第25話(閑話)堕ちていく俺達は、足掻けるか……?①
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――スノルSide――
「他国の王族としての意見だが――」
――という前置きをした上で、王太子リガードのことを語ったアルカ様。
恐らく、マリーが俺達に黙ってたこと……。
夏季休暇でリガード様がマリーを城に呼んで密な関係を楽しんでいたこと等に言及した。
「それは婚約者のいる王族として、あまりにも醜聞でしかない」
「貴方はその婚約者に手を出していらっしゃるではないですか」
「お前は宰相である父親から何も聞かされていないのだな?」
と呆れて口にすると、狼狽える俺は、あまりにも滑稽だっただろう。
冷静に自分を見れば、自分の信じたものしか信じたくない人間の心理と行動だ。
あまりにも愚かで、情けなくて、どうすることも出来ない自分が腹ただしい。
「リガード様が幽閉されているのは聞いている。何かの間違いだ‼」
それでも盲目的にリガード様を信じたかった。
だが彼は嘲笑い、声を上げて笑う。
これには俺も身構えていたようだが、アルカ様が黒い笑みを浮かべたまま――マリーが隠している事実を伝える。
「国王の反対を押し切りマリーを呼び寄せて朝から晩まで盛った猿のような真似をした上に、婚約者であるダリアを『殺す』と王の前で言ったのだぞ。公爵家も黙っていないだろうし、それ相応の罰は必要だった……。その結果が幽閉というのすら知らないのか?」
「な……っ! リガード様がそれでは独裁者のように振る舞っていたということではありませんか‼」
「実際そうだったようだぞ? マリーは自分が次の王妃だと言って傍若無人な態度だったそうだ。まさに、リガードを盾に好き放題していたようだな。幽閉される前のリガードなど、ヒゲはそのままにガウンで王の前に出向き、それも不敬とみなされたようだ」
「信じられない……。そんな……だってそれでは……あまりにも愚か過ぎる」
「王宮の厨房係ですら、マリーの話題になると口を噤む。――それが何を意味するか、わかるだろう?」
馬鹿にした様子で俺に聞くと、震える声で否定する言葉が喉で詰まる。
顔面真っ青にして、首を何度も横に振り「ちが、え? 本当……なのか?」と聞いていた内容と事実が違い過ぎて困惑した。
「マリーからは……楽しくお喋りしていただけだと」
「だから、父親から何も聞かされていないのかと聞いたんだ」
ついにアルカ様から表情が消えた。
それが事実だと知り、汗を流す俺は襟元を無意識に緩める。
ガクガクと震え、意味を理解していくと最早滝汗を流し始める。
信じているもの全てが崩れ落ちていく中……俺の縋る者は、目の前のアルカ様しかいない。
「余程この国の馬鹿者は、毒婦と名高いマリーに夢中のようだな」
「そんな……マリーが俺達に嘘をついていたと?」
「――事実は事実だ。信じるか信じないかはお前次第だがな」
呆れて口にした彼に、俺は狼狽えさらに追求した。
するとアルカ様は俺に丁寧に教えてくださった。
ダリアがマリーに仕掛けたという嫌がらせを口に再確認させるためだ。
ノートを破られただの教科書を捨てられただの、何度もマリーから聞いた嫌がらせの数々だが……。
「俺が常に隣にいるのに、出来ると思うか?」
そう問いかけられ、血の気を引いて口を抑えた。
到底出来ることではないと、やっと理解できたのだ。
すると彼は、さらなる爆弾を投下してきた。
「騙された挙げ句、〝未来の宰相の座まで失う〟……いい毒婦と出会って良かったな」
告げるだけ告げて去ろうとするアルカ様に、俺は縋った。
〝未来の宰相の座まで失う〟――という事実を、ようやく確認したのだ。
気づいた時には遅い状態かもしれないが、ここからは俺の頑張り次第だろう。
だが、果たしてどうなるか……。
「今後どうしていけば巻き返せますか⁉」
「お前はマリーと一緒に地獄に落ちるんだろう?」
「そんな未来は嫌だ‼ 今まで俺は……俺達はマリーに騙されて……っ! くそ‼」
「なら、マリーを諦めることは出来るのか?」
率直な問いを投げかけると、無言になるスノル。
「そうか、毒婦と名高いマリーと堕ちるか。貴様に最早未来など来ない」
事実を語って去っていく俺だったが――。
額を押さえ、視線を逸らし、雄叫びを上げた……。
その日からショックで学園を一週間休んだ。
全てが本当なのかどうか、父親に連絡をした所、本当の事実を知ったからだ。
マリーとリガードの密な関係。それに王がお怒りになった上に、リガードが婚約者であるダリアを殺す発言したことで幽閉。
三ヶ月の幽閉だと言われた時は驚いたが、何か関連性のある三ヶ月なのだろうかとぼんやり考えた。
「最早お前には期待していない」と吐き捨てられた事により、自分が次期宰相の地位に就くことはないのだと知ることにもなった……。
――全てはマリーの所為で。
その事がショックで、学業にも力が入らず……俺は学園を去ることを考え始める。
父親には、学園でもう一度頑張れば考えなくはないと言われていたが、マリーがいる場所ではもう無理だと考えていた。
「全ては、あの毒婦マリーの所為だ――」そう呪うことしかできない自分に、胸が締め付けられる。
未来の宰相としての誇りも、学園での立場も、すべて崩れ去った今、残るのは敗北感だけ。
そして、部屋の扉が静かにノックされる――。
開かれた先には、顔色を失い、目に深い影を宿すドルフ。
何を告げるのか、いや、何が始まるのか。
恐怖と期待が入り混じるその視線に、俺は思わず身を硬くした。




