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こう

午後三時、高校2年生の相生 Daisuke(16)は新聞部の部室の窓から外を眺めていた。

校庭には冬の光が斜めに差し込み、長い影が伸びている。だが、その影の中にひとつ、不自然な動きがあった。購買部の方向からパンを抱えた人影が、部室棟の裏へと消えていったのだ。その瞬間、彼の胸に小さな違和感が芽生えた。

翌日、生徒会室から重要書類が消えた。噂は瞬く間に広がり、校内はざわめきに包まれる。パンの消失と書類の消失。一見無関係に見える二つの事件。しかしDaisukeはこの二つの事件は、同一犯による仕業だと直感的に感じ取っていた。なぜなら、昨日人影があった場所へ向かう途中で謎のメッセージが書かれた紙が見つかったからだ。


~犯行メッセージ~

現場には、奇妙なメモが残されていた。

“甘美なる炭水化物は、権力の書と共に我が手に落ちた。

悪とは常に二重の意味を持つ。

果たして、貴方の眼にこれが耐えられるかな?“


三日目、今度は演劇部から仮面が消失した。

演劇部室は薄暗く、衣装や小道具が雑然と並んでいた。

「仮面がなくなったんだ」

部員は、声を潜めた。

Daisukeは手帳を開き、冷静に問いかける。

「新聞部の相生と申しますが、仮面が消えたのはいつですか?後、名前も教えてもらってもいいですか?」

「あぁ、いいっすよ。俺は演劇部員の十垣外っていうんだ。仮面が無くなったのはついさっきのことだよ。朝練の片付けの最中に気づいたんだ」

Daisukeは、手帳にメモをしながら次の質問を投げかける。

「今朝の朝練でどんなことをやったのか詳しく教えて下さい。」

十垣外は、少し間をおいてしゃべり始めた。

「まず、朝7時に部室に集合して小道具を棚から取り出して準備を始めた。その後、7時半から発声練習を5分間行ってから8時15分まで稽古をしてさっき片づけ始めたところなんだ」

