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文学

老婆の生命力

作者: 千路文也

 とある病院に不平不満を漏らしながら生き永らえている老婆がいた。その老婆は90歳を過ぎていて今にも死にそうな顔で呼吸をするのが精いっぱいだ。しわくちゃな顔をして眉間にシワを寄せながらも必死に存命しようとする理由。それは財産だ。元々はシングルマザーでダブルワークをして生活費を稼いでいた彼女だが、娘からインターネットのやり方を教わって以降、知らず知らずの内に株取引に手を染めてしまった。それ以降、ノリに乗った彼女は預金通帳に大量の金が転がりこんであっという間に億万長者となった。今ではとある会社の筆頭株主となって代表取締役の座に就いている。だが、死んでしまえば元も子もない。自分が死ねば子供達の元に財産が相続される。それだけは何としてでも阻止しなければいけない。もしも自分が死んで子供達が会社を継ぐとなれば、今までの脱税問題や口封じのためにヤクザと取引していたのが明らかになっていく筈だ。老婆と違って純粋な心を持つ子供達が真実に気が付けば、きっと事実を公表してしまうだろう。そうなってしまえば、会社倒産は確実だ。そこまで信用を失う程の悪に手を染めてしまった以上、しわくちゃな顔をして眉間にシワを寄せながらゴキブリのような生命力で生き永らえるのも不自然とは言えない。むしろ、巧妙的な人間は善人よりも寿命が長いのだ。


「はあはあ、ぜーぜーふー!」


 ストレスによる煙草の吸い過ぎで肺がぶっ壊れ、もはや人工的に酸素を送り込まないと息さえも出来ない。病院側にも見放されていて安楽死を家族達に進めてくる程、老婆は凄まじい形相で毎日を凄いている。もはや老婆の楽しみと言えば、一日でも多く生きて会社の悪事を暴かれないようにする事だけだ。自分が生きていれば独自のルートから警察関係者に圧力をかけられる。たかがインターネットに触っただけで、警察さえも動かせる筆頭株主に成り上がったのだから人生どうなるか分からない。金は手に入れたが、この状況を幸福とは一概に言えない。きっと、インターネットに出会わなければ五体満足、家族達に囲まれて幸せに息絶えただろう。今よりもシワの数は少ない筈だ。一度悪事に手を染めてしまえば幸せな眠りになどつけない。その事実に今更気が付いても遅い。老婆は死ぬに死ねない状況に追い込まれ、これまで以上の生き地獄を体感していく。医者に安楽死を勧められるぐらいなのだから、自分がどれだけ悲惨な病に犯されているのも分かっている。分かってはいるが極楽浄土に導かれるのはまだ早い。先に脱税、横領、癒着の件を揉み消すのが先決だ。


 しかし、あまりにも哀れな生き方である。金の魔力に憑りつかれて本当の幸せさえも失ってしまったのだ。この老婆を担当している医者は恐らく、何気ない日常生活がどれだけ恵まれているかを再認識させられているに違いない。そういう意味では老婆は反面教師として役立っているのかもしれない。



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