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転性剣士商売  作者: 明之 想
第一章
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第四話  所持品

 今、俺はケヘルさんの家の裏庭にいる。


 母屋からだいたい50メートルくらい離れた場所だ。

 50メートル離れてはいるけど、見渡す限りこの辺りに家はケヘルさん宅だけなので、裏庭と呼んでいいだろう。

 ここは適度に木々で囲まれ、外からは視認しづらい地形になっていることもあって、ちょうど都合がよい。これから、ちょっとした実験をしていきたいからね。

 


 まずは、目の前に二つのバッグを置いてと。

 思わず、まじまじと見つめてしまう。


 1つ目のバッグは前世の日本で俺が使っていた鞄。電車にひかれた時に持っていた鞄だ。一緒にこの世界に来たらしい。

 もう一つのバッグは、腰から下げる用のものか?

 20センチ四方くらいの革袋。

 これには全く見覚えがないのだが、ケヘルさん曰く、倒れていた俺が腰に下げていたらしい。


 なんだか良く解らないが、前向きに考えよう。

 きっと恩恵の一つだ。

 うん、きっとそうだ。



 昨夜早くに寝た俺は、さすがに今朝は早く起き出した。

 朝食をいただいた後、ケヘルさんとこれからの話をして・・・。


 記憶をなくし身寄りのない俺を放置することはできないと、しばらくはこの家で暮らすように説得された俺は、遠慮しながらもこんな有難い話はないということで。お世話になることになりました。


 本当にケヘルさんには、お世話になりっぱなしだ。

 正直、この家から出ることを覚悟していたからさ。

 ケヘルさんに助けてもらったのは幸運としか言いようがないね。


 お世話になるからには、手伝えることがあれば何でも手伝うので言って欲しいと意思表示したのだけど、その年齢で殊勝なことを言うと感心されましたね。

 そんな歳って充分な成人だと思うんだけどなぁ。この世界の常識では違うのかなぁ、などと思いつつ。

 とりあえず落ち着くまで数日は自分のために時間を使うようにと言われ、それではということで、色々と実験をすることにしたのだ。


 本当はもっと話がしたかったんだけど、ケヘルさんは急ぎの仕事があるらしく、夕食後まではあまり時間が取れないとのことだったので仕方がない。

 それでも、昼食は作ってくれるらしい。

 有能な人なんだろう。



 ということで、木漏れ日が降り注ぐ素晴らしい午前の時間に、俺は裏庭にいるのですね。


 さて、さっそく実験を始めたいのですが、もうひとくだり。

 さっき体験した話を。

 ついさっきのことです。

 ショックでした!




 実験の前に、まずは健康チェック。

 ステータス確認と。


 体力、魔力、問題なし。

 特殊能力、魔法変わりなし。


 よし、昨日と変わりないな。


 と確認した俺。

 ではと、ステータス表示を頭から振り払おうとした。

 その瞬間、奇妙なモノが目に入ったのですよ。

 正確には目に入るわけではないのだけど、まあ、目に入ったと記す方が解りやすいかな。

 とにかく、奇妙な文字が目に入ったのだ。


 14歳 人間種


 えっ!?

 えぇぇぇーーーー!!


 俺って14歳なのかぁーーー??


 意味が解らない。

 理由が解らない。


 そういえば、手が少し小さいような気もする。

 視線も低いような気がする。

 

 本当に14歳だとすると・・・。

 俺の14歳時の身長は何センチだったかな?

 身長は高い方だったので、160センチ以上はあったような。

 とすれば、25歳の俺よりは10センチ以上低くなる。

 視線も低くなって当然か。


 この家には鏡がないから気付かなかったのだが、鏡で自分の顔を見れば明らかに幼くなっていることに気付けていたのかもしれない。

 昨日、窓に映して見たのだけど・・・。

 気付かなかったなぁ。



 しかし、なぜ若返るんだ?

 どういうことだよ、これ!?

 何か意味あるのか?



 と、しばらく煩悶した後。


 まあ、開き直るしかないよね。

 若返ってラッキー!!

 くらいの気持ちで。

 これも恩恵の一つかもしれないしね。


 なんだか一晩寝たら、随分と気分が軽くなった気がする。

 屈託がないというか、何というか。

 俺ってこんなに気楽な人間だったかな?

 若返ったせいなのか?

 うーーん。

 まあ、いいか。


 そういえば、ケヘルさんが会話の中で、事ある毎に俺の若さを話に出していたけど、なるほど、納得したわ。


 しかし、異世界に飛ばしたり、若返らせたりできるのなら、前世で俺の体を欠損なく再生できるんじゃないの、なんて思うよね。

 なんか不都合でもあるのかねぇ。

 考えても仕方ないことだけど。




 こうして、開き直った俺は実験をすべく目の前にバッグを二つ置いているのでした。



 さてと、まずは前世から持ってきた鞄。


 中に入っているのは、財布とスマートフォン、携帯用ソーラー充電器、ノ-トに筆記用具、タオル、刀の整備用具が少し。あとはお菓子少々。

 剣術の稽古に行った帰りだから、こんな物しか入っていない。

 まあ、それは仕方ない。というより、この鞄が存在することは幸運だ。俺の手元に残された数少ない前世の遺物。前世社会の遺物。

 ありがたい!



 では実験だ!


