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Road to Lord with Demon King~魔王とともに始める、魔王への道~

こういう類の、魔王を目指す系の作品を書きたいと思いつつ

ネタとして置いておこう

 人間は、楽をしたい生き物なんだ。

 出来る限り、全力なんかを出さず、ただそれでも高い報酬を貰いたい。

 そういう自堕落で、自分勝手な生き物なんだ。


 ‐‐‐‐だから人間は、悪魔に(たぶら)かされる。


 努力をせずに、気楽に。

 奮闘せずに、のんびりと。

 汗水かかずに、ゆったりと。


 そういう風に、出来る限り楽をしたいと思うのが、現代的な人間と言う者だ。


 一昔前の少年漫画での主人公のような、周りが同じように頑張りたいと思ってしまうような、熱血野郎。

 そんなのは、今の時代、流行らない。

 ただただ、今の時代ですと、どれだけ楽が出来れば良いかという、そういう思考の方が主流だ。


 少なくとも僕は、【六道七枝(りくどうななえ)】は、そういう風に人生を生きたい高校生である。


 ----さて、そんな僕が、楽をして稼ぎたい僕が、2年もの間続けている仕事(バイト)とは何か。


 それは、ダンジョン探索である。



 ダンジョンと聞くと、ファンタジーのみの領分かと思っている人は、あまり居ないだろう。

 なにせ、日本各地どころか、世界中の至る所にて、謎の地下迷宮。

 ダンジョンが、"発生"している現代においては、あまり珍しくもない。


 中にはゴブリンとかファンタジー作品で良く見る魔物、それに人類史をかえるような魔法のように思えるような宝物。

 それにダンジョン内ではステータス、レベルなどといったモノまで。

 本当に、陳腐な言葉で言うとするならば、"ファンタジーが日本にやって来た"、みたいな。


 何故、発生したのか?

 何故、世界各地に生まれるのか?

 何故、それが急に現れたのか?


 色々と気になるところは山ほどあるんだけれども、そういうのを調べるのはお偉い学者先生とかの仕事である。

 僕達がその原因を調べるべきではない。というか、調べて分かる事ではないだろう。


 大切なのは、そういうダンジョンで手に入るモノは、高額で売れるという事。


 色々な仕事の事情を調べている僕だからこそ分かる、この仕事は他よりも"稼げる"。

 スライム1匹倒すだけでも千円、ゴブリンとかでも上手くいけば2千円。さらに宝箱で良いのが手に入れば、1日で3万円くらい設けられる。

 命こそ賭けているんだから、報酬としては十分に美味しい、バイトである。


 日本の、一介の男子高校生がやるバイトとしては、美味しいのは事実だろう。

 学校終わりの放課後に2、3時間で平均として6~8万円としたら、結構良い感じだろう。



「よしっ、こんなもん。かな?」


 とは言え、命を賭けるなんてのは、僕からして見れば、はなはだ可笑しな話。

 僕は命の危険なんてない、初心者向けダンジョンの、その中でもさらに序盤である2階層----全部で10階層あるダンジョン‐‐‐‐で、まるで流れ作業でも行っている形で、モンスターを倒している。


