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転性剣士商売  作者: 明之 想
第二章
48/61

第四十八話  大地下2



 なぜ?

 どうして?

 腰に付けておいたのに。

 落下の衝撃で外れたのか?


 ・・・。


 やってしまった・・・。

 嫌な汗が背中を流れる。


 まずいぞ。

 あの袋は、失くすわけにはいかない。

 袋そのものが貴重だし、もちろん中に入っている物も。

 虎徹、お金、転移石・・・他にも色々。


「くっ」


 自分の迂闊さが情けない。


 でも・・・こうして悔やんでいても何にもならないな。

 そう、探すしかない。

 探しに行こう。



 その前に。

 とりあえず落ち着こうか。


「ふぅぅ」


 一呼吸入れてと。

 今は魔力も体力も万全・・・悪くない。

 持ち物は短剣のみ。

 幸いなことに、これは手元に残っていた。

 うん、何も無いよりましだ。

 次元袋を探すのにも特に問題は無いな。


 よし、行くか。


 乾かした服を身につけ、勇躍立ち上がる。

 まずは次元袋を見つけ出すこと。

 と同時にこの空間も探索していこう。


 次元袋を無くしたのは、おそらく川に着水した時、あるいは流されていた時だろう。

 となると、探しに行くのは上流か下流か。

 そうだなぁ・・・。

 まずは、上流に行ってみるか。

 落下したと思われる辺りを探してみたいからな。

 その辺りの川岸にでも落ちていればラッキーだ。

 水中に沈んでいるなら、見つけ出すのは厄介だけど・・・。


 とりあえず、水中は無視。

 川岸を注視しながら歩き出す。

 右手には携帯用の短剣。

 魔物が襲いかかってきたら、こいつで仕留めたい。

 少し心もとないが、魔力は温存したいから。

 しかしこの短剣・・・よく残っていたな。

 次元袋は落としてしまったのに。

 まあね、ありがたいんだけど。

 でも・・・手元に残っているのが次元袋だったらなぁ・・・。

 などと思いながら、ゆっくりと歩を進める。


 感知結界で調査。

 ・・・。


 今のところ近くに魔物らしき存在を感知していない。

 よし。

 探索に集中できて助かる。

 魔物が出てくると、探索どころじゃ無くなるからな。


 さらに、歩を進める。


 落下したと思われる地点は・・・まだみたいだ。

 あれだけの高さから落ちたんだから、落下地点の上にはかなりの空間が存在するはず。

 対して、ここでは頭上20メートルほどに岩肌が見える。

 うん、全く違う場所だろう。



 黙々と行進は続く。

 川に沿って歩いているためか、なぜか気分は悪くない。

 とはいえ、この先に対する不安は拭えないものがある。

 次元袋が見つからなかったら、どうなるんだろう。

 中に入れておいた貴重品を失うという問題も大きいけど。

 果たして、この谷底から自力で脱出できるのか。

 できなかったら・・・。


 嫌だぞ、こんな所で一生を過ごすなんて。

 いや、それ以前に、餓死してしまうか。

 水は目の前にあるけど、食料がなぁ。

 食用に使える魔物でもいればいいんだけど・・・。


 待て待て、ここで暮らす前提か。

 そんなの無理だって。

 たとえ食料があっても、こんな場所で一人で暮らしてたら発狂するわ。

 なんとしても脱出しないと。

 次元袋が見つからなくても、なんとか脱出する方法を見つけ出すんだ。


 ・・・次元袋見つかるといいなぁ。




 不安に苛まれながら、歩くこと数刻。

 川岸に次元袋らしきものは見当たらない。

 が、目の前の景色に少し変化が現れてきた。

 空間の高さはさっきまでと変わらないんだけど、幅が50メートル以上に広がっている。

 川幅も広がったようだ。


 落下地点も近いかもしれない。

 心もち慎重に先に進む。

 

 おっ!

 さらに空間が広がってきた。

 ・・・広いな。

 頭上に見える岩肌までの距離は、さっきまでとほとんど変わらないようだけど。

 この幅はなかなか・・・100メートル以上あるんじゃないか。

 今発動している火の玉では、端まで照らし出すことができない。


 と。

 ・・・。


 約100メートル前方に何かいる。

 魔物か?


