白猫がいなくても
「ふぁ、ふぁー」
大きなあくびをして、両腕と背中を伸ばしながらベットから起きあがる。
木と葉っぱで造った建具の隙間からは朝日の優しい光がうっすら差し込んできて洞穴の中もほのかに明るく感じとれるようになっていた。
朝露を含んだ森の香りも風に乗り、洞穴の中まで漂ってすっかりもう朝という事を友也に伝えてくれていた。
この日はこの世界に来て初めての独りじゃない朝になるハズだったのだが。
「おはようディア」
「あれ、、、?」
「え、、」
キョロキョロと友也が辺りを見渡しても3畳しかない狭い洞穴は隠れる場所もなく、友也がディアと名付けた白猫の姿がどこにもないのがすぐに理解できた。
「い、、いない、」
この世界で初めてできたと思った友達の白猫のディアを一晩で失いうなだれてしまう。
「ぐすん」
「あぁーわかってますともわかってますとも」
「僕には友達ができませんとも」
「人生で一度も友達ができた事ありませんとも」
やさぐれ気味の友也はそう言いながら起き上がり朝食用の干し肉を口に詰め込み、たてかけておいた弓と矢の入った筒を背負い足早に洞穴をでる。
するといつもだったら割と森の奥の方にしかいないはずの野うさぎの姿を森の入り口付近で見つけ事ができた。
野うさぎはまだ友也に気付いている様子はなく友也の方向に背をむけていた。
友也はいつもならば茂みに隠れるか木の上に登り確実に仕留められるように狙いを定めるが、、今日の友也はやさぐれている。
「もういいや」
いきなり野うさぎの前にバッと飛び出し矢を放つ。
ビューと風を切り裂き放たれた矢は驚いた野うさぎの体に見事命中する。
驚きすぎて全く回避行動をとることができなかった様子だった。
「おっ?」
予想外にうまくいって自分でも少しびっくりした友也は今の獲った野うさぎをロープにくくろうと近づいていくと、カサッと茂みの方から音がした。
友也はパッと音のした茂みの方に反応し、すぐに弓を構え新しい矢を構え放った。
獲物の姿を完全には確認していないが矢は茂みを切り裂き飛んでいく。
矢は見事に茂みの間をピューと通りすぎもう1匹の野うさぎに命中していた。
今日の友也の勘が冴えていた。
普段ならば2匹とも仕留められていなかったかもしれない。
そんな事を思っていると今度は空から。
「ピィー」
「きたっ!」
空から大きな鳥が爪を立てて友也が先ほど倒した野うさぎを横取りしようと飛んでくる。
「同じ失敗はしないよ」
過去にその日唯一とれた獲物を横取りされ一晩を空腹で耐えた経験のある友也は落ちついて弓を構え、鳥が野うさぎを爪で捕まえようとする瞬間を、
ビュー!
友也が放った矢は鳥の体のど真ん中に命中し鳥は地面にポトリと落ちた。
「すごい!まだ朝なのに獲物が3匹も!」
「今までで1番の成果になるかも!」
意気揚々と白猫のディアがいなくなりやさぐれていた事も忘れ獲物3匹をロープにくくり背負う。
「こんなに早く獲物をとれたんだったら水浴びにでもいこうかな、」
「ついでに水も汲みにいこう、」
「洗濯もしようかな、」
いつものとおり独り言を言いながら進む友也の前にべたべたと足跡が聞こえてくる。
普段友也が狙っている獲物とはまったく違う足音に、只ならぬ気配を感じて友也は足を止め木に隠れながら様子を伺うと。
「ヤバい、、」
スッとそのまま気配を殺し茂みに隠れる友也の前にこの世界の人々の天敵であろう魔物の姿が見えるのであった。