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転性剣士商売  作者: 明之 想
第一章
9/61

第九話  方針

 今日は朝からケヘルさんの代わりに朝食を作り、片付け、日課のまき割り、洗濯などをこなし、その後に昼食を作りと、大忙しだった。

 傷は癒えているので問題ない、朝食を作るとケヘルさんは言い張ったけど、そこは休んでもらいましょ。


 それでも夕食は作ると言って聞かないので、まあ、そこは譲りました。



 そんな感じで、今日の鍛錬は昼から開始。


 今日は考えたいことが沢山あったけど、雑念を振り払ってまずは鍛錬と。


 筋トレ、走り込み、剣の稽古、魔法の訓練と一通りこなして夕方。



 さて、今日の鍛錬はこれくらいにして。


 思索の時間です。

 まずは、昨日の反省。

 昨夜は疲れていて、整理できなかったからね。


 反省すべき点を列挙してみよう。

 こういうのは一つ一つ個別に洗い出していくのがいい。


 戦闘に際し、身が竦んだこと。

 魔法という選択肢が出なかったこと。

 ケヘルさんの保護を優先すべきだったのではということ。

 特殊能力(2倍速)という選択肢が出なかったこと。

 戦闘直後の放心。


 こんなところか。


 うーん、仕方ない面もあるなぁ・・・。


 いくら長年剣の訓練をしていても、初めての実戦で相手が叡竜。身も竦むし、冷静な判断もできないか。冷静でいられなかったのなら、魔法も2倍速も思い浮かばないだろうし。単純に、普段使い慣れている剣に頼ってしまうよなぁ。


 ケヘルさん保護も・・・。


 うん、これは考えた。

 保護するために倒そうと思ったんだよね。

 問題は、勝算が無いのなら保護して退却、その可能性を考えたかという点だな。そこは、やはり冷静な判断はできなかったね。というか、彼我の力量さを認識していないのだから、どうせ正確な判断はできないか。


 それでも、推測はできるし、すべきか?

 うーん・・・。


 やっぱり、冷静さって重要だね。



 戦闘後の放心。

 これも初実戦後ということで、ある程度仕方ない。


 なんだか、全部言い訳してしまったぞ・・・。


 よし、今回は何といっても特別!


 今後こんなことが無いように、きちんとシミュレーションしておきましょ。向後どんな強敵と戦おうとも、どんな窮地に陥ろうとも、冷静に、状況、力量を判断し、戦闘後はすぐに最善の策をとると。


 肝に銘じておこう。

 常にこれを意識して訓練だ!


 今回は反省というより、次への対策になったけど、これでいいよね。




 次。

 今後の行動方針。


 同じく列挙。


 この世界で生きていくため、肉体的、精神的強さを身につける。

 生活費を稼ぐ。


 もう一つついでに。

 前世に戻りたいかどうかは別にして、戻る方法があるなら見つける。


 まあ難しいだろうけど、一応ね。



 こんなところかな。


 強さを身につけるには、今後も訓練、鍛錬に勤しむのみ。もちろん、その都度、工夫を加えていくけど、基本方針は鍛えると。これは問題ないな。


 生活費を稼ぐ。

 そう、これが問題だ。

 金が要るでしょ!

 どの世界でも、生きて行くにはお金が必要。

 仕事を見つけなきゃ!


 何かできることあるかなぁ。

 無かったら終わりだな・・・。

 

 異世界に来て、生活苦で自殺だなんて洒落にならないぞ。

 いや、異世界に来てる時点で、洒落になってるか!?

 いや、いや、いや。

 自殺は洒落にならんて!!


 ということで、ぜひとも仕事を見つけねば。

 ケヘルさんに相談してみよ。


 はぁ~~、また就職活動かなぁ・・・。



 前世に戻る方法・・・。

 もう、どうでもいいや。

 今はそんなこと考える余裕ないよ。

 手掛かりあったら考える。

 はい、それだけ。

 終了。




 気分を変えて。

 今日の主要課題。


 生活拠点の決定。引っ越し。


 この家を出ることは、少し前に決めていた。

 ケヘルさんはいつまでも居ればいいと言ってくれるけど、そうはいかない。

 この世界で生きていくんだから、ずっとこの家に居るわけにはいかないでしょ。


 とはいっても、二度とここに戻らないというわけではなく、たまに顔を出そうとは思っている。お世話になった恩も返したいしね。


 ケヘルさんにお世話になり続けるのにも気が引けてきて、そろそろ外で暮らそうかと思っていたところに昨日の対叡竜戦。

 一人暮らしをする踏ん切りがついたかな。


 何日後にここを出ようか?

 ケヘルさんの身体も心配だし、しばらくは留まるべきかな?


