表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

面倒事というのは、大体連続してやってくる


 ライカはエルテーゼを突破し、ドアを開けたまま眠っている。通常なら出血多量で死に至るが、ライカはその()()のお陰で死を免れている。

 ライカ・アライブの特異体質は、()()あらゆる病気や怪我の回復速度が早い。ただこれは肉体的な話であり、体内の魔力回路には影響しない。ライカの魔力の回復速度は寧ろ平均ハンター以下である。

 魔力とは、体内で生成される生命エネルギーの一種のようなもので、ハンターなら鍛錬やセンス次第で()()と言われるテンプレートの戦闘技術を扱うことが出来る。魔法の習得や行使の能力はハンターでも生まれ持った素養に左右される部分が多く、実践的に魔法を扱えるハンターは、割合として40パーセント程である。

 また大多数のハンターや、一部の上位の魔物は魔力を消費し()()()を使うことが出来る。


「……ふぁ〜あ。結構寝たなぁ。……知らない天井だ。なーんてな。そんでこれが秘宝か。棺にしか見えねんだけど、これ、勝手に開けていい奴か?」

 ライカは棺を舐めるように見回す。棺は精巧に作られていて、構成している白い金属はシンプルながらもそれゆえ文句の付けようがない重厚な光沢を放っている。一部には金で装飾も施されていて、もしこの中に人が入っているのだとしたら一般市民であれば触れ合うことのない身分の人間なのは明白だ。魔力を確認し中身の特定を試みるも、聖遺物でも人だとしても、高い魔力を持っている事には変わりなかった。

 

 ライカはまるで泥棒のように首を振って周囲を見渡す。

 

「金ピカは砂になったし、周りには生き物の影1つねぇな。……開けんのだりぃなぁ。だって高確率で人が入ってんだろ?絶対色々調査されるじゃん。例外の時の報告書って意味無いぐらい精密に書かされるから嫌なんだよなぁ。でも開けないと帰れなさそうだし、しかももしかしたらめちゃくちゃ強くて万能な聖遺物かもしれないしな!」

 ライカは僅かな希望を持って棺の蓋を退かした。


「……いやそうだと思ったけど」


 棺では、少女が眠っていた。肌は白く、美しい金髪で、背は大人の女性とするなら少し低く、髪は腰まで伸びていて、顔付きはそれこそ女神や天使と形容出来るほど端正だった。


「これをどうしろと……とりあえず起こした方がいいのか?うーん、めんどくせぇなぁ。起きろー。おーい。起きねーと焼いたコウモリ食わせるぞー」

 んっ今鼻が震えたか?

「焼いた」

 動いた。

「コウモリ」

 動かない。

「食わせるぞ」

 また動いた。

 

 そうかこいつは寝てたんだ。だから腹が減ってんのかもしれねぇ。

「……すぅー、ラーメンうどん唐揚げ餃子炒飯蕎麦焼きそばステーキハンバーグドリアヌートリアごはん卵かけご飯納豆ご飯カレー焼き土下座すき焼き牛丼豚丼親子丼」

 脳内に浮かぶあらゆる食べ物に関する言葉を思いつく限り吐いてやる。


「腹が減った!!!!!」

 少女はそう言って棺から飛び起きた。

「儂は腹が減った!!!!!」

 

「お、おう」

 少女はライカをじっと見て、何かを頭の中で確認している。

「お前様が、儂を解放したんか?」

 

「まぁそういう事になるんだと思うが」


「まずは感謝やで。ありがとなー。で、食いもんは?」

「無いが」

「は?無いと?」

「いや、お腹空いてるのかなぁと思ってな。せめて夢の中ぐらい腹を満たしてやろうと思って」

「お前様は食べ物が無いのに腹が減っているかもしれない儂に対して食の豪華客船を列挙したは良いものの「実際には何もありませんでしたー」と、申すんか?」

 

 やべーこのガキめっちゃ睨んでくる。俺が食べ物で釣る人でなしみたいな感じになってんじゃん。


「うーん。一応、食いもんはあるっちゃある」

「見せてみぃや。この際、一時的な栄養でもええわ」

 

「多分あんまり良いもんじゃないが、お前はこういうゲテモノ得意かもしれないからな。えーっと確かこのポッケにさっきの焼きコウモリが……」

 これを持ってきたのは最上階の敵に臭いを駆使した攻撃が通じたら便利だと思ったからだが、こんな所で役に立つとは……。人生何があるか分かったもんじゃないな。

「はい、やるよ」

 ライカはそう言ってポケットに乱雑に押し込まれていた焼きコウモリの死骸を手渡そうとしたが、一瞬で跳ね除けられた。

「死ね。仮にも封印の解き手に言う事ではないんやろうけど。いっぺん死んだ方がええよお前様」


「ボクそういうの良くないと思う(精一杯の掠れた裏声)」

 あまりの空気の悪さに、ライカは珍しくボケざるを得ない状況に追い込まれていた。

 

 凄い暴言を吐かれてるな。初対面の人間に。でもこれは確かに俺も悪い気がする。ま、どうでもいいが。人間を売るような真似は出来ねぇから、金はギルドにせびるしか無いか。


「茶番は置いといてよ、俺はここから出たい。どうすりゃいい。ここを守ってた金ピカは一応倒したし、お前をどうすればクリアっていう扱いになるんだ?そもそもお前は何だ?何故そんな所に封印?されてたんだ?」

