第六十一話 無法者 3
「このゴドン様を怒らせたこと、後悔してももう遅いぞ」
表に出るなり、凄んでくる大男。
こいつも獣人のようだ。
さっきの獣人とは大分違うな。
耳の形も違うし、それに毛深い。腕と胸にかなりの体毛がある。
そんな男の手には剣身1メートルほどの細身の剣。
エストックかな。
エルマさんなら木剣でも対処できるだろう。
しかし、大男に細身の剣・・・違和感のある眺めだな。
「何言ってんのよ。早くかかって来なさい」
毛むくじゃらの大男に対するのは、態度はでかいけど華奢な美少女。
見た目だけなら完敗だ。
周囲にいる人たちもエルマさんのことを心配そうに眺めている。
「それとも、やらないの?」
エルマさんの言葉に、大男の顔がみるみるうちに朱に染まっていく。
そりゃ、そうなるよ。
でも、これって挑発じゃなく、素なんだろうなぁ。
「このぉ! 殺してやる」
飛び出すようにエルマさんに向けてエストックを突き出す大男。
なかなかの速度と威力。
だけど、エルマさんなら問題ない。
余裕をもって剣を避けたところで・・・。
「うっ!」
あっという間の出来事だった。
突きをかわしざま、腹に一撃、さらに背中に一撃。
それだけで、男は悶絶してしまった。
「えっ!?」
「あんな娘が?」
「すごい・・・」
「あの美少女、なんて腕前だ・・・何者?」
「ざまあみろ」
「この村から出てけ」
「可愛くて強い・・・最高だ」
周りに集まっていた村人たちから歓声がわく。
大男に対する罵詈にエルマさんへの称賛。
あいつ、よっぽど嫌われてたんだな。
そして、エルマさんは村人の心を掴んだみたいだ。
「・・・・」
村人たちの視線の中、こちらに戻って来るエルマさんの顔は誇らしげだ。
「お疲れさま」
「お疲れさまでした」
「汗もかかなかったわよ」
素っ気ない言葉とは裏腹に、顔が緩んでいるよ。
「木剣を返すわね」
この木剣は次元袋から出したもの。
店に入る際に、エルマの求めに応じて渡していたんだ。
「エルマさん、さすがです」
ミュリエルの目が輝いている。
まあ、エルマさんのあの動きを見ればそうなるかな。
確かに見事だったから。
「あれくらい、なんてことないわよ」
笑みを隠せていないよ、エルマさん。
でも、大丈夫。
ミュリエルも周りの村人もいい笑顔だから。
うん。
この場は無事に収まった。
でも、このままでは終わらないだろうな。
面倒なことにならなきゃいいけど、そうもいかないか。
まっ、とりあえず、今は感謝の言葉を述べてくるお祖父さんと被害者の男性に昏倒している大男を預け、後のことを任せることにした。もちろん、大男は縄でしっかりと捕縛済みだ。自警団か何かはあるだろうから、そっちで処理するだろう。
ちなみに、大男の怪我は治療していない。
大した怪我じゃないからな。
痛みは残しておいた方がいい。
「ホント、助かりました。なんとお礼を言っていいやら・・・」
「お礼なんていいですよ」
「いや、そういうわけには」
「本当に気にしないで下さい。そんなことより、今回は災難でしたね。怪我は・・・・」
よく見ると、被害者の男性には小さな傷がいくつもある。
放置しても問題ないだろうけど。
「あっ、私に任せて下さい」
ミュリエルも気付いたようだ。
ということで、治療はミュリエルに任せましょ。
で、こっちのお祖父さんは。
やっと落ち着いてきたようだ。
自分の店でこんな騒動起こされたら、たまったもんじゃないだろう。
ご心労、お察ししますよ。
「先日に続いて・・・感謝の言葉もないのう」
「いえ・・・無事で良かったです」
店は大変なことになってるけど、怪我などなくて良かった。