 今日も、僕はいつものようにモンスターを倒していた。

 スライムを持ってきた棍棒でぶっ倒し、ゴブリンの頭を風船を破裂させるかのようにぶっ潰して、そのモンスターの心臓代わりな魔石を回収していく。

 この魔石は、僕達、冒険者の稼ぎの源である。

 この小さな石なんかで、電気よりも効率よく、エネルギーを出せるのだから。

 魔石の大きさだとか、質なんかで、今日の稼ぎが決まるのだから。

 とりあえず魔石を、袋に入れる。大事な稼ぎである、しっかりと回収しておかないと。


「今日の回収分から考えれば……多分、10万くらい?」


 いつもより調子が良く、その上、ゴブリン達がいつもよりかは弱かった。

 それなので、いつもよりかは安心してダンジョン探索をすることが出来た。


 だけれども、これ以上は袋の中に入りきらない。

 この辺が限界、って所だろう。


「しっかし、今日のゴブリン達は、なんか変だったな」


 いつもより強いという訳ではない、むしろいつもより弱かった。

 身体が阻害される感じの不格好な鎧を身につけており、そのおかげで動きがいつもよりも鈍くて、倒しやすかったんだ。

 勿論、鎧を身につけているので、いつものように全身を狙ったりではなく、頭だけだったのがほんの少しだけ面倒だったけれども。

 ただ、それだけ、という事である。


 いつもとは違う、ゴブリン達に対して、なにか変だった。

 その原因は未だに分かっていないが、どうでも良いだろう。

 今回だけならそれで済むし、次回も続くなら同じ戦法でやれば良いだろう。


「さて、じゃあ帰るとしますか。本日は大量、大量。

 バイト代としては、期待できますな」


 そんな事を思いつつ、僕は袋を背負い直して、そのままくるりと入り口の方へと方向転換して‐‐‐‐


【ほほう、見所がある若者だな、お主】


 ‐‐‐‐いきなり、目の前に王冠を被った龍……"っぽいの"が現れた。 


「うわわっ!?」


 僕は、いきなり現れたその龍にビビっていた。

 だって龍だよ、龍。ぶっちゃけ、ちょっとばかり漏らしたかも。

 だって2年以上、ダンジョンの中でゴブリンやスライムなどを狩り続けてはいたのだけれども、それでも龍なんかに出会った事なんてない。初めてだ。

 

【クパーパパパ! なんじゃい、なんじゃい。

 我様が用意したゴブリン共相手にあそこまで淡々と倒していた男が、我様の姿を見てビビっているとは。まったく、度胸があるのか、単に馬鹿なのか、分からなくなってくるわい】


「いや、えっと……なにせ、龍? か、どうかも分からないので」


 僕の目の前にいるのは、龍、だ。正確には龍、に似たなにかである。

 龍の尻尾を生やした、可愛らしい女の子。しかも半透明な幽霊で、瞳の色が金色と銀色と、左右で違うというオッドアイ。

 すっごい、色々な要素がてんこもりで、盛り沢山な輩。


 ……何と言うか、設定過多とはこういう事を言うんだろうなという、お手本みたいな少女である。


「(けれども、この龍っぽい幽霊少女はなんでいきなり出てきた? この少女はなんで出てきた?)」


 僕こと六道七枝は、基本的に事なかれ主義だ。

 大抵の場合において、"終わり良ければ総て良し"みたいな体制(スタンス)で動いているんだ。

 だからこういう、良く分からないモノは、対策出来てないから嫌いなんだ。どうすれば良いか分からないから苦手なんだ。


【クパーパパパ! 混乱しておるようじゃのう、若いの。

 無理もあるまい。我様の可憐で、優美で、美しい、この我様の姿を見たなら、そういう反応になるのも無理からぬこと。そうじゃ、そういう物なんじゃて】


 なんか、目の前の幽霊龍少女……長いんで、女幽霊で良いや。

 女幽霊は1人で納得して、1人で自身に酔いしれている様子。……マジでなんなんだ、この女幽霊。


「で、僕はこのまま帰って良い……んですかね?」


【ふむ、それはいかん。それは我様にとっても望むべきところではあるまいて】


 女幽霊はと言うと、【困る、困るなぁ】としきりに、何度も繰り返すが、僕からすると怖さでしかないのだが。


 と言うよりも、早く帰りたい。

 帰って、お金を貰いたい。

 そのお金で、悠々自堕落に、生きていきたい。


 そういう考えの持ち主だからこそ、ダンジョンの浅い階層で潜っているのだから。

 安全第一に、ダンジョンで稼がせていただいているんだから。


【我様はお主に用がある、よって帰すわけにはいかないのじゃ。

 さて、とりあえず、名を聞こう。一応、礼儀として先に名乗らせてもらうと、我様の名前は【フォース】。

 お主らの世界の言葉で言えば、『力』を冠する名を持つ、偉大なる魔王なるぞ!】


 どやさっ、とドヤ顔を披露する女幽霊。いや、魔王フォース、だったか?


