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  作者: K
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エピローグ

窓にもたれ、めずらしくマンションの外の景色を見ながら、風を感じているらしい巧に、爽は声をかけてみる。


あれから、丸一日かけて、爽は、部屋を掃除した。

まだ、電球やカーテンが、そろっていないが、生活は出来るレベルまで片付けて、爽は、退院した巧を迎え入れた。

「兄貴。」

「ん?」

振り向きもせず、巧が答える。

「兄貴は、どうして、薬剤師になろうとしたの?」

「どうして?」

「高校3年になるまで、そんなこと、一言も言わなかったろ?」

巧は、やはり、振り向かずに笑って言った。

「手っ取り早く金が欲しかったからな。」

「それは…」

「卒業したら、どっかでぐずぐずしてる暇はないと思っていた。就職浪人なんてありえない。手っ取り早く金になり、必ず就職できる職業を選んだってことだ。」

長男である巧が、旅館を継いでも良かったはずだ。

けれども、祖母の初枝は、爽が小学生のうちから、旅館を継ぐのは次男の爽だと公言していた。

そりの合わない祖母と一緒に旅館を経営する気はなかったろうが、実家で居場所のなかった巧が、考えたことが、家に頼らなくても、きちんと就職し、生活しようとしていたのだと、その為に、薬剤師という職種を選んだことを、爽は初めて知った。

「兄貴は、僕のこと、嫌いだったろ?」

「?」

巧がはじめて振り返る。

けれども、爽の表情がとても柔らかいことに、気が付いたようだ。

「いつの話だ?」

口元が笑ってる。

「小さい頃からずっと…」

巧は、ちょっと昔を思い出すように遠い目をした。

「まあな。」

「…。」

「でも、そんなもんじゃないか? 兄弟なんて。」

「…。」

「俺は、母さんを庇いすぎて、ばばあと上手くやれなかった。お前は、母さんともばばあとも上手くやっていた。俺は、志筑家で居場所がないと思っていたから、完璧な居場所を持つお前に嫉妬はしてたろうな。」

爽は、うなだれた。

「兄貴の気持ちは、想像できたよ。でも、上手くやっていたわけじゃない。嫉妬というなら、僕の方が自由な兄貴に嫉妬してた。」

「誰からも期待されなかった俺に?」

巧は、面白そうに笑った。

「ばあちゃんの期待が重かった。母さんを庇いたくても、庇えない自分が嫌だった。あの家で、僕は、いつもがんじがらめだった。ばあちゃんに逆らわらず、母さんを慰めることしかできなかった。」

「…。」

巧は、ちょっと真面目な顔をして、爽を見た。

「あの頃は、俺さえいなければ、志筑家は、丸く収まるくらいの考えしか持ってなかった。ある意味、お前に全てを委ねて逃げたって感じか…。」

と、言いかけて、巧は笑った。

「っつーか、お前、そう思ってたな?」

「当たり前だよ。同じ兄弟なのに、何で、僕だけこんなに重いものしょってなければならないかって、家にいない兄貴を恨んだよ。」

爽の言葉に、巧は、小さくうなづいた。

「ないものねだりだな。」

そして、遠い目をしながら言った。

「お前のことを、可愛いと思わなかったわけじゃない。」

「え?」

「小さい頃のお前は、俺にくっつこうくっつこうとしてたし。」

「…。」

「母さんから、同居についての話が出た時考えた。まあ、あの頃は、美咲んちに入りびたりだったから、お前がいようが居まいが、俺にとっては、どうでもいいって話でもあったが、ばばあ抜きで生活できるのも、楽しいかもしれないとちょっとは思った。」

「え? ほんとに?」

爽は、自分の声が、思わず大きくなるのを感じた。

「お前に霊感があることは、ずっと前から気づいてた。お前は、4歳の時にはじめて俺が気が付いたと思っているんだろうが、もっと前だ。小さい頃から、何もないところを見ては笑ったり、指さしたりしてたからな。」

