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《純SFハイファンタジー》星を穿つ槍と、黄金のオムライス――放浪の戦術師とポンコツ戦闘メイド――  作者: ざつ


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第4話:迷子の聖女を拾い上げ

 ギアシティの煤煙が遠ざかり、万能魔導装甲車『デリシャス・ワゴナー号』は広大な荒野へと躍り出た。

 車内はピノが持ち込んだ最新の工具と、リゼが「ご主人様の視界を汚さないため」と一瞬で磨き上げた食器類で、妙に生活感に溢れている。


「――ねえカイ、さっきから計算してるんだけど。リゼの特殊潤滑油に食費、それにこの車の魔導燃料代……。あたしが設計したとはいえ、このワゴナー号、予想以上に燃費が悪いのよ。はっきり言って、今のままだと三日後には野垂れ死によ」


 運転席のピノが、不機嫌そうに家計簿代わりのホログラムを叩いた。


「……おかしいな。セレスティア号を降りる時、それなりの謝礼をもらったはずなんだが」

「……ご主人様。それはすべて、ご主人様が『船体の修理代に』と言って置いてきてしまったではありませんか。私が破壊した隔壁の分まで全額上乗せして支払うなど、無駄に格好をつけたせいで、私たちの家計は現在、絶滅の危機に瀕しておりますわ」


「……論理的に考えて、他人の財産を損壊したまま放置はできないだろ」


 カイが冷静に返すと、ピノが「その論理で飢え死にしたら世話ないわよ!」とハンドルを叩いてリゼのツッコミに加勢した。


「ご安心くださいご主人様。私が荒野の魔獣を片っ端から狩り、その魔石を換金して参ります。……ちょうどあそこに一頭、美味しそうな――いえ、換金効率の良そうな巨岩竜が」

「待てリゼ、無駄な戦闘はやめろ。……今は一応、俺も冒険者登録をしている。手堅い仕事を探そう」


 カイは懐から薄型のタブレット端末を取り出した。

 魔導回路が刻まれたその画面には、現在地周辺で受注可能な依頼が、報酬金額順にズラリと並んでいる。


「今の時代、わざわざギルドの酒場に足を運んで掲示板を睨む必要はないからな。……お、これだ。つい数分前に発生したばかりの緊急依頼だが、条件は悪くない」


 カイが画面をスワイプして、一つの案件をワゴナー号のメインコンソールに転送した。

 だが、その依頼の詳細を見たカイの眉がピクリと動く。


「……報酬、金貨五百枚。……だが、これの送信ソース、ギルドの正規窓口じゃないな。……騎士団の『最終絶命信号ラスト・コール』だ」

「ラスト・コールって……まさか、死に際に出された依頼ってこと!?」


 ピノが息を呑む。金貨一枚あれば一般家庭が丸一週間は暮らせるこの時代、その五百倍――約一千万相当の報酬を、命を懸けてギルドへ叩き込んだ者がいる。


「内容は……隣国から亡命してきた聖女エルナを、安全圏まで護衛すること。……論理的に見て、彼女を護っていた騎士たちは、全滅した可能性が高い」

「……リゼ、涎。と言いたいところだが、今回は笑えんな。ピノ、合流地点へ急げ。まだ信号が動いている」




 ワゴナー号が到着したとき、そこは異様な「香り」と、言葉を失うような混沌に包まれていた。

 十数匹の野色犬ノイロケンに囲まれた少女――エルナが、泣きじゃくりながら小瓶を振り回している。


「あ、あうぅ……! 騎士様、ごめんなさい、私……私、どっちに行けばいいんですか!? こっち? そっち!? ひゃあああ、野犬さんが笑ってますーっ! 騎士様ぁ、助けてください、返事してくださいーっ!」


 彼女の周囲には、すでに誰の姿もない。極度のパニックに陥ったエルナは、平地を迷宮だと思い込み、同じ場所を何度もぐるぐる回っている。


「リゼ、掃除だ。……あの聖女、完全にテンパってて状況が見えてない」

「承知いたしました。……害虫駆除、ついでにパニック中の聖女様の保護を開始します」


 リゼが車外へ飛び出し、一瞬で野犬を散らす。

 だが、リゼがエルナの隣に降り立った瞬間、爆発的な「香辛料」の香りが周囲に広がった。


「――っ!? なんだ、この香りは。脳の演算回路が刺激される……」

「わあああっ! だ、誰ですか!? 騎士様ですか、幽霊さんですか!? 私、緊張すると周りのスパイスを活性化させちゃう体質で……! もう鼻が、鼻がバカになっちゃいますーっ!」

