ブサイクなピアニストは、いけませんか
それは10年前。私がまだ4歳の頃に行った、ピアノコンクールでの出来事。
友達が参加するという事で、お母さんに連れて貰ったんだけれども、正直なところ、私はピアノなんかに興味がなかった。
なんか退屈そうな感じがして、どうにも合わなかったから。
事実、いろんな人が出て来たけれども、聞こえてくる曲は似たようなものばかり。
専門の人なんかだとその違いが分かるんだろうけれども、私にはその違いが分からなかった。
私以外にもそういった人が居るみたいで、欠伸とか、いびきとかが聞こえていた。
友達には悪かったけど、私は速く帰りたかった。
速く帰って、『魔法少女プリティ☆てぃさすたん』の方が見たかった。
退屈で、退屈で、もう眠りそうなテンションの中。
――――私を音楽の道に引きずり込んだ、"あいつ"が現れた。
あいつの容姿を一言で表すとしたら、ゾウアザラシ。
垂れた大きな目、蜂に刺されたような大きく腫れあがった頬、顔の半分くらいある大きな鼻……一言で言うと、ブサイクな、そんな感じ。
他の人達も彼の事は、そんな感じで見ていて――――。
――――でもその印象は、一瞬で吹っ飛んだ。
彼の演奏は、感情的だった。感動的だった。
今までの演奏がなんだったのかと思うような、そんな印象を受けるような、一音一音ごとに心を奪われてしまうような、そんな演奏。
一分半程度だったはずなのに、倍の三分……それどころか三十分、一時間、それどころか永遠に感じられるような感覚。
"バケモノ"。
誰が言ったのかは分からない。
けれども、それが正しいと誰もが理解していた。
それが彼、バケモノのようなピアニスト、神田川一との出逢いであり、
私がこのピアニストとしての道を歩み出す、第一歩になった出来事だった。
倉健さんのアイデアで、
「ファンタジーや異世界転生以外の、主人公がブサイクな話」を考えてみました。
音を楽しむピアニストに容姿はさほど関係ないと思いますけれども、
それでも見た目である程度左右される面もあると思います。
周囲にはそれだけの才能があるのだから気にしないで良いと言われても、
本人はその容姿がどうしても気になってしまうとかあると思います。
ちなみに、決してゾウアザラシをディスってる訳では無くて、
なんとなく可愛さがありつつ、ブサイクな感じが出てるキャラクターかと思いましたので。




