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アイデア投稿作品群  作者: アッキ@瓶の蓋。


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魔眼の村人は、英雄を熱望する

書いている内に、頭が痛くなってきた…

 ----その村人は、村で一番、賢い子供であった。

 言葉を話すのは誰よりも早く、学習意欲も高く、多くの他の子供達に字や物を教えるほどの知識もあった。


 ‐‐‐‐その村人は、村で一番、たくましい子供であった。

 熊などの人を襲う危険な動物がいれば、自らが他の子供達の盾となり、同時に彼らから障害を退ける剣でもあった。


 ‐‐‐‐その村人は、村で一番、魔導に秀でた子供であった。

 才能がなければ発現すらできない魔法を、誰も教える者がいない中で自力で学習して発現させた、才能のある子供であった。


 誰もが言った、この子供は神童だと。

 誰もが言った、この子供は英雄になる者だと。

 誰もが言った、この子供は村一番の子供だと。


 そうして、村一番の子供である【レルグス・ドゥーエ】は、王都にある騎士学校へと旅立った。

 村以上に求められる知識も、求められる武術も、求められる魔導も、遥かに高い、全てが段違いな王都へと。


 今以上に成長した姿を、成功した姿で、故郷へ戻るのを夢見て。



 王都の中心にそびえたつ王家が住まう大きなお城、チューブル城。

 その王都がある通りから3つほど通りを挟んだ先に、人材の斡旋派遣業者。もとい、冒険者ギルドの存在があった。


 街を襲う魔物の討伐から、下水道掃除まで。

 ちゃんとしたお金さえ貰えるのならば、どのような依頼であろうとも行う冒険者達が集う場所、それが冒険者ギルドである。


「ひゃっはああああ!」

「今日もぜっこうちょぉ! 祝いだ、祝いだぁ!」

「酒だ、酒を持ってこぉい!」


 今日も今日とて、冒険者ギルドは騒がしい。

 冒険者というのは、基本的には大金を求めて、夢を見て、危険を愛する生き物だ。そして基本的に騒がしい生き物だ。

 そんな冒険者達が10人、20人と集まっているのだ。騒々しいのは当然だろう。


 酒場も併設されている冒険者ギルドの中では、いつも酒を飲んで騒がしく騒ぎ立てる、冒険者達のたまり場となっていた。


「ひっく……ひっく、ひっく」


 そんな騒がしい冒険者ギルドの中で、一角だけ。

 暗い悲壮感を漂わせて、寂しく酒を飲む1人の青年の姿があった。


 真っ白なマントを羽織った、オークを思わせるようなかなり大柄な青年。

 顔立ちは端正というよりかは芋臭さがにじみ出ており、貴族様というよりかは、綺麗な服を着させられている平民、といった所だろうか。

 敢えて特徴があるとするならばだが、左眼が"魔眼"である事だろうか。


 魔眼とは、人とは違うモノが見える瞳。一種の才能の象徴である。

 魔眼を一目で見分ける術として、魔眼は瞳の上に紋様が現れている事である。

 そしてこの大柄な青年の左眼にもまた、浄化の神である浄化神エルフォールに由来する泉の紋様が浮かんでいた。


 そんな彼こそが、10年前に辺境の村であるクリシテア村から騎士学校へと旅立った少年、レルグス・ドゥーエ、その人である。


 王都に騎士になるために向かった彼が、なんで冒険者ギルドに居るのかと言えば、単純な話だ。

