第19話(閑話)俺の領地が、俺の地位が、何故俺が‼
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――リガードSide――
原因不明の未曾有の大災害が、王太子領に起こったことを、マリーと一緒に過ごしている幸せな時間に知らされた。
今回の異常気象により、領地が壊滅したと……。
その資料をもらい、ヒゲを生やして呆然とする俺に対し、書類を持ってきた文官は頭を下げて出ていくが、外で爆笑している声が聞こえてくる。
「な、な、何故王太子領が……」
震える声で資料を調べていくと、もともと人間国の自然はエルフ王国が握っているらしく、この未曾有の大災害は、エルフ王国からの宣戦布告だと思った。
許しがたい行為だ。
エルフ王国が、何故俺の領地を狙って災害を起こしたのか‼
場合によっては、戦争になりかねんことだぞ‼
ヒゲも剃らず、ガウンのまま廊下を歩くとメイドたちは目を背けていたが、そんなことは知ったことではない‼
王の間に向かいドアを開けると、父は執務中だった。
そして、俺を見るなり眉を寄せ、大きく溜め息を吐いたのだ。
「何の用だ」
「俺の領地が、」
「ああ、王太子領か? 大変らしいな」
「何を人ごとのように! これはエルフ王国からの宣戦布告ですよ!」
「馬鹿を言うな。お前に罰が当たったのだ」
「罰だと……?」
全く身に覚えのないことだ。
何故エルフ王国から罰せられなくてはならない⁉
俺は堂々と嘘偽りなく過ごしているではないか‼
「本来大事にすべき婚約者を長年ないがしろにしてきた上に、殺すとまで脅す男を、精霊王は次代の王とは認めないという証でもある」
「なんだと……?」
「エルフ王の決定は人間国の決定。最早覆されることはない」
「俺が……次の王にならない……とでも言いたいのか?」
「その通りだ。お前に王の素質無しと、エルフ王はそう判決を下した」
「ふざけるな‼」
バサバサバサ……と、俺は持っていた資料を床に投げ捨てた。
この俺を、この俺が、この俺こそが……っ‼
それなのに、王太子ではなくなるということではないか⁉
そんなこと許されるはずがない‼
目は血走り、肩で息をしながら俺は父を睨みつけた。
そして唾を吐き散らしながら叫んだのだ!
「即刻兵士を集めてエルフ王国を攻め落とすべきだ‼」
「はぁ……そこまで愚かだったとは。お前にはほとほと愛想が尽きた。数ヶ月、塔での謹慎処分を言い渡す。そうだな、最低でも三ヶ月は塔で謹慎してもらう」
「なっ‼ 罪人ではないか!」
「エルフ王国に兵を出すなど、反逆罪よりも罪は重い‼」
「⁉」
まさか大声で叫ばれるとは思わず、びくりとして後ろに数歩下がった。
それほどまでに父は……国王は冷めた目で俺を見ていて。
「第二王子のガレリオに対しての無礼も聞き及んでいる。それだけではなく、城に入れるなとあれほど言っていたメリーとかいう毒婦を城に招き入れてふしだらな関係にあるともな! 婚約者がありながらもだ!」
「そ、それは」
「そのようなものを、王太子とは認めない。これは国の決定でもある」
「そんなはずはない! 王太子ではないのなら、いや、婚約はしているから王太子だ!」
そう叫ぶ俺だったが、父は溜め息を吐き「そうだと良いな?」と含み笑いをする。
まさか……そんなはずはない。
俺とダリアの関係は壊れていない……。
俺はまだ王太子のはずだ‼
「と、と……兎に角! 王太子領を復興させるべく資金を出してほしい。今すぐに!」
「たわけたことをぬかすな。貴様の民のいない荒れた土地に、何故金を使わねばならん」
「民が……いない?」
「そんなことも知らなかったのか? 一体王太子としての仕事はどうした。今一体誰がしている」
「あ……」
「ダリアがいない今、王太子としての仕事は一体誰がしているのだと聞いているのだ!」
「だ、誰でもいいでしょう⁉ それより、王太子領の民は逃げ散らかして既にいないことの方が大問題だ! 見つけ次第逃げ散らかした民を斬首刑に――」
「誰かおらんか! こやつを着のみ着のまま塔にぶち込め!」
そう言うと兵士たちが武器を持って俺の元へ駆けつけ、両腕をがっしりと身動きが取れない状態にすると、身体を浮かせて持ち上げる。
ばたばたと足を動かして抵抗したが、全く歯が立たない‼
「やめろ、やめてくれ……父上! おやめください‼ このようなこと無意味です!」
「無意味かどうかは私が決める。兵よ、塔にぶち込んで鍵を厳重に掛けよ」
「「はっ‼」」
「まだ俺は王太子だ! ダリアとの婚約がある限り、王太子の地位は揺るがない!」
その言葉に、国王は冷ややかに笑い返した。
「……ならば、せいぜい祈っておけ。お前がすがる女が、最後までお前に寄り添ってくれるとな」
その刹那、マリーの顔が脳裏をよぎる。
甘美な笑顔と、時折感じる薄気味悪い視線。
――まさか、彼女もまた……?
不安に駆られた俺の絶叫を背に、重い塔の扉が閉ざされた――。