「(魔王かどうかは分からないが、どことなく偉そうだな……)」


【で、お主の名は? こちらは名乗ったのだ、お主も名乗りたまえ】


 早くしろ、と魔王フォースは偉そうにそう宣言していた。

 僕は勢いばかりある、魔王フォースの迫力にちょっとだけ気圧されつつ、僕は自分の名前‐‐‐‐六道七枝という、親から貰った名前を名乗る。


【ふむ、リクドー・ナナエ、とな。異界の者の名は、ちっとばかり難しいな。

 とりあえず、リクドーよ。お主に1つ、問いたいことがある】


 ごほんっ、と偉く、もったいぶった言い方をする魔王フォース。

 僕としては今すぐにでも帰りたいところなので、話があるのだったら早めに終わらせて、いただきたいもの……なんだが。


 そして、ようやく魔王フォースは、僕に向かって、こう問うた。


【リクドーよ、お主‐‐‐‐我様と共に、魔王を目指す気はあるか?】



「ふふっ、12万円かぁ。だいぶ、高額で売れたなぁ」


 家として借りている、アパートの1室にて、僕は今日の稼ぎを見てほくそ笑む。


 1回の冒険で、12万円の収入と言うのは、僕の中では最高額の収入である。

 どうも今回、冒険で集めた魔石はいつもよりも質が良かったらしく、いつもより量を集めていたのもあって、僕の中では最高額の収入を手にいれた、という事である。

 実に、実に素晴らしい。今日は、僕のダンジョンでのバイト生活、始まって以来の高収入である。


 この借りているアパートは、郊外都市である【桜木市】の中でもとりわけ安いアパート。

 この郊外都市のアパート帯の平均家賃相場は8万前後なのだが、僕が借りているアパートの家賃はおよそ6万くらい。

 床や壁などには全くもって問題ないのだが、窓がないだけでここまで安くなるので掘り出し物である。

 今日の稼ぎだけで、2か月分稼げたという訳だ。


 本当に、今日は素晴らしいダンジョンのバイト生活だった。


【……おい、リクドー。流石にここまで無視されると、我様も悲しくなってしまうぞ?】


 ‐‐‐‐失礼。ダンジョンの稼ぎは、最高の日だ。けれども攻略内容については、最悪といって良い。

 何故ならば、こんな自称魔王とやらが、家にまでついてきたのだから。


「どうして、一緒についてくるのかな? 僕はあの時、断ったと思うんだけど。

 "すいませんが、興味がないので他の方にしてください。さようなら"と」


【そうじゃのう。我様の崇高なる提案を、我様の高貴なる出で立ちに惑わされず、バッサリと、だったのう。

 しかし、言うたはずじゃ。我様を"視れる"のはどうやらお主だけ、故にお主に憑りつかせて貰う、と】


 魔王フォースは、自分が言っていることが正しい。そうとでも言いたげに、自信満々だった。

 僕はこの魔王なんかに用はないし、出来れば帰って欲しかった。なのに幽霊だからかこちらからは触ることが出来ず、言葉は耳を塞いだとしても入ってくる。

 しかも何故かダンジョンの外に出ても、こうしてついて来ている。

 ……化け物、としか思えない。むしろ呪われた装備とか、そういう類ではないだろうか。


【しかし、いきなり急すぎたのは事実。それは謝ろう。

 という訳で、まずは我様のことについて、話してやろうではないか!

