第二十六話 発掘
今は戦闘もほぼ終わりといったところ。
アルザザ軍は総崩れといった状態で、しんがりの部隊僅かを残して撤退中。
ランスアールさんが戦闘を予期していたので、俺たちはずっと監視を続けていたんだよね。
夜襲開始からずっと観察しています。
「しかし、よく判りましたね」
抱えていた疑問をぶつけてみる。
「この丘は見晴らしがいいからね。アルザザ軍はもちろん、砦にいるローレンシア軍の動きもある程度は見えるよね。そのおかげ」
確かに、砦の中もある程度は見える。
堀と土塁に柵でできた砦とはいえ、レントの城壁ほどの高さは無い。
この丘なら監視可能だ。
まあ、だから、この場所にいるんですけどね。
それにしても、よく判ったよなぁ。
兵たちから戦闘の匂いなんて嗅ぎ取れなかったけど・・・。
そもそも、そんな目で砦の中は見ていなかったか。
「これだけ見晴らしが良い丘に斥候が来ないなんて、やっぱり情報収集は軽視されているんですね」
俺なら、ここに斥候を送るかな。
戦争など考えたことも無かった俺が言うのも、おかしな話だけど。
「うーん・・・少なくともアルザザ軍はそうなんだろうね」
ローレンシア軍は違うのか。
歯切れ悪いな。
「何か疑問でもあるのですか?」
「まあね」
どうしたんだ?
らしくないな。
「ひょっとすると、ローレンシアの指揮官は情報を重視しているかもしれないと思ってね」
「なぜです?」
「兵の動きから、戦端が開かれる時期は読めた。でもね、ローレンシア軍の兵数が予想以上に多いんだよ」
へぇー。
そうなんですか。
「ほら、アルザザ軍を圧倒してるでしょ。夜中の奇襲ということだけが原因じゃないよ」
「確かに、圧倒的ですね」
「僕の見積もりだと、砦にいるローレンシアの兵数はアルザザ軍の半数以下だったんだよね。なのに、今見る限りでは、ローレンシア軍の方がかなり多いんじゃないかな」
夜中の戦闘という事もあって、さすがに詳しくは見えない。
ランスアールさんの使っている望遠鏡は、かなりの優れものらしく暗視性能も付いているようで、夜中でもある程度は見えるみたいだけど。
暗視性能って魔法なのかな?
「奇襲だけではなく、兵数もこの圧勝の原因だと?」
「そうだろうね」
そういうものなのかな。
いくら奇襲に成功しても、数に劣れば巻き返されることもあるということか。
それを可能にするのは指揮官の力量。
指揮官次第だと思うけどね。
「この兵数・・・。僕が読み違えていただけか。それとも僕の気付かぬ内に援軍を砦内に引き入れたか・・・」
そんなに気になることかねぇ。
読み違いじゃないんですか。
援軍が砦に入るとこなんて見てないし。
「この丘から見ている限りでは、援軍が来たようには思えませんでしたが」
もちろん、監視していなかった夜中に来た可能性はある。
それでも、砦の中の様子に変化は無かったような・・・。
「そうなんだよね。援軍が来た様子もないし、兵数も多くないはず。なのに、現実にはあの兵数」
うーん。
確かに、なぜだろう?
「砦のどこかに兵を隠していたか。外部には気づかれない方法で砦内に入れた援軍を隠していたか。いずれにしても、情報軽視の指揮官がすることじゃないよね」
そうか。
情報漏洩を気にしていないなら、兵を隠す必要もないし、隠密裏に援軍を迎える必要もない。
「敵の予想以上の数で奇襲をかけることで、一気にかたを付けたかった。だから、実際の兵数を隠していたと。そう考えるのが妥当だよね」
なるほどねぇ。
「となると、ローレンシア軍の指揮官は情報を重視している。なのに、斥候の影が全く見えないんだよね・・・。アルザザ軍の中に間者を送り込んでいる。そういうことなのかな・・・」
敵の中にスパイを送り込んでいたのなら、納得できるか。
「アルザザ軍が情報に疎いなら、情報漏洩にも気を配ってないだろうし。間者の成功率も高くなるからね」
ザル守備の間を抜くようなもの。
簡単に成功しそうだね。
「概ねそんなところなんだろうね・・・」
ローレンシア軍の指揮官は、この世界には珍しく情報を重視するタイプ。
指揮官だけでなく、ローレンシアという国が情報を重視し始めたとすると。
レントにとって脅威になる可能性もある。
珍しく、真面目な話をするランスアールさんの心中も穏やかじゃないのかも。
「ローレンシア軍は大したものだね。僕に確信を持たせないなんて」
それでも、そう言うか。
「僕が確信を持てない、つまり情報を隠している。逆説的に言うと、そうなるね」
「・・・」
自信家さんだこと。
戦闘時期を当ててるから、過信家とは言わないでおきましょ。
などと話している内に、戦争は終結した。
見事なまでのローレンシア軍の勝利。
数時間後。
今、俺はランスアールさんと戦場跡を歩いています。
戦場跡なんて初めて見るけど、まあ目を背けたくなるね。
この辺りは、樹木と岩が多少あるくらいで見晴らしがいい。
なので、見渡す限り惨状が目に入ってくる。
「それで、何を調べるんですか?」
「さあ・・・。それが問題だね」
はぁ~。
「今回の視察の目的は何なのです。戦いぶりということなら、もう見終えたじゃないですか」
「そうだねぇ」
一体何を見に来たんだ。
両国の思惑というやつか。
しかし、そんなもの戦場跡で見つかるのか?
