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転性剣士商売  作者: 明之 想
第一章
6/61

第六話  村

 翌日からは、それなりに充実した時間を過ごせたかな。


 まずは、ケヘルさん宅の家事手伝い。

 俺にできることなんて限られてはいるけど、洗濯、まき割り、料理の片づけなど。

 料理を作ることも提案したのだけど、それは却下された。作ってくれるらしい。


 優しいなぁ。

 それとも、料理好き?


 それ以外の時間は完全に自由に使うことができたので、この世界で生きていくための鍛錬、訓練に充てる。



 まずは、この14歳の体を鍛えなおす。


 なんか、凄いことになっていたけど、なまっていることには変わりない。

 長年、剣を学んできたせいもあって、なまっている身体というのが、何ともしっくりこないんですよね。

 まずは、走り込みと筋トレで基礎体力を作る。

 それから剣の型、動作を身体に叩き込む。

 そうすることで、感覚差みたいな違和感もなくしていくと。


 この身体でスムーズに動けるようになったら!

 そう思うと楽しみだね。


 ちなみに、筋トレに関して。

 そりゃ無いですよ。

 専用の器具、道具なんて。

 まあ、でも、そこは前世で少年時代から鍛えてきた俺ですからね。

 手に入る物だけで何とかしましたよ。

 何とかなるものです。



 次に魔法の訓練。


 今は魔法1といった初歩的な魔法しか使えないけれど、それを使いこなせるように。

 当然、魔法2とかあるんだろうね・・・。

 そもそも、魔法1って初級なの?

 まっ、これも考えるだけ無駄と。



 気を使うのと同じ要領で練習する。

 体内に生じた魔力を溜める、拡散させる、集積させる、密度を上げるなどして、発動する魔法の大きさ、形状、速さに複雑に変化を与え、多種多様な発動の訓練を。


 通常、魔法を覚えるには魔術書を使って独学で習得するか、魔術を教えてくれる大学で学ぶ必要があるらしい。もっとも、魔術書は高額で簡単に手に入れられる物ではないし、手に入ったところで独学は相当難しいとのこと。

 魔術大学(魔法大学?)もあまくはない。受験が必要で超難関らしい。

 とはいえ、この世界で魔法を究めようとする者は、多くはないとのこと。魔力は誰にでも備わっているらしいけど、量が少ない者が殆どだそうだ。必然的に学ぶ者は少なくなる。


 学ぶ者が少ないなら、難関と言いながら案外簡単だったりして。

 俺でも合格できるかな。

 うん?

 そういえば、俺も魔力量少ないか。

 ・・・。

 いずれにしろ、今の俺には無縁の話ですね。




 訓練の間は、昼食時を除いてケヘルさんに会うことも無く、ただひたすら没頭する。

 ケヘルさんも昼間は仕事で忙しいようだし、もともと寡黙な質みたいで、何も言ってこない。なまった身体を鍛えなおすとは伝えているので、特に疑問にも思っていないのかな。ずっと自室にこもって何やらやっているようだ。

 なので、俺の剣と魔法の鍛錬を目にすることは無かったと思う。


 特に奇妙なことをしているわけでもないし、他の世界から来たと思わせるような行動でもないと思うので、別に隠すことではないのだけど。


 しかし。

 いきなり現われた見知らぬ男が、自分の家に居ついて、昼間はずっと外で訓練三昧。

 変なヤツと思っているだろうなぁ。

 ・・・。

 鍛錬以外の時は、なるべく常識的に行動しなきゃいけないね。



 そんな鍛錬を終えた後。

 夜は知識の復習と考察。


 ケヘルさんに教えてもらったことを、前世から持ってきたノートにまとめ、自分なりの考察を加えていく。こうすることで、この世界で生きている実感を脳に刻み込めるし、覚悟も生まれてくる。


 ちなみに、ノートはケヘルさんの前では使っていない。

 この世界に存在する紙質を恐らく凌駕しているからね。説明がつかん。

 前世から持ち込んだものを、ケヘルさんに見せるつもりはないので。

 今のところはね。



 こうしてみると、自分が結構な真面目人間のように見えるなぁ。

 うーん・・・。


 もちろん、俺はそんな優等生ではないです。

 前世の俺は、剣の道こそ真面目に取り組んでいたけど、他のことは適当だった。

 学生時代の勉強も、社会人になってからの仕事もバリバリやっていたわけではない。

 特別に不真面目でもないが、それなりにしかやっていなかったな。

 ただ、長年剣に打ち込んでいたおかげか、自分の好きなことに対して努力を惜しむことは無かった。地道に物事を進めていくこと自体嫌いではなかったし、そんな努力が実を結ぶ時の喜びは格別だったから。


