第十二話 希望
十二話です。
十一話からの連続更新になりますので、
先にそちらをお読み下さい。
もうね。
恥ずかしいとかね。
そんなこと言ってる場合じゃないんですよ。
「噂には、いや伝説では聞いたことがあるが、現実に目にすることになるとは!」
もちろん、相談しましたよ。
レント行きなんて吹っ飛んでます。
「どっ、どうしたらいいのですか?」
「ハヤトの記憶では、自分がそんな身体だったという認識はないのだな?」
うわぁ、ケヘルさんも困惑の極みって感じ。
俺もそうだけど。
どうしよ?
「ありませんよ。俺は男でした!!」
俺の前世は断じてこんな身体じゃない、完全無欠の男だ!!
女大好き男子だ!
今も女大好きだ!
「まあ、伝説の話なのだが・・・」
こういう状態。
本当に稀ではあるが存在はするらしい。
両性具有。
両性具有者というこの存在。
俺も本で読んだことあるけど、架空の話では・・・。
いや、実在した気もするな・・・。
この世界においては、両性具有者は一応存在する、そういうことらしい。
両性具有者は桁外れの才能を必ず有しており、100年に一人出るかどうかの伝説上の人種らしい。伝説上というのも、実際に歴史上の記録に留められている者が数人しかいないからだそうだ。しかも、その数人の話も伝説的な人物に仕立て上げるための作り話なのではと今では言われていると。もちろん、公式の記録に無いだけで、ある程度の数は存在していたとも言われてはいる・・・らしい。
まさか、俺のこの身体能力?
これは恩恵で、その代償が両性具有!?
そういう事じゃないだろうな。
やめてくれ、そんな恩恵いらないぞ。
まあ・・・、恩恵云々は判断しようが無いか・・・。
「その一人目は2000年前、この大陸を拓いたとされる大王バーンハード。彼については、ほとんどが伝説だと言われている」
神話レベルだな、おい。
「二人目は800年前、この世界に魔法の体系を作り上げた大魔女エヴァンジェリン。それ以前にも魔法は存在したのだが、現在のように汎用化したのは彼女の功績とされている」
「魔女って、女性じゃないですか?」
「大魔女と称されてはいるが、女型の両性具有だったそうだ」
女型?
なら、俺は男型ってことか?
「エヴァンジェリンについては、後に転性して女性になったとも言われている」
転性!?
性別の変化?
そんなのあるのか?
だったら、俺も男に戻れる!!
「転性というのは、性が変わることですよね? 方法があるんですか?」
困った顔している。
違うのか?
無理なのか?
「あくまでも、伝説上の話だ。詳細は・・・分からん」
「・・・」
そうなのかぁ・・・。
「三人目は、この大陸の西方にあった大国フォルナークの大将軍セーファス。彼も転性して男になったとされている」
転性の例が二つも!!
両性具有者が転性するのって、実は一般的なのでは?
だとしたら、希望が持てるぞ。
「今は亡きフォルナークの将軍で、100年前に隣国のローレンシアを滅亡近くまで追い込んだ英雄だ。彼に関しては100年前の事なので、多少は資料も残っておるはずなのだが」
「残ってないのですか?」
「50年前、ローレンシアに征圧され、フォルナークが滅んでしまったのだ。それゆえ、資料も絶えてしまっているかもしれん」
滅ぶなよぉ~~。
あと50年存続していてくれよなぁ。
この三人以外の具有者の例もあるのだけれど、それらは眉唾物らしく、今はこの三人の話をしたとのこと。
まあ、でも、それなりには存在したってことだよね。
今のこの世界にも、俺以外にいるかもしれない。
少し希望が湧いてきた。
伝説かもしれないけど、実際に転性したとされる人物が二人もいる。しかも、三人中二人だ。確率三分の二。これはもう、男に戻れるってことでしょ。
ですよね?
「僕が男に戻れる可能性があるってことですよね?」
大分、落ちついてきた。
冷静にもなってきたかな。
「そうだな。可能性はあるだろう。ただ、今のところ方法は見当もつかんな」
可能性があるだけで、充分。
「可能性があるのならば、それを探すだけです。僕はその可能性をこれから探し続けたいと思います」
せっかくこの異世界に来たんだ。
この世界の美女と付き合いたい。
いや、付き合うぞ。
付き合って、色々するんだ!
「そうだな。私も探してみよう」
ケヘルさんも、俺が落ち着くのを見て、少し安心してくれたかな。
よかった。
とりあえず、一服だ。
お茶でも飲もう。
ちなみに、女性との行為の件について。
訊きにくかったけど、頑張って訊きましたよ。
結果。
良く分からないそうだ。
そりゃ、そうだよね。
例が少な過ぎるわ。
でも、行為ができないという話も伝わっていないと。
実際、具有者と言われた者たちにも子供はいたらしい。
伝説だけど・・・。
よし!
大丈夫だ!
きっとできる!
でも、この身体を見せるのはどうなんだ?