 携帯を取り出して・・・。

 やはり電波は届いていないか。

 もちろん電話は繋がらないし、現在地情報も確認できない。


 異世界だとは認めつつも、この世界が未来の地球である可能性は僅かながらあると考えていたので、それならばスマートフォンの機能が使用できるかどうかで判断してみようと試したのだけど。

 まあ、使えないね。

 未来の地球ではないか・・・。


 ただし、他の機能、アプリなどには当然使えるものもあるわけで、この世界で生きていくにあたって有効に利用できるかもしれない。


 充電器持ち歩いていて良かったぁ。

 でかした、俺!


 あと、スマホで自分の写真を撮って確認したけど、確かに若返ってましたね・・・。




 さてと、次に・・・、謎の腰袋。

 実は、すでに特殊能力を使って鑑定はしている。

 

 次元袋!?


 イタい名称だよ。誰が名づけたんだ。

 自動翻訳だから、誰ってことも無いか。

 とはいえ、かなりの優れものっぽい。

 20センチ四方の大きさにもかかわらず、中には約100立方メートルの容量があるらしい。容量有限の四次元ポケットみたいなものかな。

 これは使える!

 ちなみに鑑定では、袋の中身までは判別できないようだ。


 さっそく、試してみよう。

 本当に大きいサイズのものが入るのか?

 近くにあった1メートルくらいの枝を入れて。


「!」


 思わず、振り返る。

 が・・・、何もない。


 ・・・。


 また、なんとも形容しがたい気配を感じたんだけどなぁ。

 やっぱり、まだ本調子じゃないんだな。


 ・・・。



 まあ、いいか。

 今は次元袋を調べたいしね。

 さて、枝を入れてと。


 「・・・!」


 吸い込まれるように入っていった。

 何とも不思議な光景だ。

 袋が枝を食べるように吸い込んだぞ。


 とにかく、四次元ポケット確定と。


 次は、取り出してみよう。

 袋を開けて、中を見ると・・・。

 真っ暗だ!!

 気味が悪いと思いつつ、中に手を入れると・・・!?


 不思議な感覚が俺を直撃した。

 中に何が入っているのか、中は見えないのに感じることができる!

 うん?

 枝以外にも何か入っているぞ!?

 取り出してみると。


 中に入っていた物は。


 麻袋に入った銀貨と銅貨。

 それに、日本刀!?


 異世界なのに日本刀?

 そんなのあるの・・・?


 まあ、まあ。

 鑑定してみましょ。


 まずは、お金らしきもの。

 銀貨50枚、銅貨100枚。


 5100セルク??

 セルクって何だ?


 通貨単位かな。

 だとすると、銅貨1枚で1セルク、銀貨1枚で100セルクとなるのか。

 多分そうだろう。

 なぜお金が入っているのかは分からないけど、これも恩恵かな。

 ラッキーだ。

 お金はあって困ることは無い。

 しかし、これってどれくらいの価値があるのだろ?

 大金持ちになっていたりして!

 まあ、それはないか。あとで、ケヘルさんに訊いてみよう。



 剣の鑑定。


 長曽禰虎徹!?


 虎徹!!


 えぇーーー!!


 虎徹って、あの近藤勇が使っていたといわれる名刀の虎徹なのか。

 本物か?

 というか、なぜこんな逸品が、この異世界の鞄の中に?


 鞘から刀身を抜き出し、しばし凝視・・・。


 俺も剣術をやっているから、日本刀を目にすることはよくあるけど、さすがにこんな名刀を手にしたことは無い。展示されている名刀なら見たこともあるけど、もちろん触れたことなどない。


 しかし、そんな俺でも、この刀が只ならぬ業物であるということは感じ取れる。

 溢れ出る剣気、気品!

 間違いなく名刀だ!

 反りは幾分浅く武骨に見えるが、それでいて優美さを失っていない。

 刃文は数珠の様な模様を描いている。


「美しい・・・」


 俺も25歳の大人なので(まあ今は14歳みたいだけど)、物をもらってそんなに喜ぶこともないのだけど、こればかりは嬉しくて仕方がない。

 剣道、剣術と長年剣に携わってきたせいでもある。


 いや、違うな。

 正直に言いましょ。


 俺は日本刀が大好きだ!

 単純に好きだ!


 いやぁ、本当に嬉しいなぁ。

 この虎徹をもらえただけで、この世界に来た価値があると思えるよ。


 嬉しさのあまり、色々と弄ってしまう。

 こうしていると時間を忘れるよね。


 ん?

 この刀には銘が無いな。

 本物なら銘があるはずだけど・・・??

 まあ、異世界に虎徹というのも奇妙な話だし、これは前世の日本でいうところの虎徹風の日本刀と捉えたらよいのかな。

 うん、名刀であることには変わりないのだし、そういうことにしておこう。


 結構な時間、触っては眺めていただろうか。

 名残惜しい気持ちを押し殺して、銀貨、銅貨とともに虎徹を次元袋に戻す。


 もっと虎徹を触っていたいし、試し切りもしたいところだけど、今はまだすべきことがある。



 さてと、現時点での所持品は以上。


 そういえば、ケヘルさんが俺を見つけた時には、俺は前世の服を着ていなかったみたいなのだけど、どうしてだろ?


 色々と不思議体験をさせてもらっているので、こんなことができるのなら、前世の服の再生など容易いだろうに、とは思う。

 矛盾を感じるけど、俺には理解できない道理、節理でもあるのかな。

 この世界に俺を連れて来たのは、神様か女神様かそれとも別の何者か・・・。


 そんなことは知らないけど、基準が解らないなぁ。

 虎徹を与えてくれるし、若返らせることもできるのに、服は無理って・・・。


 ホント、上の方の考えることは俺のような凡人には解らん。




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