"魔王を倒す聖剣"を手にいれた吸血鬼~お前ら勇者に、この聖剣は渡さない。魔王を倒すのは俺~
長い、作品内容が分かりやすい作品を作りたかったんです
遥か昔、世界を制覇して人間を滅ぼそうとした大魔王。
絶大なる力を持って魔族を率いる大魔王は、勇者が操る聖剣によって封印された。
大魔王はこの世界のどこかにバラバラに封印され、聖剣は次の勇者を待ち望んで洞窟の奥で静かに眠っている。
「それで、俺はこの聖剣を守るのが使命、って訳か」
俺は、目の前に倒れている勇者一行を見下ろしながら、そう呟いた。
俺の名は、トーマ。吸血鬼族のトーマという、魔族である。
悠久の時を生きる、血を吸う事で驚異の力を得ることが出来る、吸血鬼である俺。
俺は大魔王グランに、この聖剣を守る駒とされていた。
この薄汚れた、いかにもなにかがありますよ的な洞窟の番人に。
能力なのか、魔法なのか、あるいは呪いか。はたまた、それでもない未知の力なのか。
どういう理屈なのかは分からないが、封印されているはずの大魔王に、俺はこの聖剣を守るようにムリヤリ、縛り付けられていたという事である。
「恐らく大魔王は、自分が復活するのと同じく、自分が倒されないように聖剣を勇者、つまりは人の手に渡さないようにした。そのためには聖剣の前に、それを倒す役目を用意した。
聖剣を守る役目を俺にムリヤリ与えていた。俺はたまたま勇者との戦闘中に聖剣を抜いて、聖剣の力でその呪いから解放された?」
いや、どうして俺が聖剣を抜いているのか。
聖剣を抜いたからと言って、なんで呪いが解けているのか。
そもそも大魔王は、なんで俺をこの聖剣を守る役目につけさせたのか。
「謎は尽きんなぁ……」
「おい……魔族……」
聖剣を片手にどうすべきかを迷っていると、目の前で倒れている死にかけの勇者が、俺にそう声をかけてくる。
「その聖剣は……私の、だ……勇者の……聖剣を……」
今にも死にかけと言う、そんな様子なのに、勇者は俺に、正確には俺が持っている聖剣へと手を伸ばす。
「聖剣は俺のような魔族ではなく、勇者である自分が貰うべき。そんなふざけた理論で、この俺を止めようとしている訳じゃないよな?」
だとしたら、とんだお笑い種である。
この聖剣は、勇者が持つ武器ではない。
勇者が魔王を封印するために使った、いわゆる、"魔王を倒すための武器"。
勇者でなくても、魔王を倒す者ならば、持っていても構わないだろう。
「別に俺は魔王を倒すつもりも、守るつもりもまるでなかった。同じ魔族でこそあるが、自分達の王がどんな王なのかだなんて、どうでも良いと思っていた」
人間だって、自分達の王の主義思潮にすべて、従っている訳ではあるまい。
ある程度、"自分の利益になるから"だとか、"自分が一方的に不利な条件を出してないから"だとか、そういうような、自分にさほど関わらなければそれで良いと思っている人間だっているだろう。
魔族である俺が、魔族を率いる大魔王に抱いていた印象と言うのは、そういう物だった。
魔族を率いているといっても、必ずしも全員が大魔王の部下と言う訳ではない。
単に彼に従う物が大勢いて、その上、そいつらが強かった。
そう、ただそれだけだったのだ。
俺は関わる気がなかった。ただ普通に暮らせれば良かっただけだ。
だけれども、状況が変わった。
「大魔王は、俺を利用した。俺はそれに対して、憤慨している。
こんな薄暗い洞窟に、俺の意思を無視して、番人にした」
俺は、その意思を無視するやり方が許せない。
だから、魔王を倒しに行く。
魔王を倒すには、この聖剣がいるのだ。
だから、勇者なんかに渡せるか。
役目なんかで魔王を倒しに行く程度の奴らに任せる訳にはいかない。
これは、俺自身の問題だからだ。
「分かったか、勇者。
安心しろ、魔王は俺の手でなんとかしておこう」
……って、既に死んでいるか。
と思っていると、いきなり目の前で勇者の死体、いや勇者一行の死体が消えた。
噂に聞く、教会での蘇生とかいう奴だろうか。
まぁ、分からないところはどうだって良い。
「よし、行くか」
俺はそう心に決めて、聖剣を腰に差し、洞窟から外へ向かうために歩いていく。
必ずや、魔王に後悔させてやるという意思の元で。
☆
薄暗い洞窟から外へ出るまでの間、俺は勇者一行が落としていった紙に目を通していた。
勇者一行が消えた所に、何故か落ちていたアイテム。勇者一行の持ち物だとは思うが、死んで消えてしまった以上、俺が貰っても構わないだろう。
紙に書いてある情報を整理すると、どうも俺が覚えている時よりも、およそ300年くらい経っているみたいだ。
そして他に変わっているところとしては、魔王が復活している所。
正確に言えば、魔王の部下やら、四天王やらを名乗る人物が大勢いる事。
俺のように操られている魔族もいるのかもしれないが、とりあえず全員が敵だ。
大魔王に繋がっている可能性がある以上は、全員、俺が倒すべき相手でしかない。
「しっかし、ろくな魔物が居ないな。この洞窟は」
魔物というのは、魔力によって生まれた生物。
魔族と違うのは、彼らが魔力の塊であり、自らの血肉を持たない事。倒せば獣の牙だったり、身体の一部が落ちる場合があるが、あれは死ぬ際に魔力が結晶化したモノ。
彼らに、肉体と言うモノは存在しないのだ。
そして、この魔物は基本的に、魔力の量……人間どもが言う所の、強さで変わってくる。
強い所には強い魔物が、そして弱い所には弱い魔物が。そう言う風に上手く出来ているのだ。
俺達魔族は、そんな魔物の強さで、その地域がどの辺なのかを分かるのだが、どうも俺が守っていたこの場所は、弱い魔物しか居ない、そういう場所らしい。
先程からスライムやタイニーバット(蝙蝠の中でも小柄すぎて戦えない魔物)など、俺から言わせればザコばかりである。
「だからこそ、あの勇者一行もすんなり俺のいるところまで来れたのだろう」
あいつら、装備からしてあまり強そうに見えなかったし。
木の剣とか、まるっきり初心者向けの装備に見えたし、このような魔物相手だとしたらあの装備で来れたのも納得が行く。
「魔物が弱い土地なのか、それとも300年の間に魔力自体が弱まったのか……。
何とも言えないなぁ、これは。やはり洞窟の外に出ないと、なにも分からないな」
しかし、この洞窟はまだ入り口に着かないのだろうか?