 彼が騎士学校で落ちぶれて冒険者となった、ただそれだけの話なのである。


 彼は確かに村で一番の男であった。知力、体力、魔導‐‐‐‐その全てが生まれ育った村で一番の成績。

 ただそれも王都で知る人も少ない、クリシテア村での話。自分以外に子供が10人程度しかいない、辺境の村での話である。

 村で一番の子供だとしても、色々な村から優秀な生徒が集まる王都の前では、ただ世界を知らないだけの子供に過ぎなかった。


 勿論、彼は一番になれなかった。彼は村では一番だった、けれども上には上がいた。それだけの話。

 下から数えた方が早い順位ではあったのだが、辺境の、学習がまだ整っていない地域の出からしてみれば、悪くない順位であった。

 けれども、1位であるという快感を知るレルグスには受け入れられなかった。


 努力した、他の者に教えも請うた、睡眠時間や休憩時間など削れるものは可能な限り削った。

 それでも1位にはなれなかった、平凡な成績しか取れなかった。


 5年かけて13歳となり、他の生徒達と同じように卒業したレルグスではあったが、彼に故郷へ戻るという選択肢はなかった。出来なかった。

 何故ならば、彼自身が納得していないからである。


 彼は1位であることを誇りに生きてきた、故に故郷に戻るにはそれだけ近い"なにか"が必要であった。

 《故郷に錦を飾る》などという、出世して栄誉と共に故郷に戻るなどという言葉があるのだが、世の中には、《故郷へ戻るには栄誉がないとならない》、そう考える人がいるのである。

 レルグスもまた、そういう人物だった。

 騎士学校を1位で卒業できなかった彼に、懐かしの故郷へ戻るという選択肢はなかった。


 彼は自身の納得する道を探り、冒険者の道を志した。

 騎士団で栄誉を上げるには、実力云々よりも貴族との繋がり(コネ)や年功序列制度の改定などが必要となっており、たかが13歳の子供が成り上がるには難しすぎるモノだった。


 それに比べれば、冒険者の道の方が、まだ可能性があった。

 騎士団に所属して栄光を手にするよりかは、ドラゴンや魔神の軍勢を倒す方が遥かに楽である。

 どちらも栄えある栄光にこそ違いないが、どちらかと言えば冒険者の方が可能性があった。


 こうして、彼は冒険者となった。

 ゴブリン退治やドブさらいなどは騎士学校に居た頃から習っていた事なので、別に問題はなかった。

 1年かそこらでDランク‐‐‐‐一般的な冒険者のランクになった彼は、栄光を手にするために、ドラゴンなどの自分よりも格上の魔物に狙いを定めた。


 そして、現在18歳。冒険者になって5年目。

 未だに、彼は故郷へ戻れずにいた。


「うぅ……ちくしょぉぉ……」


 魔眼持ちは、基本的には強力な存在とされる。

 目から大軍を焼き払う火炎の術を用いたり、あるいは大きな敵の動きを石化によって止めるなど、魔眼を持つ者の能力の高さは、言うまでもない。

 だが、どんな者にも強きモノと弱きモノが存在するように、レルグスが持つ魔眼は弱きモノに分類された。


 "見たモノの汚れを綺麗にする魔眼"。


 それがレルグスが持つ、浄化の魔眼の力である。

 家事手伝いにおいては便利かもしれないが、生憎と戦闘で直接役立つような魔眼ではないことは明らかだ。


 18歳という歳でCランク‐‐‐‐中堅クラスの冒険者である事は、普通に考えれば自慢しても良いくらいだが、世の中には僅か1年で最上級のSランク冒険者になる者が居るのを考えると、どうしても見劣りしてしまう。