店の修理費などは、この大男に払わせればいい。
「本当にありがたいことじゃ」
「そんなに感謝しなくていいわよ。それより、また美味しい料理用意してくれるかしら」
「もちろんじゃ」
満面の笑顔。
エルマさんも笑顔。
俺も美味しい料理をいただけるのは嬉しい。
「本当にありがとうございました」
「兄ちゃん、ありがとう」
奥に隠れていたウィナとディノの姉弟も姿を見せて、感謝の言葉を口にする。
「2人とも、大丈夫だったか」
「はい」
「うん」
それは、よかった。
「皆さん、中に入ってくれんかの」
確かに、いつまでも店先にいると目立って仕方ない。
お祖父さんの言葉に従い、皆で店の中へ入る。
「いやぁ、大したもんだねぇ」
入る間際に聞こえたそれは、聞き覚えのある声だった。
あいつも見てたんだな。
分かっていたことだが、店内はなかなかの惨状。
なので、とりあえず簡単に片付けてと・・・。
今店の中にいるのは、俺たち3人とウィナとディノの姉弟、お祖父さん、お祖母さんの計7人。捕縛済みの大男は被害者の男性と共に別室にいる。村の自警団らしき者たちが来るまで、捕らえた大男を見張ることになったからだ。
「それで、話と言うのは」
ウィナが俺に聞いて欲しい事があると言っていたよな。
「あのぅ・・・さっきの男とその仲間についてなのですが・・・」
やっぱり。
というか、今のこの村の状況からすれば、普通はその話だよな。
ウィナの話によると、冒険者くずれの無法者3人が村で好き勝手をしており、色々な店でもやりたい放題の行動。この店でも暴れられるんじゃないかと困っていたので、相談したかったそうだ。
「今さらなんですが・・・」
放っては置けないな。
「ウィナは心配しなくていい。こっちで何とかするから」
とりあえず、さっきの大男を自警団に引き渡した後は様子を見て、それで事態が沈静化しないようであれば、何らかの手段を考えよう。
「ありがとうございます」
その後、店にやって来た自警団に事情を説明し、大男を引き渡し、俺たちは宿に帰ることに。
さすがに、この惨状では夕食はいただけないだろう。
今夜は宿で夕食だな。
「ここの料理も悪くないわね」
「美味しいです」
宿での夕食は、レントとは食文化が違うのか、今まで見かけなかった料理が結構でてきた。
そういう点では楽しめたが、絶品というわけではないかな。
とはいえ、エルマさんの言うように悪くはない。
「おっ、もう食事終わったのかい」
開店と同時に注文したので、食べ始めの頃は他にまだ食事客はいなかったのだけれど、今はさすがに数人の客がいる。
こいつもやって来たみたいだ。
「ええ。そちらは、これからですか」
「そうなんだよ。よかったら、もう少し一緒にどうだい?」
ホント、なれなれしいな。
「いえ、もう入りませんよ」
「なら、一杯だけ付き合ってくれよ。おごるからさ」
「おごってもらう理由もありませんので」
「かたいなぁ~。大活躍のお礼だって。そっちの女剣士さんにも是非一杯おごらせてくれよ」
こいつも、さっきの乱闘の場にいたからなぁ。
「いらないわ」
「まあ、そう言わずに。さっきの剣捌き見惚れちまったんだからさぁ。ホント、格好良かったぜ」
エルマさん・・・・目は男を睨んでいるけど口が緩んでいる。
「こんな剣の達人におごる機会なんて滅多にないからさ」
あぁ、目も緩んできた。
「そ、そこまで言うなら少しいただくわ」
「おっ、いいねぇ。そこの美人さんも是非好きな物頼んでくれよ」
「いえ、私は」
「まあ、いいから。ねぇ、旦那」
俺のことか・・・。
ミュリエルが目で俺に聞いてくる。
はぁ~。
エルマさんが飲むなら、まあいいか。
「では、一杯だけいただきます」




