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第一部 1


 ──明日、放課後、一年前に話をした場所に来い。 夏木 宗──   

 

 

 昨日の夕方、我が姫より、  

「あ、そうそう。ナッキ―がね、この手紙あきよくんに渡してだって!」  

 ふっくらあんまん風の笑顔で渡された。恋敵同士に手紙を渡しあうというのはちょっとなんだと思うのだが、それを違和感なく受け止められるのがこの姫たるゆえんだった。  

 受け取る自分も、  

「なんだと! あの野郎なんの用なんだって? またなにかちょっかい出すのか!」  

 気色ばむ必要もなく、  

「なんだろうなあ、彰子さん、あいつに俺のことどういう風に言ってるの?」  

 なんでもない風に尋ねるのがおちだ。  

「ナッキ―に?」   

 ふたつわけのふんわりした笑顔で答えられたらもう、何も言い返せない。  

「もちろん、あきよくんには学校ですっごく大切にしてもらってるよって。ナッキ―もそれ聞いたら、よかったなって言ってたし。ナッキ―いつも言ってるよ。ちゃんとあきよくんが私のことを大切にしてくれているのがわかるから、安心だって。ありがとう、あきよくん」  

 感謝までいただいてしまったではないか! これで文句言える奴がいるのか?   

 たとえどんなに腹の中では言いたいことが渦巻いていたって、 「彰子さん、やだなあ、なんか俺、照れるよこれ」  

 とくねくねしたくなるしかないじゃないか。  

   

 だがしかし。「手紙」と言えたものではなかった。一文のみ。  

 ──明日、放課後、一年前に話をした場所に来い。  

 これだけだ。  

 やたらと太いマジックペンででかでかと。  

 秋世は彰子に一言だけ、  

「よかったあ、果し合いじゃなくてさ。俺あいつに決闘申し込まれたかと思ったよ!」  とおどける程度にとどめておいた。  「そっかあ、よかった」と微笑まれたらもう、余計なこと言う必要なんてない。  

 あとは自分の腹の中で、  

 ──畜生、なんでよりによってこんな雨の中、恋敵のとこへ行かねばなんないんだよ!  

 ──それも修学旅行の前日にだぞ!  

 ──ちゃんと約束は守ってるだろうが! お前らにちゃんと彰子さんのクリスマスは譲ったよな? 初詣を俺が貰ってどこが悪いっていうんだ?  

 毒々しい言葉をわめき散らしたとしても、ばちは当らない。  

 秋世は天に向かって傘を軽く揺らしてみた。メアリー・ポピンズがゆらゆらと空から降りてくる気分で「チムチムチェリー」をBGMにして。落ちてきたのは星屑ではなく雨粒のみ。せっかく気合入れてまとめた前髪にびしゃっと落っこちてきた。  

 ──明日は修学旅行だってのに、大丈夫か、この雨は。  

 天気予報では明日からしばらく快晴だと担任が言っていたけれど、全くもって当てにはならない。車酔いしやすい同級生が恨めしげに天を見上げていたのはご愁傷様、としか言いようがない。秋世もそれほど乗り物に強いほうではないので、できれば晴れている方ががいいに決まっている。  

 どろどろの空を見上げて後、秋世はすぐ青い傘を肩にひっかけた。背中がぬれて冷えてくる。胸ポケットに押し込んでいる我が姫君の写真をそっと覗き込み、指先で軽くこすった。去年の生徒手帳で彼女が使った写真を、三年に上がってから即、頼み込んでいただいた代物だ。持っているのは自分だけだ。少なくとも、あいつは持っちゃいない。  

 ──さあさ、行きまっせ! どっちにしたって明日からは独り占めなんだからな!  