「嘘だろ?」

「だが、友達にバレるのが嫌だった。こんな変な弟がいるって思われるのが嫌だった。」

「言うね。」

「ガキだったからな。過剰反応しすぎて、お前を叱りつけたことは後悔してる。」

「…」

「あれ以来、お前、見ないふりをし続けたろ?」

「結構、きつかったよ。信じてもらえないってのも。」

「信じてはいたんだ。」

「…。」

「俺も子どもだったからな。」

「今なら、わかる気がする。」

「いつまでも、子供じゃないからな。」

「…」

「母さんも…」

爽は、びくっと肩を震わせた。

「いつかは、自分を赦すさ。お前のことを心配しまくってるのは…」

「わかってる。でも、」

爽は、チラリと巧の反応を見た。

「心が読めるわけじゃないけど、普通の人がわからないことが、わかることがある。兄貴は本当に怖くないの?」

「怖くない。」

きっぱりと巧は、爽に言いきった。

「…。」

けれども、巧はもう一度声をたてて笑った。

「嘘だ。母さんの話を聞いて、少しビビった。」

「…」

「お前との同居が決まった時も、ビビらない自信はなかった。」

「…」

「でも、俺は兄貴だからな。」

「?」

「弟にビビるなんて、考えたくもねーし、そんな素振りさえ見せるのも嫌だった。」

「え?」

「美咲んちに入り浸ってたのは、お前に慣れるためもあったかもしれねー。」

「…」

爽が驚いている様子を、おかしそうに巧は見てる。

「お前が、俺の心の中をなんでもかんでも見透かしてるのか、俺のやってることが、全てわかるのか、見えたりするのか…」

「そんなこと、できないよ。」

「だよな。でも、それを確認するのが、正直な話、怖かった。お前の能力が、具体的にどんなものなのか、認識するのが怖かった。で、俺は、お前と距離をとりつつ、お前を克服する予定だった。」

「予定?予定って何だよ?」

「お前、俺が、いつまでも、弟ごときにビビッてるなんて、俺自身が納得するわけないだろ。」

「ええ?」

「俺のプライドが許さねー。」

「プライドって…」

「慣れなのか、どうなのか、ここらへんの俺の心理は分析不可能だが、時々、お前と会って、時々話をしているうちに、そういうことがどうでもよくなった。」

「どうでもって?」

「もともと、俺は、自分を肯定してるからな。馬鹿なことを言ったりしたりもするが、そういう自分も俺は赦してる。ばばあが、許さないことも、俺自身は、許してる。つまり、お前が俺の心の中を見れたとしても、俺の中にある馬鹿な部分を責めたとしても、俺は、俺を責めない。だからいいんだ。」

「できないし、兄貴を責めたりもしないよ。」

「わかってる。お前の問題じゃないということだ。ビビリは俺自身の問題だから、俺が平気なら、お前がどんな超能力者でも構わないってことだ。」

「?」

「だから、お前は、お前でいいんだ。どんなに、俺の中のゲスな部分が見られても、俺が俺のままでいいと思っているように。」

爽は、巧をじっと見つめた。

巧は、相変わらず、薄く笑ってる。

「おいおい。」

つーっと爽の瞳から涙が流れた。

巧が驚くが、爽自身も驚いた。

そして、葬式の事件から、感じていた孤独や悲しみが自分が自覚している以上に大きな感情であったことに気が付いた。

「母さんのことは、母さんが解決するしかない。母さんが母さん自身を責めている間は、しょうがない。俺みたいに、ばばあがやられて当然と開き直るか、どんなに善良に生きようとしている自分の中にも悪魔はいるんだと認めてしまうまで、母さんの葛藤は続くだろう。いつ終わるかは、母さん次第だ。お前は関係ない。」

「…」

涙は、爽が思うよりずっと溢れていた。

巧は、その様子をじっと見て、そして、しばらくして言った。

「本当は、俺は、お前に聞きたいことがいっぱいあるんだ。」

「?」

「もうちょっと開発してみようぜ。お前の霊感で、何ができるか、試してみたい。」

楽しそうに言う巧を爽は睨みつけた。


リメイク前は、構想なしの見切り発車でした。今回、構想を建て直したのですが、多くの材料を、処理できなかったと感じています。


爽には、人にとことん優しい目を持っていてもらいたいです。タイトルは、変えたかったのですが、間に合わず、文章の修正もできてなくて、もう締め切り間近です。

いくつか気になるところもありながら、締め切りを考えながら作品を書く意義だけは、考えています。

拙い文章を読んでくださっただけで感謝します。



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