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借金はセクシーに、フェミニンに踏み倒す


「俺って案外人気者なのか?」

「多分、ちゃうやろなぁ」

 既にライカが攻略したダンジョン跡地には、その崩壊する音を聞きつけて沢山の一般人やハンターが集まっていた。

 

「おいおい、中々出てこないって報告受けたらコレかよ」

 野次馬の中から1人の筋骨隆々の中年ハンターが前に出て呆れた口調で語り掛ける。

「ッ!お前は……誰だったかな」

「お前様ホンマに最低やなぁ」

「いや、本当に記憶に無くてな。あんまり他のハンターとか覚えてないんだ。絡む義務も無いし」

「誰を忘れてんだテメェは!俺だよ!ガオガンタルだ!」

「で、カオマンガイ。何の用だ?」

「どこの郷土料理と間違えてるんだよ!」

「いや、お前に興味が無さすぎてな」

「せっかくわざわざ見に来てやったのに、一人で攻略しやがったのかテメェは。そんで隣のガキは誰だ」

 ガオガンタルはアイリーンをジロジロと舐め回すように見つめた。

「アイリーンや!宜しくな!顔マントル!」

「人の名前を間違えるノリを連続でやるなよ!ツッコミがめんどくさくなるだろ?そんでお前はツッコミであれよ!」

 

「……儂は、ボケるぞ」

 アイリーンは己の顔のパーツを限りなくかっこよくチューニングしてそう言い放った。言い放っただけだが。

 

「で、何なんだ。まさかダンジョンの聖遺物とか言わねぇだろうなぁ?」

「失礼やな。儂をモノ扱いすんなや。儂は、女神やぞ」

「はっはっは。冗談が上手いこった。つーか、調査じゃなかったのか?なんで一人で攻略してんだ。別にボーナスなんて出ねぇだろうが」

「誰もしたくて攻略した訳じゃない。今回は特殊なダンジョンだった。入った瞬間、出られなくなった。時間も分からない以上、先に進む選択肢を取った」

「なるほどな。まぁそういう事もあんのか。じゃあ全責任はお前にあるな()()()

 ガオガンタルはちぎれそうな程の怖い笑顔でライカにそう言った。


「……待て、何の責任だ」

「へっへっへ、もしお前が大した対価を払えないなら、今日から借金生活だぞライカ。泥水啜って生きていこうなぁ???」

「だから、説明しろって」

「とりあえずギルドに報告しに戻れよ。ドン・ヨークが待ってるからなぁ」

 そう誇らしげに言ったガオガンタルとその一味は、市街地へ歩いて行った。

 

「……マジか。ツいてねぇ……」

「お前様、ドン・ヨークとは誰や?」

「簡単に言うと、お偉いさんだ。この街で一番偉いと言っても過言じゃない。基本的にこの国のギルドは国が運営してる。けどそれだけじゃ金が足りない」

「そこを噛んどる奴って事か」

「正解。まぁ噛んでるぐらいなら良いんだが、性格も悪い典型的なクズだ。奴はハンターとしての力は開花してない代わりに、定期的に人にダンジョンを攻略させて聖遺物を受け取ってる」

「今回の聖遺物は儂や!」

「それが問題だ。オマケに契約もしちまってる。今更売り飛ばしたら、俺に何の罰が下るか分かったもんじゃねぇ」

「やから、借金生活って事か」

「分かってても、どうにも出来やしねぇ。いっそ逃げるのも手だ」

「それは無理な話だよライカくん」

 ライカ達の背後に急に現れた人影が会話に入り込む。

 

「ジュデオンか……」

「覚えててくれて嬉しいよライカくん。ま、キミからしたら忘れること無いだろうけどさ」

 ジュデオンは飄々と周りを歩きながら話す。その優雅で余裕のある立ち居振る舞いは、強さを見せ付けている様だ。

 

「お前様これは誰や?」

「ジュデオン・スイープ。ギルドの犬野郎だ」

「犬野郎とは失礼な。僕はどちらかと言うと猫派だし。それに僕はこのポジションが一番安定するだけさ。ところでそこの女の子は?……もしかしてだけどダンジョンの聖遺物かな?」

