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転性剣士商売  作者: 明之 想
第三章
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第五十六話  救出

長い間、放置してしまい申し訳ございません。


「問答無用」


 その言葉とともに、待機していた大量の魔法が放出・・・されず。


「な、何を・・・」


 戸惑いの表情を浮かべ呆然と立ち尽くしている。

 そこを見逃す手はない。

 倍速で急接近。みぞおちに掌底一発。魔力と気を付与した掌底だ。一発で意識を刈り取るように調整してある。


「うっ・・・」


 うん・・・。

 気絶したようだ。

 いやぁ、あっけなかった。


 と、そんなことより、ミュリエルだ。

 駆け寄り、状態を確認する。

 よかった、大丈夫だ。怪我も無い。

 はぁ~、ほっとしたよ。

 一応、感知していたので無事だとは思っていたけど、ホントよかった。

 覚醒させようか。

 いや、今日はこのまま宿に連れて帰ろうかな。


 さてと、その前に後片付けをしないと。

 目は自然と刺客に向いてしまう。


 しかし、まあ、本当に腕利きだったのか。

 ジークの方が何倍も強いぞ。


 感知している時、そして実際に対した時にも大して強そうな気がしなかったんだよなぁ。身体から出ている気も小さかったし。展開している魔力も。

腕利きだと聞いていたから、何か隠しているのかとも思ったんだけど、それも無かった。

ホント、あまりにも迫力が無くて、話している間も気が緩みそうになったよ。


 で、片付け。

 殺さずに撃退できたのは良かったけど、どうしたものか。やっぱり、ランスアールさんに預けてレントの上層部にでも対処してもらうべきか。何と言っても刺客だからな。


 でも、そうすると俺の正体が・・・。

 ばれないまでも、両性具有の疑いは持たれるよな。

 それは困るんだよ。


 はぁ~。


 冒険者ギルドに登録する時に表示無しのエイドスを見せても何も言われなかったから、今回も非表示をもってすぐに俺を両性具有者と決めつけることは無いだろうけど。

 今後やりにくくなるのは間違いないか。


 どうすべきなのか?


 とりあえず、こいつの対処につき思いつく事はと言うと。


 1、 ランスアールさんに任せる

 2、 警備隊の詰所にでも放置

 3、 この廃屋にこのまま放置

 4、 始末する


 こんなところかな。


 1か2だと、レントの権力者たちが俺の正体について疑いを持つ恐れがある。

 まあ、この刺客が黙秘する可能性もあるけど、そんなものに頼るわけにはいかない。特殊な自白剤とか自白魔法とかもありそうだしねぇ。


 3は・・・。また俺のこと襲ってくるよな。今度は手勢なんか引き連れてくるかも。厄介だ。


 4。人を手に掛けるのは・・・。

 甘いとは思うけど。


 うーん・・・。


 どれを選んでも刺客を送り込んだ黒幕が俺を放置してくれるとは思わない。俺が両性具有だという疑いが晴れないかぎりは執念深く追いかけてきそうだ。


 やっぱり失敗だったよなぁ、あそこで表示無しっていうのは・・・。


 今度からは、エイドスを出す直前にきちっと確認するようにしよう。

 とはいっても、表示無しになっていたら、すぐに書き込めないんだけど。

 エイドスへの書き込みには多少時間がかかるから。

 うん、これも訓練だな。素早く書き込めるように。

 どう考えても、これは必要なスキルだわ。


 あぁ、話がずれてきた。

 さて、どうしよう。





 廃屋からの帰り道、走ってくるエルマさんに遭遇した。俺の助太刀に来たらしい。城門で俺とライナスさんが話すのを聞いていたから事情は知っているんだよな。もちろん、手助け無用と断っておいたんだけど、心配して駆けつけてくれたみたい。でも、もう終わりましたよ。俺に背負われたミュリエルを見て安心していたようだ。肩を落としていたけど・・・。


 しかし、どうやってこの場所を知ったんだ?