 彼にとって必要なのは栄誉である、名誉である、名声である。

 順風満帆で、危険がない人生など求めていない。

 彼が必要としているのは、伝説に語り継げるような、そのような行為のみである。


「ほら、ご主人様。いつまで唸っているのですか、みっともない」


 そう言って、この楽し気で騒がしい場で、ただ1人。悲壮感を前面に出してまき散らす彼の前に、1人の少女が現れる。


 ----綺麗な少女である。

 銀色に光る髪は(まばや)いばかりに光り輝き、大男レルグスの手よりも小さくて可愛らしい顔。

 細長い耳とエルフ族特有の木々や葉っぱで作られた民族衣装、それが彼女、【エーナ・タル】がエルフ族である事を、長命にして魔導に秀でた種族である印でもある。


 首に奴隷の証でもある黒の首輪を付けている彼女は、レルグスが3年前に購入した奴隷である。

 エルフ族の、亡き国の姫であったエーナを、レルグスが浄化の魔眼による浄化技術の産物もあって、相場よりかなり安めに手にいれた。

 なんで購入したかと言われれば、その方が英雄っぽかった。それだけに尽きる。


 今ではこうして酒を飲む主を心配する、献身的なパーティーメンバーである。


「ほら、帰りますよ。明日は護衛任務が入っているんですからね。ご主人様の大好きな、名誉とかがいっぱい手に入りそうな、大司教様からの護衛任務が」

「うるせぇ! 俺はな、エーナ! 英雄になりたいんだ! そして故郷に帰りたいんだよ!」

「なら、帰れば良いじゃないですか。私とは違って、ご主人様が国に帰れない理由は、そのちっぽけなプライドのせいだという事は、ちゃんと理解してますか?」


 「分かったのなら帰りますよ」と言いつつ、彼女はレルグスの目の前に鏡を置く。

 鏡に映る平凡そうな、優し気な顔立ちの彼の瞳が一瞬光り輝くと共に、レルグスに残っていた酒乱の精が即座に消え失せる。

 浄化の魔眼、持ち主の状態異常を瞬時に治すこの魔眼の前では、二日酔いで眠りこけることも許されない。


「(この魔眼が、浄化ではなく、戦闘に直接役立つモノだったらどんなに良かったことか。どんなに、故郷へ戻れる時間が短くて済んだことか)」


 酒乱の精が消えても、眠気は身体にゆっくりと襲い掛かってくる。

 自分の半分くらいしかないエーナの背中のぬくもりを感じつつ、レルグスはそんな事を考えながら、ゆっくりとまぶたを閉じるのであった。



 次の日、眠気もすっかりと消え失せたレルグスは、即座に支度に取り掛かった。

 1分でも遅れる訳にはいかない、なにせ相手はこの国で一、二を争う権力者‐‐‐‐国一番の教会、聖堂教会の大司教様からの依頼なのだから。


 聖堂教会‐‐‐‐それは人々が神を信じる、その救済信仰の要となる聖なる教会。

 聖女とそれに付き従う大司教達からの教えを受けて、人々に安らぎと救済を与える、聖なる使者が住まう場所----その本部がここ、王都にある聖堂教会なのである。

 この度の依頼は、その聖堂教会にいる10人いるとされている大司教の1人である【ヤシサイ・キラヨカ】大司教からの直々の、護衛依頼である。


 報酬もそうなのだが、それ以上に手に入る名声を考えれば、興奮しない訳がなかった。


「良いか、エーナ! 今回の依頼は、あの大司教の1人であるヤシサイ大司教様直々の依頼! この依頼の成功が、俺達のパーティーの明日に、将来にかかっている! 失敗は許されないんだ!」


 張りきった様子で、堂々と演説するレルグス。その瞳からは栄光への熱い欲求がにじみ出ており、それを近くで嫌というほど知っているエーナは、主の言葉をちゃんと理解していた。