 気合をつけてたったと歩いた。やはり我が姫・奈良岡彰子のパワーは偉大なり。元気全開だ。あら、空の合間にちらりと青空が覗いたように見えた。すぐ隠れたけど、これもやっぱり彼女の力なり、か。勝手に決め付けると秋世は傘を背負ったまま走り出した。  

 

 指定された場所は、一年前の決戦の場。忘れるものか。ブレザーを羽織ったまま秋世は傘を持った手で前髪を拭った。湿気が髪に篭って、かなり臭う。帰りに携帯用のシャンプーとヘアムースを買っていこうと決める。朝は早いからきっちりと髪型整えて、いい男ぶりを見せ付けたいところだ。他の野郎どもがさんざんむかつく顔をみせるだろう。けど、孔雀と同じだ。いい女を振り向かせるため絢爛豪華な羽を広げてみせる、それは生き物の本能ではあるまいか。孔雀の気分を味わうのも、なかなか乙なものだ。  

「おい、こっちだ、こっちむけ」  

 大量の木材が積み重ねられた叢に突っ立っていると、背後から声が聞こえた。  

「あ、お久しぶりっすね」  

 わざとのどかに返事を返してやった。  

 ガクランの袖口と裾のところに、白線が二本入っている独特の制服。  

 髪の毛はかりかりのスポーツ刈り。  

 夏木宗。通称「ナッキ―」。別名「花散里の君ファンクラブ」会長。  

 南雲秋世最大の恋敵なり。  

 

 一年間、一度も顔を合わせなかったわけではない。  

 わざわざ青大附中の校門まで彰子を迎えに来たりとか、学校祭の時にはわざわざ「ファンクラブ一同」と集団で彰子を取り囲み臨時の「お茶会」をひらきやがったりとか、声こそかけないものの存在感だけはたっぷり植え付けられている。秋世の立場が規律委員ということもあり、いろいろと他校生徒とのトラブルを避けるべく見張る必要があって、あまり話をするのもためらわれた。しゃべる気も、本当のこといえばあまりなかったが。  

 ──誰が好き好んで恋敵と語り合う気になれるんだ。  

 ただでさえ彰子は「あきよくんもナッキ―も、私にとっては大切な友だちだから」と言い切っているじゃあないか。そう「大切な友だち」ときた。それを今すぐ、「恋人だろうが!」と迫ることを、今の段階では許されていない。自分自身の自然な本能からしたら、もういわゆる「恋人」の範疇まで入ってみたいと思うのだがいかんせん、姫の思いはまだまだ発展途上中。ゆっくり、楽しく、素敵な思い出を積み重ねて、いつかは騎士ナッキ―から我が姫を奪い取りたいものと再認識するのが常だった。  

 ──まあな、今のところは「友だち」だもんな。  

 にこやかさは我が姫にたがわず、お得意なのが南雲秋世の天性だ。  

「ちょっと来い。話がある」  

「そりゃもう、話したいから来たんであって」  

「ざけんじゃねえ、早く来い」  

 さっさと話をつけて戻りたいのは秋世も一緒だった。修学旅行の準備がまだ全然終わっていないというのもあるし、今回は頼りのばあちゃんが入院中なもんだから自分ひとりで片をつけなくてはならない。規律委員長が影のファッションリーダーである伝統を守るためにも、それなりのおしゃれをしなくてはいけない。ファッション雑誌チェックも怠るなかれ。規律委員長は単に、余計な持ち物を取り上げたり、スカートの丈をチェックしたりするだけが仕事じゃないのだ。 

 こんなところで本当だったら、恋敵と雨の中、にらみ合いなんてしたくないのだ。  

 夏木は両ポケットに手を突っ込んだまま、応援団団長風に肩を怒らせ、自分から近づいてきた。  

 わざわざ秋世が近づくまでもなかったのが意外だった。  

「ほんとは、お前なんかになあ、しゃべりたくねえよ、けどしゃあねえ、彰子のためだ」  

「いや、しゃべりたくないならこちらは別にいいんだけどさ」  

 わざと平静を装う。こいつ、見るからに鉄砲玉、といった感じの男子でもって、手が早い。うっかり秋世がとぼけたこと口走ったら即、ストレートパンチが飛んでくるだろう。単純明快、空は青く雲は白い。善悪白黒はっきりしているこの性格。正直、秋世のつるんでいる奴にはあまりいないタイプの人間だ。  

 肩を揺らすようにして、夏木は南雲の顔を真っ正面から見据えた。うつむくように若干瞳を寄り目にして。  

「どうせ彰子はしゃべってねえだろ」  

「だから何を」  

「家のことだ」  

 悔しくも聞いていない。「いい友達」の限界か。秋世が黙っていると夏木はにこりともせず、  

「彰子だなやっぱ。お前に心配かけたくねえんだ、あいつは」  

 ──かけてくれたっていいのに、かけてくれないんだよ、ああそうさ!  

