表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: K
14/26

事件

爽は、毎日、巧の見舞いに行った。

巧がとにかく心配だった。

今日も、巧からのリクエストのジュースや珈琲を持って、部屋の備え付けの冷蔵庫に入れようとすると、中に手作りらしき弁当が3つもある。

「病院食がまずいって言ったら、配達してくれた。」

「三つも?」

何も言わずに巧は、少し自慢げに笑う。

三人からか…

昼間はナース。夜は勤務先の薬局の事務の女の子たち。

兄貴の毎日は、パラダイスじゃないか?

本当に、これが、生霊の招いた不運なのか、疑問に思えてきた。


呑気にへらへらしている巧に、爽は斧田に会ったことを話さなければならなかった。

「勝手なことして、ごめん。」

話しあうような感じにはならなかったことを爽は巧に謝った。

結局、何にもならなかったのかもしれない。

むしろ、無意識だったものを、気づかせてしまうこともある。

彼の潜在的なポテンシャルを考えると危険な状況でもあった。

けれども、斧田に、巧への憎悪のようなものは、感じられなかったのは確かだった。

巧は、爽の話を聞いても、全然動じなかった。

「俺、斧田さんとは、別次元に生きてるって感じがするんだよな。」

「別次元?」

「うん、変な言い方かもしんねーけど、言葉の背景というか、裏側にあるものが違い過ぎて、同じ言葉を使っても通じないような気がする。」

「どういうこと?」

「俺の行動を、斧田さんが解釈すると、別の意味になるって感じ。だから、あの人とコミニュケーションはとれそうにない。つまり、説得できる自信がない。」

「え?」

巧が、何を言いたいのか、爽にはわからない。

けれども、人並みはずれた美貌を持つ巧が、平凡な容姿を持つ人間とは違う感覚を感じて生きていたとしても、不思議ではない。

爽が、霊感を持ったことで、人とは違う人生を考えたように、美貌という才能を持った巧が、人とは違う哲学を感じて生きてきたとしても不思議はなかった。

「でも…」

「心配するな。俺は大丈夫だ、多分。」

巧は、笑って爽を見た。

昔から、根拠のない自信を持つ男だったけど…

そこへ、巧の携帯が鳴った。

巧がとると、相手の早口でまくしたてる声が、傍に居る爽にも聞こえた。

「っと、落ち着け、白川。もっとゆっくり話せ。」

相手は、兄貴の同僚の薬剤師白川だった。

白川の大きな声が、今度ははっきり、爽の耳に聞こえてきた。

「あの江藤が自殺したんだ。」


白川の慌ただしい電話が切れて、爽は、巧に聞いた。

「江藤って?」

「うちの前の病院のいけ好かないドクター。」

巧は、吐き捨てるように言った。

確か、この前、平が見舞いに来た時も、その話が出ていた。

皆が一様に嫌っていたドクターだとわかる。

「俺達、薬局の人間は、ドクター様々なんだよ。逆らえないのをいいことに、好き勝手する勘違い野郎もいる。」

よほど、腹の立つ相手らしい。

が、思い出したように笑いだす。

「もう、死んだんだった。ざまあみろだ。」

そして、そのあと、首を傾げる。

「けど、自殺なんか、するタマじゃないぞ、アイツ。自殺?」

「何で自殺?」

「さあ。白川も、動転してたからな。家の屋上から飛び降りたみたいだって言ってたけど…。」

不意に、爽は斧田を思い出した。

「あなたのことはわかります。」

と年下の爽に敬語を使い、うつむきながら話す斧田の姿が浮かんだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