夢の女
いつも酷い夢に襲われる。
この夢を見る様になったのは、1週間前からだ。
気づけばベッドで寝ている自分の姿が見えていて、
宙に浮いている様な不思議な感覚に縛られる。
ここでいつも気づくのだ。
あぁ、またこの夢か…と。
そう思っていると、ベッドの下の暗闇から髪の長い女が這いつくばりながら出てくる。
その姿を見た瞬間に、頭の先からつま先まで鳥肌になって行くのが
分かる。
女はゆっくりと立ち上がり、寝ている俺に近づいて行く。
数秒経ってから、気持ちの悪い笑顔を浮かべて、
寝ている俺の首を両手で締めていく。
女の白い肌に血管が浮かび上がる。
それ程の力が入っているのだと分かる程に。
ベッドの上の俺は、バタバタと苦しそうにしているが
少しずつ抵抗する力が弱まっていく。
いつしか動かなくなってしまった俺を見て、女は嬉しそうな笑い声を上げる。
次の瞬間。
女は宙に浮いて見ていた俺を見ながらこう呟くのだ。
「次はあなたよ。」 と
夢はいつもここで終わる。
朝起きた時には身体のだるさと、酷い汗で
又見たんだと確信する。
この悩みは誰にも打ち明けられていない。
こんな話をしたら、頭がオカシイんじゃないかと言われるに決まっている。
食欲が湧かなくて、ここ最近あまり食べていないからか、
酷く痩せこけてきたと思う。
両親や友達からは、心配の声が絶えない。
どーすれば良いのか分からないから、何も手を打てないまま
普通に暮らしている。
その夢を見るのは夜寝た時しか見ないはずだった。
最近の俺は熟睡出来ていない反動で、授業中に居眠りする事が増えていた。
安心して寝れる所が学校しかなくなっていた。
今日も授業中に居眠りをしていた。
すると、あいつが現れたんだ。
あの宙に浮いた不思議な感覚が来た。
机に突っ伏して寝ている俺がいる。
それを見下ろす様にあの女が立っている。
気持ちの悪い笑顔で女が寝ている俺の首を締めて殺す。
そしてこちらを振り返りまた言うのだ。
「次はあなたよ。」
「うわぁぁぁ!」
俺は跳ね起きて、気づけば立っていた。
みんなが俺を見て笑ったり驚いたりしている。
「どーした橘?」
「あ、いや…何でもないです。」
俺は跳ね起きた恥ずかしさよりも、あの女が昼に寝ても出てきた
事に動揺していた。
何でだ!何でなんだよっ!
この誰にも言えない悩みといつまで向き合えば良いのだろう。
俯きながら下校していると、いきなり後ろから声をかけられた。
「すいません、何か悩んでいる事はありませんか?」
振り返るとそこには大人しそうな男が立っていた。
これが、俺と景久との出会いだった