 なに、遠慮する必要はない! これが我様なりの、"気遣い"という奴なのだからな!】


 全然、嬉しくない。

 正直、止めて欲しい。

 けれども話を止める気は、全然見られない。

 という訳で、まったく、全然、これっぽちも興味がないのだが、僕は仕方なく、魔王フォースの話を聞くしかなかった。


 魔王フォースが言うには、彼女は別世界の魔王‐‐‐‐魔物達を率いる、王様だったらしい。あくまでも彼女の言うことが正しいとしたら、だ。

 彼女は魔物達を率いて魔王として君臨していたのだが、ある時、魔王を倒すために勇者がやって来た。

 勇者がなんで魔王を倒しに来たのか。そう聞くと、"勇者だから"などと良く分からない理由が返ってきた。

 勇者だから魔王を倒しに来た、だなんて、変な話もあったモノである。


【我様は勇者に殺された、だが自身の肉体と魂を分離した。今の我様は肉体と分離した状態、という訳だ。

 ‐‐‐‐そして、変異を迎えた。いきなり世界に大きな穴が生まれ、それに飲み込まれ、気付いたらお主の前、じゃ】


「ダンジョンに、居てた……と言う訳か」


 どうも、彼女の話が本当だとすると、僕が潜っているダンジョンは、まったくのゼロから生み出されたという訳ではなく、彼女の世界が流れ込んでいる、という事なのだろうか。

 勿論、今の話が幽霊女の妄言、だという話もあるのかもしれないのだから。


「だいたいの話は、理解した。うん、良く分かった。納得は完全には、出来てないけど」


【うむ、我様の話をいきなり全てを納得して貰うとは思ってない。とりあえず、我様があのダンジョンに居た理由を納得してもらえればそれで良い。

 そして、あのダンジョンを通る人共。そのうち、我様の姿を見れた者、それがお主じゃ】


「それで、こちらは何度も嫌がっているのについて来た、と言うのもなんとなく理解できた」


 話は理解できたのだけれども、こちらは最悪だ。

 なんで僕が、面倒なこの女魔王の相手をしなければならないんだ。


 ----僕は楽して金を貰いたい、それだけなのだから。


「だいたいの事情は理解できた、納得できないのは‐‐‐‐なんで僕が、魔王にならなくてはならない?」


 彼女はあの時、確かにそう言った。

 自分と一緒になって、魔王を目指さないか、って。


【‐‐‐‐ふむ、その事について、か。それは簡単なことだ。

 お主の目的は、楽をして稼ぎたい。そして我様の目的は、前の世界と同じく魔王になる事。

 魔王になればさらに強き王となる。そうすれば今よりももっと金を稼げる場所にいける、つまりはさらに稼げるようになる。勿論、魔王ならば魔物を使い、単純に数が増えるのだから楽が出来る。つまりはお主の目的と我様の目的、この2つの目的は両立できるのだ】


 そう言いつつ、魔王フォースは指を1本立てて、自身の右の瞳‐‐‐‐金色に光り輝く瞳を見せつけていた。


【とりあえず、我様の力を見せよう。我様と正式に手を組むのは、それからでも良かろう。お前の今日の稼ぎ----確か12万、だったか。次の冒険とやらで、その金額とやらを軽々と越えて見せよう。

 魔王との取引だ、それくらいで良いだろう。どうだ、金の亡者よ。この賭けに乗るか?】


 魔王フォースの傲慢さを感じるその取引に対して、僕の答えは決まっていた。


「良いでしょう。その賭けに乗ります」


 僕は、魔王フォースの賭けに乗ることにした。


 なにせ、こちらが失うものはなにもないのだから。

 もしも今以上の収入が得られるのならば嬉しい事で、もしダメだったらそれで付き纏うのを止めてもらう良い交渉材料となる。

 どちらに転んだとしても、僕には嬉しい事しかない。


【‐‐‐‐魔王フォース、しかと我様のこの耳に聞いたぞ。

 その言葉、違えるでないぞ? 次の冒険にて、収入が12万とやらより上だった時、我様と手を組め。それが我様からそなたに望む条件、なのだから】


 ニヤリと笑う魔王フォースのもう一方の左の瞳----銀色に光り輝く瞳が、妖しく光り輝いていた。



 次の日の放課後、僕は試験をするため、ダンジョンに潜っていた。

 試験内容とは勿論、魔王フォースと言う謎の幽霊から逃れるための未練を晴らす、もとい金稼ぎである。


「しっかし、まさか【獣の血穴】に入ろうだなんて言い出すとは……。

 このダンジョンの存在を、どこで知ったんだ?」


 魔王フォースが昨日の収入を越えるために、と言って僕に指示したのがここ、【獣の血穴】。

 昨日の初心者向けダンジョンとは違う場所だが、ここもまた、冒険初心者向けのダンジョンの1つである。まぁ、この第1階層なら、そこまで昨日と魔物達の強さも変わらないが。