結構、歩いてきたと思うのだが、入り口も、外の光も見えて来ない。
分かれ道なんかもなかったし、後の問題は距離だけだと思うんだけれども。
「早くこんな洞窟からおさらばして、屋敷に帰りたい。
そうして、あの魔王に復讐してやる……」
そんな気持ちを思いつつ、洞窟を進んでいると‐‐‐‐目の前に、奇妙なスケルトンが現れた。
スケルトンと言うのは骨だけの人間のような姿の魔物なのだが、目の前に現れたそいつは胸に"黒い角が生えていた"。そんな変なスケルトンだった。
禍々しく、なにか変な黒い煙を放つ角を、骨だけの身体の胸から生やしたスケルトンは、こちらに骨だけの手を向けていた。
「なんだ、お前は。俺の知識に、胸元に黒い角を生やしたスケルトンなんて‐‐‐‐そもそも、黒い角を生やした魔物なんて、俺の知識にはないぞ」
角を生やした者としては、魔物だと一角獣のユニコーン系。後は鬼族という力が強い魔族などだろうが、それでも黒い角なんてのは聞いたこともない。
……いや、なんだろう。あの黒い角から、なんとなくだが、悪趣味な感じがにじみ出ている。
「‐‐‐‐まぁ、良い。なんだって良いが、俺はお前の後ろに用があるんだ」
そう、あのスケルトンの後ろに、白い光が見える。
どうやら、あれが出口。スケルトンの後ろにあるのが、俺が待ち望んでいたこの洞窟の出入り口、みたいである。
そしてスケルトンは、入り口の前で立ちふさがっている。
俺を見ても襲い掛かる様子もなく、ただ入り口の前で仁王立ち。
けれども逃がさないとばかりに、俺の方をジッと見ている。
どうやら、このスケルトンは俺をこの洞窟から出したくないみたいである。
「門番、のつもりか? どうして俺を邪魔するんだ?」
《クケケケケケッ!》
俺の質問に、黒角スケルトンが出したのは刃だった。
自身の骨のような右腕を鋭い刃物へと変化させて、それを伸ばして俺の元へと向かって来る。
「答えはなし、かよ。‐‐‐‐ったく!」
自然と、俺の手は何故か腰の聖剣に伸びていて、黒角スケルトンの刃とぶつかっていた。
鋭い刃は聖剣に斬り落とされ、黒角スケルトンは両腕を刃としてこちらへと伸ばしてくる。
身体は聖剣に支配されているのか分からないが、勝手に、俺への刃を防いでくれている。
だから俺は、じっくりと考える時間があった。
「(このスケルトンが、普通に、自然発生した魔物ではないのは確かだ。なんらかの意思、たとえば忌々しい大魔王なんかが関わってるのは確かだろう。
普通のスケルトンは、自身の身体を刃とする力はない。だから、恐らくはあの黒い角の力、なのだろうか)」
‐‐‐‐それならば、あの黒い角を壊せればっ!
俺の気持ちに沿って、聖剣がスケルトンの刃を斬り落としつつ、俺の身体は相手の懐へと飛び込んでいく。
《クケケケッ!》
スケルトンが出す刃をかいくぐり、俺の聖剣は的確に、黒い角を真っ二つに両断する。
「……ザコはザコらしく、俺の道を開けやがれ」
黒い角を真っ二つにすると共に、スケルトンは霧のように消え去る。
消えたという事は倒された、ということだろうか?
「初めからあの黒い角が弱点。生物でいう所の心臓の役目をしていた、という所だろうか?
しっかし、この聖剣は非常に便利だな」
俺は聖剣を見ながら、聖剣の便利さを感じていた。
なにせ、勝手に相手の攻撃を受け止めてくれて、その上で持ち主である俺の意思も反映して攻撃もしてくれる。
危険を防ぎ、自分の思うがままに攻撃する。
これさえあれば、誰であっても、勇者として活躍できるって訳か。
あの勇者も欲しがるのも当然の性能である。
「(聖剣の力は確認できた。後は俺を、こんなところに閉じ込めた魔王の手がかりを追って、この聖剣でガツンっと気合を入れてやる)」
聖剣を腰に差し、俺は光が差し込む入り口の方へ‐‐‐‐
この時の俺は、思いもしなかった。
まさか、その聖剣が、街に入った途端、とある巫女勇者に盗まれることになるなんてことを。




