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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

普通の冒険

作者: 芹沢我聞

普通に異世界転移事故にあったらしいです。

 月光もさしこまない暗い森の下生えのなかを転びながら走る人影が一つ。

その背中を、わめきながら数人の小さな影が追っている。


 先行する一人は革製の鎧と、木製の丸盾と、腰に長剣とナイフを一振づつ帯ている。

一見して傭兵か盗賊のように見える。

黒髪のその男は、汗まみれの顔にちぎれた下生えの葉と泥がこびりつき、荒い息をはきながら後ろも見返らずに走る。

ギャーギャーと獣とも人ともつかない声に追われている。

「くそがぁーーー」

「冗談じゃねぇぞ」

「普通いきなり四匹とかでるかよ」

「なにが薬草摘むだけの簡単な依頼だよ」

「いきなり死にそうなんですけどー」

悪態をつくも切れ切れの息では悲鳴にしか聞こえない。


 男の背後からは複数の赤く光る眼らしきものが闇の中を迫ってくる。

必死で走る男の耳に水音が聞こえてきた。

男の前方に川幅10メートルはあるだろう河の深そうな緑色の水の流れが行く手を遮っている。

一瞬顔をしかめた男はなんと鎧のまま河に飛び込んでいった。

「日本人なめんなよー」

「古式泳法を修めた俺は革鎧ぐらい着ててもおよげるんだよー」

お叫びをあげながら男は飛んだ。

あとには川岸にたたずむ四つの緑色の影が残された。









 翌朝、街を囲む城壁の前で大きく曲がった河の中州に一人の男が流れ着いた。

「ようどざえもん」

「よっぽど水遊びが好きなんだなー」

「初仕事でひと泳ぎとはなー」

さまざまな声に片手で挨拶しながら、男は受付に歩み寄った。

「すいません薬草が水にぬれても依頼はかんりょうできますか」

おとこは窓口の女性に申し訳なさそうに冒険者カードとずぶ濡れの革袋から薬草をとりだし提示た。

「はい、薬草に間違いないのでクエスト完了です」

「報酬の銅貨30枚です」

女性は事務的に答えると薬草をうけとると銅貨の入った袋をかわりに置いた。


 愛想のない受付嬢から報酬をうけとると男は建物の外に出た。


「くーうっ」

冒険者ギルドの立て看板の前で大きく伸びをした男は、路地を進んでいき料理のにおいのする食堂らしき扉をくぐっていった。

「煮込み丼一つ」

 大なべをかき回している親父にそういってカウンターに腰をおろす。

いろんなものが入ってるであろう肉煮込みが入ったどんぶりが置かれた。

それを受け取りかわりに小銅貨を一枚置くと親父がそれをつまんでもっていった。

それを確認した男は、懐から袋をだしそこから二本の細い木の切れ端をだして、どんぶりに突っ込んで煮込みを下の飯ごとかきこんだ。

 

 そう飯、コメがここでは食える。

なぜ米があるのか男は知らない、一週間前河の中州に行き倒れていたのを助けてくれた商人がここで煮込み丼を食わせてくれたのでそれ以来においを嗅ぎに店の外にかよっていたが、今日やっとクエストの報酬がてにはいったのでさっそく食いに来たのだ。

  男の名は中山雷音17才の日本人である。

ここでの呼び名は「ライオン」をちぢめて「ライ」でとおっている。

 ライはこの世界になぜ自分がいるのかまったく記憶になく、この世界のことを全く知らなかった。

なぜか言葉が通じ読み書きができたため、行き倒れているのを救われ状況を確認しながら昨日冒険者登録をして初めての薬草取りクエストでいきなりモンスター四匹にからまれて、命からがら逃げ延びたのである。