「テメェに話す義理は無い。どうせお前の追跡からは逃げられないんだから、もう早く連れてけよ」

「ちぇー、つまんないなぁ。せっかくキミをボコボコにするチャンスだと思ったのに」

 

「……」

 ライカは黙り込む。

 

「キミは勝てないと思った人にはお利口さんになるんだね。まるで犬みたいだ。面白いなぁ」

「……いつか吠え面かかせてやるよ」

「楽しみだなぁ。あんまり世間話してても怒られちゃうから、とりあえず歩こっか」




 ライカとアイリーンはジュデオンに連れられ、ギルドに到着した。ギルドでは、髭面でいかにも欲に塗れた顔付きの太った中年男性がライカ達に向かってテーブルに来るよう手招きをしていた。

「ほら、早く。もしかしたら寛大な処置をくれるかもしれない」

「分かってるから押すな」


「久しぶりライカくん。元気にしてたカナ?ん、そのお嬢さんは?」

 男の目がギラリと輝きアイリーンに集中する。

「お久しぶりです。ドン・ヨークさん。どのような要件ですか?」


 ライカはアイリーンへの質問を完全に無視する態度を取った。

「ケヒャヒャヒャヒャ。忘れてましたよ。ライカくんが無駄に肝の座った人間であること。まぁ良いです。順番に全部聞きますから。要件も何も、まずは人々の生活を脅かしかねないダンジョンのクリア、ありがとうございます」

 ドン・ヨークは目以外が笑った表情で形式的な礼をした。


「まぁありがたいのは事実だったんですがねぇ。あのダンジョンの権利は、私の耳に入った時点で1500万ジットで落札していたのですよ」

「だから聖遺物を寄越せと?」

「その通りです。こちらも手荒な真似は取りたくありません」

 ドン・ヨークはそう言ってすぐ後ろで立って待機しているジュデオンをさり気にアピールする。ドン・ヨークは、ライカ達がジュデオンに勝てないことを理解している様子だった。

 

「さぁ、聖遺物を全て私に渡しなさい。貴方達の様な戦うしか能のない職業を支えているのはこの私なんですから」

 

「……無理ですね。だって聖遺物は()()ですから」

 そう言ってライカはアイリーンに目配せをした。

「そうや!儂はあのダンジョンに封印されておったのを、ライカに契約して助けてもらったんや!」

 アイリーンが椅子に立ち上がり大声で言い放った。周囲のハンターが少しずつ集まり始め、こちらをチラチラと確認し始める。

 

「はい?つまりダンジョンに人間が封印されていたと?」

「そう言ってるだろ。です」

「ケヒャヒャ、冗談も大概にしなさい。この街に数年ぶりに出現したダンジョンを独占しようとは良い覚悟ですねぇ」

「失礼ながら、ヨーク様」

「なんだジュデオン」

「彼らの言っている事は恐らく事実です。彼らが帰還直後、一応念入りにボディチェックをしましたが、それらしい物は見つかりませんでした」

「では私にそのような荒唐無稽な真実を信じろと?」

「あくまで私の見た物を伝えたまでですので、信じるも信じないも、ヨーク様の自由です」

 如何にヨークでも、周囲にハンターが複数居るこの状況下での行いは制限される。ここで仮にめちゃくちゃな事をしたら、他のハンターからも自然と避けられ、やがて破滅に向かう。俺が逃げられないようにギルドの待合室を選んだのは、クソみたいなミスだな。


「でしたらその少女を差し出しなさい。容姿を鑑みて500万ジット、いや750万ジットは支払いを免除しましょう」

「無理や。契約しとるからな。」

「貴方達には何の契約が交わされているのですか?」

「女神契約だ」

「ケヒャヒャ……女神契約?流石におふざけも大概にしなさい」

「とにかく、コイツは無理です。渡せません」

「そうですか。ではジュデオン、やりなさ」

「でも!代わりに……これを渡したい……です」

 

 ライカはそう言って震えながらネックレスに手をかけ、その先端の黒い立方体を外した。

「ライカ、それは!渡したらダメや……命より大切言うてたやん。先生に貰ったんとちゃうんか!?」

「アイリーン、今はお前が一番大切だ……」

 

