第4話 学園内でのダリアの立場に、俺が守りをいれる
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俺が屋敷で作り出した【結晶妖精】は、俺とダリアにしか今は見えない契約を施した。ひとつはダリアに、もうひとつはマリーにつけている。
これであらゆる場面を【結晶妖精の記憶】――あちらの世界で言う所の〝録画〟として残せるのだ。
これで二人の身の潔白を証明する際に使えるため、しっかり働いてもらおうと思う。
さらに言えば、俺とダリアは同じクラス。
しかも、幸い席が隣だった為、色々融通が利くのも嬉しいところだ。
彼女の小さな手や仕草を、すぐ近くで見られるのは心地よい安心感を与えてくれる。
彼女の勉強中の息遣いすらも、俺にとっては安らぎを与えてくれるものだった。
前世でも、ここまで人を好きになったことはない。
故に、これが本当の〝恋〟というものなのだろうと、俺は思っている。
――愛しい彼女。
――まだ、リガードと縁が切れず、囚われの彼女。
そのダリアを自由にするための戦いだ。
負けられる筈がない。
それと同時に、Sクラスにいながら、攻略者はマリーに呼び出されるたび、ひとり、またひとりと陥落していっているような気がする。
特にリガードは分かりやすかった。
あそこまで浮かれるなんて、相当な阿呆かピエロか……どちらにしても情けない。
『奴の狙いはハーレムエンドで確実だな』
『そのようですね』
俺のオリジナル魔道具をお互いの制服の袖の中に入れて使い、脳内で会話をしながら、傍目にはあまり関係性がないように見えるだろう。
寧ろ、勉強熱心な生徒というのを、教師に印象付けることが出来るはずだ。
それも、ひとつの狙い目ではあった。
何故なら、リガードは現在教室にはおらず、無断欠席中で……。
恐らくヒロインと一緒にいるだろうと推測される。
『では、アルカも狙われるのでは?』
『俺が落ちるタマかよ』
ちょっとだけ肩をすくめて、甘く呆れた笑いを返す。
何故なら、俺は徹底的に自分に起きる筈の出会いやクエストの場を回避している。
妹が友達から貰った攻略本を読んでおいて良かったと実感する。
『そういえば、クラスに来てもアルカを呼ぶ仕草はないわ……。どうして?』
『今頃マリーの野郎は憤ってるだろうなぁ……。だって俺、出会いクエストや他のクエスト場所、行ってねぇもん』
そう伝えるとダリアは口を抑えて吹き出しそうになるのを堪えた後、小さく咳払いして授業に集中する。
そんな様子を、俺は続けて小さくニヤリと楽しそうにして心で黒く笑う。
見えないところで、きっと「アルカとの出会いが来ないんだけど!」と叫んでいるであろうマリーを想像して、さらに心の中で笑う俺。
『俺と簡単に遭遇できるとは思わないこったな。攻略通りと思うなよ』
『……そういう強かな悪役を目指してみます』
その言葉に俺はダリアにそっと微笑む。
彼女はそんな俺に、ほんのり顔を赤くしながら、お互いに視線を合わせて笑うと、なんとも言えない安心感と甘さを感じた。
隣に座るだけで、心がほんのり温かくなるような――そんな、平和な笑顔のひとときだった。
結局、教師ですら呆れるほど、リガードは本日授業に出なかった。
帰りのホームルームにすら現れず、側近であるスノウとドルフに教師が苦言を口にしていたが――。
「王太子とて、学園でも忙しい身なのですよ」
「そう思って生徒会室にも行きましたが、彼の姿はありませんでしたよ?」
「それは可笑しい……ですね」
「ああ、俺達はリガード様に、生徒会の仕事が溜まっているからそっちを片付けてくると聞いているからな」
「全く、一国の王太子ともあろう方がこれでは、生徒に示しが付きません」
呆れる教師ではあったが、今度は教師はダリアに向かって「ダリアさん!」と声をかけた。そこで、俺もついていくことにした。
「貴女の婚約者でしょう? しっかりして貰わねば困ります」
「失礼先生。彼女に、何を、どう、しっかりしろと仰ってますか?」
「アルカさん……。そ、そうですね」
「明確な内容もなしに、ただ勝手に一方的に〝しっかりしろ〟と言うのは、些か教師としての力量を疑いますが?」
「そ、そんなことは……」
「先生、申し訳ありませんけれど、教室に来ないリガード様をどうこうしろと言うのは、些かわたくしには厳しいですわ」
「そ、そうよね……。無理を言って……悪かったわ」
「今後、そのような〝命令〟なさらぬよう、お気をつけください。我が国でそのような真似をすれば、首が飛びますよ」
「っ! き、気をつけるわ」
ダリアの決死の声に合わせる様に、決して笑っていない瞳で笑顔で告げると、女教師は身を隠すようにそそくさと去っていった。
全く、俺のダリアを物のように扱うからだ。いい気味だな。
「しかし、君たちもリガード王太子がどこに行っているのか知らないのか?」
「リガード様は貴様と違いお忙しいのだ」
「ほーん? 学業をおろそかにしてもいいくらい、お忙しい訳ねぇ」
「何が言いたい」
「そのお忙しい理由ってのが、まさか、婚約者がいるのに、他の女と学園内でイチャイチャしてるってのだったら……お笑い草だけどな‼」
通る声で教室中に響かせた言葉に、スノウとドルフは目を見開いて固まる。
周囲の生徒たちはヒソヒソと語り合い、二人は「ち、ちが」「なんて事をお前は!」と言ってくるが、俺は知らぬ存ぜぬで通す。
「え? 本当にまさか、そうなのか?」
「違う‼ 勝手に邪推するな!」
「ほーん? それは失礼を」
「ッチ!」
「取り敢えずリガード様を見つけに行くぞ!」
そう言って教室を飛び出していく二人。
俺とダリアはそれを見送り、鞄を持って歩きながら会話をする。
『あの様子だと、ヒロインのマリーと一緒だな』
『ええ、間違いなく』
『如何にも、女を武器に男をたぶらかすのがお上手そうなヒロインだったもんな。ああいうのを前世では毒婦って呼んでたが、こっちの世界でも毒婦っていうのかね?』
『あまり聞き慣れはしませんが、あっていると思います』
『なるほど、これからはマリーって呼ぶのも気に入らねぇ。毒婦決定な』
『あらあら、ふふふ』
そう歩きながら脳内で会話をし、互いに別々の馬車に乗って家に帰る。
こいつは、頃合いになってから見る毒婦の『結晶妖精』が楽しみだ。
ありとあらゆる内容を周囲に映してくれるだろう。
――その夜、屋敷の書斎でオリジナル魔道具を手にした俺は、そっと静かに光を見つめる。
「……これでダリアは、俺の隣で安心していられる」
結晶が柔らかく光を放ち、心の中でつぶやく。
無論、ダリアには聞かせないようにしながら注意を払って――。
『まだ序盤だ。次はもっと厄介で、でも楽しい局面が待ってる……』
俺は微笑みながら、机に置いたオリジナル魔道具を見つめる。
ダリアの笑顔を守るためなら、どんな作戦も、どんな危険も乗り越えられる。
俺と攻略通りに会えないと憤っているだろう毒婦マリーは、今どうなっているのかも気になるところだが……。
――明日、学園での小さな戦いが、静かに幕を開けるのだ。




