第17話 エルフ王国で過ごす甘い時間と、覚悟の時間
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俺の次期婚約者候補というだけあって、ダリアの扱いはとても丁寧だった。
これには俺も満足しながら二人の時間を過ごした。
「エルフ王国は、他国への精霊派遣で、主に人間国の自然を安定化させてるんだ」
「精霊の派遣ですか?」
「そう、自然災害はどうしても避けられない。だからこそ、精霊たちの力でそれをコントロールさせて、安定化させている。まぁ、エルフ王の血筋に喧嘩を売れば、その領地や国が荒れるともいわれている」
「なるほど……では、もしかして今頃、王太子領は……」
その問いに笑顔で答えると、ダリアは察したようで「なるほどです」と苦笑いしていた。
「まぁ、王太子領はそう心配することはない。もともと人がいなかった」
「人が……いない?」
「ああ、精霊の情報だと、度重なる重税に民が逃げたようだ。そのため、災害が起きても人的被害は出ない」
「まぁ……そうでしたのね。でも、民がいないのなら報告がいくのではないですか?」
「ダリアが奴を支えている間、君がなんとか王太子領をまとめ上げていたはずだ。だが、君は俺と一緒にいるようになってからリガードの手伝いは?」
「一切しておりませんわね」
「つまり、リガードすら民が逃げ散らかしたことを知らない。知らずに放置している。いずれ自分で使える財源が枯渇するだろう。そうなったら父王に泣きつくのか? それとも、奮起して王太子領の税率を下げて領民を募集するのか……。答えは見えているだろう?」
「そうですわね」
実際、奴では民を導くことは不可能だったということだ。
もともとそういう人種とは少なからずいる。
口だけが達者で、公約を守らない等、よくある話だ。
その最たる代表が、この世界ではリガードというだけであって――。
「それと不思議だったのですけど、エルフ族ですから人間を受け入れないと思っていたんです。けれど、そうではなくて皆さん好意的で驚きました」
「ああ、なにせ父の代でその辺りはほぼなくなっている。母が女海賊だったのは話しただろう?」
「ええ。驚きました」
「あの自由奔放で破天荒な母を知っているからこそ、ダリアが可愛らしく見えたんだと思うぞ。母はなんというか……本当に女海賊のボスなんだ」
「ああ……」
「父はそんな強いところに惚れたらしいがな。生まれた俺が言うことではないが、父の好みは息子の俺でもわからん」
――ただ、言えることがあるとすればひとつ。
俺は母に似たのだろう……ということだ。
自由奔放で破天荒。
祖父に預けられて育ったが、祖父はいつも「お前は母様譲りじゃのう!」と困った時は頭を抱えていた。
それを見て、子供の頃から笑顔を見せていたのが俺だ。
「ふふ……。アルカはお母様が好きなのね」
「ああ、滅多に会うことはない両親だが、なかなかに気概のある両親だと思っている」
「今ご両親はどこに?」
「海辺で今は海賊を取り締まる仕事をしている。元女海賊という利点を生かして、不審な船や海賊船相手に激しいバトルをすることもあるらしいが、なにせ精霊王の加護をもらった母だ。致命傷を受けることもなければ、海の精霊の加護もあってかなり強い。故に……海賊たちが哀れだと思う」
思わず遠い目で答えると、彼女は「何か見たのね?」と聞かれ「まぁ、見たな」と苦笑いした。
当時幼かったが、仕事に連れて行かれた俺は母の暴れっぷりにドン引きしたのだ。
父は俺を抱きながら「お母さん素敵だね」とほざいていたので、父の好みは今でもわからない。
「最後に質問なんだけど……良いかしら?」
「何度でも。どうしたんだ?」
「どうすればもっと悪役らしく振る舞えるかしら……」
もともとが素直な女性だ。
それ故に、悪役を演じるというのが難しいのかもしれない。
そこで、俺は暫し考え込んでから――ひとつの提案をした。
「劇をするように楽しむのさ。君の役は悪役令嬢だと思えばいい」
「劇をするように? 悪役令嬢という役柄ってことかしら」
「そうだな」
「少し自信がないわ……」
「ははは。何より……俺に愛されている、守られているという気持ちも大事だ」
そう言って彼女の髪を一房手にすると、チュッとキスをする。
すると彼女は顔を真っ赤にして目を逸らし――。
「本気にしますよ?」
「まだ本気じゃなかったのか? 俺もまだまだだな」
本気で悩む俺に対し、ダリアは顔を真っ赤にしながら「……意地悪言ったんです」と口にしたため、にっこりと笑って頬にキスをした。
驚くダリアだったが「エルフ王の孫にそんな可愛らしいことをした罰だ」と口にすると、更に真っ赤になって「仕方のない方」とプイッと横を向かれてしまった。
俺たちは夕暮れの空を見つめつつ、バルコニーで手を取り合い徐々に夜空になっていく空を見つめて過ごす。
頭にあるのは幸せなことと、この幸せをぶち壊そうとする〝敵〟がいるということ。
「マリーはこの世界をヌルゲーと思っているが、俺たちという存在がいることでヌルゲーではない。奴が事を大きくするのなら叩き潰す。それに追随する奴らもな」
その言葉にダリアは強く頷いた。
「それと明日、爺がダリアを連れてこいと言っている、一緒に行こう」
「何か起きたのかしら……」
「何が起きたとしても、俺がいるから安心していい。俺が支える。君を、君の家族も」
そう語った俺は気を引き締め直す。無論ダリアも気を引き締め直し、沈みかける夕日を見つめた。
邪魔者さえいなければ――そう思っても、彼女はまだ囚われの身。
何としても自由にしてやらねばならない。
「……爺さんなら、あの人ならきっと、俺たちの力になってくれる」
ダリアの手を包み込む俺の掌は温かく、彼女の胸の不安を少しずつ溶かしていく。
――明日が待ち遠しい。俺たちはそんな想いで夜空を仰いだ。




