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エピタ・フェアリーテイル~モブ魔法使いと剣士貴族は、ダンジョンでパーティーになれますか~

ステータスが上の相手と、組みたいか?

という思いから、着想しました

「グォォォォ!」


 また1匹、彼女の鉄の剣によって、1匹のゴブリンが斬り捨てられた。

 緑色の醜い小鬼のようなゴブリンが絶命すると共に、ボロボロに黒い塵のようになって、その場に小さな小粒程度の魔石が落ちていた。


「ふっ……また1匹、つまらぬモノを斬ってしまった。斬り捨ててしまったわね」


 そう言って不敵な笑みを浮かべ、腰に下げた鉄の剣を自身の鞘へと戻す彼女。

 金色のロングストレートヘアーで、長めの前髪で右目を覆い隠したその女性は、ゴブリンをまた1匹屠ったことに嬉しさを感じているようだった。


「良いから、さっさと魔石を拾って先に進みましょうよ。貴族様」


 その魔石を手に取ると、突如として横に現れ出でた黒い異次元の穴へと放り込む少年。

 彼は赤色がかった髪を短く切り揃えており、黒いローブで小柄さを隠しているが、どことなく小汚さを感じさせている。

 濃い茶色の杖を構えながら、彼は手慣れた様子で魔石を回収していく。


 ----と言うか、その少年とは僕である。

 僕は今、この貴族の剣士令嬢様と共にダンジョンに潜っている。

 パーティー、いやそれよりももっと深き絆で結ばれた、互いの命を預けあう《相棒》として。


「貴族様とは、ご挨拶じゃないですか。相棒。いや、【黒乃(くろの)】。

 我らは同じ学院に通う友であり、パートナー。それがわたし達の関係でしょ?」


 ニコリと笑う彼女の服は、白い制服に身を包んでいる。貴族らしい、汚れ1つない真っ白な姿。

 名前である【シロローデルガルド・ソーディアン】と同じく、本当に真っ白な姿。


 そんな彼女の姿を見ていると、自分のみすぼらしい汚れたローブの姿と比べると、なんともまぁ、薄汚れているなと感じてしまう。

 やはり、自分のようなモブと、貴き血が流れている貴族様とは、住む世界が違うなと改めて感じてしまう。


「ほら、黒乃。先に進みますよ!

 今日はこのダンジョンを、制覇するのが目的ですので!」


 僕が魔石を全部回収すると共に、シロローデルガルド……いや、シロはさっさと奥へと向かっていってしまう。


 彼女の剣技には、無駄がない。だから、強い。

 けれども、僕達が今いるのはダンジョン。魔物が現れて、命のやり取りを行う洞窟だ。

 そんな洞窟で、彼女のような貴族らしい"見世物を意識した"剣術だと、相棒として、命を預けている相手としては、不安しか感じない。


「(……いったい、どうして彼女と一緒にダンジョンの中にいるんだっけ?)」


 そう、それは確か、あの日。

 冒険者を育成するあの学院で、ダンジョンについての講義があった日だ。


 あの日、僕は学園から、この彼女と組まされたのだ。

 

 そう、僕の人生の中でも一、二を争う最悪のあの日に。




「はい、皆様、注目です」


 教室の前で、いつものように魔法についての講義を始めようとした先生が、いつもののんびり笑顔な雰囲気とは違う、真剣な様子でこちらを見つめていた。

 いつもは興味なさげにしているだろう生徒達も、先生のいつもとはまるで違う雰囲気に影響されたのだろうか、私語1つなく、まじめに先生を見つめていた。


 緊迫の空気の中で、先生はこう切り出す。


「学園長の方針転換により、講義内容が変更になります。

 と言う訳で今年から、我らが常水学園は、基本的に、探検などで得た成果による合否判定となる。以上、頑張れ、若者諸君!」


 言いたいことは全部言ったとばかりに、さっと風のように去っていく先生。


 呆気に取られていた僕ら生徒達が、事の重大性に気付いたのは、少し後でのことである。




 二十世紀の初め、地球の世界各地に突如として生まれた"孔"。

 その孔は創作などで良く見られるダンジョン‐‐‐‐怪物などと呼ばれる存在が、たくさん存在している。

 最初は孔を封じ込めることを考えていた人類だったが、無理であることは数年で理解された。

 まぁ、そのダンジョンの内部で魔石や金属、薬草、不可思議な物質など、有用なモノだなんてあるので、封じなかったという意見もあるが。


 ともかく、1つ言えることがあるとすれば、ダンジョンは稼げる。

 僕のようなモブには、勿体ないくらい稼げる。


「(貴族様は嫌いだ。ダンジョンが生まれたためにステータス画面などというモノも見られるようになって、それでようやく自身が貴族だなんて事が分かったくらいなのに、偉そうにしている嫌味な奴ら。

