傑のような人生を目指し、人一倍、努力した。
しかし、真の才能の前には、全ては無意味だった。
生まれた時にスライムしか出せない屑石を持って生まれた男と、ドラゴンクイーンすら召喚できる虹色の召喚石の妹。
才能の、女神の愛の差は、歴然であった。
「なんだよ、ちくしょう! 生まれた時から全ては決まっているってのかよ!
女神様がくれる石が屑か、虹色かくらいで、人の人生が決まってたまるか!」
口にしながらも、それがこの世界の真理だってことは、俺も分かっていた。
低ランクの石を最上位の石へと成長させた、そういった者もいる。
ただし、それは親が子供に読み聞かせる類の、夢物語だ。
俺自身がどれだけ頑張っても、屑石は屑石のままだった。
低ランクはどんなに頑張っても、しょせんは低ランク。
生まれ持った女神の愛が、この世界の全てだ。
「だもって、ちくしょぉぉぉ!」
-----ばんっ!
俺はやり場のない怒りを、空に向かって投げる。
----つるんっ!
「なっ……!」
その拍子に、俺が強く握りしめていたはずの拳から、逃げるように俺の召喚石が手から離れて、空へと飛んでいく。
「(まずいっ……!)」
俺は慌てて、石を追う。
スライムしか出せない屑石だとしても、あれが俺の、俺が持つ唯一の持ち物だ。
あんな石でも、俺にとっては大切なっ!
「召喚石……!」
ころころっ、と空から落ちた石は地面を転がり、そのまま勢いよく坂を滑っていく。
俺が追いつくよりも速く、召喚石は坂を転がり落ち、そして----
----ぽちゃんっ!
泉の中へと落ちた。
「なんてこった……!」
小さな泉くらいの大きさだが、あんな色もくすんだ石を水の底から引き上げるなんて、出来るのだろうか。いや、出来ないだろう。
「終わった……」
家を追い出され、召喚石も水の底……。
このまま俺は、なにも出来ず、ただ死んでいく……。
諦め、涙を流しながら、地面に膝を付けたその時である。
「なっ、なんだっ?!」
いきなり泉の中から、眩しい光が溢れる。
目がくらむような光の中から、神々しい光を纏う美しい女性が現れた。
【あなたが落としたのは、この金色の召喚石ですか?】
透き通った水のように綺麗な肌の女は、俺に金色の召喚石を差し出す。
【それとも、この銀色の召喚石ですか?】
雨上がりの虹のように美しい瞳の女は、もう片方の手にある銀色の召喚石を見せる。
【もしくは、このくすんだ色の召喚石ですか?】
そして、銀色の召喚石の横には、俺が13年間の間、欠かさず持っていたあの石の姿もあった。
「そっ、それです! そのくすんだのが、俺の召喚石ですっ!」
正直なところ、金色の召喚石も、それから銀色の召喚石も魅力的だ。
だけど、この世界には"生まれ持った召喚石しか使えない"という制限がある。
他人のを貰ったところで、使えないのでは意味がない。
【あなたは正直な方ですね】
美しいその女は、ニコリと、あのクソ妹とは比べるのもおこがましいような、全てを尊ぶ慈愛の笑みを浮かべていた。
【けれども、あの娘はそんなあなたに十分な愛情を与えなかったようです。妹に代わり、深くお詫びします】
そして俺の手に召喚石を----俺が使えない金色と、銀色の召喚石を置く。
「えっ?!」
【安心してください、その召喚石は他の誰のものでもありません。あなた自身の召喚石。
あなたの旅に、少しでも役立つことを願い、私からあなたへ差し上げます】
----だから、どうか泣かないでください。
彼女はそう言って、泉から消えた。
俺の手に、金色の召喚石と銀色の召喚石の、2つの召喚石を残して。
「……なんだってんだよ、ちくしょう。俺の召喚石は、そっちのだって言ったじゃねぇか。
使えない石なんか貰っても、意味ねぇんだよ」
"こんなもんっ!"と、俺はその2つの召喚石を地面へと叩きつける。
ちょっとしたうっぷん晴らし、そのつもりだった。
しかし叩きつけられた2つの召喚石は割れ、中から光を放つ。
まるで召喚----!?
「初めまして、ご主人様。今日この時より、私がご主人様を災厄からお守りします」
「ちゃお、マスター。まっ、とりあえずあんたは、この私の下僕として、守ってやんから、安心しな」
白い翼の天使に、黒い翼の悪魔。
敬愛の表情を見せる天使と、部下へのからかいの情を見せる悪魔。
対極に位置する2体の召喚獣を前に、俺は困惑する。
「ご主人様、よろしければお名前をお伺いしても?」
「あっ、ついでに私達の名づけもよろしくねー。マスター」
2体の召喚獣は、そう言いながら、僕の手を取る。
天使はうやうやしく、大事な物を扱うように俺の右手を。
悪魔は軽薄そうに、馴れ馴れしさを出しながら、俺の左手を。
スライムしか出せない屑石の召喚石を持っていた俺にとって、そんな風に手を取ってくれるのは、ほとんど初めての経験で。
だから、俺はそんな温かい手を握られながら。
「俺の名前は、リーサル」
うれし涙を流しながら、そう名乗っていた。
こうして俺は、世界で初めて、2つの召喚石から召喚獣を召喚できる、【二重召喚者】となったのである。