「おぉ!それは、天罰執行者(エクスキューショナー)歴史に失われた技術を再現する聖遺物!」

「今は魔力切れで再現出来ませんが……」

「そんな事はどうでもいいですよ。初めてその聖遺物を見た時は心が踊りました。見た事のない兵器、火力、そのフォルム!ライカ・アライブ。貴方の存在意義の8割はこの聖遺物でした。これを私にくれるなら、その子と貴方の違約金を全額免除しましょう」

 

 コイツの一番嫌いな所はこれだ。一見気前が良いように見せて、無理のない範囲で無理をさせ搾取をし続ける。テメェみてぇなヘドロは痛い目をみてもらわねぇとなぁ。

「……」

「どうしたんですか?怖くなりましたか?現在貴方の選択肢は3つです。まず私に何も差し出さず、1500万ジットの借金を抱え悠久に搾取される。次にその少女を差し出し、750万ジットの借金を抱えて生きるか。最後にその聖遺物を差し出し、自由を手にするか」



 

「……でお願いします」

「聞こえませんねぇ。大きな声で」

 

「……最後の選択肢で、……お願い……します!」

「ケヒャヒャヒャヒャ!取引成立です!おめでとう!君達は自由だ!!!」



 


「あー面白ぇ!勝ったとか思ってんだろうなぁ!」

 

 俺とアイリーンは急いで家に戻り、最低限の荷物と泣け無しの所持金をまとめ、全速力で街から飛び出した。この国に居る間はドン・ヨークの影響力が大きすぎる為、2つ隣の国を目指す。今から俺がやろうとしているのは、1500万ジットの詐欺だ。

 

 

 物事は少し前に遡る――

 

「なぁジュデオン、ちょっと取引しないか?」

「キミと取引して僕に何の利益があるのかな?」

()()の手がかりを教えてやる」

 

「……有益なら乗ってあげるよ」

「先生は、01に居る」

「それがホントだったとして、僕はどう確かめればいいんだ?」

「俺が先生と別れたのは、01だった。それだけだ」

「僕の復讐は最初から意味の無い物だったって事か」

「お前が先生にされた事は未だに信じられないけどよ。あの人は生きてる」

「何故?」

 

 ライカは人差し指先に小さい緑色の炎を灯した。

「この魔力……」

「そうだ。先生から預かった物だ。命の灯だとか言ってたな」

「……確かに有益な情報だったよ。で、僕は何をすればいい?」

「今から俺達がする事を、無視して欲しい」

「了解」


「アイリーン、一芝居打つぞ」

「儂は演技派やからな!任しとき!」




「そんで最後に、とっておきだ。コレ(天罰執行者)から一欠片だけ崩してポッケに入れる」

「それ、そんな使い方してええんか?」

「そもそもこれは俺以外使えねぇ。物体があっても、使用者が譲渡を確認しないと使えないんだ。なぜならこの聖遺物は、失われた歴史の記憶を含んでる。おいそれと泥棒されないようになってんだよ。多分」

 

「試しに持って離れてみろよ」

 そう言ってライカはほぼ本体をアイリーンに手渡し距離を取らせた。


「離れたぞー」

天罰執行・刀エクスキュート・ソード

 ライカはポケットから先程崩した欠片を持ち、聖遺物を行使する。

 アイリーンの持っていた大部分が光となって崩れ、ライカの元へ移動し、白鞘に変形した。

「こりゃやりおるなぁ」

「イカしてんだろ?」



 現在――

「今どき馬車ってのは気持ちいいなぁ。排気ガスも無いし、思ったより揺れないし」

「そうやなぁ。これだけオフロードだとまだ馬車が主流なんじゃな。ところでお前様、いつ聖遺物を取り戻す気や?」

「とりあえず戦うことも無いだろうし、隣国に着いてからだな」

 

「ってうわぁ!何だ?」

 馬車が急停車し、中にいたライカとアイリーン含めて3名の乗客は激しく揺さぶられた。

「お客さーん。もしかして、戦えたりする?」


 どうやら、まだ面倒事は続くらしい。

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