第6話 たとえ涙を流しても、互いに悪役らしく進むことを決意する
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その日は登校してから既に、校庭の一角に人だかりが出来ていた。
嫌な予感がして走って向かうと、ダリアが身に覚えのない罪で糾弾されている最中で――。
突き飛ばされ、顔に傷を負い、手袋すら破れて血が出ているのを嘲笑う四人。
それでも俺との約束を守っているのだろう。
「悪役らしく」と言う態度を変えることなく立ち上がり、自分を曲げず凛として立ち向かうダリアに目を奪われた。
だが――このままではいけない‼
「この期に及んでまだ、自分の罪を償う気はないのか‼」
「申し訳ありませんけど、わたくし、身に覚えのないことには反省致しませんの」
「この……っ! 貴様なんぞ殺してやるからな‼」
「長年サポートしてきてくれた婚約者を……殺すという男がいるとは随分野蛮だな」
「「「「‼」」」」
「アルカ様……このような無様な姿をお見せして、何とお詫びしていいか……きゃっ」
その言葉の続きを待たず、俺は頭を下げようとしたダリアの腕を掴み、自分の方へ引き寄せた。俺の顔は……今きっと、とてつもなく怒っているだろう。
俺のただならぬオーラを感じ取ったのか、四人は足早に消えていった。
「すまないダリア。来るのが遅れた所為で君にこんな傷が……」
「いえ、身に覚えのない罪を着せられ、突き飛ばされて出来た傷です」
「クソッ! あいつ等絶対許せねぇ……」
「アルカ様、取り敢えず保健室にダリア様をお連れして……」
リオンに言われてハッとすると「俺達は遅れてくると伝えてくれ」とだけ伝言を残し、ダリアを抱きかかえ保健室へと走る。
俺に対し「廊下を走るな」と言う教師はいない。
顔面蒼白の俺がダリアを抱えて走っていると言うだけで、緊急事態が発生したと気づいたのだろう。
保健室に到着すると、魔法でドアを開けて中に入ると、お年を召した保健医が座っていて、直ぐに緊急事態だと動き出す。
「ああ、公爵家のダリア様……。なんとおいたわしい……。一体誰に⁉」
「婚約者のリガードにだ。それより、すぐ治療を。それと、治療した内容を二枚用意して貰いたい」
「か、かしこまりました!」
「ダリア、もう使わないかも知れないが、俺は生活魔法が使える。破れた手袋を貸してくれないか?」
「え? ええ……」
何をするのか分からない……という感じだったが、痛々しい傷口を避けて手袋を差し出すダリアに、まずは生活魔法で手袋を洗い血を落として除菌する。
綺麗に乾かした後……俺はソーイングセットを胸ポケットから取り出し、糸と針を用意して破れた箇所を縫い始めた。
「保健医。証拠を残すために公爵家に一枚。そして、その写しを王家様に一枚頼む」
「は、はい!」
「出来たら俺に貸してくれ。後で俺の方から王家に届ける」
「かしこまりました」
「ダリアは、公爵家……父親か母親に、暴力を受けたという事を伝えるのと、保健医からの書類の提出を忘れないようにしてくれ」
「わかりましたわ」
的確に指示を出しつつ手袋を綺麗に縫い終わる頃、治療は終わり、書類も出来たようだ。一枚はダリアが鞄に入れ、もう一枚は俺のアイテムボックスに仕舞い込む。
包帯の巻かれた白く細い手を優しく包み、そっと……縫い終わった手袋を乗せる。
「流石に新品とまではいかねぇな。だが、今日一日使える程度には綺麗になった筈だ」
「いえ……。家宝にいたしますわ」
「やめとけ。あんな事のあった手袋なんぞ」
「アルカ様が……手を施してくださった手袋ですもの」
「……ダリア」
健気なことを言うダリアに思わず胸をぎゅっと掴まれる。
こんな愛しい女性を、何故俺は直ぐに助ける事ができなかったのか……悔やんでも悔やみきれない。
そそくさと逃げ散らかしたあの四人も許せねぇ……。
徹底的に折を見て潰してやる……。
「学園長に怪我のことを報告してまいります」
「ああ、それならこのまま『留学生アルカ・デバディスと公爵家令嬢ダリア・ハーネットは家に帰宅する』と伝えてきてくれないか?」
