第18話 祖父から告げられた『婚約破棄』の知らせ
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明日には人間王国に帰る日、祖父に呼ばれて王の間へと向かう俺達。
一応エルフ王の前という事で、俺も彼女も正装だ。
厳重な扉の先、重厚な扉が開き、中に入るとそこは王の間。
扉が閉まり、場が静まり返る。祖父がゆっくり口を開くと……。
「ダリア嬢と王太子の婚約は破棄された」
「え⁉」
「意外と早かったな……。爺さん、随分と圧力を掛けたのか?」
「そう言われるとは心外だな。ワシは可愛いひとりだけの孫の為に尽くしたまでよ」
という事はエルフ王国から、かなりの圧力を掛けた……というのが理解できる。
「人間国の自然を司るエルフ王国から圧力を受けたら、流石の人間国も頷かざるを得ないだろう」と笑顔で語る祖父。流石我が祖父だと感心した。
「では、私はついに自由になったんですね」
「いや、まだ王太子には伝えておらんようだ」
「え⁉」
驚くダリア。確かに王太子にまだ伝えていないのには驚きだ。
だがそっちのほうが――。
「だが、その方が後で断罪しやすい。その方向で俺は構わないが、ダリアが苦労するな……」
「白紙に戻ったのならそれに越したことはございません。エルフ国王、心より感謝致します」
そうダリアが告げると、祖父は嬉しそうに微笑み「お前さんのような娘ならば、アルカを任せられる。だからこそ急いだのじゃよ」とお茶目にウインクしてきやがった。
ダリアにしてみれば、それは嬉しい反応だったらしく、満面の笑みを浮かべていた。
「縁の切れた相手です。とことん悪役を演じますわ!」
「俺も悪役王子らしく学園では過ごすか!」
「ほほほ。アルカはそのままで悪役王子じゃろう?」
「違いねぇな!」
「それともうひとつ。王太子の剥奪は後日、時を見て行うらしい」
笑顔で語った祖父に、俺達は見つめ合い笑顔で微笑み合う。
本当に王太子リガードは蚊帳の外で話は進められたようで、奴の存在意義がどれだけ薄かったのか、もしくは、薄れてしまう何かが起きたか……。
どちらにせよ奴の存在とはその程度だったのだと、俺と彼女は考えを新たにした。
「何も知らない哀れなピエロって感じだな」
「まぁ、ピエロに失礼です」
「浮かれるなという方が難しいだろうが、この先何かとあるだろう。気を引き締めていけ」
その言葉に頷きつつ、俺は一歩踏み出す。
まだ確定されていない事があるからだ。
「俺の婚約者にする為にはどうしたらいい?」
「妻にする為には白紙に戻って三ヶ月の時間が必要である。それは、人間国でも、エルフ王国でも同じことだ」
「だとすると……秋頃だな」
思わず満足げに微笑むと、祖父は次のように語った。
「秋頃には、エルフ王国から正式にダリアの両親の元に書状が届く。アルカとの婚約をする為の大事な書状がな。それに互いにサインし、エルフ王国の教会に提出すれば、晴れてお前達は婚約関係となる。それまでは――言わなくともわかろうな?」
「おいおい、キスまではセーフの筈だぜ?」
「もう! アルカ⁉」
「はっはっは! まぁ、そこまでなら良しとしよう。その先はせめて婚約してからにしてくれ」
祖父が苦笑いしつつ告げると、ダリアは顔を真っ赤にしつつ質問を投げかけた。
どうやら気になることがあったらしい。
「あの、随分とエルフ王国ではその辺が……その」
「緩いか? 緩くもなるわい。なにせアルカの両親がちゃっちゃと先に進んだものでな。国をあげて急いで法律を整えたのも懐かしい話よ」
「破天荒な母だと言っただろ?」
「納得です」
確かにあの母なら、父を襲うくらいは簡単にするだろうが。