 感知に集中。


 ・・・うん。

 魔物だな。

 しかも、かなりの魔力。

 強そうだ。


 とりあえず、水弾と火炎弾を三発ずつ用意。

 それぞれ二発は中威力、一発は高威力。

 ホントは魔法無しで倒したいのだけど、あの魔力は油断ならない。

 ここは慎重を期そう。

 短剣を構えながら注意深く歩を進める。

 魔物の方も既に俺には気付いているようだ。

 それはそうだろう。

 火の玉で照らしているんだから。

 まあ、でも、こんな暗闇で暮らしている魔物なら、明かりなんて無くとも俺を察知できるか。


 さて、彼我の距離が縮まってきたぞ。

 うん?

 あの魔物・・・。

 警戒しているのか。

 立ち止まり、そのままこちらを眺めている。


 強そうな魔物だけど・・・。

 ミノタウロスや赤鬼ほどの圧迫感はない。

 大丈夫だろう。


 そのまま、歩を進める。

 彼我の距離が50メートルを切ったところで、そいつは身を屈めた。

 下半身の筋肉が凄い。

 力が漲っているのが良く分かる。


 残り30メートル。

 その魔物は一気に俺の方に駆けだした。

 まるで、跳躍しているかのような走り。

 速い!


 あっという間に距離が縮まる。

 距離10メートル。


 よし!

 中威力の水弾発射。

 狙い過たず、そいつの腹に直撃・・・する寸前に回避された。

 およそ45度の角度でそいつは右前方に回避。

 速度を落とすこともほとんど無く・・・。

 なんという反射神経。


 思わず感嘆の声が漏れかけたが、そんな余裕などあるはずもなく。

 水弾を回避したそいつは、さらに進行方向を変え、俺の左前方から突撃してきた。

 手には鋭い爪。

 その爪を振るって。


 しかし、こっちにはまだまだ魔法が残っている。

 距離3メートル。

 中威力の火炎弾をカウンター気味に放つ。

 これは避けられないはず。


 ズバン!


 一瞬、炎が爆ぜる。

 やった、命中。

 真正面から胸にぶち当たった。

 まあ、そうだろう。

 この距離なんだから。


 が、炸裂した閃光の後には。


「なっ・・・」


 ホントかよ。

 この距離で、火炎弾が直撃したのに。

 自慢じゃないが、それなりの殺傷力を持つ一撃だぞ。


「ウゥゥゥ」


 無傷の魔物。

 低く唸るカンガルーのような魔物がいた。


 あれが効かないとは!


 確かに、的中する瞬間、火炎弾が押しつぶされるように拡散したようにも見えた。

 ・・・障壁なのか。

 こいつ、防御障壁みたいなものでも使えるのか。


 感知・・・。


 やっぱり。

 身体に密着するように、魔力で作られた障壁らしきモノが確かに展開されている。

 予想通りとはいえ。

 厄介だ。

 俺も魔力や気を防御に使っているから良く解る。


 この魔物、無傷ではあるが火炎弾の直撃を受け、さすがに用心したのか少し距離を置いて俺と対峙している。


 ・・・見た目はカンガルーを少し細身にした感じだな。

 目は紅く光り、手には長く鋭い爪。脚の筋肉が異常に発達している。

 間違いなく強いんだろう。

 が、間近で見てなお、それ程の圧力は感じない。

 障壁は面倒だが、それでも問題無い。

 そう感じる。


 と、次の瞬間。

 そいつが、再び跳躍した。

 俺の眼前に繰り出される右手の鋭い爪。

 左に跳んで回避。

 そのまま右脇に中段蹴りを叩きこむ。


 よし。

 確かな手応え。

 爪カンガルーは数メートル吹っ飛んでいる。


 それでも、すぐに立ち上がり、燃えたつような眼を俺に向けてくる。


「グルルゥゥゥ」


 戦意が全く衰えていない。

 これも効いてないのか。

 手応えはあったのに・・・。

 やはり、障壁防御。

 物理防御も万全というわけか。


 ・・・。


 なら、試してみるか。

 この距離なら、なんとかなるだろ。

 未完成だけど、試す価値はある。


 体内にある一部の魔力を練り上げる。

 そのまま、魔力を体外へ放出。

 指向性を与え、前方へ。

 爪カンガルーの魔力障壁にぶつける。

 干渉、妨害・・・。


 ・・・くっ。

 駄目か。


 魔力に魔力を干渉させて、発動を阻害する。

 それなりに訓練してきたつもりだけど、まだまだということか。


 しかし、まいった。

 あの障壁、どうしたものかな。

 力技で無理矢理攻めるべきか。


 ・・・。


 うん?

