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転性剣士商売  作者: 明之 想
第一章
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第八話  感慨

 驚愕という陳腐な言葉で表していいものだろうか。


 これでも、長年の魔法研究、魔道具研究の中で通常ではできないような経験をしてきたつもりだ。天才、異才といわれる者とも時間を共にしたし、時には気狂いと言われた者とも研究を共にしてきた。魔物を研究対象としたこともあるし、後方支援ではあったけれど、対魔物戦闘もそれなりにこなしてきたつもりだ。


 だが・・・。


「常軌を逸している・・・」


 確かに、魔法分野での活動だけをしてきたわけだから、武芸については無知と言える。もちろん、剣を扱ったこともあるが、詳しいわけではない。それでも、戦闘を共にした者の中には剣を扱う者も多くいたし、その戦いぶりは幾度となく目にしている。


 あの速さ!

 威力!!


「・・・」


 ハヤトの剣。

 見たことも無いものだった。


 そのへんの腕自慢の輩とは明らかにモノが違う。

 ましてや、騎士という地位に胡坐をかいている者たちとは全く違う。

 

 世の中は広い。私が知らないだけで、実際にはこの程度の剣技を持つ者もいるのかもしれない。達人、名人の噂を耳にすることもある。中には、ハヤトを上回る者がいてもおかしくはないのだろう。


 それでも。

 あの剣は私の常識を超えていた。

 叡竜(えいりゅう )を一撃とは!


 成体なら、腕利きの者数人はいないと倒すことができないと言われる叡竜。

 それを、幼体とはいえ、剣の一閃で!

 驚くべき技量としか言いようがない。


 剣もかなりの業物なのだろう。

 叡竜の硬い皮膚を切り裂いてなお刃毀れもほとんど無かった。


 それに、次元袋。

 おそらく、その中に剣を仕舞っていたのだ。

 この次元袋も並の者が手にできる代物じゃない。高価なのはもちろん、市場にはほとんど出回らないのだから。魔道具を研究している私ですら、中サイズの次元袋を一つ持っているだけだ。


 名剣を使いこなし、次元袋を持ち、あの技量!

 それなのに、ハヤトはまだ幼さの残る14歳!!

 信じられない。


 10日前に私の前に現れたこの少年。

 15歳という成人に達してもいない少年が一人この山中に倒れていた不思議。

 訊いたところ、結界石を身につけていたわけでもない。

 この山は、14歳の少年が一人で来る場所ではないし、また来ることも難しいはずだ。

 しかし、今なら納得がいく。

 倒れている最中、魔物に襲われなかったのも僥倖だったと思っていたが、違うのかもしれない。魔物は生物の強さを、ある程度は本能で察知することができる。きっと倒れていながらもハヤトはその強さで自分を守っていたのだろう。


 思えば、初めから変わった少年だった。

 記憶障害を起こして、名前以外は何も分からぬと言いながら、特に慌てた様子もなく毎日を過ごしている。最初は、とぼけているのか、嘘をついているのか、などと思っていたが、記憶を失くしているのは本当のようで、色々とこの地の常識にも欠けていた。

 それにもかかわらず、動揺も見せない。幼さの残る顔つきに反したその態度は、とても14歳とは思えなかった。

 その飄々とした様子、丁寧でいながらどこか愛嬌のある言動に私は好意すら抱いていたものだ。


 しかし、あの知識の無さ。

 記憶障害だけが原因とは思えない。

 ハヤトは全く違う文化圏から来たのかもしれないな。


 納得したことがもう一つ。

 外に出て体を動かすと言って、食事と家事の手伝いの時間以外をハヤトは外で過ごしていた。そんなに身体を動かす必要があるのか、一日中何をしているのか、と不思議に思っていたのだが、今なら解る。剣の鍛錬に勤しんでいたのだろう。



 本当に、まあ色々と得心した。


 14歳だというのに、あの謙虚さ、丁寧な物腰。

 子供らしくないと思っていたが、あの強さを身につけるまでの修練は並の修練ではなかったはず。それが今のハヤトを作り上げたのだろうな。



 ハヤトはこの先どうするつもりなのだろう?

