第32話 断罪する為のダンスパーティ②
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リガードと毒婦マリーが、必死に作り上げた、ダリアへ対する【断罪劇】とは、名のもお粗末なものだった。
如何にも、異世界転生の恋愛小説が好きそうな女子が作りました。
と言った感じのありきたりの内容に、辟易としながらもその言葉を聞いていた。
リガードにしがみついて「アタシ怖かった……っ!」と涙を流すマリーなど滑稽だ。
誰一人として、二人の言っている内容等、理解してもいないし、誰一人として共感するものすらいなかったのだ。
「よって――貴様を国外追放とする!」
その声が響いた瞬間、俺は口を開いた。
悪役令嬢と名高い我が婚約者への、断罪シーン。
俺は〝王太子たちの断罪は茶番だ〟と嘲笑いながら、その様子を見つめていた。
待ちに待った追放劇の最もたる台詞を吐いた時、俺は静かに動き出す。
「追放? そんな必要はない。……俺が貰っていくからな」
ざわつく場内の中、悪役令嬢ダリアの肩を力強く抱き寄せる。
悪役の仮面を掲げた俺達が、断罪の檻を打ち破るように前に出る。
奴……ダリアの元婚約者であるリガードにとっては想定内だったらしく、俺へ指を刺しながら――。
「ダリア! こいつと元々浮気をしていたのだろう! ふしだらな女め!」
と言い捨てた。
だが、俺が『結晶妖精』を全員に見えるように出すと、ギョッとするリガードとその相手である〝このゲームのヒロイン〟であるマリー。
さぁ、そちらの陳腐な断罪劇は終わりだ。
今度はこちらから行くぜ?
「こいつが何かわかるか? 無論授業に出ていたらわかるよな? そう、結晶妖精だ。コイツらに、ダリアとマリーの行動を俺が入学して暫くしてから、つけている」
そう俺が伝えると、マリーとリガードは顔色が青くなっていく。
それもそうだろう。
〝先に浮気をしていたのはどちらか〟……という論点を争うのなら、間違いなくそちらが先にしていただろうからな?
「どっちが元々浮気していたか? どちらがふしだらな女かが知りたいと? ほほん? いいぜ? 見せてやっても。俺は気分がいいから、ド派手にこの場で見せてやろうか? どれだけふしだらな女と一緒に居たのかを知っても、ショック死すんなよ」
悪役らしく王者的な悪意の塊の笑顔で伝えるアルカに、マリーは――。
「ちょ、やめてよ‼ そんなの聞いてないわ‼」
と叫び声を上げる。リガードは意味がわからない様子だったが――。
「コイツらが如何に悪かを知る最大の証拠だろう? マリーは何故そんなに慌てるんだ!」
という彼に、マリーはこれまでの事を思い出し震えている。
そして映し出されるマリーのこれまでの男性遍歴。
リガード以外の男性との密会の映像。
場は騒然とし、つんざく悲鳴までもが上がった。
リガードは怒りに震え、愛していた筈のマリーが自分以外の男と関係を持っていたことを知り、怒りで震え上がる。
「マリー貴様……きさまぁあああ‼」
そう叫ぶと美しく結っていた頭を掴み床に叩きつける。
「何よ! アンタごときでアタシが満足するはずないじゃない! そもそもこっちはハーレムルート選んで動いてたのに……‼ アンタ達二人が邪魔したせいよ‼」
そう、自分の行いのせいでこうなってしまったのに、罪を擦り付けてくる。
この世界のヒロインであるマリーに俺達は嘲笑った。
「これでは、浮気したのは誰が最初だったのか、そして、こうなった結果は誰にあるのかは……一目瞭然ですね? これでわたくしを追い立てようと? 馬鹿ではありませんこと?」
と汚らわしいものを見るように二人を見つめるダリア。
この一連の衝撃的な映像の所為でダンスパーティどころではなく、リガードは――。
「い、今からでも遅くない筈だ。ダリアは俺のもとに戻ってこい! かわいがってやる!」
「俺と既に婚約しているが、その婚約者を奪うつもりか?」
淡々と答えた言葉に、リガードは怒りに震えながら――。
「それならば、貴様の国に」と言いかけた途端、リガードは後ろから兵士に押しつぶされた。
「離せええええ!!」と叫ぶリガードを無視する兵士たちに、会場は騒然とする。
困惑する者。混乱する者。王を見て汗を流す者……様々だった。
何故なら――国王陛下が椅子から立ち上がり、国民に対し頭を下げていたのだ。
「場を混乱させたこと、このリガードを罰することでなかったことに……と言うのも難しかろうと思う。先の学園祭の事もあり、今度はこの冬季休暇に入る大事なダンスパーティでのこの不始末。許しがたい」
「何を仰るのです父上! ダリア、ダリア! ダリア――‼」
そう何度も俺の婚約者であるダリアを呼び捨てにするリガード。
そんなに大事だったのなら、最初から大事にすればよかったものを……。
いや、大事にしなかったからこそ、俺が連れて帰れるのだから問題はないが。
するとダリアは、叫ぶリガードを無視して優雅に口にする。
「わたくしをもっとも大事にしてくださるお方に嫁ぎますの。貴方は一度たりとも大事にはしてくれませんでしたものね? 愛想なんてとっくにつきてます。さようなら」
そう言って、俺の腕を取り共に去っていく。
憤慨するリガードと毒婦マリーの怒鳴り合う声は凄まじく、会場全体が引いているのすら肌で伝わる程だ。
「悪役には悪役の流儀がある」
「それもそうですわね」
そう口にする俺に対して、ダリアは微笑みながら真っ直ぐ道を進んでいく――。
だが、最後の断罪が俺達では終わりそうにない。
俺とダリアが優雅に背を向け扉の向こうへと姿を消すと、残された会場には崩れ落ちたマリーと、兵士に押さえつけられたリガードの怒声だけが虚しく響いていた。
その時、低く鋭い声が会場を震わせる。
「……恥を知れ、リガード」
扉からこっそり会場を見てみると――国王の眼差しは、もはや父のものではない。
王として、国を背負う者として、目の前の愚か者を断罪する視線だった。
「ダリア嬢を失い、己を律することもできず、挙句に国賓をも巻き込み、この国の顔を泥で塗った。……貴様は、我が息子である前に、この国を危うくする逆賊だ」
リガードの顔から血の気が引き、震えが走る。
マリーでさえも恐怖に目を見開き、声を失っていた。
「この場で処断はせぬ。……だが、裁きは必ず下す」
その冷徹な宣告は、リガードにとって〝死刑宣告〟にも等しかった。
――断罪の夜は、まだ終わらない。
次は、王の裁きが下される番だ。