 しとしと、雨と一緒に芯まで染み込んでいきそうな冷たい雨、めげる。  

「いいか、これだけ言っとく」  

 ずいぶん長ったらしい前置きだったが、結論は単純だった。  

「彰子のうち、今、まじでやばいからな。お前、あいつにやなこと全部旅行中忘れさせろ。いいな」  

 ──やなこと?  

 秋世が尋ね返そうとすると、夏木は顔をびんびんに張ったまま、言い放った。  

「ろくでもねえことが今、お前の知らんとこで起こってるんだ、いいか」  

 いいもなにも、何がなんだかわからない。頷かないことには話を進めてくれそうにない夏木。  

 秋世は大きく深呼吸して頷いた。  

「OK、その件は自信もって引き受けました」  

 ──いいことばっかり、姫に植え付けてお返ししましょうってな。  

 計画はすでにことこまかに立てている。  


 夏木の言う「ろくでもねえこと」とはおそらくだが、彰子の家族を巡るいろいろと面倒な問題のことだろう。公立中学の教師である父と眼科医である母。この二人の馴れ初めとか毎日のお笑いいっぱいの話題とか、そういう話だったらたくさん聞かせてもらっている。こういう親に彰子が育てられたんだと納得するような両親だった。とにかく、笑う。語る、面白い。下手な漫才師見ているよりずっと面白い。しかし夏木の言うのはそういう話題ではなさそうだった。第一、小学校時代からのお付き合いときてるし、さらに夏木の現在担任でもある彰子父。秋世にはわからない部分が多々あるのもまた事実だ。  

  「俺もあんまりそのあたり、聞いてないんだけどあれっすか。彰子さんち、相変わらず嫌がらせされつづけてるのか?」  

 約束した以上は聞きたいこともそれなりに聞き出したい。夏木もがちっとした目を相変わらずずらさずに、  

「やっぱり知らねえのか」  

 肯定のお返事だった。  

「彰子、全然言わないからだろ。あいつ、下手なこと言うと周りに心配かけると思い込んでやがるだろ、ったく、んなこと心配するなって言いてえよ。時也の言う通りだ」  

 もうひとりの恋敵にあたる名前を出した。名倉時也とは、夏木と同級生ながら、朴訥で少々弟っぽいところのある奴。彰子の崇拝者であることは言うまでもない。  

「青大附中の奴で、彰子の事情知ってる奴、いねえのか」  

「ああ、たぶん俺だけ」  

 このあたりは自信を持って断言してしまおう。夏木の言う通り、彰子の性格は「大好きなみんなに余計な心配かけさせたくないから、内緒にしとくね!」だった。秋世からしたらぜひ、この機会にぜひ、一歩でも二歩でも距離を詰めて、語り合いたいことの一つなのだが。彰子曰く「話しても面白くないこと、楽しくないこと、どうしようもないことは口に出さないほうが、いいこと多いもんね!」だという。けど、それを受け止めてやるのが「恋人」たる地位のものだろう。残念ながら今のところ、秋世も夏木もその「恋人」地位にはたどり着いていない。歯噛みしたくなるのは男心なりか。  

「そうか、なら、なおさらだな」  

 事情通であろう、夏木の口調はさらに強まった。雨音に負けないくらいの怒鳴り声。周りには誰もいない。他に誰もいないから、安心して怒鳴ることができるというのだろう。  

「いいか、南雲」  

「ははあ」  

「今、俺らの学校は勘違い父母の連中で馬鹿なことになっちまってるんだ。原因作ったのはま、俺だがな。なら先生も彰子と同じで全然なんも言わねえけどな、どうやらうるさい保護者連中に吊るし上げくってるらしいんだ。去年からずっとな」  