戦場跡を歩くこと数刻。
悲惨な様相に俺は気分が悪くなってきたが、ランスアールさんは平気な顔だ。
いつも通りのふざけた表情。
ただ歩いているだけで、検分している様子もないのだけど・・・。
本当に何しに来たんだ?
「ちょっとこっちに」
突然、傍らにあった岩の陰に誘われる。
「どうしたんですか?」
「静かに・・・。あそこを見てごらん」
そこには。
砦から現れたであろうローレンシア兵の姿が。
主戦場になった場所から北東、砦からは東に位置する地点に多くの兵士たちがいる。
「何をしているのでしょうか?」
ここからでは、よく分からない。
「もう少し近づくよ」
2人で気配をできるだけ消して、近づいて行く。
あと100メートル程度。
これ以上近づくのはマズくないか。
「まだ進むのですか?」
「そうだね。とりあえず、ここで様子を見ようか」
集まっている兵士たち。
何か作業をしているようだ。
何をしている?
兵士たちは手に・・・シャベルを手にしているのか。
ランスアールさんは望遠鏡片手に真剣な顔。
さすがに、ふざけていないようだね。
「何か見えますか?」
「うん・・・」
「掘っているんですかね?」
「そう・・・だね」
「うーん」と唸りながら凝視を続けている。
掘削のような作業をただひたすら眺める。
何か分かったのかな?
「・・・」
すると。
「もう少しだけ近づこう」
「大丈夫ですか?」
不安がる俺を尻目に先に進んでいく。
置いて行かれるわけにもいかず、俺も前進。
二人して匍匐前進だ。
まさか現実に匍匐前進が必要な事態に遭遇するなんて、前世では夢にも思わなかったよ。
何が起こるか分かんないねぇ・・・。
これからこの世界で生きていくんだから、ホント、覚悟が必要だ。
あらためて実感するわ。
そう思っている間にも、どんどん近づいて行く。
おいおい、どこまで行くんだ。
もう目と鼻の先だ。
話すのも躊躇われる。
そこにあった適当な岩陰に隠れ。
「大丈夫ですか?」
囁くような小声で。
「ここからだとよく見えるでしょ」
そりゃ、そうでしょうよ。
でも、不安だ。
見つからないか?
まあ、見つかっても逃げる方策はあるんだけどね。
「やっぱり掘ってますね」
小声なら大丈夫そうだ。
「・・・」
「何を探してるんでしょう?」
岩陰に隠れること数刻。
結構疲れるな。
・・・。
おっ、何か出てきたぞ。
掘削した個所から取り出したのは・・・木箱。
中には何が?
中から取り出したのは・・・鉄塊。
10センチ、20センチくらいの鉄塊? 鉄棒?
何だろう?
小さくてよく見えない。
ランスアールさんも真剣に望遠鏡をのぞきこんで・・・。
顔を上げると・・・にやけた顔になっている。
「仕事は終わったよ。帰ろうか」
「えっ?」
「もう仕事は終了。まあ、まだ残ってもいいんだけど、今回はこれくらいで」
これで終了?
ということは、あの木箱の中身が知りたかったってことなのか。
「・・・分かりました」
「では、ささっと帰ろうかね」
そういって、鞄の中を探り始めるランスアールさん。
次に懐を探し始める。
その時、片手に持っていた望遠鏡が手から離れ・・・。
カーーーン。
カン、カン・・・・・。
乾いた音が響き渡る。
「・・・」
「・・・」
バレたね。
間違いなく気付かれたね。
案の定、俺たちの隠れている岩陰に気付く兵士たち。
「何者だ?」
「誰かいるのか?」
近づいてくる。
が、まだ少し距離はある。
「どうします、走って逃げましょうか」
走って逃げるか、転移石を使うか。
「大丈夫、転移石があるから。それに逃げきる自信ないし」
「では、早くしてください・・・とりあえず、時間稼ぎに背負って逃げましょうか」
「大丈夫」
まあ、転移石があるから大丈夫か。
この人数相手に戦うのは厳しいしね。
ランスアールさんを守ってとなると・・・無理かな。
それに、手加減する余裕などないだろうから、間違いなく人死にが出る・・・。
それは・・・避けたい。
だから、ここは逃げるに限る。
自分だけなら逃げきれる・・・と思う。
でも、ランスアールさんを連れて逃げるのは難しい。
背負って逃げきれるか?
微妙だな。
追っ手の技量次第かな。
やはり、ここは転移石に頼りたい。
幸い発動までに要する時間は数秒。
まだ、大丈夫だ。
・・・。
・・・。
もう、時間が無い。
見つかるぞ。
囲まれるぞ。
「まだですか?」
「・・・」
どうした、まだか!
「・・・ゴメン・・・落としちゃったみたい・・・」
はぁ!?
何ですってぇぇーー!!