 どこで、暮らし始めようかな。

 ある程度大きい町がいいな。

 仕事あるところがいいなぁ。


 これも、ケヘルさんに相談だな。


 何にしろ、仕事を見つけねば。

 何だか、思索というより、思考の放浪になっているような気がする。

 こんな状態で考えても無駄だね。


 今夜、話してみよ。

 

 きちんと真面目に話さねば。


 さて、どうやって切り出すかな・・・。





 などと、思考の迷走は夕食中も続く。

 悩みながらの夕食は美味しくないのだ。

 食事を美味しくいただくのは生活の基本。

 それを怠ってはいけない。

 

 でも、今日は仕方ないか・・・。



「ちょっと話があるのですが」


 夕食後、早速話すことにした。

 食後に話をするのは珍しいことでもないので、ケヘルさんも話を促してくる。


「ケヘルさんには本当に感謝しています」


「・・・」


「見ず知らずの僕を助けていただいた上に、こうして家に住まわせてもらって・・・。命の恩人だと思っています」


 ケヘルさんが微笑んでくれている。

 珍しいな。


「私も助けてもらったよ。ハヤトこそ私の命の恩人だ」


「いえ、僕が助けなくても、魔法で何とかされたと思うのですが」


 本当は自力で何とかできたのではと疑問に思っていたので聞いてみる。


「無理だな。私の魔法の腕では、叡竜を一人で倒すことはできない。昨日の状況なら逃げるのも難しかっただろう。だから、今私がここにいられるのは君のおかげだ」


「そうですか・・・」


 まずい!

 それに、なんか気まずい。

 話がズレてるし。


「ハヤトは私の恩人なのだから、何も気にすることは無い」


 うーん、切り出しにくくなったな。

 また、今度にするか。


「話はそれだけか?」


 よかったぁ。

 ケヘルさん、空気を読んでくれた。


「その、実は・・・」


「気にせず話しなさい」


 よし、話してしまえ!


「こうしてお世話になっているのは、すごく助かりますし有難いのですけど、いつまでもお世話になっているわけにもいきません。いくら記憶がないといっても、この世界で生きていかなければならないのですから、外に出て暮らさなければ駄目だと思っています」


 一気に言ってやった。


「記憶が戻るまで残る気はないのか?」


 また、ありがたいことを。

 でも、ゴメンなさい。

 戻ることは無いんですよ。


「いつになるか分かりませんので・・・」

 

 わっ!

 ケヘルさん、渋い顔してる!?


「だからといって、すぐに出て行くつもりはないです。許してもらえるなら、もう数日は厄介になりたいと思ってますし。出た後も、またこちらに顔を出させてもらえたらと思ってますが・・・」


 黙ったままだ。

 お世話になった恩も返してないのに、元気になったらすぐに出ていく恩知らずってところなのか。

 そんなつもりは更々ない。


「あの、今回受けた恩は忘れませんし、必ず返したいと」


「そんな事はどうでもいい」


 話を遮られた。

 珍しい。

 やっぱり怒ってる??

 いや、穏やかな顔に戻ってるな。

 よかったぁ。


「何度も言うように君は恩人だ。だから気にしなくていいし、またこの家を出て行くのも自由だ」


「はい・・・?」


「ただ、まだ未成年のハヤトが一人で暮らしていくことはどうかと思ってね」


 心配してくれていたのか。

 ありがたい。

 本当は未成年どころか25歳だけどね。


「それに、年甲斐もなく寂しく感じてしまってな」


「!?」


 ケヘルさんが、自分の心情をこうして語るのを初めて聞いた。

 それが寂しいだなんて・・・。

 うるっとくるな。

 

「だが、気にすることは無い。確かに、ハヤトの腕を持ってすれば、一人で暮らすことに不安など無いしな。むしろ、町で暮らすのは良いことだ」


「・・・そうですか」


 うーん、いいのかなぁ。

 やっぱり、一人暮らしは延期しようか。

 なんだか、俺も寂しくなってきたぞ。


「まあ、たまには顔を出してくれ」


 そう笑顔で言ってくれるなら。


「もちろんです」


 外に出るとしよう。

 新生活を始めよう!




 それからは、新生活を始めるにあたって必要なことを、色々とケヘルさんに教授してもらった。その後、どの地が俺の一人暮らしに適しているかという話になったのだが。


 ケヘルさんの家のあるこの山はカフラマン山地という非常に大きな山地の南西の端にある。そして、この家の北にはマインツ帝国、南にはチェシュメル王国、さらに、西には国ではないのだけれど、レントという自治都市がある。


 マインツ帝国の南端にあるクーリンゲン、チェシュメル王国の北端にあるイズルク、そしてレント。この3つの町が今回の一人暮らしの候補地となる。

 交通面では、サニア村を通って行くことができるクーリンゲンが良いのだけど・・・。


 俺はレントで暮らすことに決めた。


 このレントという町は自治都市として交易が盛んで、多種多様な人種、文化が入り混じっているらしい。この世界の常識がない俺でも、奇妙な目で見られることが少なく、暮らしやすいのではないだろうか。

 そう思って、レントに住むことに決めた。

 実際、かなり自由な雰囲気の町らしく、余所者にも鷹揚な態度で接してくれるとのこと。


 よかった、俺向きだ。

 異世界初級者が気兼ねなく暮らせる場所なんて、そんなに簡単に無いだろうからね。


 ツイてる!



 さあ、一人暮らしを始めるぞ!

 楽しみだ!


 少し寂しいけどね。






活動報告載せてみました。

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