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転性剣士商売  作者: 明之 想
第一章
26/61

第二十六話  発掘





 今は戦闘もほぼ終わりといったところ。

 アルザザ軍は総崩れといった状態で、しんがりの部隊僅かを残して撤退中。


 ランスアールさんが戦闘を予期していたので、俺たちはずっと監視を続けていたんだよね。

 夜襲開始からずっと観察しています。



「しかし、よく判りましたね」


 抱えていた疑問をぶつけてみる。


「この丘は見晴らしがいいからね。アルザザ軍はもちろん、砦にいるローレンシア軍の動きもある程度は見えるよね。そのおかげ」


 確かに、砦の中もある程度は見える。

 堀と土塁に柵でできた砦とはいえ、レントの城壁ほどの高さは無い。

 この丘なら監視可能だ。

 まあ、だから、この場所にいるんですけどね。


 それにしても、よく判ったよなぁ。

 兵たちから戦闘の匂いなんて嗅ぎ取れなかったけど・・・。

 そもそも、そんな目で砦の中は見ていなかったか。


「これだけ見晴らしが良い丘に斥候が来ないなんて、やっぱり情報収集は軽視されているんですね」


 俺なら、ここに斥候を送るかな。

 戦争など考えたことも無かった俺が言うのも、おかしな話だけど。


「うーん・・・少なくともアルザザ軍はそうなんだろうね」


 ローレンシア軍は違うのか。

 歯切れ悪いな。


「何か疑問でもあるのですか?」


「まあね」


 どうしたんだ?

 らしくないな。


「ひょっとすると、ローレンシアの指揮官は情報を重視しているかもしれないと思ってね」


「なぜです?」


「兵の動きから、戦端が開かれる時期は読めた。でもね、ローレンシア軍の兵数が予想以上に多いんだよ」


 へぇー。

 そうなんですか。


「ほら、アルザザ軍を圧倒してるでしょ。夜中の奇襲ということだけが原因じゃないよ」


「確かに、圧倒的ですね」


「僕の見積もりだと、砦にいるローレンシアの兵数はアルザザ軍の半数以下だったんだよね。なのに、今見る限りでは、ローレンシア軍の方がかなり多いんじゃないかな」


 夜中の戦闘という事もあって、さすがに詳しくは見えない。

 ランスアールさんの使っている望遠鏡は、かなりの優れものらしく暗視性能も付いているようで、夜中でもある程度は見えるみたいだけど。

 暗視性能って魔法なのかな?


「奇襲だけではなく、兵数もこの圧勝の原因だと?」


「そうだろうね」


 そういうものなのかな。

 いくら奇襲に成功しても、数に劣れば巻き返されることもあるということか。

 それを可能にするのは指揮官の力量。

 指揮官次第だと思うけどね。


「この兵数・・・。僕が読み違えていただけか。それとも僕の気付かぬ内に援軍を砦内に引き入れたか・・・」


 そんなに気になることかねぇ。

 読み違いじゃないんですか。

 援軍が砦に入るとこなんて見てないし。


「この丘から見ている限りでは、援軍が来たようには思えませんでしたが」


 もちろん、監視していなかった夜中に来た可能性はある。

 それでも、砦の中の様子に変化は無かったような・・・。


「そうなんだよね。援軍が来た様子もないし、兵数も多くないはず。なのに、現実にはあの兵数」


 うーん。

 確かに、なぜだろう?


「砦のどこかに兵を隠していたか。外部には気づかれない方法で砦内に入れた援軍を隠していたか。いずれにしても、情報軽視の指揮官がすることじゃないよね」


 そうか。

 情報漏洩を気にしていないなら、兵を隠す必要もないし、隠密裏に援軍を迎える必要もない。


「敵の予想以上の数で奇襲をかけることで、一気にかたを付けたかった。だから、実際の兵数を隠していたと。そう考えるのが妥当だよね」


 なるほどねぇ。


「となると、ローレンシア軍の指揮官は情報を重視している。なのに、斥候の影が全く見えないんだよね・・・。アルザザ軍の中に間者を送り込んでいる。そういうことなのかな・・・」


 敵の中にスパイを送り込んでいたのなら、納得できるか。


「アルザザ軍が情報に疎いなら、情報漏洩にも気を配ってないだろうし。間者の成功率も高くなるからね」


 ザル守備の間を抜くようなもの。

 簡単に成功しそうだね。


「概ねそんなところなんだろうね・・・」


 ローレンシア軍の指揮官は、この世界には珍しく情報を重視するタイプ。

 指揮官だけでなく、ローレンシアという国が情報を重視し始めたとすると。

 レントにとって脅威になる可能性もある。

 珍しく、真面目な話をするランスアールさんの心中も穏やかじゃないのかも。


「ローレンシア軍は大したものだね。僕に確信を持たせないなんて」


 それでも、そう言うか。


「僕が確信を持てない、つまり情報を隠している。逆説的に言うと、そうなるね」


「・・・」


 自信家さんだこと。 

 戦闘時期を当ててるから、過信家とは言わないでおきましょ。



 などと話している内に、戦争は終結した。

 見事なまでのローレンシア軍の勝利。






 数時間後。


 今、俺はランスアールさんと戦場跡を歩いています。


 戦場跡なんて初めて見るけど、まあ目を背けたくなるね。

 この辺りは、樹木と岩が多少あるくらいで見晴らしがいい。

 なので、見渡す限り惨状が目に入ってくる。



「それで、何を調べるんですか?」


「さあ・・・。それが問題だね」


 はぁ~。


「今回の視察の目的は何なのです。戦いぶりということなら、もう見終えたじゃないですか」


「そうだねぇ」


 一体何を見に来たんだ。

 両国の思惑というやつか。

 しかし、そんなもの戦場跡で見つかるのか?