また、再び河の中州に打ち上げられたので今の通り名は「どざえもん」というしまらないものだ。

 初心者無一文のライが装備しているのは、初心者セットという先輩冒険者が廃棄寸前の装備を貧乏な初心者用に冒険者ギルドに寄付したものである。

ほとんどの初心者は自前の装備をそろえてくるがたまに無一文でころがりこんでくるものがいてそんな者たちようである。

 ギルドの方針は「誰が高レベル者になるかわからないのが世の中初めに安く恩をうってんくにこしたことはない」というものだ。

むろん廃棄寸前を修理したものなので長くは使いつづけられない。

壊れるまでに装備も買えない奴はそこまでということだ。


  飯をかきこんで人心地がついたライは、寝床に帰り着いた。

とはいえ宿屋ではない、無一文のライが最初に連れて行かれたのが教会である。

朝一回の炊き出しとチャペルの長いすで夜ねていいというのがこの町の大地の神の教会の貧民救済のひとつだ。

 地球での記憶はあるが、この世界のことをまるで知らないライは僧侶や見習い僧侶たちにこの世界の成り立ちや地理歴史について貪欲にききまくった。

 河でおぼれて何も覚えていないと語って、信者たちえの読み聞かせにつかう書物を借りて読みふけった。

 むろん大地神に一日一回お祈りもした。

この世界に飛ばされるときの記憶はなく、どんな神や悪魔その他とも会わなかったが寝床と飯をもらっている以上拝んで頭くらいは下げるのが礼儀だと感じてのこうどうだった。

さらに朝の炊き出しを食った後に簡単な庭掃除をかってにやっている。

 後ろめたさを幾分か解消するためだ。


 教会の門をくぐったライに一人の僧侶が近づいてきた。

「ライさんその様子だと冒険者になれたようですね」

顔見知りの見習い僧侶シオールの声にライは立ち止まって一礼した。

「シオールさん、おかげさまでなんとか薬草は取れましたよ」

「ただゴプリン四匹に見つかってしまって、河にとびこむはめになってしまいました」

 ライは、ひととうり初クエストの顛末をシオールに語って聞かせた。

「あっと、司祭さまから伝言でした」

「冒険者になれたのなら今日からは、僧兵宿舎に泊まってくださいとのことです」

「武装したものをチャペルに寝泊まりさせられない決まりなんです」

シオールは申し訳なさそうに語った。

 この世界の教会には独自の武装勢力がある。

各神に共通の普遍的な敵が存在するからだ。

それは各国騎士団が警戒対応している魔王や魔族ではなく、アンデットである。

僧兵団とはアンデット専門の討伐を行う教会の独自戦力「神官戦士団」の通称である。


 曰く、生と死は神のつかさどるべきものそれに反逆する存在であるアンデットは神敵としてこれを討滅する。






 古びたランプの照らす石造りの頑丈な小屋の椅子に座りながらでライは緊張と恐怖に包まれていた。

「ババ引いたなー」

フクロウの鳴き声とオオカミの遠吠えが昏く響く暗い森、その夜霧の漂う窓の外の気配に耳をそばだてながらライはぼやいた。



  僧兵団宿舎に寝泊まりする条件は、冒険者ギルドへの指名依頼として僧兵団準団員として訓練と定期作戦に参加することだった。

ライは薬草摘みの依頼の時モンスターに襲われたことから何とかして身を守れるだけの戦闘技能を身につけなくては、早々に冒険者としてもやっていけなくなるのではないかと思い焦っていた。