 宿に戻り、ライナスさんに無事救出成功と連絡をいれたところで、ミュリエルが目を覚ました。


「あっ? ここは? 私は・・・?」


 混乱しているようだ。

 顔色も良くない。

 当然、疲労は残っているから。


「もう大丈夫だよ」


「ハヤト様・・・」


 なんとなく状況を理解したみたいだ。


「うん」


「助けて下さったのですね」


 頷く俺の前に、大粒の涙を流すミュリエルがいる。


「ありがとう・・・ございます」


「怖い目にあわせてしまったね。でも、もう大丈夫だよ」


「うぅ・・・怖かったです」


「ごめんな」


 俺の言葉に驚いたように激しく首を振る。


「ハヤト様のせいではないです」


 いや、俺のせいなんだよ。

 ごめん。


「でも、助けていただいて、ありがとうございました」


「うん。ミュリエルが無事で良かったよ」


「ありがとうございました」


 同じ言葉を繰り返す。

 気にしなくていいよと言っても効果はない。


「これで何度助けてもらったことか。本当にハヤト様は私の命の恩人です。いえ、恩人どころではありません。どうやって、このご恩を返したらいいのか・・・。私には一生かけても無理な気がします」


「ホント、もう気にしなくていいから」


「そういう訳にはまいりません」


 ホント、真面目だなぁ・・・。


 そんなこんなで、ミュリエルの主張は続いたんだけど、まあ、それは置いといて。

 今日は疲れているだろうからと、休んでもらうことにした。





 俺の一日まだは終わらない。

 色々とすべき事が残っている。


 結局、廃屋で俺が選んだのはさっきの選択肢以外の選択。

 刺客は今俺の目の前にいる。

 廃屋でいつまでも悩んでいても仕方ないから、ひとまずミュリエルを宿に連れて帰ることにして、刺客も連れて来た。


 もちろん、ただ連れて来ただけではない。縄で拘束して睡眠薬投与。これで、少なくとも1日の間は動けないはず。

 その状態にした後、次元袋に収納してお持ち帰り。


 どういう仕組みかは分からないけれど、次元袋の中に生きている生物を入れても問題は無いようだ。以前、動物で実験したところ何の問題も無かったから。



 さて、どうしたものか。

 さっきの4つの選択肢。

 もう一度考えなくてはいけない。

 ホント悩ましいよ。

 目の前の刺客の安らかな寝息が憎らしくなってくるな。


 うーん、どれを選んでも俺が狙われるのは避けられそうにないよな。

 この刺客を脅して、俺が両性具有者ではないと雇い主に言わせてもいいんだけど、それもその場しのぎになってしまうような気がする。そもそも、あとで本当のことを報告されるかもしれないし。


 ほんっと、困ったなぁ。


 ・・・。


 ・・・。


 ・・・。






 これは、もう決断するしかないかな。


 以前から考えていた一つの決断。

 できれば、まだ選びたくなかったが。


 ・・・。


 うん、レントを出よう。





 レントを去ることは、前から考えていたことだ。ジークに襲われ、何とかそれを切り抜けた後も、また俺を狙う奴が現れるだろうと聞いては、この地に安住しがたいものがあるから。場所を変えて、今度は狙われることの無いように注意しながら過ごしたいと思うのは当然だろう。