「……エルナ様、落ち着きなさい。パニックは生存率を著しく低下させます」


 リゼがエルナの肩を掴んで固定するが、その時、カイの『論理眼』が「歪み」を検知した。


「……リゼ、伏せろ! 敵だ!」


 キィィィィン! という高周波音と共に、空気そのものが切り裂かれる。

 姿の見えない刺客――他国の特殊部隊による、光学迷彩を用いた強襲だった。


 エルナが落としたスパイスと、彼女の魔力が共鳴し、香りの粒子が「目に見えるオーラ」となって敵の輪郭を炙り出した。


「見えたぞ! リゼ、右三度、高度二から一気に薙ぎ払え!」

「――『お掃除』の時間ですわ!」


 リゼの光翼が黄金の残光を描き、姿を晒した刺客たちを一瞬で叩き伏せた。


 戦闘終了後。エルナは震えながら、荒野に横たわる騎士たちの亡骸へと駆け寄ろうとした。


「ま、待ってください……! 騎士様たちを、ちゃんと埋葬してあげないと……!」

「……。ダメだ、エルナ。今すぐここを離れる」


 カイが冷徹に、しかし重みのある声で遮った。


「ど、どうしてですか!? このまま放っておくなんて……っ!」


「論理的に判断しろ。光学迷彩を使うような精鋭が投入されたんだ。第二波、第三波が数分以内に到着する。ここに留まってスコップを握るのは、騎士たちの犠牲を無駄にすることと同義だ」

「そ、そんなの……あんまりです……!」


 エルナは座り込み、土を掴んで泣きじゃくる。

 カイは目を伏せ、それでもピノに発進を促した。


「リゼ、エルナをワゴナーへ運べ。……ピノ、出せ。一秒でも早くここを離れるぞ」

「……わかったわよ。……ごめんね、聖女様。あたしの車、速いから。……すぐに、安全な場所まで連れてってあげるから」


 無理やりワゴナー号に押し込まれたエルナは、遠ざかる戦場を窓から見つめ、嗚咽を漏らしていた。


 静まり返った車内。

 しばらくして、リゼがエルナの前に膝をついた。


「――エルナ様。いつまでも泣いていては、騎士様たちの努力が報われません」

「うう……リゼ、さん……」


「白馬の騎士など、しょせんは数時間しか共にいない他人です。……ですが、これからの私たちは、あなたが望むなら、騎士より一万倍近しい存在になって差し上げますわ。……何せ、私はこの不器用な主人の面倒を一生見る予定の、宇宙一のメイドですからね」

「……うう、ありがとうございます……。リゼお姉様……」


 エルナが潤んだ瞳でそう呟いた瞬間。

 リゼの背筋が、ピンと定規を当てたように伸びた。


「……今、なんと? もう一度、仰ってくださいませ」

「……え? あ、リゼお姉様、ですが……」


「……お姉様。……いい響きですわ。ふふ。ふふふふ! 聞きましたかご主人様! 私は今日から、この聖女様の『お姉様』になりましたのよ! もはやメイドを越え、義姉ねえさまとしての品格が備わってしまいましたわ!」


 さっきまでのシリアスな空気はどこへやら。

 リゼは鼻の穴を膨らませ、これ以上ないほど天狗になって胸を張っている。


「……あんたねぇ。お姉様って呼ばれただけで、なんでそんなに得意げなのよ。さっきまでマウント取るって息巻いてたじゃない。チョロすぎでしょ」


 ピノが呆れたようにハンドルを叩きながら突っ込む。


「チョロくありませんわ! これは『教育的指導者』としての自覚です! さあエルナ、お姉様と一緒にオムライスを食べましょう! 走行中ですが、背に腹は代えられませんわ!」


 カイは苦笑しながら、ワゴナー号のキッチンで揺れに耐えつつ鍋を振るった。


「お待たせ。……スパイス・オムライスだ。車の中だが、味は保証する」


 揺れる車内で、エルナはリゼに「あーん」と迫られながら、涙の混じった、けれど芳醇な香りのするオムライスを口にした。


「……おいひいでふ……。……温かい……です……」


 騎士たちの死、そして新たな出会い。

 ワゴナー号は、複雑な感情を乗せて、夕闇迫る荒野をひた走る。


(第5話へ続く)


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