第23話 まずは宰相の息子、貴様から現実を見せてやろう
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こうして、次の互いのターゲットは決まった。
アルカは次期宰相候補だったスノルを。
ダリアはマリーを。
二人を徹底的に――の前に、お互いの知識を再確認する二人。
ヌルゲーとはいえ、文化祭で一気に親密度を上げ、最後のダンスパーティーで、本来ならばダリアを断罪しなくてはならないのがゲームの流れ。
だが、現在王太子であるリガードは幽閉中。
これは無論ゲームではあり得なかったこと。それはお互いの認識であっている。
――その上でお互いに動き始める俺とダリア。
俺はまず、珍しくひとりで行動し、他国の王族という立場を用いて次期宰相候補であるスノルを呼び出した。
スノルは、敵だと認識しているこちらに呼ばれて警戒心丸出しだ。
猫でもあるまいに……と内心黒く笑いつつ、スノルの質問に答えた。
「なぜ今呼び出したか」
「他国の王族としての意見だが――」
――という前置きをした上で、王太子リガードのことを語る。
恐らく、スノルにマリーが黙っていること……。
夏季休暇でマリーを城に呼んで密な関係を楽しんでいたこと等に言及した。
「それは婚約者のいる王族として、あまりにも醜聞でしかない」
「貴方はその婚約者に手を出していらっしゃるではないですか」
「お前は宰相である父親から何も聞かされていないのだな?」
と呆れて口にすると、狼狽えるスノル。
自分の信じたものしか信じたくない人間の心理と行動だ。
そこをどこまで突き落とせるか……それは俺とダリアの手腕に掛かっている。
「リガード様が幽閉されているのは聞いている。何かの間違いだ‼」
盲目的にリガードを推すスノルだが、俺は嘲笑い、声を上げて笑う。
これには彼も身構えていたようだが、俺が悪役の仮面をかぶると、黒い笑みを浮かべたまま――マリーが隠している事実を伝える。
「国王の反対を押し切りマリーを呼び寄せて朝から晩まで盛った猿のような真似をした上に、婚約者であるダリアを『殺す』と王の前で言ったのだぞ。公爵家も黙っていないだろうし、それ相応の罰は必要だった……。その結果が幽閉というのすら知らないのか?」
「な……っ! リガード様がそれでは独裁者のように振る舞っていたということではありませんか‼」
「実際そうだったようだぞ? マリーは自分が次の王妃だと言って傍若無人な態度だったそうだ。まさに、リガードを盾に好き放題していたようだな。幽閉される前のリガードなど、ヒゲはそのままにガウンで王の前に出向き、それも不敬とみなされたようだ」
「信じられない……。そんな……だってそれでは……あまりにも愚か過ぎる」
「王宮の厨房係ですら、マリーの話題になると口を噤む。――それが何を意味するか、わかるだろう?」
馬鹿にしつつ聞くと、スノルの震える声で否定する言葉が喉で詰まる。
顔面真っ青にして、首を何度も横に振り「ちが、え? 本当……なのか?」と聞いていた内容と事実が違い過ぎて困惑しているようだ。
――哀れだな……ここまで来ると。
そう思い、言葉を待ってやった。
「マリーからは……楽しくお喋りしていただけだと」
「だから、父親から何も聞かされていないのかと聞いたんだ」
表情を消して言うと、それが事実だと知り汗を流すスノルは襟元を無意識に緩める。
ガクガクと震え、意味を理解していくと最早滝汗を流し始める。
信じているもの全てが崩れ落ちていく中……彼の縋る者は、目の前の俺しかいない。
「余程この国の馬鹿者は、毒婦と名高いマリーに夢中のようだな」
「そんな……マリーが俺達に嘘をついていたと?」
「――事実は事実だ。信じるか信じないかはお前次第だがな」
呆れて口にした俺に、彼は狼狽えさらに追求してきたため、俺は丁寧に教えてあげた。
ダリアがマリーに仕掛けたという嫌がらせを口に再確認させるためだ。
ノートを破られただの教科書を捨てられただの、よくあるテンプレな嫌がらせの数々だが……。
「俺が常に隣にいるのに、出来ると思うか?」
そう問いかけると、血の気を引いて口を抑えるスノル。
到底出来ることではないと、やっと悟ったのだろう。
そこで、トドメの一撃を入れさせてもらおう。
「騙された挙げ句、〝未来の宰相の座まで失う〟……いい毒婦と出会って良かったな」
告げるだけ告げて去ろうとすると、スノルは俺に縋った。
〝未来の宰相の座まで失う〟――という事実を、ようやく確認したようだ。
気づいた時には遅い状態かもしれないが、ここからは彼の頑張り次第だろう。
だが、果たしてどうなるかな?
「今後どうしていけば巻き返せますか⁉」
「お前はマリーと一緒に地獄に落ちるんだろう?」
「そんな未来は嫌だ‼ 今まで俺は……俺達はマリーに騙されて……っ! くそ‼」
「なら、マリーを諦めることは出来るのか?」
率直な問いを投げかけると、無言になるスノル。
「そうか、毒婦と名高いマリーと堕ちるか。貴様に最早未来など来ない」
事実を語って去っていく俺だったが――。
額を押さえ、視線を逸らし、雄叫びを上げるスノルにタネは撒いた。
後はどう芽吹くのかを楽しみにしつつ、取り敢えず様子を見よう。
果たしてスノルはどう動くのか、アルカは楽しみにしている。
それに、王族として、そしてダリアの婚約者として、目の前の滑稽な未来をただ見過ごすわけにはいかない。
マリーに惑わされ、宰相候補の未来まで潰しかけた愚か者――スノルはこれからどう動くか。
――だが、結果は明白だ。
俺たちの前に立つ者は、誰であれ甘い夢など見せてもらえない――。
楽しみにしていよう。