 とはいえ、レントでの生活に居心地の良さを覚えていたのも事実。

 友人や知人もでき、それなりの伝手も手に入れ、生活の基盤も整ってきた。

 色々と世話になり、返していない恩もある。

 ミュリエルとの生活も始まったばかりだ。

 だから、今回の刺客を上手くやり過ごせれば、レントに残ろうと思っていた。

 少なくともしばらくは暮らすつもりでいた。

 部屋を探していたくらいだから。



 あ~、上手くいかないものだな。

 あんなミスしちゃって・・・。


 正直、今ここを去るのは辛い。後ろ髪を引かれまくりだ。

 でも・・・。

 いずれは他の町、他の国に行って転性方法を探すつもりだったんだから。

 それが早まっただけだ。




 去ると決めても、あとを汚して行きたくはない。

 可能な限り義理は果たしたいし、借りも返しておきたい。


 お世話になった人達に手紙を書いて、書ける範囲で状況説明もしたい。

 多少の嘘が入るのは見逃して下さい・・・。

 いずれはレントに戻るつもりだという事も書いておこう。


 ・・・。



 ライナスさん、レントに来て初めて知り合ったのがあなたで良かった。何から何まで面倒を見てもらってばかりで。本当に感謝しています。

 

本当に・・・。


そうだ、春水は置いて行きますね。

200リットルしかないけど、これで当分はなんとかして下さい。

また、必ず持って来ますから・・・。



バルドさん、冒険者としての心得を教えてくれてありがとうございました。一緒にした仕事、忘れません。

 本当に楽しかったです・・・。


 ランスアールさん、あなたとは色々あったけど、エスピナ砦の視察は良い経験になりました。勉強になりました・・・。


 ブルーノさん、ギルベルトさん・・・お世話になりました。


 ターヒル、慕ってくれて嬉しかったよ。レントに戻ったらまた稽古をつけるから。

 なんと言っても、俺の最初の弟子なんだから。

 お母さんを大切にな。


 そして、道場で指導したみんなも。



 ・・・。


 エルマさん。

 怒るだろうなぁ・・・。


 エルマさんとの道行は忘れることなどできない。

 何回も死地を乗り越えることができたのは、エルマさん、あなたのおかげです。


 ・・・。


 うん、言葉にできないな・・・。

 でも、手紙を書きます。



 ・・・。


 レントの皆さん。

 必ず戻ってきます。

 受けた恩は忘れません。




 手紙は俺の出発後に届けてもらうことにした。





 忘れるとこだった。

 ジークには手紙と、お金も包んでおこうかな。

 こんなもので借りは返せないぞ、なんて言われそうだけど、とりあえず今はこれで許してもらおう。事情を知って、また俺を追ってくるかもしれないけど。それならば、それでいい。



 で、ミュリエル・・・。


 これからどうなるか分からない今の状況では、本当は連れて行きたくないんだけど、レントに置いて行くのも危険だ。

 どこか安全な町にでも送り届けて、そこで暮らしてもらうとか。

 俺と離れて暮らす方が安全だろうし。


 ・・・。


 そうでもないのか。

 やっぱり、一緒に暮らした方がいいのか。


 ・・・申し訳ない。


 俺の奴隷になったばかりなのに、辛い目にあわせて。

 今の俺にできる事は・・・。


 ・・・。







 それで。

 この刺客は・・・。










 ライナスさんとエルマさん、ターヒルには手紙を直接届けることにした。

 やっぱり、直接届けたかった。

 会うつもりは無かったけれど・・・。


 ライナスさんの店には、春水と手紙を届けた。

 エルマさんにも手紙を。

 ターヒルには・・・。


 手紙を届けた時に会ってしまった。こんな早朝なのに・・・。

 レントを出ることを告げたけど、聞きわけてくれた。母のことがあるので、今はレントを出るわけには行かないと。

 でも、俺がどこに行こうと、いつか必ず会いに行きます。一番弟子なのだからと。

 剣の修練は続けます、次に会う時を楽しみにしていてくださいと。


 ・・・。


 言葉も無かった。

 俺はちゃんと対応できたのだろうか。





 落ち着いたら、必ずレントに戻ろう。







現在は新作の「30年待たされた異世界転移」の投稿を毎日行っております。

そちらも、お読みいただければ幸いです。


上記の作品は、伏線をたっぷり詰め込んだミステリー風味のファンタジーとなっております。

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