 ただ問題があるとすれば……と、エーナは主の顔をしっかりと見つめる。


「主、1つだけ問題があります」

「エーナ、それはなんだ?」

「それは私達の問題です」


 と、彼女は護衛すべき団体、ヤシサイ大司教が連れてきた団体を見て、自分達のパーティーを見る。


「ヤシサイ大司教が連れてきたのは、馬車1台分。しかもヤシサイ大司教が連れて来たのですから、かなりお偉い身分のお方だと思われます」

「当然だな! だからこそ、失敗できない重大任務、なのだから!」

「えぇ、それは分かっております。ですが……私達は、2人なのですよ?」


 「守り切れますか?」と、エーナは主にそう問うた。


 基本的には、護衛任務とは主を危険に晒さないのを前提とした、守護の依頼だ。お守りだ。

 そしてメンバーは護衛対象から目を離さない人物が1人、そして前に出て護衛対象を狙う者達を排除するのが数名……普通にいけば10人規模で行うような仕事。

 それをたった2人ぽっちなんかで、行おうというのだ。

 馬鹿でなければ、なんだというのだ。という話である。


「問題はない、エーナ。なにせ今回の依頼の護衛対象は、あんな馬車で収まるような人ではない。だから2人という、通常より少ない人数であっても全く、支障はない」

「そう、なのですか……?」


 エーナが信じられないという顔で見ていたが、そんな顔もすぐに真面目な顔に戻していた。

 依頼人のご到着----彼らの元に、ヤシサイ大司教が現れたからである。


「おやおや、まぁまぁ。もう話をしても、よろしいのでございますでしょうか?」


 そうして現れたのは、優しい顔をした60歳くらいのお祖父さん司教である。

 ニンマリと浮かべた微笑みの笑顔を張り付け、大司教しか身につける事を許されていない金色のラインが入った赤の司教服を着た、人の好さそうな大司教。


 10人いるとされている大司教の1人、ヤシサイ大司教その人である。


「えぇ、大丈夫でございますよ。依頼人であらせられる、ヤシサイ大司教様」

「それは、それは。よろしくお願いします、冒険者様。しかして、そこのエルフの彼女----」


 と、大司教はエルフであるエーナ……正確には彼女が首につけている奴隷の証たる首輪に目を向ける。


「----見たところ、奴隷であるとお見受けする。どうでしょうか、我が聖堂教会の解放の儀にて、奴隷解錠の儀を無料で執り行いますが?」

「それは単に、彼女を奴隷から解放しろ、と。大金をはたいた彼女を、無料で解放しろ。そうおっしゃってるので?」


 レルグスがそう問うと、「それが神の思し召しなれば」とすんなり答える。

 

 彼の頭にあるのは、単なる救済。それだけだ。

 奴隷への嫌悪感とか差別感とかは一切なく、ただ単に捕らわれている者が居るから助けを与えようとする。

 ただ彼は優しい、そういう人間なのだ。


「----遠慮しておきます、ヤシサイ大司教様」

「おぉ、奴隷である彼女がそうおっしゃるのであれば。わたくしが、手を出す事はありませんな」


 だからこそ、助けを求める彼女が要らないと言えば、すぐに引き下がった。

 それがヤシサイ・キラヨカ大司教なのだから。


「では、冒険者レルグス殿。再度、依頼の確認をしてよろしいかな?

 なにせ、わたくしはこのように冒険者様に依頼するなんて、生まれてこの方、初めての経験ゆえ、過程が分かりません故」

「えぇ、良いでしょう」


 一方で、レルグスは、最上位の敬礼を披露する。

 英雄に憧れすぎてそういう知識ばかり増えている。それがレルグス・ドゥーエという冒険者なのだから。


「此度の依頼、ギルドからは"令嬢1人を隣町にある泉へと連れていく"とありましたが、それでよろしいでしょうか?」

「えぇ、そうです。それでよろしいです。そしてこの度、護衛してもらうご令嬢様が----」


 ヤシサイ大司教が、その令嬢の名を言おうとしたその時だった。


 どんっ!


 大きな音と共に、馬車が----護衛対象である令嬢が乗っているとされる、金色のラインが入った特注馬車の扉が蹴破られた。


「あーぁ、またしても、ですか」


 やれやれ、と初めて笑顔だけだったヤシサイ大司教の顔が崩れたのと同じく、特注馬車から1人の少女が降りてくる。


「まだ、ですか! ヤシサイ! このわたくしを待たせるだなんて……俗にいう『ふるざけなっ!』ですよ!」


 馬車から降りてきたのは、赤色のオーラを纏った少女である。

 くるくるとウエーブがかった金色の髪をポニーテールで際立たせ、スタイルの良さを強調するかのごとくきつめのコルセットを巻いたと思われるボディラインをスラっと見せるドレス姿。

 赤いハイヒールをカツカツと、大きく音を鳴らしながら現れた彼女は、リンっとした表情で冒険者であるレルグスとエーナの2名を見ていた。


「あなた達が、ヤシサイが用意した……俗にいう『にかくべ』という奴、ですよね?

 初めまして! このわたくしこそ、後に聖女となって皆を導く者。その名も【エーファ・トル・アデルラバン】様よ! この名は覚えておくと良いわ、なにせ後に偉人として伝説になるのだから!」

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