第20話(閑話)アタシに残されたものなんて――‼
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――マリーSide――
朝、リーガルに報告書を持ってきたオッサンが帰ってから、何も言わず出ていった奴なんか放っておいて……。
いつものように、軽く着替えて優雅に過ごしていた昼下がり。
遠くでリーガルの雄叫びみたいなのが聞こえたなーなんて思いつつ、高級なお菓子やスイーツを持ってこさせ食べていた。
でもその数十分後――女騎士たちが部屋に無断で入り込み、アタシの腕をつかんで服を脱がせ、着てきた服に着替えさせると城の外に放り出された。
髪もボサボサだし、化粧だってしてないのに‼
「一体なんなの! アタシはこの国の次期国母となるのよ!」
叫んだけれど、返ってきたのは嘲笑いだけ。
なんて奴らなの⁉
普通、王太子の客人でもなんでもいいけど、こんなこと普通する⁉
「こんなことして許されると思ってるの! 王太子が黙ってないわよ!」
「王太子ならば、塔に幽閉されました」
「は? 幽閉……なん……で?」
意味がわからない。
そう思った途端、目の前に放り出されたアタシの荷物。
まるでこの世界でいらないもののように感じて頭に血が上る‼
「こんなことして、後でどんな目に遭うか覚えてなさいよ‼」
「いいからさっさと帰れ」
「ここは貴様のような者がいる場所ではない」
「アタシはこの国の、」
「幽閉されしリーガル様と一緒に地に堕ちる者だろう? 一々自己紹介ありがとう」
「ぜひリーガル様と一緒に奈落へと堕ちてくれ。共にな?」
「――信じらんない。もういい、帰るわ‼」
口から出る罵倒を女騎士たちにぶつけるだけぶつけると、荷物を持って家に帰る。
……酒浸りの父親と苦労の耐えない母が、この世界で〝ヒロイン〟として生まれたアタシの実家。
こんな不幸な家、いつか出ていくんだと、両親を馬鹿にしつつ部屋に戻る。
そもそもヒロインならもっとまともな家があるでしょう?
温かな両親に育てられるとか‼
ここからしてバグってるのよ、この世界‼
何が「プリティ・マリーの憂鬱」よ‼
今のこの現状こそが憂鬱よ‼
王太子が幽閉されたということが意味がわからない。
本編ではこんなことはなかった。
ゲームでも城で王太子リガード狙いでは、城で楽しく過ごすというシーンは何度もあった。それなのに……。
「やっぱり、ダリアが関係してるんだわ……アイツが邪魔してるのね!」
どこまで言ってもこのアタシの邪魔をする悪役令嬢ダリア‼
本来なら学園が始まるまで城で過ごすはずだったのに……。
そう唇を噛みながら惨めな気分になったアタシは、品の悪い枕を殴り「学校が始まったらとことんまでダリアを追い詰めよう」と覚悟を決める。
すると――部屋にこの世界の母が入ってきた。
「マ、マリーちゃん……。お父さんが、」
「なに? お父さんがアタシに何の用なわけ?」
「……お酒……買ってこいって」
「は――……。お母さん、アタシがお使いに行かないと酒は買えないわけ?」
「それは、お母さん足が悪くて……」
母は若い頃、幼い私を暴走した馬車からかばって足を怪我した。
本来なら車椅子がいる生活だけど、杖をついて必死に生活しているのは知っている。
それもこれも、お金がないからよ……。
「――っ! ……それ、ただの言い訳だよね? 自分で行ってくれる?」
「でも、」
「ウザッ‼ 酒くらい自分で、」
「うるせーぞマリー! さっさと買ってこい! ぶん殴るぞ‼」
「……帰って来るんじゃなかったっ‼」
涙を溜めてそう叫ぶと、母から金を奪い取り外に飛び出す。
でも、行く宛なんてなくて……結局酒屋に行って「父のいつものお酒」と口にし、お金を支払ってトボトボ帰る。
でも、遅くなりすぎると殴られるから、程々の速度で。
――畜生。このバグの所為でアタシの人生滅茶苦茶よ。
母が健康体だったら。
父がまともだったら。
何度も考えたわ。
――ヒロインのマリーにふさわしい両親。
でも、それは想像すればするほど、鏡が割れるように現実に戻されて。
求めれば求めるほど虚しくて。
どう足掻いても手に入らないものだと知っていて。
だから……虚しい。
家に帰宅し、父に酒とお釣りを手渡し部屋に戻る。
枕を何度も殴りながら、アタシは心に決めた。
「学園が始まったら、絶対に――ダリアを潰す!」
その名を吐き捨てた瞬間、私の〝運命の学園生活〟は大きく狂い始めた。
そうよ、リガードが幽閉された今がチャンスなのよ‼
「王太子が幽閉された今、この国の権力はほぼ空席……! 誰も私の前に立ちはだかれないはずよ。ダリア……アイツが邪魔している? 甘いわ。学園が始まれば、私はあの女を徹底的に追い詰める。そして最後は、あの幽閉されたリガードをも巻き込んで、私の力を見せつけてやる!」
狂い始めた歯車かどうかはわからない。
でも、アタシにはもうそれしか残っていないような……そんな恐怖にかられていたのだった。