「お安い御用です。どうぞ今日はごゆっくりなさってくださいませ」
「ありがとう……保健医の先生」
「すまないな」
そんな俺達を感じてか、保健医は去っていき、保健室に残ったのは二人だけ。
俺が彼女に「本当に大丈夫か?」と告げると、痛々しい頬にもガーゼがされていて、眉が思わず下がる。
「明日には、俺が魔法で治してやるからな? 傷ひとつない顔に戻してやるからな」
「アルカ……ありがとう……」
こうして、魔道具を使いリオンに連絡すると、休み時間が終われば直ぐに合流するとのことで、俺達はその間保健室で過ごすことになった。
この時間は生徒たちも授業中だ。保健室に来ることのほうが珍しい。
その為、俺とダリアは互いの認識を、改めてすり合わせることにしたのだ。
「――つまり。既に三人は毒婦に落ちた……という事でいいんだな?」
「ええ、とても早い手腕でしたわね」
「男に慣れてるんだろうさ。普通の生娘じゃない」
「きむす……そう、そうですね」
少々ダリアには刺激が強かったようだ。
もう少し言葉を選ばないといけないな……。
ひとり反省していると、ダリアは小さくため息を吐いた。
そして出てきた言葉に、俺は見えない筈の尖った耳がピクリと動く気がしたのだ。
「これからイベントが目白押しだというのに不安だわ」
「まずは合宿からだな。楽しみだ。俺の力をみせてやれる。幸いあんな事があった後だ。流石に教師もダリアと馬鹿野郎を組ませることはしないだろう」
「どう……でしょう」
「そもそも、俺と組めばいいだけの話だろ? 『まだまだこの国に不慣れな留学生には、公爵家のような出自が良く、面倒見のいい人が望ましい』……って言っときゃなんとかなる」
そう笑いながら彼女に伝え、ダリアの長い髪を手で払い、小さな肩に手を乗せると優しく微笑んだ。
距離が近い事でダリアが頬を染めて目を細めて逸らしたが、それすらも誘っているかのようで俺のほうがドキドキする。
「……王家には、なんと?」
「立場上は留学生。だが、この国の国王陛下とほぼ同等の力を持つと言っても俺は過言ではない存在だ。なにせ、彼の国の代表としても来ているからな」
「そうでしたのね……」
「この度の暴力事件については、王家にきっちり説明を求める。まさか王太子が婚約者で公爵家のダリアへの暴力等を公認しているのかという質問も、俺の方から出す」
「それは……」
「返事次第だが、早急なる返事を待つと書いて送るつもりだ。無かったことにはしない。徹底的に責任追及させてもらう。だからダリア……」
そう言うと、彼女の頭を優しく撫で、頬に優しく触れると――彼女の瞳から涙が止めどなく流れていることに、やっと彼女は気付いた。
「お前が今まで言いたかった分、俺がきつく追及してやる。どこまでもな。だから、お前は俺に守られながら……同じ悪の道を進もう」
「本当は怖かった……でも頑張ったの。あの人達になんか負けたくない。……私は貴方と同じ道を進みます」
「そう言ってくれると、俺も安心だ。正直、さっきの言い争いの際のダリアは、いい感じに悪役令嬢だったぜ? 【気高い悪役令嬢】……いいんじゃねーか?」
「ふ、ふふふ!」
「ははは! 案外俺達は、相性がいいのかも知れねぇな」
「そうだと、光栄ですわ」
こうして、涙を手で拭い、お互い微笑み合う頃チャイムが鳴り、暫くすれば鞄を持って保健室にやってきたリオンと共に、三人で帰宅する。
そして、ダリアは怪我と書類を公爵家の両親に。
俺は、王家に送ることになるのだが――。
早急なる返事が来るのは、だいぶ後のことで。
翌日には白魔法でダリアの怪我を治し、暫くは怪我をしている風を装いながら、日々の日常は過ぎていく。
しばし平穏に見えたが――そう上手く行くはずもない。
ついに――『学園合宿』の日がやってくるのだった。
一泊二日の合宿に、俺は少し浮足立っていた。
何故なら、ダリアと同じ班になれたのだ。
アチラは四人で班を作っている。
また、一波乱ありそうだな……。