ドン引きされたら・・・。
立ち直れないかも・・・。
いや、バレないって。
あれの下だし。
小さいし。
大丈夫だよね・・・。
そんなことを考えていると。
「レント行きはどうする?」
明日は引っ越しの予定。
まあ、こうなっては仕方ないかな。
「明日の出発は、ちょっと延期したいのですが・・・、もう少しお世話になっても構いませんか?」
「そんなことは気にするな。この家にいたければ、いつまでもいればよい」
「ありがとうございます」
「明日、一日かけて私も色々と調べてみよう。ハヤトもどうするか考えればよい」
こうして、出発前夜祭、最後の晩餐となるはずだったのが、思いもかけず壮絶な夜となってしまい、明日も俺はケヘルさん宅にお世話になることに。
まあ、でも、希望も見えた。
頑張って行くしかないな!!
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本当にハヤトには驚かされる。
その強さだけでも、この上ない驚愕なのに両性具有とは!!
昨夜までは、ただの伝説だと思っていたよ。
しかし、現実だ。
私は伝説とされる両性具有者を目にしているのだな!
確かに、ハヤトのエイドスには性別が記されていなかった。
強さも桁外れ!
両性具有者の要件らしきものは備えているか。
ハヤトが両性具有者だということを現実として受け止めた上で、私が彼にしてやれること。情報を集めることしかあるまい。私の手元には、それに関する資料、本などはもちろん無い。だが、信用できる知人に、そういった伝説、伝承に詳しい者がいる。彼に連絡して話を訊くとしよう。
遠く離れた彼と話すには、念話器を使うしかあるまい。
魔道具研究、開発に関わっていて良かったと思う。念話器などという高価な魔道具は通常は余程裕福な者しか持てない品だからな。だいたい、高い、壊れやすい、魔力の消費はとんでもない、と三拍子揃った代物だ。持っていたことを幸運と思わねばな。
さて、では、念話を始めるか。
これを使うと私の魔力は殆ど無くなるが、仕方ないな。
悪い情報ではなかった。
私がすでに知っていることも多かったが、ハヤトにとって幸運な新たな情報もあった。
現在のところ、この大陸に両性具有者は確認されていないらしい。両性具有者を崇拝する者たちが少数ながら現在も活動しているらしく、その筋から聞いた情報なので確実だそうだ。確認されていないことが確かだとしても、実際に存在している可能性はあるとのこと。
やはり、両性具有者はその姿を隠すものなのかな。
次に、両性具有は一定の地域以外では、ほとんど認知されていないとのこと。
よって、その地域外でなら、日常生活をおくることに何ら支障はないと。
まがりなりにも研究者である私ですら、具有者に対する認識は皆無と言って良いほどなのだから、一般的に認知されていないというのも当然と言えば当然。
その地域というのは、両性具有の英雄セーファスを輩出した今は亡きフォルナーク周辺。そして、セーファスに恨みを抱くローレンシア。この辺りでは、少ないながらも、両性具有に対する認識は今でも日常に存在するらしい。
セーファス後100年経っているのだから、気にするほどではないとのことだが。
とはいえ、油断は禁物。
少数ながら過激派もいるらしい。
ローレンシアの一部には、両性偶有者は悪魔だと言って、世界に現れたら即抹殺しなければいけないと喧伝している者たちもいるのだとか。
また、逆に、フォルナークの遺民たちの中には救国の英雄と、両性具有者を待ち望んでいる者たちもいると。
彼らが両性具有者を崇拝している者たちなのだろうな。
それ以外の地域では、まず問題はないのだが、一応は両性具有だということは隠す方が良いだろう。異才の者が多いゆえ、政争の具にされることもあるだろうし、巧く利用しようとする輩も出てくるだろうからと。
その通りだな。
彼の言う通り、当面は隠す方が良いな。
そして、ハヤトが喜ぶ情報。
両性具有者が単性に変わること、つまり転性は可能らしい!
セーファスが転性したのは伝説ではなく、紛れもない事実だと。
フォルナークに残されていた歴史書で読んだことがあると言っていたからな。
そうなると、事実である可能性が高い。
難しいこととはいえ、ハヤトの転性にもかなりの現実味が出てきたな。
ただし、どうすれば転性できるかは全くもって不明とのこと。
実例が少なすぎるのだから、当たり前か。
情報を集めたところで、ハヤトのレント行を考えてみる。
「問題は無さそうだ」
両性具有という素性は隠さねばならないが、それ以外は問題なかろう。
エイドスの性別未記載も・・・。
まあ、未記載という例外も少ないながら一般的にあることだし、未記載から即両性具有に結び付けられることは無いだろう。
私からの推薦状も持たせるしな。
まず、大丈夫だ。
ハヤトがこの家を出るのは寂しいことだが、彼にとってレントでの生活は間違いなく実り多きものになるだろう。
転性の手掛かりを探すためにも、ここに残るよりレントで暮らす方がいい。
応援してやらねばな。
それにしても、ハヤトは勤勉だ。
こんな日でも外に出て、鍛錬している。
昨夜はあんなに動揺していたのに、大したものだな。
やはり、両性具有者、異才の者なのだろう。
さて、今夜話してやるのが楽しみだ!
十三話も、今日の深夜までには載せたいと思っていますので、
続けて読んでいただければ幸いです。