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  作者: K
21/26

殺意

斧田が江藤に対する殺意を静かに育ませている間、斧田の束縛を離れていた志筑は、復調していた。

その日は、遅刻しそうになり、体調が悪くなってから、ずっと控えていたバイクで通勤してきていた。

バイクで走るのが好きなんだと平に笑って言う志筑の笑顔は、華やかだった。

早番で先に帰る志筑のその笑顔を、斧田は久しぶりに見てしまった。

斧田の中で、志筑に対する執着が、その笑顔で一瞬ぶり返した。

志筑を見たいという気持ちが、急速に膨れ上がった。

見たい、見たい、見たい。

斧田は、自分の欲求に当惑した。

元々、感情的になる自分ではない。

けれども、志筑を見たいと言う気持ちは、いったん感じはじめると、どんどん膨れ上がってくる。

ただ、見たいだけだ。

斧田は、耐えきれなくなって志筑をのぞいた。

その瞬間、斧田は総毛だった。

斧田の意識と一緒に、何か得体のしれないものが、流れ出すのを感じたのだ。

何が?

思うのと、志筑の姿をとらえるのが一緒だった。

同時に、志筑の車体がぐらりとゆらいだ。

めまいだ、斧田はハッとする。

その瞬間は、斧田にとって、スローモーションのようにゆっくり感じた。

対向車が、志筑のバイクめがけて突っ込んでくる。

ドライバーの意識はない。

まっすぐ突っ込んでくる車に気が付いた志筑は、ゆらぎかけたバイクをたてなおし、すぐさまブレーキをかけて、ハンドルを大きく切る。

しかし、突っ込む車は逃げる志筑のバイクの後輪をひっかける。

バイクごと激しく倒れる志筑。

斧田は、ハッと顔をあげた。

ここは薬局だった。

斧田の本体は薬局にある。

けれども、自分は見た。

志筑が事故にあった。

斧田は、肩が震えた。

僕のせいかもしれない。

斧田が、志筑を見たいという欲求が抑えきれず、志筑をフォーカスしたとき、一緒に流れこんできたものには意志があった。

そもそも、斧田に激しい欲求などなかったのだ。

斧田の背後にいた悪霊は、バラバラの状態で、ただそこにいるだけだった。

しかし、勝にシンクロしてしまったせいで、そのバラバラの意識が、急速に一つの意識に固まりつつあった。

それは殺意だった。

斧田の背後に大きな力を持って存在する意識は、殺意という確実な目的を持った集団になりつつあったのだ。

それが、斧田の意識と一緒に流れてきた。

斧田は、志筑を恨んでなどいない。

けれども、彼と一緒に流れた意識は、志筑をフォーカスしたとたん、形を持った。

僕の意思を無視して…

斧田は、震えた。

自分の背後のものは、志筑を殺そうとしたのだ。

車線をはみだした対向車は、一直線に志筑に向かっていた。

ドライバーの意識はなかった。

ドライバーを操っていたのは、斧田の背後にいた殺意だった。

まだ、完璧じゃない。

だから、後輪をひっかけただけですんだ。事故にあいたくないという志筑の意識と行動の方が強かった。

けれども、怪我はしたはずだ。

自分のせいで、志筑は事故にあった。

斧田は、その自覚があった。

平と白川が志筑の事故を聞き、様子を見に行くと言う。

斧田は、胸が騒いだ。

つい、白川と目を合わしてしまった。

人と目など合わせることがほとんどない斧田に、正面から見据えられて、白川は、面食らったようだ。

まさか、行く気はないだろうと、たかをくくって、つい声をかけてしまったらしい。

斧田が行く気になっているのを知って、声をかけた当の白川が当惑していた。

平に話すと、平も驚いていたが、江藤の担当が変わったという経緯もあるからと、勝手に解釈してくれた。

まさか、誰も、志筑の事故に斧田が関与しているなんて思わない。

3人で、とりあえず、駆けつけた。

思ったより、志筑は元気だった。

斧田はほっとした。

思わず笑みの出た斧田の顔を、じっと見ている男が病室にいた。

最初に挨拶をした、志筑の弟だった。

穏やかな雰囲気の青年で、人を見る目も優しい。

志筑が平や白川と話している間、ちょっと離れた窓辺から、面白そうにみんなを見ていた。

志筑と同じパーツを持つこの弟を斧田は知っていた。

志筑について、マンションをのぞいた時、彼は、その部屋にいた。

穏やかで温かい光のようなオーラを持つ男。

自分とは真逆の明るい力を持つ男。

斧田は、目を伏せていても、その弟がどこにいるのかわかる。

それくらい、異質な力を彼から感じた。

その弟の視線を感じる。

彼は、マンションでも、自分を見ていたような気がする。

志筑ではなく、自分を。

斧田が彼を観たように、彼も斧田を見ていたのだろうか?

彼には特殊な力がある。

斧田を感知している。

それは、何となくわかる。

彼なら、自分のことを、わかってくれるかもしれない。

斧田は、何故か、そう思った。



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