コミュニケーション
「僕がもう一度力を集めます!みなさんお願いします!」
黒髪の少年が叫ぶ!
「ダメよ!これ以上はあなたの体がもたないわ!」
白い髪の女の子が少年の提案を否定する。
「僕はどうなっても構いません!みんなを助ける為にもう一度やります!」
「絶対ダメなのです!退却しましょう」
金髪の小さな少女が退却を提案する。
3人共、全身が傷だらけになっており今にも倒れそうだった。
3人の視界の遥か先に山のように巨大な影がゆっくり、ゆっくりと近づいてくる。
「くるぞ!逃げろ!」
空の上から銀色の全身鎧の人物が叫ぶと影の一部分が眩く光輝き、どんどんと光が大きくなっていき、地上の3人の近くに着弾し、大きく弾ける。
ゲームオーバーの気配が漂う。
これより物語は冒頭に巻き戻る。
この物語は異世界で弱くて非力で泣き虫な少年の物語。
〜友達がつくれない僕はやっぱり異世界でも友達ができない〜
少年が弓をキリキリと限界まで引っぱり狙いを定めて放つ。
勢いよく飛び出した矢は風を切り裂きピューと言う音を立て野うさぎの体に命中した。
「よしっ!」
スッと木の上から地面に向かって勢いよく降り見事に着地する。
矢を射った少年の名は相坂友也15才。
友也はその作業を何度もやっているだろうとわかるなれた手つきで野うさぎをロープで巻き、先に獲っていたであろう野うさぎ2匹と合わせて背中に背負う。
「今日は狩りで獲物がたくさんとれたし、村に野菜と交換してもらいに行こう」
「今日こそはたくさん喋って、、」
「今日こそは村の人と、、」
ぶつぶつと友也は彼の癖である独り言をずっと喋り続けている。
友也は幼い頃から開業医で仕事が忙しくてあんまり構ってもらった記憶のない医者の父と友也を何が何でも医者にしようと教育熱心な母にずっと英才教育を受けていた。
そのせいで物心ついた時から周りとはほとんど遊ばせてもらえず、勉強で手に入れた知識や学力の高さとは裏腹にまったくコミュニケーションがとることのできない子供に育ってしまっていた。
友也の学歴は幼稚園からお受験をして周りと競う事を覚え、小、中、高と常に進学校という環境で親のみならず塾の先生、受験に関係あるありとあらゆる大人から常に順位!順位!と普段から周りの子供は全てライバルだ!敵だ!負けるな!蹴落とせ!と毎日が牽制しあう最悪な人間関係で友達と呼べる同年代は結局1人もいなかった。
そんな毎日が友也は子供ながらに大嫌いで堪らなかった。
だか相談できる相手もおらず年齢を重ねるにつれてどんどん内向的な性格になっていってしまった。
「笑顔、笑顔、」
「人と人との出会いは笑顔から、」
「挨拶の基本は良い笑顔から、」
笑顔、笑顔と友也は呪文のように繰り返しながら自分の両手で頬の口角を上げ、苦手である笑顔をにへらっと他人から見られたらこれ以上ないくらいのぎこちない顔になって笑顔の練習を続ける。
そんな友也は小さい頃から誰にも言わず内緒で家の程なく近くにある小さな山に登って1人で木登りや泥遊びをするのが大好きだった。
親や周りの大人たちの気持ちに反して友也は机に座って勉強するよりも、外で思いっきり体を動かし、服をドロドロにして遊ぶ方が好きだった。
その日も学校から家に帰って母親から勉強、勉強と小言を言われ続けられるのにうんざりしてこっそり家を抜け出し、山の頂上にある大きな木の枝に登り座って町並みを眺めていると次第に瞼が重くなりうとうとして目を瞑ると、今まで見ていた町並みをが一変してまったくしらない土地になっていた。
最初はどこか勘違いして知らない木の上で寝てしまったんだと思い周りを確認したが、友也が知っている本の知識ではありえない生き物が多数見つけた所でハッキリと自分の置かれている状況を理解する事ができた。
自分は異世界に来てしまったんだと。
そんな着の身着のままの絶望的な状況でもなぜか友也は落ち込まず臨機応変に本で得た豊富な知識で今まで生き延びてきた。
むしろ自分ではこちらの原始的な生活の方が合っているんじゃないかと言う気にさえなってきている。
「こっちにきて半年はたったかなー」
「ほんとこのナイフだけはラッキーだった」
「このナイフが手に入らなかったらと思うと、」
独り言を喋り続ける。
友也の外見はちょっと気弱そうだが整った顔、黒髪に黒い瞳、身長160cmほどでこの半年のサバイバル生活で否が応でも引き締まったきている体に今は一張羅になってしまった学校指定のジャージを着ている。
そんな大切なジャージが傷つかないようにと大きな布をマントがわりに羽織っている。
その少年の腰には、このサバイバルベル生活で生きていく為の、生命線である偶然手に入れたナイフを失くさないようにしっかりと巻かれている。
このナイフは近くの崖の下で『お陀仏』になってしまったいた旅人風の格好をした骸骨から頂戴させて頂いた貴重な一品だ。
もちろんどこの誰ともわからにい骸骨は土に埋葬し友也なりに盛大に弔ってやったつもりだったが。
「迷わず成仏してください、、」
「迷わず成仏してください、、」
「迷わず成仏してください、、」
とその事を思い出す度に手を合わせながらブツブツと独り言を繰り返してしまう。
そんな独り言を繰り返しながら歩いている友也の視界に村が見えてくる。
「ついた、、」
村は30件ほどで、見たところによると井戸を中心に囲まっており、その周りに木でできた割と頑丈な柵がされている。
友也は既に何度かこの小さな村に来ていてある程度何があるかは理解しているつもりだった。
「小さな酒場に八百屋さん、果物屋さん、道具屋さん、鍛冶屋さん、ほんとゲームの世界にでてくる小さな村という感じだよね」
友也の今の最大の目標は小さな酒場で誰かとテーブルを囲みながら食事をする事だったのだ。
「そんなの夢のまた夢だけど、、」
友也の黒い瞳ににうっすらと涙が浮かぶ。
そうこうしている内に八百屋の前についた友也は腰から野うさぎを1匹ほどき店主に見えるように持ち上げる。
(ま、まずは笑顔、笑顔、)
(挨拶の基本は笑顔から、、)
友也は練習の成果虚しく、にへらっとぎこちない笑顔をしてしまう。
そして、、
「こ、こ、こ、このの、野うさぎとや、野菜をこ、、交換してください!!!」
と完全に上擦ってしまった声でさらに噛み噛みになりながら店主に叫ぶ。
すると八百屋の店主が友也の方を振り向き頬に傷の入った目つきの悪い顔で友也を見る。
(うぅ、、いつもながら恐い、、)
すると八百屋の店主はニカッと笑い屋台にある野菜を持っていけという仕草をして、、
「○+¥%<〒「〜^☆○」
何か大きい声で喋っている。
そう。
この世界の言葉は友也にはまったく言葉が通じないし理解できないのだった。
仕方なく友也はぎこちない笑顔で半泣きになりながら野うさぎを屋台に置いて小さな芋、むしろ屋台の中で一番小さな芋を一個だけとり逃げるように駆け出す。
その目には薄っすらと涙が流れる。
「うわーー!!」
友也は声にならない声で叫び、今来た道を全速力で駆けだしてしまう。
ポカンとした強面の店主を残して。