 もちろん、努力が実を結ぶことなんて、それ程あるわけではなかったんだけどね。

 なんて言ったら師匠に怒られる。

 師匠には、よく言われたなぁ。


「努力はしている時点で既に自分の実になっている。成果など付属品に過ぎない」


 人生という観点からみると、努力行為自体が自分の中身を変えていく。結果はおまけみたいなもので重要ではない。努力をしている瞬間が尊い価値のあるものだ。

 ということらしいけど・・・。


 頭では解っても、なかなか・・・。

 やはり成果は欲しいからねぇ。

 まだまだ未熟者です。



 だから、この世界での鍛錬はありがたい!

 新しいこの14歳の身体。

 剣も、魔法も目に見えて進歩していく!

 これは楽しいよ。


 まあ、楽しくなくても、生きていくためにはやらねばならないのだけどね。





 というように、鍛錬の日々を過ごして。

 俺がこの世界に来てから10日が経過した。

 最初は驚きの連続だったけど、何とか無難に過ごせていると思う。

 いや、むしろ快適に暮らしているかも。

 なんと言うか、居心地良いんだよな。

 妙にしっくりくるというか。

 不思議だ・・・。


 そう言えば、最近は変な気配もあまり感じなくなったな。

 なんとも変な感じだったから、あの気配が無くなるのはありがたい。


 さて、そんな事は置いといて。

 俺の10日の成果はというと・・・。


 たった10日ではあるけど、基礎体力も剣も魔法も、それなりに進歩したと思う。

 前世の俺より上達が早いかも。

 もちろん、前世では魔法は使えなかったので、魔法の上達云々は比較できない。

 剣も上達というよりは、今の自分の身体と25歳の身体の感覚差を埋めるという、そんな感じの訓練だったけどね。


 でも、基礎体力の上昇はちょっと凄い。

 前世の記憶があるので、根本的に理論を理解しているからなのか?

 単に、この身体のスペックが高いのか?


 といっても、前世の俺の14歳時の身体と同じだよなぁ。

 見た目同じでも、実際は違うのかな?

 うーん、良く解らない・・・。


 進歩が早いのは有難いことだし、まあいいか。



 理由は良く分からないけれど、基礎体力の上昇によって実際に使える筋力、腕力が凄いことになっている。虎徹なんて、全く重さを感じないくらいだ。


 この身体、ホント凄いよなぁ~。



 剣の方はというと、筋力の上昇に伴って以前の俺を超えたような気がする。理論は頭の中にあるし、感覚差も埋まってきた。そうすると、身体能力が上がっているのだから、前世超えも納得はできるかな。


 そして、魔法。

 野球のボールのような火の玉と、銃弾のような水の玉を撃つことができるようになった。


 精度はまだまだだけど、威力はそれなりにあるかな・・・、多分あるはず。

 特に水弾、そう呼んじゃおう、この水弾はなかなかのモノだと思う。


 とはいっても、使えるのは火と水の魔法だけなんですけどね。

 しかも、魔力量が少ないため、発動回数が少ないと。

 それでも、毎日のように限界まで魔力を使い、回復させてはまた使い切るということを繰り返しているうちに、多少は魔力の総量も増えたような気がする。

 魔力は使い続けると増えるみたいだ。


 ステータスで確認すると、増えていた。

 微増ですけどね。


 そうそう、治癒魔法はあまり練習することも無かったけど、疲労回復にも効果があるみたいだ。




 10日がたったその夜。

 いつものように、ケヘルさんの作ってくれた夕食をいただいた。

 いつものように美味しい夕食。

 この料理上手!


 そういえば、この10日間でケヘルさんの印象はかなり変わった。

 最初は老人に見えたのだけど、今では壮年の男性を思わせる。上背はそれほど無く、筋肉質にも見えないのだけれど、動きがきびきびとしていて、滲み出る雰囲気が老人のそれではない。加えて金髪碧眼。


 なんだか渋い。

 格好いいぞ!


 話しぶりも老人という気がしない。

 俺がこの世界に慣れて、見え方が変わって来たのかな。


 食事中、そんな感慨に耽っていると。

 ケヘルさんが話しかけてきた。

 食事中のケヘルさんは特に寡黙で、話しかけた俺に答えることはあっても、自分から話しかけてくることは殆ど無い。

 珍しいな。



「明日、サニア村に行くつもりだ」


 その件か。

 そろそろ、そういう話になるよね。


「食糧の買い出しもあるのでな。一緒に行かないか?」


 俺を助けてくれたのが、買い出しの帰りだった。

 それから、一度も村に買い物に行ってないなら、そろそろ食糧も切れる頃か。


「そうですね。ご一緒させていただきます」


 この身体にも、それなりの自信が持てるようになった。

 いい頃合いかな。


「もう大丈夫なのか?」


「はい。なまっていた身体も回復してきましたし、今の自分の状況にも慣れてきましたので」


「良いことだ」


 慈愛に満ちた目で見つめてくれる。

 言葉は少ないし、愛想もないけど、本当にいい人だ。


「村では、ハヤトを知る者がいないか調べてみよう」


「そうですね」


 いないですけどね。

 それともいるのか?