ために渡りに船と僧兵団準団員登録依頼に飛びついたのである。

 なんといっても条件が良かった、戦闘訓練と作戦時の武器防具の貸し出しそして対アンデット用に光魔法及び火魔法または神聖魔法の適正鑑定および初期魔法の習得訓練である。

 戦闘スキルもそうだが何より魔法だ、適性しだいだが三系統のいずれか適性有りなら魔法を教えてくれるという。

おもわず依頼に飛びついたのも無理はない、寄る辺なき異世界でなんであれ「魔法」が使えるなら生き延びられる可能性はぐっと上がる。

 それに魔法使いの魔法についてはまったく情報が得られずなかばあきらめていた。

「魔法使いギルド」はあるらしいがどこにあるかは魔法使いたちの秘密らしいと噂に聞くだけだった。


 僧兵団の定期訓練は10日に一度で月三回である。

基本は本討伐用の装備を着て戦闘に耐えるための基礎体力造り。

盾と片手武器の基本戦闘術の習得と団員全員による勝ち抜き戦。

あとは習得可能な魔法がある者は魔法の訓練である。


 ライには光魔法の適性があった。

神聖魔法は僧侶などが参加するのでなければ習得許可に一年間の見習い僧侶期間が条件であり習得はいまのところ無理そうであった。

また火魔法はアンデット以外にも有効でありなにかと便利なのだが適性は見いだせなかった。

担当検査官は光は回復魔法もあるので有用だと言っていたが習得は初心者にはむずかしいそうだ。

 ライの習得できた光魔法は「ライトシールド」一つだった。

初期習得魔法はランダムらしく人によってはいきなり回復魔法というのもごく稀にはあったらしい。


 光魔法レベル1 「ライトシールド」

効果・光属性の魔力で造られたスパイクシールドを体の周囲に浮遊させて身を守る。光を集めて特定方向を照らせる。盾の最大数は術者のmpが切れるまで何枚でも。効果時間・術者本人が解除するか盾が壊されない限り存在持続。

対象・術者本人



 ライがいる小屋は、住んでいる街ガルドから離れた遺跡墓地といわれる場所の塀の外に造られた僧兵団詰所である。

墓地は200年以上前の遺跡らしく、昔から罪人や魔物の死骸を捨てる場所にされていたらしい。

古代の神殿跡らしく丈夫な塀に結界がはられていることもあり、中の魔物などが出てこれないので便利に使われている。

 結界は入るのは自由だが出るには奥の神殿に水をお供えしないと出れない仕組みである。

僧兵団に入って半年ライは初めての本討伐に参加してここまできていた。

本討伐といっても定期的なもので大規模戦闘ではない。

各班三人で深夜に神殿敷地内に突入して敵をできるだけ倒しながら神殿で退去のカギを手に入れて脱出してくることである。


「隊長大丈夫ですかー」

「おーいこっちだー」

「違うぞーこっちだー」

「おお怖い、まじでへんじが四方八方からかえってきやがる」

講習道理口頭での連絡は無理だった悪霊の返事が惑わそうとだいがっしょうだ。

 突入そうそう俺たちの班はゾンビの大軍にぶつかって分断されてしまった。

仲間の位置は魔法の地図に光点で表示されていてわかるが互いに現状報告はできない。

当初の予定道理中間地点となる宿坊跡に向かうしかない。


 ライの右手の銀のメイスが力任せにゾンビの頭を横殴りに吹き飛ばす。

「ちくしょう、うじゃうじゃとウゼーンダヨー」

必死の形相で怒鳴りながら前方の敵をメイスで砕きまくりながら突き進む。

いくら筋力が増し戦闘訓練をうけたといえ素人だっだライが戦っていられるのはこの世界の銀の性質による。

この世界の銀は光の精霊力を蓄える性質があり、対闇属性に限ってだが魔法の武器と同じ性能をあらわす。

「ほんとこの世界の銀はすげーぜ」

これなら地球のホラー映画の敵全部撃滅できそうだった。

なんといってもじったいのないゴーストを殴り飛ばせるのだ。

「スマホも、赤い海も、暗い井戸もめじゃねーぜーーー」

とわいえ一人で囲まれながら戦えるのはライのたった一つ覚醒した魔法「ライトシールド」あったればこそである。

ライの背後は光る魔法の盾が三枚浮いている。

また前方を照らす光を発しているのが、左手の本物の盾の表面にその盾の動きに付従いながら浮いているもう一枚の光の盾である。

それらが半径2メーター以内近づくものをシールドアタックで自動で吹き飛ばしているのである。

ゾンビなどは盾の一撃で半壊してしまう。

むろん感知魔法などないライがなぜ見えにくいゴーストや全方位から襲ってくるゾンビと戦えるのか、それは魔法の覚醒と同時にすべてのスペルユーザーがもつ術領域感知能力による。