「十垣外さん教えてくれてありがとうございます」

Daisukeは仮面が置かれていた棚を見つめる。

「仮面は顔を隠すもの。犯人は自分の正体を隠す象徴として選んだのかもしれない。」

十垣外は苦笑した。

「まるで探偵みたいだな」

「だって、新聞部は真実を記事にして読者に届けるのが仕事だからね」

4日目には、美術部から絵筆が無くなっていた。美術室には絵の具の匂いが漂い、キャンバスやパレットが雑然と並んでいた。

「一番使い込んだ絵筆がなくなったんだ」部員は悔しげに声を落とした。

Daisukeは手帳を開き、冷静に問いかける。

「新聞部の相生です。絵筆が消えたのはいつ頃ですか?名前も教えていただけますか?」

「俺は美術部の泉です。気づいたのは今朝のこと。昨日の放課後に片付けた時は確かにあったんだ」

Daisukeは机に残る絵の具の跡を指でなぞりながら質問を続ける。

「昨日の活動内容を詳しく教えてください」

泉は少し考えてから答えた。

「放課後に集合して、まずデッサンを一時間。その後、油絵の練習をして、最後に道具を洗って片付けた。筆は棚に戻したはずなんだ」

「ありがとうございます」Daisukeは手帳に書き込みながら棚を見つめる。

「痕跡を残す道具を盗む…犯人は痕跡を恐れているのかもしれない」


5日目今度は、化学部から試薬が消えていた。理科準備室の棚には整然と瓶が並んでいたが、一つだけ空白が目立っていた。

「試薬が消えた。危険な薬品じゃないけど、必要なものだった」部員は眉をひそめて言った。

Daisukeは手帳を開き、冷静に問いかける。

「新聞部の相生です。試薬瓶が消えたのはいつですか?名前も教えていただけますか?」

「俺は科学部の沖山。昨日の夕方、片付けの時には確かにあった。今朝の準備で棚を見たら消えていたんだ」

「昨日はどんな活動をしていましたか?」

沖山は少し間を置いて答えた。

「午後4時に集合して、まず化学実験の準備。5時から酸化還元の実験をして、6時半に片付けた。その時は瓶は確かに棚に戻した」

Daisukeは空いたスペースをじっと見つめ、手帳に書き込む。

「試薬瓶は混ぜ合わせる象徴。犯人は何かを混ぜ、暗号を作ろうとしているのかもしれない」

沖山は息を呑んだ。

「暗号?そんな大げさな…」

「盗まれた物の頭文字を並べれば、意味が浮かび上がる。これはただの盗難じゃない」


6日目の朝音楽室から楽譜が無くなっていた。音楽室には静寂が漂い、譜面台だけが虚しく並んでいた。

「楽譜がなくなった。演奏会の曲なのに」部員は不安げに声を落とした。

Daisukeは手帳を開き、冷静に問いかける。

「新聞部の相生です。楽譜が消えたのはいつですか?名前も教えていただけますか?」

「私は吹奏楽部の天道といいます。昨日の夜練習の後には確かにあった。今朝の確認で消えていたんです」

「昨日の練習内容を詳しく教えてください」

中村は少し考えてから答えた。

「午後5時に集合して、まず基礎練習を30分。その後、定期演奏会用の曲を合わせて8時まで練習した。片付けの時に楽譜を譜面台に置いたままにしたのかもしれない」

Daisukeは譜面台を見渡し、低く呟いた。

「楽譜は音を導くもの。犯人は私たちを導こうとしている」

天道は目を見開いた。

「導く?盗んでおいて?」

「ええ。盗まれた物の頭文字を並べると“かえし”。つまり『返せ』というメッセージだ」

天道は息を呑んだ。

「文化祭を返せ…そういうことか。」

Daisukeは手帳に書き込みながら答えた。


Daisukeの想定通り6日目以降に校内から物が盗まれる事件は、無くなっていた。新聞部の部室。机の上には盗まれた物のリストが並んでいた。

•演劇部:仮面

•美術部:絵筆

•科学部:試薬瓶

•吹奏楽部:楽譜

Daisukeはペンを走らせながら呟いた。

「仮面、絵筆、試薬、楽譜……頭文字を並べると『かえし』。これは偶然じゃない」

Daisukeの予想が現実のものになり始めていた。そこへ、新聞部の後輩の水上純が首をかしげながら質問しに来た。

「返し?何を返せっていうんだ?」

Daisukeは目を細め、窓辺に視線を移した。

「それは、まだ分からない」


その時、部室の扉が静かに開いた。

生徒会副会長である佐久間麻衣が立っていた。

「相生くん。調査はもうやめて」

彼女の声は低く、しかし確固たる意志を帯びていた。

Daisukeは立ち上がり、手帳を閉じる。

「副会長……もしかして…あなたが…」

副会長は一歩踏み出し、机に置かれたリストを見下ろした。

「ええ、そうよ。文化祭は、生徒の努力の結晶。それを短縮する決定を私は、許せなかった。だから私は悪いことと分かっていてもこの方法でしか学校へ、訴えかけることが出来なかった」

沈黙が流れる。Daisukeは彼女の言葉を受け止めながらも、新聞部員としての使命を思い出す。

「真実をこのまま隠し続けることはできません。新聞部は、真実という名の光を照らす存在なのでね」

佐久間は苦笑した。

「……やはり、あなたは、真実を暴く役目を背負っているのね。良いわ、好きにするといい」


8日目、新聞部は「午後三時の影事件」と題した号外を発行した。

見出しには大きくこう記されていた。

「文化祭を返せ――副会長の抗議と誤解されたパン盗難」

記事は、盗まれた物の頭文字が「かえし」という暗号を形作っていたこと、パン盗難が野良猫による誤解だったこと、そして副会長が文化祭短縮に抗議して書類を持ち出したことを明らかにした。

校内は騒然となった。生徒たちは号外を手に取り、互いに議論を交わす。

「副会長が犯人だったなんて…」

「でも文化祭を守ろうとしたんだろ?」

「新聞部、中々やるじゃん!」

Daisukeは窓辺でその光景を見つめ、静かに息をついた。新聞部の使命は果たされた。だが、物語はまだ終わっていなかった。

その数時間後、職員室前の掲示板には号外が貼られ、教師たちも目を通していた。

「新聞部の調査力は侮れないな」

「だが副会長の行動は非常に問題ある。今すぐにでもその職を辞めてしかるべき処分を与えないと。しかし、ここまで大事になったからには、文化祭の実施期間について改めて、検討に検討を重ねないと」

文化祭短縮案は検討に検討を加速させることになり、生徒たちの間には「自分たちの声が届いた」という実感が得られ、高揚感が広がった。


放課後、新聞部室の扉が再び開いた。

そこに立っていたのは副会長の佐久間だった。彼女の表情は、記事を読んだ後の複雑な感情を映していた。

「……やっぱり、記事にしたのね」

彼女の声は静かだが、どこか安堵も混じっていた。


窓辺から見た午後三時の影は、ただの人影ではなく、校内に潜む「悪」と「正義」の境界線だった。

新聞部の号外はその境界を照らし出し、生徒たちに問いを投げかけた。


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