第3話 屋敷の中で、秘密の会話を
ブックマーク、評価、感想、誤字脱字報告ありがとうございます。
俺の使っている屋敷へ到着すると、従者のリオンに案内され客間に通される。
そこで、紅茶を持ってきてもらいながら、このヌルゲーと名高い乙女ゲーム「プリティ・マリーの憂鬱」の中であることをお互い認識することにした。
「俺はプレイしたことはないが、前世の妹がプレイしていてな。ヒロインが苦手で悪役令嬢の方が自分を投影しやすいと言っていたのを覚えている。ダリアはどうだ?」
「わたくしもヒロインが苦手で……一度しかプレイしてないんです」
「ヒロイン苦手っていう乙女ゲームも珍しいけどな」
基本的に乙女ゲームとはヒロインに自分を投影しやすいように作っているはずだ。
だが、「プリティ・マリーの憂鬱」では、ヒロインはプレイヤーに嫌われる立ち位置だったのだ。
理由は俺には分からないが……妹も「なんでかわからないけど、このヒロイン嫌い」と言っていた。本当に何処か、些末なことだろうがプレイヤーが自分を投影できない作りになっていたのだろう。
「ヒロインがどんなプレイスタイルでいくかは、警戒しておいて損はないだろう。特にアンタはな」
「そう……ですね」
俺が言うと、恐怖に染まる顔でぎゅっと拳を握りしめるダリア。
その小さな手の震えに、アルカは自然と胸が締めつけられる。
とてもこの子が悪役令嬢には見えない。
もっとゲームの彼女はツンケンしていた記憶がある。
この子のように、大人しいタイプではなかった筈だ。
「なんで知っていたのに、あんなのと婚約なんてしたんだ」
こんなか弱さでは、〝悪役令嬢ダリア〟ならいざ知らず、〝彼女〟では食われて終わるのが関の山……。それなのに何故――。
俺の問いに、彼女は俯きながら小さく息を漏らす。
「わたくしの気が弱くて……逃げられなかったのです……」
その声の震え、そして必死に強がる姿に、俺の胸は熱くなる。
この身体で今まで幾度となく涙を堪えて頑張ってきた姿を【水晶魔法】で見てきた。
胸をえぐられる程の……辛さと苦しさだった。
それは、一番彼女自身が感じていることだっただろう。
思わずそっと小さくか弱い肩に手を置き――。
「もういい。俺がついてるからな」
そう囁いた。
彼女の瞳が僅かに潤む。
今までひとりで耐えてきたのも――もう限界だったのだろう。
寧ろ、あのクソ王太子相手に、ここまで持っていた方が奇跡的だ。
大事にしてくれる相手ならいざ知らず、自分に暴力を振るう男を、どう愛せというのだ。
――酷なことを彼女に押し付けるな‼
だが、それでは先には進めない。
ここはゲームの世界と思って間違いないだろう……。
だとしたら、ダリアもまた〝悪役令嬢〟であるべきなのだ。
「お前は悪役令嬢だ。そして俺は悪役王子となる。お互い悪の道を華々しくいこうじゃねーか。隣にいてやる。だから堂々と悪役をしてみな」
「自信はないけど、頑張ってみます……」
「自分の思い描く悪役でいいさ。どこぞのお色気ムンムンの悪役になれとは言ってねぇだろ? アンタに求めるのは……毒のトゲがありそうな悪役令嬢だ」
「毒のトゲのありそうな……悪役令嬢」
そう告げると、ダリアは小さく息を吸い込む。
自分の思い描く悪役令嬢が見えていなかったのかもしれないな。
「とことん相手を、リガードを下に見下せ。他の攻略対象たちもだ。お前はこの国で一番権力のある公爵家のご令嬢。無礼を働けば、お前の親たちも黙っていないだろう」
「それは……そうですね」
「お前の後ろ盾がなければ、リガードは王太子にはなれない。いうなれば、お前がリガードを突き放した時点でやつの王太子の道は絶たれる。だが、本人はその事に全く気づいている様子がなかった。無知で無能なお飾りピエロってわけさ」
俺の奴を馬鹿にした言葉と表情に、ダリアの頬が緩み、少しだけ笑顔を見せた。
その姿に俺は笑顔を作り、軽く彼女の手を握り返す。
「悪役同盟、この世界で頑張ろうぜ」
「わたくしでも、悪の花道は歩けるでしょうか」
「歩くんだよ。……俺と一緒にな」
そっと両手で彼女の手を包み込み、真っ直ぐ瞳を見つめる。
俺の目を見た彼女は一瞬目を大きく見開くと、意を決した顔で小さく頷いた。
――彼女の中で、決心が固まったのかもしれない。
そうでなくとも、共に悪の道を行くのだと、考えてくれたのかもしれない。
そんな事を思いながら俺は腰につけているアイテムボックスから魔道具を取り出す。
小さな水晶玉のついたブレスレットだが、魔力には影響を及ぼさない。
「これは遠くにいても、相手の脳内に会話を送り込める……まぁ、俺のオリジナル魔道具のひとつだな。他では見ないだろうから、安心してつけておくと良い。できるだけ密に俺と学校でも連絡を取り合ったほうが良いだろう?」
「そんな希少で……高価なアイテムを私に?」
「これで、俺たちは離れていても話せる。ヒロインがどんな道を選ぶにしても、ダリアを一方的に傷つけさせないためだ。それともうひとつ、予備の予防策としてつけさせてもらうぜ?」
手の平に魔力を集中させて結晶の花が咲くと同時に現れたのは、光を宿した【結晶妖精】が、俺の手元に現れる。
その小さな精霊の瞳が、俺の決意を映す鏡のように輝く。
彼女は俺の隣で口を手で覆い、驚きながらも精霊を見つめている。
「俺はな、大切なものは本気で守りに行くタイプなんだ。だからダリア、お前を守らせてもらうぜ」
「え……っ!」
「口先だけじゃないのを、これから存分に知っていけばいいさ。互いに悪の道を行こうぜ?」
ウインクして告げれば彼女は「まぁ!」と言って苦笑いしていたが、小さく頷き結晶妖精をひとり受け取る。
もうひとり生まれていたが、ヒロインの名前を伝えて「探して映せ」と伝え飛ばせた。数十分後にはヒロインであるマリーを映し出した為、「そいつを常に見張れ、記憶しろ」と命令した。
「……本当に、わたくしを守ってくださるのですね?」
「俺は嘘はつかねぇ」
「……信じます。そしてわたくしも、わたくしの思い描く悪役を演じてみます」
「互いに毒のある花か、トゲのある花になりたいもんだな」
「ふふふ、そうですね」
俺の目には迷いがなく、ただ一途に「守る」という決意だけが宿っている。
彼女が俺の視線に胸に手をあて見つめて……ぎゅっと魔道具を握り締めた。
「演じきってみせます。リガードやヒロインの前では、悪役令嬢を必ず」
「おう、俺も悪役王子として、存分に悪役を演じていやる。その代わり……俺は守るといったからな? 出来るだけ傍には居させてもらうぜ? 俺の居ない時に、勝手に絡まれんなよ?」
「――はい! 精進致します!」
――こうしてお互いの拳をコツンとぶつけ合い、見つめ合って微笑み合う。
さぁ、悪役同盟の完成だ。
後はアチラがどう動くのか楽しみだな。
寧ろ、ハーレムエンドを目指すヒロインのマリーにとって、俺達は敵でしかないだろうが、それがどう動くのかも見ものだ。
「まずは明日。気を引き締めて学園で使えるか、魔道具の試運転も兼ねようぜ」
「はい!」