 地球でも言われている、見えないお化けにはこちらも見えない。

がなにかのはづみで見えたりするときずかれると。



 これがスペルユーザーには当てはまる。

無論対処法があるので地球とちがい積極的に索敵に使える。

つまりモンスターと人間のスペルユーザーの互いの術領域がふれると相手の位置が判り互いに視認できるようになるのである。

術領域は初心者のライで半径5メートルの球形である。

魔法のレベル上昇とともに半径は広がりまた自在に伸縮させることもできるらしい。

 無論魔法の使えない人間や動物にも術領域はある半径0メートル。

体表である「ゾワリとした寒気を感じる」というあれである。

つまり気が付いたら敵の間合いという危険な状態なのだ。


 崩れず残っている塀や壁に身を寄せながらライが静かに移動している。

確かに術領域感知には物陰に隠れても見つかってしまうが、壁をすり抜けられるゴースト系でなければ敵は障害物を迂回するため、逃げる時間が稼げる。

お互いの術領域が離れれば普通にかくれんぼ状態に戻るので意外と物陰は移動に有効だ。


  やっと合流地点の宿坊跡に近づくと戦闘の音が聞こえてきた。

「うおーりゃ」

物凄い地響きと一緒にガーグ隊長のお叫びが聞こえてきた。

隊長は元僧侶で神聖魔法の使かい手で、班の回復の要だ。

ドワーフである隊長はその怪力にものを言わせ二人がかりでも持ち上げられない特注の両手用の棍を振り回してゾンビを一撃で五体は粉砕する猛者だ。


 戦闘に合流した俺に声がかかる。

「おー無事だったかライ、よく頑張ったな」

「おー無事だったのかよしよし」

最初の声は隊長で、次の上から目線が同じ新入りのキャスの野郎だ。

キャスは一緒に魔法適性を受けたんだが、あいつはファイヤウェポンを習得しやがった。

火魔法はアンデットに効くだけでなく他のモンスターにも有効で、しかも火をつけたいたい時も使え魔法の炎をまとった武器があれば松明などはいらない。

超がつく便利魔法の系統だった。

あれ以来なにかとライトシールドしかない俺に上から目線で接してきやがる。


 合流した俺たちは、中間地点の宿坊跡の建物の中で一休みしていた。

ここは建物が光の魔法陣の中に建っているのだ。

よく魔法陣は悪魔や神霊を召喚する場所だと誤解している一般人がいるが魔法陣とは本来召喚した悪魔などに術者が攻撃を受けないようにその中に立って術を行使する防御結界の一種である。


 簡易な食事と仮眠をとったのちに俺たちは宿坊を出て神殿への中央参道に出陣した。

神殿前にはざっと1000体のゾンビとゴーストの大群がうごめいている。

普通なら即死だろうしかしこちらには隊長の神聖魔法がある。

神聖魔法ブレス「神の加護をその身に宿すことで一時的に神の使徒としての力を授ける」

まさに対アンデット用魔法といえる。

 「行くぞ遅れるなよ」隊長が両手棍を構えながら詠唱をはじめる。

それが聞こえるはずのない距離なのに一斉にゾンビやゴーストがこちらを向いた。

 「やべーちびりそーだぜ」キャスの野郎が弱音を吐いているが、こっちだって御同様だ、むしろ弱音を吐けるキャスを少し見直した。

 おれはメイスを握り、隊をまもるようにライトシールドを全力の八枚展開しているので精一杯声も出なかった。


 「おのれ神敵どもめ、ドワーフ神王流豪風光波撃その身でとくと味わえー」魔法の詠唱の終了につづいて隊長の秘奥義がさく裂し、光の竜巻が旋回する両手棍から敵に噴出して参道を神殿まで開通させた。

俺たちは一丸となって敵の吹き飛んだ参道を走り抜ける。

敵の猛攻の嵐の中シールドが割れていき全員があきらめかけたその時、神殿の扉がひとりでに開く。

ライトシールドの最後の一枚が砕け散ると音を聞きながら神殿の扉の中に飛び込んだ。


 気が付いたら神殿の扉はしまっていて、外の魔物の声も物音も消えている。

隊長が水と供物をお供えすると、やわらかな気配とともに頭の中に声が聞こえた。

「お勤めご苦労様」

聞こえた瞬間、神殿の外壁の正門の前に俺たちは立っていた。




 








普通に終わりました。

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