 僕が驚いたのは、魔王フォースがこのダンジョンの存在を知っていた事、だ。

 てっきり、昨日と同じダンジョンで、その力を見せつけるなりなんなりするのかと思っていたばっかりに、まさか別のダンジョンに潜らされるだなんて、そんな知恵があるとは、思いもしなかった。

 と言うか、どこで知ったのだろうか? このダンジョンの存在を。


【クパーパパパ! なに、別に難しい事でもあるまいて】


 魔王フォースは、昨日と同じような傲岸不遜を絵にかいたような得意げな顔で、高笑いを浮かべながら説明する。


【昨日、お主は我様を連れて、ギルドなる場所に行ったじゃろうが。魔石と金銭との取引のために】


「確かに……」


 ギルドは、僕達冒険者を管理する組織である。

 クエストがあったりとか、まぁ、この辺もゲームとかとほぼほぼ一緒なんだけど。


 それはさておき、ダンジョンで出た魔石はこのギルドで一括管理される。

 具体的には冒険者から買い取って、それを他の企業なんやらに売って、あるモノはバッグとかの日用品になったり、あるモノは生活を快適にする電気エネルギー代替になっていたりするのである。


【あの時、お主は受付嬢に魔石を換金のために持って行っていた、そうじゃろう? その間、お主の側におった、我様は暇で仕方がなかった。

 故に我様は、ギルドの中に入って情報を盗み見ていたのだ。この世界については、無知、だからな】


 随分とまぁ、勤勉な魔王がいたものである。

 いや逆に、勤勉だからこそ魔王、なのだろうか?


 そんな中、魔王フォースは胸を張って、ドヤ顔のまま説明を続ける。


【我様はお主以外には見えていないようだからな。それを利用して色々と情報を得て、この世界で魔王として君臨する方法を模索し‐‐‐‐色々と作戦を練った。

 我様は、作戦を練って、その通りに物事を進める。頭脳派の魔王、なのだから】


「……頭脳派?」


 そんな印象は、この魔王のどこからも今のところ、感じていないのだが。

 今のところ、この魔王とやらから感じているのは、ただの執着しすぎの狂気さしか感じないのだけれども。


【まずは、なのだが、お主のステータスとやらを見せて貰えるかのう?】


「ステータス……?」


【うむ、まずはお主の力を見せて貰いたいんじゃよ。

 ……今日は我様に任せる。そして我様と手を組んだ成果でこれからどうするかを決める、そうじゃないかのう?】


 そうだった、今日はそういう事だった。

 下手に逆らって、この執着的で粘着質な魔王から離れてもらうために、魔王フォースに言われた通りに、このダンジョンに来たのだ。

 

 ‐‐‐‐今日のダンジョンの収益が上手く行かなかったのを理由に、この魔王フォースと、とっととおさらばしてもらうのだから。


 僕が「ステータス」と叫ぶと共に、僕の目の前にステータス画面が現れる。

 ダンジョンの中でのみ見られる、初めてこれを見た人間が「本当にゲームみたいだ」、だなんて言ったアレが。


======================

 六道七枝(りくどうななえ) Lv.1

 職業;戦士

 冒険者ランク;☆

 スキル;剣術Lv.1 斧術Lv.2 弓術Lv.1

======================


 人によっては、このステータス画面を見て興奮したり、これから頑張ろうという気分になったりするらしいが、僕はまったく、そうは思わない。

 ステータス画面を見て感じるのは、ただ自分の惨めさというか、才能のなさだけである。


【ふむ、ふむふむ。平凡、凡庸、月並み、凡俗。

 実にありふれた、どこにでもいるような、そういう形、だね】


「ところで、僕はここでなにをすれば良いんだ?」


 1人で何かを考えこんで企んでいる、魔王フォースに対して、僕はそう聞き返す。

 