 なんで吊るし上げ食っているのか、その理由を背負っているのが夏木、本人にあり。  

 そのくらいは聞いている。  

「けどあの事件からはもう一年経っているんでは……?」  

「ねちっこいんだ、あの親ども」  

 なんでも、彰子の悪口を言った女子に対し、「花散里の君」親衛隊長たる夏木が鉄拳を食らわしたところ、当たり所が悪くて大騒ぎになってしまったという事件。いわば傷害事件なんだから、もちろん相手に恨まれたり謝ったり顰蹙かったりするのは仕方ないことだろう。秋世からしたらなんで一年もねちっこく恨まれなくてはならないのかが理解できなかった。担任である彰子の父……通称「なら先生」……が、教え子夏木をかばったり他の生徒に頭を下げたりするのもごくごく自然なことだろう。仕事だし。一度ちゃんと頭を下げたら、あとは「子ども同士の出来事」としてなあなあに済ませるのがふつうじゃないのか? 青大附中だったらきっとそうなっているだろう。そういかないから、こうやって夏木がふんぞり返って秋世の前に立っているというわけだ。  

「相変わらず、あの、手紙を投げ込まれたりとか?」  

「毛虫だとかな、塩とかな、生ごみとかな。よく続くよなあ、あれって思うぜ」  

「で、夏木はどうしてそれ知ってるわけなんで?」  

「あたりめえだろう!」  

 すぐ近く、小学校時代の幼なじみ、かつ「花散里の君」親衛隊長。  

「毎日、なら先生んちに行って、ごみ捨てたりしてるの、俺と時也だ」  

 ああそうですか。すなわちファンクラブの活動として、嫌がらせの後始末を買ってでてるというわけですか。  

 秋世は傘に響く雨音を、全身で受け止めた。背だけは一握りくらい伸びているようだが、相変わらずのがきっぽさは抜けていない。秋世の方がずっと背が高いはずだ。なのに、この威圧感というのはなんだろう。十五歳男子としてそれなりに、けんかもしてきた殴り合いもしてきた、でもどうしてこういう雰囲気に飲まれてしまうのだろうか。自分でもわからなかった。青大附中の中では少なくとも、経験する機会のない空気が雨の隙間に満ちていた。  

「いつもだったら俺と時也が彰子を守ってる。おめえの出る出番はねえ。だがな、旅行中はお前だけが頼りなんだぞ。いいか、そんなきざっちい顔ではたして彰子を守りきれるかわからねえが、もしあいつを泣かすか落ち込ませるか、馬鹿女子どもにけりいれられるかなんかして帰ってきたら、俺はお前をとことんぶっとばすからな。その辺、覚えとけ」  

 ぶっとばすと言われても、その意図することがわからない。  

 秋世は無理矢理笑顔をこしらえた。  

「あの、ぶっとばすとは?」  

「約束しただろ。青大附中にいる間は、南雲、お前が彰子を守るんだってな」  

 確かに。  

 できれば、それ以外の場所でも守らせてほしいなとは思っているのだが。  

「こちらは俺たちに任せとけ。お前はな、とにかくあのとんでもない奴らのことを、旅行中全部彰子に忘れさせて、大口開けて笑わせてやってくれたらいいんだ。話はそれだけだ!」  

 後ろ向け、後ろ! 背中をぴんと伸ばしたまま、ガクランをなびかせて夏木は大股で去っていった。この雨だというのに傘を持たず、しかも例の迷彩柄自転車を引き連れて。雨音はさらに激しくなり、傘を持っていても背中、スラックス、ともにずぶぬれになっていくのがわかる。秋世はただ黙って見送り、そっと敬礼の真似をするのが精一杯だった。  

 「花散里の君」親衛隊長に向かって。  

 

 彰子と夏木との間に結ばれている絆は、秋世の知る限り「恋愛」めいたものではなかった。  

 単なる「大切な友だち」に過ぎないだろうと読んでいる。  

 同時に秋世との間にも同じ色合いの糸が結ばれている。  

 どうしてそういう色なのか秋世にもよくわからないのだが、彰子にとって「特別な男子」は「恋」ではなく「友情」にとどまるものらしい。彰子の性格からしてそういう傾向が強いのは気づいていたけれども、しかしだ。  

 ──この関係、なんだよほんと。二股じゃなくて、三股だろう!  