 そうか・・・。

 これはいけるかも。


 よし、今度は俺からだ。

 真正面から跳び込み短剣を突き出す。

 爪カンガルーも突っ込んできた。


 奴の爪と俺の短剣が火花を散らして交錯する。

 それも一瞬のこと。


 再び距離を取り対峙。


 俺の頬に赤い一筋。

 ほんの少しかすっただけなのに、その威力を感じさせてくれた。

 が、あいつは・・・。

 少しふらついている。


 上手くいったようだ。


 短剣をおとりにして、すれ違いざま左手で掌底を入れてやったからな。

 体内に直接響くような掌底を。

 効果ありだ。


 あの障壁、身体に密着していた。

 なら、障壁の上からでも内部に振動を伝えることができれば効くはずと思ったんだけど。

 予想通り。

 いや、予想以上の効き目だな。

 が、まだ致命傷ではない。


 だから、速攻で畳み掛ける。

 短剣を突き入れるが、障壁に弾かれた。

 やはり、この攻撃は通らない。

 ならば、ゼロ距離からの中威力水弾。

 吹っ飛んだものの、まだ障壁は破れていない。


 すぐに追撃。

 奴の腕を掴んで固定し、掌底を打つ。

 もがきながら苦し紛れに振るってくる爪の攻撃を躱しながら、掌底を連続で突き入れる。


 大分効いているな。

 障壁も弱まってきた。

 そろそろか。

 掌底を打ち込んでいた箇所に高威力の水弾。


 ドシュ!

 

 鈍い音と共に水弾が障壁を破り、心臓を貫通。

 鮮血の中、爪カンガルーは崩れ落ちた。


「ふぅぅ」


 このスピード、この防御。

 なかなかの強敵だった。

 いい勉強にもなったな。


 が、一息ついたのも束の間のこと。

 いや、一瞬だけか。

 どうやら、休ませてくれないようだ。


 すぐそこに、今度は4匹の爪カンガルー。

 待機魔法は中威力と高威力の火炎弾が一発ずつ。


 これは・・・大変だ・・・。






 爪カンガルー4匹。

 2倍速を使って、なんとか倒すことができた。

 できたんだけど・・・。

 その代償は安くない。

 こちらもそれなりに傷を負ってしまった。


 この慣れない環境の中で魔物4匹を同時に相手するのは、さすがに容易ではない。

 しかも、爪カンガルーが4匹。

 魔法も準備不足だったしな・・・。

 おかげで、無詠唱魔法を数度試すことになってしまった。

 半分程度は成功したから、これくらいの負傷で勝ちを収める事ができたんだろう。


 しかし・・・。


 ほとんど魔力を使い果たしてしまった。

 現状では水弾も火炎弾も使えない。

 治癒魔法で傷を完全に治療することもできない。

 当然、今魔物に襲われたら、かなりやばいことになる。

 今は近くに魔物がいないから助かっているけど。

 早く魔力を回復させないと、ホントにまずいな。

 感知結界の展開に割く魔力すらほとんど残っていない。

 なので、精度の低い感知結界を50メートルの範囲で維持するので一杯一杯だ。


 こんな時、次元袋があればな。

 あの中には、薬なんかも入っているのに・・・。

 袋を失くした自分がつくづく情けない。


 はぁ・・・。


 まあ、悔やんでいても仕方ない。

 今は回復することが優先だ。

 まずは、魔力の回復。

 目立たないところに隠れて回復するまで待とう。

 そうだな。

 少なくとも2時間は欲しいな。

 そうすれば、多少は魔法も使えるはず。


 とにかく、ゆっくりと回復に努めたい。

 今は魔物に見つからない事を祈るばかりだ。




 が、こういう場合は、えてして遭遇するもんなんだよな。

 なかなか辛いものがある。


 約半時間の休憩後。

 魔物に見つかってしまった。

 幸いなのは、魔物が一匹だったという事だけか。



 俺の前方50メートル。

 ミノタウロスを小さくしたようなスリムな牛頭の魔物がそこにいた。







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