 本当は俺が記憶を無くしているだけで・・・。

 いやぁ、ないよね。

 あったら、怖いわ。


 ということで、明日の朝は早いらしい。

 サニア村まではたいした距離ではないそうだけど、買い出しに、聞き込みとなると、それなりに時間はかかる。日が暮れるまでに帰りたいなら朝も早くなる、ということらしいですね。


 うん?

 明日が早いから、食後でなく食事中に話しかけて来たのか??

 まあ、合理的ではあるな。

 ケヘルさんらしいか。






 ということで、やって来ましたサニア村。

 道中特に何の問題もなく無事に到着。

 

 この世界に来てからケヘルさんの敷地を出るのは初めてだし、ケヘルさん以外の人に会うのも初めてだ。何だか少し興奮する。

 エルフとかドワーフとかいるのかな?

 この世界には、いわゆる人間種族以外の知的種族がいるとは聞いている。


「この村には人間以外の種族もいるのですか?」


 好奇心を抑えられない。


「そうだな。この辺りは、互いの差別もあまり無いのでな」


 差別が根強く残る地域もあるらしいけど、ここは違うらしい。

 ケヘルさんも差別的なことを言ったことがないな。

 いやぁ、ワクワクする。


 家から乗って来た小さい荷馬車を厩に預け、村に入る。

 

 ケヘルさんの家からは北に位置するサニア村。

 日本出身の俺からすると、これが村なのかという程度の小さな規模だ。

 魔物が出るというのに、村の周りに土塁や柵があるわけでもない。

 結界石が効いているとはいえ、不用心な気がする。

 魔物が出たら、土塁や柵など関係ないということなのか?


 うん?

 そういえば、まだ魔物を見たことが無い。

 この辺りには、あまり生息していないのかなぁ。

 それなら、この様子にも納得いく。


 このサニア村。

 一応平均的な村らしい。

 宿屋も飲み屋も飯屋もある。食糧、日用品、武器なども手に入るそうだ。


「少し早いが、昼食にしよう」


 まだ昼食には早い時間だけど、朝が早かったので空腹です。


「いいですね」


 ケヘルさんに連れられて、昼食を出してくれるという店に入る。

 レストランとは言えないな。食堂、いや飯屋といった感じか。

 早い時間のためか、客は俺たちしかいない。


 そこで食べたものは・・・、麺類の一種か?

 何かの出汁で煮込んだ蕎麦みたいなもの。

 悪くはない。やはり、この世界の料理は俺に合っている。


 空腹もあって、すぐに食べ終える。

 ケヘルさんも食べ終えたようだ。


「ご主人、少し尋ねたいことがあるのだが?」


 料理を下げに来た店の主人らしき人に、さっそく尋ねる。


「この者の顔に覚えはないか?」


 ご主人は俺の方を訝しげに見て。


「覚えが無いですなぁ。ケヘルさんの知り合いじゃあないのですか?」


 やはり顔見知り。

 買い出しによく来るのだから、当然か。


「もちろん、知人だ。だが、知人になる前のことが知りたい」



 その後、ご主人に経緯を話し、俺のことを知っている可能性がありそうな村人を紹介してもらい、一人一人訊いて回ったのだが・・・。

 当然のことながら、成果は皆無。


「すまない」


 ケヘルさん、本当にガッカリしているみたいだ。


 「とんでもないですよ。ケヘルさんに謝ってもらうことなど一つもありません」


 俺にしてみたら、至極当然の結果。

 全く期待もしていなかったので、落胆などない。

 むしろ、俺のことを知っている村人がいる方が不安になる。


「僕のことは、もういいですから。食糧を買って帰りましょう。早く村を出ないと夜道を帰ることになりますよ」


 申し訳なさそうにしているケヘルさんを急き立て、買い物へと。

 ホント、気にしなくていいんですよ。

 異世界から来たんですから。




やっと外に出ました!


次話では、もう少し話が動く予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] タイトルに転性って書いてあるのに主人公転「生」はしたけど転「性」してなくないですか?
2022/03/01 07:45 退会済み
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