【ふむ……とりあえず数体ばかり、倒すのだ。それで我様の能力を見せられる】


《ピィッ!》

《フォンッ!》


【おぉ、小鳥と狐か。アレは良いな、お主よ。アレを倒せ】


 僕の目の前に現れた、赤い小鳥の魔物と、淡い水色が綺麗な狐の魔物。

 【獣の血穴】はこういう獣の魔物ばかりのダンジョンで、小鳥はか弱いながら炎を操るレッドスラッシュ。狐は薄氷の鎧を纏うヒャットフォクス。その2匹である。


「……まぁ、あれくらいなら」


 僕は棍棒を手に取ると、魔物達に狙いを定める。


《ピィ、ピピィ!》

《コォーン!》


 ダンジョンの魔物は、冒険者を見つけると襲い掛かってくる。

 僕の前に現れた2匹の魔物も同様だったようで、レッドスラッシュは小さな火を纏いながら突っ込み、ヒャットフォクスは周囲に氷のつぶてを浮かばせながらこちらへと向かって来る。


「‐‐‐‐せいっ!」


 僕はそれに対し、棍棒を振るう。

 振るわれた棍棒は鳥魔物の羽を傷つけて飛べ失くし、狐魔物はその場に倒れる。


「もう、一撃っ!」


 狐魔物にもう一発攻撃を加えて魔石へと変え、そのまま鳥魔物の腹にも一発。

 魔石と化した鳥魔物。それを確認しつつ、僕は魔王フォースに確認する。


「魔王フォース、望み通りに2体の魔石を倒した……って、何その顔」


 僕がいつものように淡々と魔物を倒したのだが、それを見ていた魔王フォースが変な顔でこちらを見ていた。


【いや、普通にお主の実力を見て、感心しておったのだ。危なげなく、2体の魔物を倒しておった。実に良き、であった。

 ‐‐‐‐先に平凡、凡庸などと言った事は謝ろう。お主はきちんと冒険者として、やるべき事を分かっているようだな】


 なんかこっちを見て、1人で勝手に納得しているようなのだが、何を見てそう判断したのだろうか?


 僕は冒険者として、面倒な事を排除しただけだ。

 相手が可愛らしい獣畜生であっても、それで感情を鈍らせて、傷を負っていてはこちらが痛い目を見るだけ。そして的確に相手を無力化しなければ痛い目を見る。

 長い間、ダンジョン探索をしていれば、誰もが至る境地である。


【いや、君のは最適化というよりかは、気迫があった。殺してやろうという、度胸があった。

 理由がなんであれ、その境地に至ったというのは、素晴らしい事だ】


 褒められても、何とも思えない。

 ……なにか、裏があるんじゃないかって。


【さて、君も頑張ってくれたんだ。我様も約定を果たそう】


 魔王フォースがそう言うと共に、僕が倒した2匹の魔物‐‐‐‐その魔石が光り輝く。

 一方は金色に、そしてもう一方は銀色に。

 そう、その色は、魔王フォースのオッドアイの色と同じように。


【"金は武力の行使、力を与える代わりに我様に従え。銀は魔力の譲渡、魔を教える代わりに我様に跪け。

 力とは自由に非ず、我様に従う緊縛されし従者と課せ! 魔法、従者への儀式イン・ザ・サーヴァント!"】


 魔石が魔王フォースの言葉に従って光が強まっていき‐‐‐‐


 そして、2体の魔物が現れる。


《チュン!》

‐‐‐‐1体は、戦士のような革鎧を身に纏ったレッドスラッシュ。


《コォン!》

----もう1体は、魔法使いのような白いローブを着たヒャットフォックス。


 2体の魔物は僕に気付くと、先程と違ってその場に平伏する。

 僕の後ろにいる魔王フォースは、その姿に【これ、だっ!】と、大きな声をあげていた。


【これこそが魔王っ! 力を与えて、支配する! 征服する! 掌握する! これが魔王だ!

 《従者への儀式》! 我様は両の瞳に宿るグローリによって、力によって制圧する! 我様の力で強化されし配下で、我様の力を見せてやろう!】


 自身の力を得意げに説明する魔王フォース、そして平伏しているレッドスラッシュとヒャットフォックス。


 その状況に対して僕は、


「……え? こいつ、本当に魔王なの?」


 ようやく、この自称幽霊が本物の魔王なのかと、信じ始めていた。

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