「そうやなぁ、まず儂の名はアイリーン。女神や」

「女神?そんなの本当に居るのか?」

「それが今の儂は記憶も力も失っとるみたいでのぉ、正直儂が何の女神で何故封印されたかも覚えとらんのや」

「……ちょっと遅いかもしれないが、その喋り方は何だ?」

「変か?」

「そうだな、ビジュアルと反しすぎているというか、阪神すぎているな」

「反神?儂の喋り方神っぽくないって事か?」

「端的に言うとな」

 ロリ系美少女なのに喋り方が訛ったおっさんって、キャラ付けが迷走しすぎてて萌えを通り越して不気味だぜ。

「この喋り方しか出来ひんからなぁ。それは少し困るなぁ。まぁ、慣れろって事や。味やろ、慣れれば」

 あんま自分で自分の喋り方()とか言わないだろ……。

「じゃあ女神とかはこの際どうでもいい、もっと聞いてくれそうな奴に話せ。とにかく、俺はさっさと帰りてぇ」

「それか、簡単や」

「簡単じゃないと困る」

「お前様が儂と契約すればええ」

「勘弁してくれ。今1つ緊急ダンジョンっていう面倒事を片付けたのに、お前と契約したら絶対面倒事が増える」

「そうやな。でも運命とはそういうもんや」

「俺である必要は無ぇだろ」

「そうやな。恐らく条件を満たしていりゃ誰でもええ」

「だったら」

「そしてお前様は条件を満たして、今儂の目の前に居るんやろ?ライカ・アライブ」

「どうして名前を」

「女神パワーの一端や。どうやら儂は見た人間の情報を一部知れるみたいや」

 確かに目から魔力を感じる。というか、こいつの魔力は()()だ。生き物ならあるはずの揺らぎが全く感じられない。それを感じさせない実力なのか?

 

「……お前を殺せば契約せずとも出られるか?」

「試してみるか?たかが人間。と、言いたいところやが、辞めといた方がええやろな。今の儂は戦える程強ないし、儂を殺したらこの空間に永遠に閉じ込められるかもしれんしな」

「えーじゃあ契約するしかねーじゃん。早く帰って今日スキャンダルで炎上、謹慎、離婚、逮捕されてる奴が居ねぇか確認しないといけないのによ」

「お前様、随分つまらん趣味しとるな……」

「良いんだよ。俺の人生程々で」

「程々を自称しとる割には、お前様は随分強いやんか」

「……無駄に勘が鋭いんだな。気持ち悪い」

「女神パワーを舐めんなや」

「真剣にやってたのは昔だけ。今は昔頑張った分の貯金で楽してハンターをしてるだけだ」

「お前のその目で俺の過去をどこまで見れるか知らないが、それ以上詮索は辞めてくれ、あまり好きじゃねぇんだ」

「すまんな、お前様。で、契約する気にはなったか?」

「この流れでする奴が居るか!詐欺師の才能が無さすぎるだろ」

「無い方がええやろそれ」

「もういい。分かった。じゃあメリットとデメリットを教えろ」

「メリットは、儂や。儂はさっきも言った通り、この女神の目で色んな情報を集められる。今はそれだけやが、多分もう少し力があるはずや」

「薄いなぁ」

「デメリットも、儂や。女神契約はお前様が儂を守る代わりに力を貸すという契約。四六時中儂の側にいて、守らなアカン。破れば多分絶命級の罰が下るはずや」

「メリットの薄さに対してデメリット重すぎるな……。じゃあ理由とか目的とか、その色々あんだろ」

「儂は、本物になりたい。今の儂は偽物や。喋り方、能力、エピソードトーク。全てが無い。それに儂が何もんやったんか。それを知って、儂は儂として女神になりたい。ここで寝とる日々は暇やった。体は動かせん。頭の中だけで知ってる記憶と、知らん記憶とがぐちゃぐちゃに放送されてるねん。儂は、もっと儂と世界を知らなアカン」

「大層な目標だが、俺はローコストな職場のハンターだぞ?今回のダンジョンは偶然冒険ぽかったけど、普段はそういう世界を飛び回る系の仕事なんて何一つ無いぞ」

「いいや、そこに関しても心配無用や。何故なら、儂の封印が解けたからや。頭の中で流れとった記憶の中には、女神は存在するだけで世界の救世主としての役割を果たすとあった。つまり儂の存在だけで、儂とお前様の世界は回っていくんや」

「ホントは邪神かなんかだろ、お前」

「アイリーンと呼んでくれや。そうやな、救世の女神アイリーン」

「分かった。契約はする。どうせしないと出られないんだろうし。だけどな、女神ならクイズ番組でワザと間違えるような奴を減らしとけ!」

「……え、儂の責任?まぁその系統のタレントはどれだけ低くてもどこかに需要があるからな。じゃあ契約始めよか。お前様の利き手を出せ」

「あぁ」

 アイリーンはそうして差し出されたライカの左手の手の甲に、自らの涙を一滴垂らした。

「涙?」

「雫や、女神の魔力や色々を凝縮した女神汁や」

「言い方の品が無さすぎる」

 雫はライカの手の甲で薄く広がり、やがて赤い矢のような刻印となって焼き付いた。

「これで儂とお前様は一心同体。ソウルメイトや。まぁ死ぬまでよろしくやろうや」

「絶対に、楽をしてやるからな。1歩も動かず1秒で1億稼いでやるからな。お前の思い通りになんて動いてやらねぇよ」

 ライカが文句を言っている間に、周囲の壁や足場が崩れていき、2人は不安定な空間に投げ出される。

 そして空間がねじ曲がったり接続されたり切り離されたりして、やがて1つの空間になった。そこは、もうダンジョンの跡地となっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