 戦場跡を歩くこと数刻。

 悲惨な様相に俺は気分が悪くなってきたが、ランスアールさんは平気な顔だ。

 いつも通りのふざけた表情。

 ただ歩いているだけで、検分している様子もないのだけど・・・。

 本当に何しに来たんだ?



「ちょっとこっちに」


 突然、傍らにあった岩の陰に誘われる。


「どうしたんですか?」


「静かに・・・。あそこを見てごらん」


 そこには。

 砦から現れたであろうローレンシア兵の姿が。

 主戦場になった場所から北東、砦からは東に位置する地点に多くの兵士たちがいる。


「何をしているのでしょうか?」


 ここからでは、よく分からない。


「もう少し近づくよ」


 2人で気配をできるだけ消して、近づいて行く。

 あと100メートル程度。

 これ以上近づくのはマズくないか。


「まだ進むのですか?」


「そうだね。とりあえず、ここで様子を見ようか」


 集まっている兵士たち。

 何か作業をしているようだ。

 何をしている?

 兵士たちは手に・・・シャベルを手にしているのか。


 ランスアールさんは望遠鏡片手に真剣な顔。

 さすがに、ふざけていないようだね。


「何か見えますか?」


「うん・・・」


「掘っているんですかね?」


「そう・・・だね」


 「うーん」と唸りながら凝視を続けている。

 掘削のような作業をただひたすら眺める。

 何か分かったのかな?


「・・・」


 すると。


「もう少しだけ近づこう」


「大丈夫ですか?」


 不安がる俺を尻目に先に進んでいく。

 置いて行かれるわけにもいかず、俺も前進。

 二人して匍匐前進だ。


 まさか現実に匍匐前進が必要な事態に遭遇するなんて、前世では夢にも思わなかったよ。

 何が起こるか分かんないねぇ・・・。

 これからこの世界で生きていくんだから、ホント、覚悟が必要だ。

 あらためて実感するわ。


 そう思っている間にも、どんどん近づいて行く。

 おいおい、どこまで行くんだ。


 もう目と鼻の先だ。

 話すのも躊躇われる。


 そこにあった適当な岩陰に隠れ。


「大丈夫ですか?」


 囁くような小声で。


「ここからだとよく見えるでしょ」


 そりゃ、そうでしょうよ。

 でも、不安だ。

 見つからないか?

 まあ、見つかっても逃げる方策はあるんだけどね。


「やっぱり掘ってますね」


 小声なら大丈夫そうだ。


「・・・」


「何を探してるんでしょう?」


 岩陰に隠れること数刻。

 結構疲れるな。

 ・・・。


 おっ、何か出てきたぞ。

 掘削した個所から取り出したのは・・・木箱。

 中には何が?


 中から取り出したのは・・・鉄塊。

 10センチ、20センチくらいの鉄塊? 鉄棒?

 何だろう?

 小さくてよく見えない。


 ランスアールさんも真剣に望遠鏡をのぞきこんで・・・。


 顔を上げると・・・にやけた顔になっている。


「仕事は終わったよ。帰ろうか」


「えっ?」


「もう仕事は終了。まあ、まだ残ってもいいんだけど、今回はこれくらいで」


 これで終了?

 ということは、あの木箱の中身が知りたかったってことなのか。


「・・・分かりました」


「では、ささっと帰ろうかね」


 そういって、鞄の中を探り始めるランスアールさん。

 次に懐を探し始める。


 その時、片手に持っていた望遠鏡が手から離れ・・・。


 カーーーン。

 カン、カン・・・・・。


 乾いた音が響き渡る。


「・・・」


「・・・」


 バレたね。

 間違いなく気付かれたね。


 案の定、俺たちの隠れている岩陰に気付く兵士たち。


「何者だ?」


「誰かいるのか?」


 近づいてくる。

 が、まだ少し距離はある。


「どうします、走って逃げましょうか」


 走って逃げるか、転移石を使うか。


「大丈夫、転移石があるから。それに逃げきる自信ないし」


「では、早くしてください・・・とりあえず、時間稼ぎに背負って逃げましょうか」


「大丈夫」


 まあ、転移石があるから大丈夫か。


 この人数相手に戦うのは厳しいしね。

 ランスアールさんを守ってとなると・・・無理かな。

 それに、手加減する余裕などないだろうから、間違いなく人死にが出る・・・。

 それは・・・避けたい。


 だから、ここは逃げるに限る。

 自分だけなら逃げきれる・・・と思う。

 でも、ランスアールさんを連れて逃げるのは難しい。


 背負って逃げきれるか?

 微妙だな。

 追っ手の技量次第かな。


 やはり、ここは転移石に頼りたい。

 幸い発動までに要する時間は数秒。

 まだ、大丈夫だ。


 ・・・。


 ・・・。


 もう、時間が無い。

 見つかるぞ。

 囲まれるぞ。


「まだですか?」


「・・・」


 どうした、まだか!


「・・・ゴメン・・・落としちゃったみたい・・・」


 はぁ!?


 何ですってぇぇーー!!





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