 ……本当、大嫌いだよ。まったく)」


 貴族と言っても、最初から由緒正しい名家だった、というのはあまりにも少ない。

 あくまでもステータス表に【貴族】という欄がある者達が、勝手にそう名乗っているだけにすぎない。

 それが容認されている理由の1つに、貴族という者達のステータスの高さもあるんだけれども。

 

 貴族との判別のために、一般生徒は黒い制服。そして貴族は白い制服と、色という形で分かりやすく区別されてるほど、だ。

 それほど、僕達と貴族は、区別されている。

 それほど、僕達と貴族との差は大きいのだ。


 僕はお金を稼ぐという俗っぽい理由で、この常水学園へと進学した。

 この学園に選んだ理由は学費や通学距離なども勿論あるが、なにより勉学に重点があったこと。

 貴族のような恵まれたステータスを持っていない僕らのようなモブ(相手が貴族だから、こちらがモブと揶揄されているだけ)は、しっかりと学ばないとならないから。

 お金は稼ぎたいが、ろくに学んでいない今の状態で入るなど愚の骨頂。だからしっかり学び、そして卒業してから冒険者になるというのが、当初の未来設計図だった。


 ----だったのだが、ダンジョンに入っての貢献度となると、ダンジョンに入らざるを得ない。


 さて、ここで先程の話に戻る。

 先生の、"探索での成果による合否判定"に対して、僕達がなんで重大な問題に気付いた、だなんて表現をしたのか。

 それは僕達が、"魔法使い"のクラスだからだ。


 魔法使いと聞くと、凄い魔法を使いこなす素晴らしいモノのように思えるのかもしれない。

 創作小説とかだと頭で思ったことを具現化したり、現代知識を活用できれば少ない魔力で爆発的な火力を生み出せるだとか、そんな風に思う人もいるかもしれない。

 ‐‐‐‐けれども実際は、そんなに応用が利くモノではない。

 魔法の文言を一言一句、間違えずに、正確な意味も覚えて、それでようやく一つの魔術が使える。その上で、自身に適している魔術属性以外だとそもそも発動すら出来ない、など、かなり制約が大きい。

 簡単に言えば、普通に銃火器などをぶっ放す方が速い。


 魔法使いは、そんな不利ばかりの条件の中。他の人よりも、魔法が使いやすい、というだけだ。

 僕は雷の魔法が得意なのだが、それでも発動まで時間がかかる。


 結局のところ、何が言いたいかと言えば、"僕達が魔法を使うために、守ってくれる人が必要"という事である。


 それだからこそ、僕はこうして1人、常水学園備え付けの食堂で、頭を悩ませていた。

 周囲の連中には、僕と同じように頭を悩ませる魔法使い達が多くいた。

 けれども要領が良い奴は、すでに剣士様と組んでいる者、または魔法使い同士で組んでいる者など、この問題にさっそく対処している者も大勢いた。


「前線で戦える魔法使いは、魔法使い業界広しと言えども、本当に一握りの存在。ましてや、学生である僕達なんかからしてみれば、成績トップクラスが出来るかどうか。

 だから、僕達はその身1つでダンジョンに行ける剣士達なんかと違って、剣士様の協力を得なくちゃ」


 問題は、魔法発動まで耐えてもらう、頼れる剣士様の選定である。

 普通に仲が良い、相性がいい相手に頼むか。あるいは強さで選ぶか。悩みどころである。


「うーむ、どうしたものか」


 そんなことをかんがえていると、周囲がざわざわと騒いでいるのを感じる。

 「なんでこんなとこに?」だとか、「関わるな」だとか、色々と厄介そうな感じの言葉が聞こえてくる。


 ……嫌な予感だ。

 良く分からないが、とりあえず僕も退散すべきだ。


 厄介ごとに首を突っ込む、なんてのは、創作での話。いわば、自分と関わらない物語の上での話だ。

 現実問題として、ただでさえ自分自身で、いっぱいいっぱいなのに、そのような厄介ごとに関わる必要なんてない。


 そう思って、僕は席を立とうとすると‐‐‐‐


「ちょっと待って貰えますか、そこの人」


 ガシッ、と僕の肩を掴まれる。

 嫌な予感を感じつつ、振り返ると、そこに居たのは‐‐‐‐


「白服……」


 僕が会いたくないと思っていた連中、貴族の奴だった。

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