 こんな田舎の山奥でよければ、いつまでも居てくれてよいのだが。

 お金に困っているわけでもない。

 一人ぐらい増えても何の問題もないのだから。

 それに、何といっても命の恩人だ。

 ハヤトがいなければ、生きてこの家に戻ることもできなかっただろう。


 そうはいっても、ハヤトは前途洋々たる若者だ。

 ここに留めておくこともできまい。

 ここに留まることが良いことだとも思えない。


 とはいえ、まだ未成年。

 どうしたものか・・・。




----------




 今日は長い一日だった。

 朝早くに家を出て、サニア村での聞き込み、買い物。

 ドワーフにエルフ、エルフ美女・・・。


 そして、なんといっても、帰り道での魔物との遭遇。

 本当に疲れたよ。

 なんとか暗くなる前に、無事家に辿り着けて良かった。

 暗い山道で、魔物ともう一戦なんて、そんな元気なかったし。



 魔物・・・。

 本当にいたんだなぁ・・・。



 さっきの魔物は翼竜の一種で叡竜というらしい。

 その幼体。

 あれで幼体とは!

 成体になったら一体どれくらいの大きさになるのかと聞いたところ、あの2倍以上になるんだとか・・・。


 幼体で良かったよ・・・。


 叡竜は強さと知性を兼ね備えた個体で、こちらから攻撃しない限り、むやみに人に襲いかかることは無いそうだ。また本来この地に生息している個体ではないので、今回のことは本当に異例のことらしい。

 おそらく、群れで移動中はぐれた幼体が彷徨って水場に降りてきたところ、偶然ケヘルさんと遭遇し恐怖心から攻撃してきたのだろうと。群れからはぐれ、さらに幼体であったことを考慮すればあり得る話らしい。


 そういえば、この世界に来た日。

 窓の外に見かけたような気がする・・・。

 気のせいかな?


 ちなみに、ケヘルさんの持っていた携帯用結界石では、翼竜クラスの魔物にはあまり効果が無く、家に設置している結界石くらいでやっと効果を発揮するらしい。

 この辺りで、そこまで強力な魔物に出会うことは殆ど無いということなので、ケヘルさんも油断していたのだろう。後悔していた。


 それでもって。


 幼体とはいえ、その叡竜を一撃で倒した俺は凄いらしい!


 うーん、そう言われて悪い気はしないけど。

 本当かな?


 群れからはぐれて、空腹で、かなり弱っていたみたいだからなぁ。

 子供竜だし、怯えていたらしいし。

 だいたい俺の攻撃を避けようともしなかったよ。

 油断していたのかもね。


 本当のところ、俺なんかより凄いのは虎徹では!


 あの切れ味、そこらへんの業物ではないよな。

 大した抵抗もなく真っ二つに斬れるなんて、俺の力とは思えない。

 戦闘後も刀身が無傷に近い状態で、手入れもほとんど必要なかったし。

 前世世界の名刀より上かも。

 まあ、そんな名刀使ったこと無いから、比べることもできないんだけど・・・。


 うん。

 やっぱり、上だね。

 凄い刀を貰ったんだなぁ。

 これから先、何度も俺を助けてくれそうだ。


 とはいえ、今回の戦い。

 俺もそんなに悪くなかったよね。

 ちょっと自信がついたかも。


 恐怖心に打ち勝つことができた。

 逃げ出さず前に進めたのは、ホント良かったと思う。

 刀も何とか上手く扱えたかな。

 あの状況下、あの一瞬で刀に気を纏わせることもできたと思う。

 普段の稽古でも、あれほど素早く気を乗せることは中々できていない。

 それを考えると、いきなりの実戦で良くできたもんだよ。

 もちろん、まだまだ不完全だけどね。



 前から抱いていた不安も払拭できたかな。


 俺に魔物が殺せるのか?