だが、産まれたのが俺ひとりというのも……まぁ、両親も何か考えがあるのだろう。
そもそも、エルフ族は子をひとりしか産まないことのほうが多い。
多く生まれる家もあるが、地位が高いほど子供の数は少なくなる傾向がある。
また、エルフ王だからと、王族は地位の高い嫁しか貰ってはならない……という事はないのだ。
『惚れた女が最高の女』という概念が強いのも、王族ならではと言うべきだろうか。
ゆえに、一般市民であろうとも、人間の娘であろうとも、王族が本気で愛した女性ならば、それを受け入れるしかないのだ。
俺の場合、既に彼女が婚約していたが、幸いにして互いの仲は最悪だった為、横から攫っても問題はなかったが……。
もし本当に愛し合っていたら、俺は身を引いていた。
なにも、好きな相手の幸福を壊してまで妻に迎えようとは思わない。
そこは、王族といえど、好き勝手出来ない所でもあった。
――祖父から告げられた「婚約破棄」。
ようやく自由を得たダリアは満面の笑みを浮かべ、俺もまた彼女を見つめて誓う。
「さて、リガードが気づく時はどうなっているやら……」
哀れな奴の末路を、俺たちが演じてやろう。
真の断罪劇の幕開け――舞台は人間国へ。
そして、人間国に帰国して三日後。
俺達は用意を済ませて、公爵家の領地へと向かう。
まず最初に、お祝いとして「婚約破棄」のことを喜んでいることを告げると、公爵夫妻も笑顔で俺と握手しあって喜びを分かち合った。
それから馬車に乗り移動の開始。
公爵領は広い領地で、宝石の掘れる鉱脈や、金銀の鉱山も持っているらしい。
さらに、ダリアがエルフ王国に来てから、天候が安定して作物も多く収穫できそうなこと。
そのことが、俺と彼女がお互いを想い合っているのだというのがわかるのだ、と嬉しそうに話してくれた。
「だが、そのことは誰もまだ言わないでくれ。秋になれば、我が王国から通達が来るはずだ。それまではリガードに知られるわけには行かない」
「ええ、邪魔立てされては溜まったものではありませんからな」
「このことは、まだ秘密にしておきましょう」
そう語り合い、まずは公爵家の中で秘密にしておくことになった。
道中一度宿に泊まり、五日かけて到着した領地で、鉱山などの視察を行わせてもらう。ダリアには年の離れた弟がいるため、跡を継がなくて良いのだ。
「王太子がここに来たことは?」
「彼が来るはずないでしょう。彼にとって民とは税金を収めるための駒でしかなく、王族が華やかに飾るための餌としか見てませんからな」
「違いない」
そう語る公爵と呆れて答える俺。
どれだけリガードは民を蔑ろにしてきたのか、よく分かる発言でもある。
よく王太子でいられたものだ。
それもこれも、ダリアという犠牲の上で成り立っていたものだろうが。
「それに、王太子が貰っている領地は今未曾有の大災害で収入は激減。自由に遊ぶお金も手に入らないと聞きますよ」
「それは大変ですね。支援物資も届かないでしょう?」
「ええ、道が崩れて入れませんからな」
既に人のいなくなった領地。
そこで未曾有の大災害が起きたとしても、誰が支援に行くだろうか?
人が住んでいればいざ知らず……。
無人の王太子領に手を貸すほど、馬鹿なものはない。
「元々重たい税収で領民が逃げていたそうですから、今はどうなっていることやら」
「代々王太子が受け継いできた領地が、天に見放されたかのごとく荒れ果てて、今頃王太子は大変だろうな」
笑顔で会話する俺達。
だが、俺の心のなかでは、もっと黒い自分が口を開いていて――。
『きっと自ら墜ちる。その時、どれほど惨めに泣き叫ぶか――見ものだな』
――黒い俺は、そう心で悪役仮面をかぶり、嬉しげに口角を上げて笑っていた。