 このねじれた関係、疑問を持たなかったわけではなかった。  

 一応、青大附中において、南雲秋世と奈良岡彰子との関係は「学校内でもっとも熱いカップル」という扱いを受けている。たまたま秋世が規律委員長だったことと、以前かなり恋愛沙汰で派手な動きをしたこともあって全校生徒から注目を浴びている状態でもある。はっきり言ってしまうと、もし彰子以外の女子でそういう扱いをされたとしたら、秋世は即、その子から離れたくなるだろう。露骨に周りからひゅうひゅう言われると、大抵の男子はなえるはずだ。どんなに顔を見て、可愛いと思ったところで、「いやあ、お前女子ばかりとくっついてるんじゃねえよ」と男子たちから馬鹿にされるのだけは避けたい。男子の付き合いの方が女子とのお付き合いよりも大切なものだと思っていた。もちろん彰子と「お友だち」になるまでの考えだった。  

 現代の「美少女」という概念からすると、彰子の顔立ちは決して美人でもないし、可愛くもないらしい。そりゃあ、彰子がグラビア雑誌のお姉さんみたく水着姿でビーチに横たわることはまずありえないだろうし、そういう写真の対象にも決してならないだろうとは思う。だが、それ以上にまんまるでふっくらした「あんまん」タイプのほっぺたとか、笑うと線になる目元とか、一緒に座るとほかほかしてくるような身体つきとか、秋世の好みにすべてぴったり合った彰子の外見。これをどうして受け入れられないといえようか! さんざん周りから「お前ももっと、まともな女子選べよ」と勘違いした助言をいただいたがあっさりと無視したのは、ひとえに秋世の好み概念に他ならない。むしろ、他の野郎どもが彰子に手を出さないでくれたからこそ、現在の自分がいるとすら思えてくる。もし、青大附中に入学後即、彰子のよさを一発で見抜ける野郎と出会ったらもう手を出すことは出来なかったはずだし、彰子の性格上一度付き合った相手をふることは絶対ないだろうし、秋世にも望みはなかったであろうし。  

 ──ほんと、運良かったよなあ。  

 たまたま秋世が、当時付き合っていたC組の女子と別れていたこと。  

 たまたま彰子が「彼氏いないよ!」と宣言してくれたこと。  

 たまたま彰子の外見を好む男子がほとんどいなかったこと。  

 偶然が偶然を呼び、今や自分の理想の女性が側にいる。  

 たとえご本人が「いい友だち」程度の認識だったとしてもそれはそれ、これはこれ。  

 恋敵が二人もいて、虎視眈々と狙っている状態だとしても、あいつらは青大附中には……学校祭などを除いて……入ってこれないはずだ。  

 ──そうだよな、彰子さんは、青大附中の中では、俺だけだもんな。  

 ほんの少しだけ自信を取り戻した後、秋世はゆっくりと歩き始めた。雷鳴らしき音がかすかに斜め右の方向から聞こえてくる。傘に落ちちまって感電してしまったらしゃれにならない。これから早く、ばあちゃんの入院している病院に走っていって、顔を見せておかなくてはならない。いつもだったらばあちゃんがやってくれた荷物作りもしなくてはならない。両親は仕事で忙しいからはっきり言って当てにならない。そうそう、土産を誰に買ってくるかもこれからリストアップしねばならないではないか。やることは山ほどある。  

 

 ──隊長、どうもな。ご期待以上に、姫を守らせていただきます。  

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