 この世界で俺が生活するにあたって、魔物を殺さずに生きていくのは難しいだろう。


 だから、心配してたんだ。

 俺にやれるのかって。


 魔物とはいえ、ある程度の大きさの生物に対して剣を振るうことに抵抗が生じるのではないかと思っていた。前世では、生物を斬ったことなどなかったからね。

 

 まあ、でも、何とかやれたかな。

 今回はそんな悠長な状況ではなかったし、叡竜も愛護意欲を掻き立てるような姿でもなかった。


 うん?

 ということは・・・。

 違う状況なら、どうなんだ?

 ウサギみたいな、見た目に可愛らしい魔物が出てきたら?

 ・・・。 

 嫌な映像が浮かんだぞ。

 躊躇するかもしれない・・・。


 いや、まあ、何とかしますよ。

 きっとね。



 戦闘について、もう一つ考えたことがある。

 今回は咄嗟に虎徹を使ったけど、魔法で闘っていたらどうだったのか?


 遠距離から一撃で撃破!


 なんて、そんなに甘くないか。

 

 俺の魔法の威力ってどうなんだろう?

 今日の叡竜なら、魔法何発で倒せたのかな?

 それとも倒しきれない?

 自分では、魔法もそれなりに威力があると思っているんだよね。

 だいたい、俺の魔力で撃てるのは数発だから、威力がないと使い勝手が悪い。


 うーん、これも試してみなきゃ。



 そうそう、ケヘルさん、怪我を治癒魔法で治していたな。

 叡竜を倒した後、俺は思わずその場で放心してしまったから・・・。

 我に返って、治癒魔法を使おうとした時には、自分で治癒していた。

 ケヘルさん、やっぱり治癒魔法も使えたんだ。

 魔法を使えるのか訊いても、曖昧な返事しかしてくれないから、どんな魔法が使えるのかなんて全く知らないんだよなぁ。

 ケヘルさんについては、知らないことが多いよね。


 この治癒魔法、俺はまだ疲労回復の際にしか使っていないから、怪我を治したことは無いのだけど。治癒の仕組みには、なかなか興味深いものがある。


 治癒魔法とは細胞を活性化させて瑕疵のある部分を復活させるものらしい。

 魔力によって、またその熟練度によって、治せる怪我の種類、大きさが決まってくるのだけど、力が足りてさえいれば全快させることも可能らしい。

ただし、治癒後しばらくの間は修復部分が脆い状態なので、それなりに安静にした方がいいとのこと。


 傷が全快するなら、消毒無用か。

 薬なんていらないな。

 治癒魔法恐るべし!



 今回は結構深い傷だったけど、全快したと言っていた。

 ということは、ケヘルさん、かなりの腕前なのかな?


 しかし、あんな傷を全快させる治癒魔法が使えるのなら、攻撃魔法も使えるのでは?

 なぜ叡竜に対して攻撃魔法を使わなかったのかな?

 やっぱり、攻撃魔法は使えないのかねぇ・・・。


 あぁ、そうか。

 詠唱時間の問題かもしれないな。

 急に襲われたんじゃあ、詠唱の余裕なんてない。

 詠唱に手間取るとなると、攻撃魔法は近距離においては実用的でないかもしれないね。

 詠唱短縮とかできるのか?

 試したいことが多いよ。


 考えなきゃいけないことも多いし。

 やっぱり、異世界はたいへんだぁ。


 まあ、また明日考えよう。



 とにかく今日は疲れた。

 ホント、色々と長い一日だったから。








ここからの数話。

短縮しようかとも思ったのですが、

そのまま進めることにしました。


なので、若干ペースアップ。


今日は、10話までアップする予定です。

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