普通
俺の中学校三年間は
特に書くこともないほどに
普通だった。
卒業式の後のそれを除いては……
*
普通に卒業式が終わり
普通に在校生に見送られ
普通に門出をする。
その列から俺は抜け出し
校舎の裏へと歩く。
門出なんてどうせ
後輩から先輩への
プレゼントタイムだ。
後輩と関わりのない俺には
関係ない。
そうこう考えているうちに
校舎裏につく
門出の喧騒が遠くに聞こえる。
そこにいたのは
俺のクラスメイトだった。
「で、何の用?」
俺から切り出す。
ここに呼び出したのは相手だが
俺から切り出さないとたぶん終わらない。
「え……と……
好きです!
付き合ってください!」
普通じゃないことが起きた。
俺は急に誰かに見られやしないかと
不安になった。
俺は彼女の手を取り
近くの大型用具入れに飛び込む。
彼女は驚いたようだったが
ついてきてくれた。
とりあえず、気持ちを落ち着けるため
説教を始める。
「お前、普通のやつだったらこうやって
連れ込まれて襲われるぞ。」
「それでもいいと思ってるし。」
余計混乱する。
「おまっ、普通そんなことするわけないだろ!」
「……私が襲われるのと、
君が襲わないこと、
どっちが普通なの?」
「……と、とにかく。
なんで俺なんだよ
ほかにもいい奴なら
たくさんいるだろ?」
無理やり方向修正。
「ん、いい奴はいるんだけどね。
なんか私に、気を遣ってくれるんだよ
なんかそれが嫌になっててさ。
遠まわしに背が小さいって言われてるみたいでさ。」
なんか、暗い話になってしまった。
ここは何とかしないと、
「俺は違ったのか?」
「違ったというか……
私のことなんか気にしてなかった。
君は君の道を歩いてる気がした。
遊園地に行ったときだって
ジェットコースターに一人だけ乗らなかった。
今までも自分が嫌だからって
気を使って乗らない奴はいたけど
君は本当に嫌がってたんだ。」
なんか、語られてしまった。
俺だけ乗らなかったんじゃない
あいつらが普通じゃないってだけだったんだ。
なのに彼女は俺の普通を特別だと言ってくれている。
そんなのも悪くはないんじゃないかと思えてきた。
けど
「ごめん、俺はお前のこと好きじゃない。」
はっきりさせなきゃいけない。
でもなんでこいつはこんなに焦っていたんだ?
高校も同じなのに……
まさか
知らないのか
女子たちが意図して情報を止めた?
ありうる。
じゃあ嘘をついてやる。
「でも、お前とはまたすぐに逢える気がする。
またすぐに逢えたら
それって特別なことだと思うぞ。」
普通人間の特別発言。
これって嘘だよな……
ああ、でも言ったことが本心だ。
まずい、顔見れない。
今が一番可愛い顔だと思うのに。